4 / 12
3、発見
しおりを挟む
電話が置いてある棚と電話ボックスが固定されている部分の隅。そこに押し込められていたティッシュの塊が入った瞬間、視界の中に飛び込んできたのです。
遺書にはカギを設置したことだけしか書いてありませんでしたが、私は本能的にこれだと確信しました。
震える手で恐る恐るティッシュの塊を拾い上げると、固い感触が返ってきます。
当たり、でした。
ロッカーの鍵がティッシュで厳重に包まれていたのです。
鼓動がどんどん高まっていき、もはや自分の耳にも届くほどでした。
こうなってはもう疑う余地はありません。
いや、本当はイタズラという可能性だってあるのでしょうが、この時の私は本物だとしか思えませんでした。
鍵の包みを手に取り、踵を返して電話ボックスを後にしました。
駅に向かいながら左手を皿に、震える指で包みを広げます。
3枚……4枚だったでしょうか。今となっては少しうろ覚えです。
いずれにせよ私はティッシュを左のポケットに突っ込み、反対の手で携帯電話を取り出しました。
そして友人に『鍵があった』とだけメールして、ロッカーへと向かいました。
もう一度遺書を確認してロッカーの場所を確認します。
いや、鍵があるんだから番号分かるだろ、というツッコミは確かにその通りなのですが、当時の私は緊張で頭が回りませんでした。
いずれにせよロッカーはすぐに分かりました。
鍵を差し込んで100円を入れて……扉は開きませんでした。
理由は簡単、お金が足りなかったのです。
コインロッカーは、入れた日数に応じて開くために必要な値段が増していきます。
それはこの場所に隠してから数日経っていることを意味していたのですが……ここでもまたその意味を見落としてしまいました。
深く考えずに100円玉を追加して、鍵を回してダメならもう一度。
合計で300円必要でした。
そして、空きました。
まず出て来たのはビニール製のエアークッションです。
正直、不必要だと感じるくらいの数が入れてありました。
ノートとは、ノートパソコンのことだったのです。
ロッカーが揺れても動かないように、周りに敷き詰められ、そしてパソコン本体の上にも覆うように乗せられていました。
今思い返しても胸に来るものがあります。
Kさんは遺書で「誰かに取られたっていいさ」「管理会社に回収されてもいいさ」とうそぶいていました。
でもそれは嘘です。
本来こんなエアークッションなんて必要ありません。
スチール製の頑丈なロッカーなのです。
駅そのものが壊れるような大地震でもこないかぎり、中の物はしっかり守られるでしょう。
でも、Kさんはこれだけの数……二桁に届こうかという数のクッションを入れた。
そこまで大切なものだったんです。
何が起こっても遺書を読んだ誰かに届いて欲しいと。
続きを書いて欲しいと。
私もその気持ちはよく分かります。
だって、同じく物を書く人間ですから。
なにかを創り、伝えたい。
それが出来なくなるのは死ぬよりも辛い。
だからこそ思います。
自分が創って来たものを否定されたことが……自分を創った父親に否定されたことが、最終的に自殺の引き金になってしまったんじゃないか、と。
これは私の想像にすぎません。
いえ、本来は考えてすらいけない妄想なんです。
だって、父親が自分の息子を言葉で殺してしまったなんて、あまりにもむごすぎますから。
傷口をえぐるような真似は……。
話しを戻します。
パソコンとその他のものをロッカーの外に出した後、私はプロットの入れられたファイルを撮影しました。(写真上部に小さく古ぼけたノートPCが見えるかと思います。)
これらの写真をメールに添付し、『あった』とだけ書いて友人に送りました。
この時既に友人からメールが返信されていたのですが、私はパソコンに気を取られて気づいておりませんでした。
今もこの時メールに何が書かれていたのか覚えておりません。
それどころではなかったのです。
友人の返信を待つ間、ノートPCを家から持ってきていたスポーツバックに入れ、エアークッションをその上に全て詰め込み、プロットなどの小物を背負っていたリュックサックに入れました
なぜ私はスポーツバックとリュックサックを持ってきていたのでしょう。
これだけの大荷物が隠されていると予想していたわけではありませんが……虫の予感というやつでしょうか。
とにかく荷物を全て収納することが出来ました。
そして駅出入り口近くに移動してメールを待ち、電話をかければいいのだと思い至りました。
今さらそんなことに気付くなんてバカかよとお思いかもしれませんが、疲労と衝撃で思考力が落ちていたのです。
とにかく友人に電話をかけました。
もちろん友人はすぐに取ってくれましたので、私は勢いこんで
「どうすればいい?」
そう問いかけました。
遺書にはカギを設置したことだけしか書いてありませんでしたが、私は本能的にこれだと確信しました。
震える手で恐る恐るティッシュの塊を拾い上げると、固い感触が返ってきます。
当たり、でした。
ロッカーの鍵がティッシュで厳重に包まれていたのです。
鼓動がどんどん高まっていき、もはや自分の耳にも届くほどでした。
こうなってはもう疑う余地はありません。
いや、本当はイタズラという可能性だってあるのでしょうが、この時の私は本物だとしか思えませんでした。
鍵の包みを手に取り、踵を返して電話ボックスを後にしました。
駅に向かいながら左手を皿に、震える指で包みを広げます。
3枚……4枚だったでしょうか。今となっては少しうろ覚えです。
いずれにせよ私はティッシュを左のポケットに突っ込み、反対の手で携帯電話を取り出しました。
そして友人に『鍵があった』とだけメールして、ロッカーへと向かいました。
もう一度遺書を確認してロッカーの場所を確認します。
いや、鍵があるんだから番号分かるだろ、というツッコミは確かにその通りなのですが、当時の私は緊張で頭が回りませんでした。
いずれにせよロッカーはすぐに分かりました。
鍵を差し込んで100円を入れて……扉は開きませんでした。
理由は簡単、お金が足りなかったのです。
コインロッカーは、入れた日数に応じて開くために必要な値段が増していきます。
それはこの場所に隠してから数日経っていることを意味していたのですが……ここでもまたその意味を見落としてしまいました。
深く考えずに100円玉を追加して、鍵を回してダメならもう一度。
合計で300円必要でした。
そして、空きました。
まず出て来たのはビニール製のエアークッションです。
正直、不必要だと感じるくらいの数が入れてありました。
ノートとは、ノートパソコンのことだったのです。
ロッカーが揺れても動かないように、周りに敷き詰められ、そしてパソコン本体の上にも覆うように乗せられていました。
今思い返しても胸に来るものがあります。
Kさんは遺書で「誰かに取られたっていいさ」「管理会社に回収されてもいいさ」とうそぶいていました。
でもそれは嘘です。
本来こんなエアークッションなんて必要ありません。
スチール製の頑丈なロッカーなのです。
駅そのものが壊れるような大地震でもこないかぎり、中の物はしっかり守られるでしょう。
でも、Kさんはこれだけの数……二桁に届こうかという数のクッションを入れた。
そこまで大切なものだったんです。
何が起こっても遺書を読んだ誰かに届いて欲しいと。
続きを書いて欲しいと。
私もその気持ちはよく分かります。
だって、同じく物を書く人間ですから。
なにかを創り、伝えたい。
それが出来なくなるのは死ぬよりも辛い。
だからこそ思います。
自分が創って来たものを否定されたことが……自分を創った父親に否定されたことが、最終的に自殺の引き金になってしまったんじゃないか、と。
これは私の想像にすぎません。
いえ、本来は考えてすらいけない妄想なんです。
だって、父親が自分の息子を言葉で殺してしまったなんて、あまりにもむごすぎますから。
傷口をえぐるような真似は……。
話しを戻します。
パソコンとその他のものをロッカーの外に出した後、私はプロットの入れられたファイルを撮影しました。(写真上部に小さく古ぼけたノートPCが見えるかと思います。)
これらの写真をメールに添付し、『あった』とだけ書いて友人に送りました。
この時既に友人からメールが返信されていたのですが、私はパソコンに気を取られて気づいておりませんでした。
今もこの時メールに何が書かれていたのか覚えておりません。
それどころではなかったのです。
友人の返信を待つ間、ノートPCを家から持ってきていたスポーツバックに入れ、エアークッションをその上に全て詰め込み、プロットなどの小物を背負っていたリュックサックに入れました
なぜ私はスポーツバックとリュックサックを持ってきていたのでしょう。
これだけの大荷物が隠されていると予想していたわけではありませんが……虫の予感というやつでしょうか。
とにかく荷物を全て収納することが出来ました。
そして駅出入り口近くに移動してメールを待ち、電話をかければいいのだと思い至りました。
今さらそんなことに気付くなんてバカかよとお思いかもしれませんが、疲労と衝撃で思考力が落ちていたのです。
とにかく友人に電話をかけました。
もちろん友人はすぐに取ってくれましたので、私は勢いこんで
「どうすればいい?」
そう問いかけました。
0
お気に入りに追加
28
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる