53 / 140
第53話 合言葉は私の歌を聴けっ!
しおりを挟む
最初の内は豪快な丸々一羽のガチョウを焼いた料理だとか、魚醤を使った肉料理のような今までの国とは違う味付けだったり、見たこともない様な星形の果物なんかを堪能できていた。
でも私は忘れていたのだ。
私が放っておいて欲しくとも、向こうが放っておいてくれない事なんて、ざらにあるという事を。
結論から言うと、私は男の子たちに囲まれていた。
「わたしはフィリポ・シュトレーリッツというのだ。あなたのなまえをきいてもよいか?」
「あなたはたいへんすばらしいうたをおうたいになるとおききしました。ぜひわたしのためにいっきょくおねがいできませんか?」
わ~い、おとこのこたちがたくさん~。もてもてだー。うれしいなー……。
みんなわたしとおなじぐらいのせたけで、きっといろいろとはなしもあうよねー…………ってんなわけあるかぁぁぁっ!!!
どうみても9歳とか10歳のおこちゃまだらけだわ! 低いと5、6歳も居るでしょ!
だから何で子どもばっかなのよ!
そりゃあね、私が30歳とかになった時に8歳年下の男性に囲まれてちやほやされたら嬉しいと思うよ? でもね、私18歳なの! それが10歳に囲まれても嬉しくない!
むしろ面倒見る立場!
も~や~っ!!
「いかがされましたか? ごきぶんがすぐれないようですね」
はい、あなたたちのせいです。
「いけません。あちらにへやをよういさせますのでやすんではいかがでしょう」
その部屋に連れ込んで何をする気……なぁんて展開にはならなさそうなガ……お子様たち。
うん、すっごく心配してくれてるんだよね。
ごめんね、なんかアレな反応しちゃって。
私18歳なんです~とか言ったらどんな反応されるんだろ。……駄目だ。背伸びしたい女の子だって思われて終わりだ。
あ~も~どうしよ~~。
私は助けを求めて周囲に視線を巡らせて……結局誰も見つけられずに落胆するしかなかった。
私の知ってる人少ないもんね……。
ルドルフさまは陛下のお傍だし。あ~あ、私もグラジオスかハイネに着いて行って男の子避けにしとくんだった。
「だ、大丈夫です、みな様方。少し人気に当てられただけですわ。おほほほほ……」
なんとなく貴族っぽい感じの口調をイメージして適当に受け答えしておく。
ああ、もう……誰か助けてぇ~。
「あの、すみません。歌姫様でらっしゃいますよね」
「はい?」
強く響く女性の声に、私は思わず頭を上げる。
正面にはプラチナブロンドの髪を結い揚げ、白い布と黄色の布を交互に編み込んだようなドレスを身に纏った、目も覚めるほど美しい女性が立っていた。
私はこの女性が同好の士であることを直感的に理解する。というか声を聞けば一発で分かる。
張りがあってよく通る、うぐいすが鳴いているようなソプラノボイス。間違いなくオペラとかそんなタイプの歌を歌う声だ。
「あっ、はい。井伊谷・雲母です」
「よかった。私はルドルフ様お付きの宮廷楽士をさせていただいております、ナターリエと申します。以後お見知りおきを」
ナターリエは優雅にカーテシーを行う。
私も慌ててドレスの裾をつまんでチョンッていう感じでカーテシーもどきを返したのだが……。
「……………」
「……………」
私達の間には沈黙だけがあった。
ナターリエは凄く何かをためらっている様で、口元に握りこぶしを当て、視線を彷徨わせている。
それでも辛抱強く待ち続けると、
「キララ様」
「はい」
ようやく口を開いてくれた。
「失礼を承知で申します。私に歌を教えてくださいませんでしょうか」
「はい、いいですよ」
え、そんな事? めちゃくちゃ悩んでたからもっと凄い事言われるのかと思った。
私があまりにも軽く答えた事で、ナターリエの方が面食らってしまったらしく、目をぱちぱちとしばたたかせている。
「え? ほ、本当によろしいのですか?」
「本当にお教えしますよ? どんな歌がよろしいですか? なんだったら楽譜を写されますか?」
「が、楽譜まで!?」
なんでそんなに驚いてるんだろう。
「が、楽士にとって曲は秘中の秘ではありませんか! そ、それをそんなに気軽に教えていただけるなんて……」
それで納得がいった。確かに楽士にとって、歌えたり演奏したりできる曲は商品であり自分だけの財産だ。
自分しか歌えなければ圧倒的にその価値はあがるから、普通は他人に教えたりなどしないし、教えるにしてもかなりの大金を貰うのが普通。
でもアニソンって私が作曲したわけじゃないしね~。それを教えてお金貰うってのもあれだよね。
それに……。
「私はもっと世界に歌が広がればいいと思うんですよ。もっとみんなが気軽に歌って、気軽に音楽に触れられる。そんな世界になればいいなぁって思うんです」
私としては、ただそれしか出来ないからってだけど。
「変ですかね?」
ナターリエは少しの間だけぽかんと呆けていたが、やがて相好を崩して頭を振った。
「いいえ、素晴らしいと思います」
「ですよね」
私達は笑いあった。
きっと、音楽を心から愛する者同士だからこそできる共感ってやつだと思う。
「それで、どんな歌がいいんですか?」
「えっと……それは……」
私の問いかけで、またもナターリエは口ごもってしまう。だが、今度はその沈黙の理由がすぐに理解できた。
ナターリエの目。それはエマと同じ目をしていた。
すなわち、恋する乙女の目だ。
「ルドルフさまが好まれそうな歌ですか?」
「な、な、なぜおわかり何ですか!?」
図星を突かれたナターリエは、顔をバラ色に染めて驚く。
私は自分の頬をチョンチョンッと突っつきながら、
「だって顔に書いてましたよ」
と茶目っ気たっぷりにいじってみる。
それにルドルフさまお付きの宮廷楽士って仰ってましたし。
「うう……。ですがバレてしまっては隠す必要もありませんね。その通りなので、お願いします……」
バレてもそれを認めて突き進めるところはエマとは違うみたいだった。
なんだか最近恋のキューピッドばっかりやってる気がする。
私の赤い糸の先は、何故かおじいちゃんか子どもしかいないみたいだけど。
「じゃあこれから私の馬車にまで来られますか? お教えしますよ。あ、でもその前にルドルフさまの好みを私が知らないので、それを聞く方が先になりますね」
私がそう言った途端、ナターリエの顔が曇る。
私は今言ったばかりの内容を思い返してみるが、どこで地雷を踏んだのか全く分からなかった。
「……私は、ルドルフ様が好まれる歌を歌えないので、分かりません」
あちゃー……。それはキツイなぁ。
「ルドルフ様はお優しいので私の歌を聞いては下さるのです。ですが、いつも心から楽しんでくださらず……。でもキララ様の歌は本当に楽しんで聞いてらっしゃるんです。ここ数日など、私の見たことのない表情でキララ様を待ち望んでらっしゃって……」
ちょっとだけ、私の心に刻まれた古傷が痛む。
自分を見てもらえないのは、とても痛い。
地球に居た頃、動画をいくら出してもほとんど見てもらえなかった。たまに話題に上がっても、見向きもされずに消えていく。
自分が道端の石ころにでもなってしまったような孤独感。
とても……キツイ。
「辛いですよね。でも……それでもあきらめないナターリエさんは凄いと思います。私、尊敬します」
私は一歩前に踏み出すと、ナターリエの両手を両手でぎゅっと包み込む。
心からナターリエの事を応援してあげたかった。
「そんな……。たった一度の歌でルドルフ様のお心を捕らえてしまうようなキララ様が、私の事を尊敬するだなんて……」
「私は運が良かっただけです。一番最初に引いたくじが、たまたま当たったようなものなんです。でも、ナターリエさんは何千何万とある可能性の中から、自分で選んで当てようとしてるんです。私なんかよりずっと凄いですよ」
偶然と必然。そんなの必然的に出来る方が凄いに決まってる。
それを努力してやろうとしている人が、凄くないはずがない。
「自信を持ってください! じゃないとルドルフさまに嫌われちゃいますよ」
「え……」
さすがにルドルフさまの名前が出れば、ナターリエも真剣にならざるを得ないのだろう。明らかに表情が変わる。
「私の歌を聴けっ! ぐらいの自信をもって歌う方が、多分ルドルフさまの好みですよ」
私が『試した』時の表情からも明らかだ。多分、ルドルフさまは、自分について来られるか追い抜くぐらいの人が好みなんだと思う。
「私の歌を聴け、ですか……。面白い言葉ですね」
アニメからの受け売りですけどね。
「ナターリエさんは、今自信を無くしちゃってると思います。でも、そのぐらいの感じでばーんっとやっちゃえばいいと思います」
「ばーん……」
ナターリエは何度か私に言われた言葉を反芻した後、強く頷いた。
「じゃあ、行きましょうよ。教えたげます。あ、ついでにデュエットしましょうよデュエット!」
エマを含めて三人居れば、今まで歌えなかった歌にも挑戦できるし。
あ、明日いきなりお披露目とかもいいかも!
確か皇帝陛下がいらっしゃるから、ルドルフさまもいらっしゃるはず。
なんて私は内心一人で盛り上がっていたのだが、ナターリエは少し申し訳なさそうな顔をする。
「す、すみません。私はこれから……」
「あ、歌うんですね。分かりました。その後とか大丈夫ですか?」
「……まったくためらいもなく、他の何よりも歌を優先なさるんですね、キララ様は」
「当然です」
歌は好きだし、その歌を聴いてもらえるのも最高で、歌い終わった後に次の歌の話ってもう最高だよね。
睡眠時間無くなっちゃうけど。
「ふふっ。ルドルフ様がキララ様の歌をお好きな理由が少しわかった気がします」
ナターリエはまっすぐ私の目を見る。
そこには、それまでの少し自信が無さそうな彼女の姿は無かった。
「負けませんっ」
「お受けいたしますっ」
私も、一番好きな歌手の座を譲りたくはない。
それがたった一人でも。誰かの大切な人でも、だ。
傲慢かもしれないけど、私はそういう気持ちで歌を歌っている。
私達は少しの間にらみ合って、
「ふふっ」
「あはっ」
やがてどちらからともなく笑いを漏らした。
「それでは、これから私の歌を聴いて……いえ、聴け、ですね」
「はい」
それまで流れていた音楽が急に止んだ。
使用人の人達が、床を綺麗にしたり、机を壁際に寄せたりして、パタパタと忙しそうに駆け回っている。
「すみませんっ。もう時間がありませんので失礼します。キララ様はこの後のダンスのお時間をお楽しみください」
ナターリエは私にもう一度カーテシーをすると、急いで楽団の方へと向かっていった。
でも私は忘れていたのだ。
私が放っておいて欲しくとも、向こうが放っておいてくれない事なんて、ざらにあるという事を。
結論から言うと、私は男の子たちに囲まれていた。
「わたしはフィリポ・シュトレーリッツというのだ。あなたのなまえをきいてもよいか?」
「あなたはたいへんすばらしいうたをおうたいになるとおききしました。ぜひわたしのためにいっきょくおねがいできませんか?」
わ~い、おとこのこたちがたくさん~。もてもてだー。うれしいなー……。
みんなわたしとおなじぐらいのせたけで、きっといろいろとはなしもあうよねー…………ってんなわけあるかぁぁぁっ!!!
どうみても9歳とか10歳のおこちゃまだらけだわ! 低いと5、6歳も居るでしょ!
だから何で子どもばっかなのよ!
そりゃあね、私が30歳とかになった時に8歳年下の男性に囲まれてちやほやされたら嬉しいと思うよ? でもね、私18歳なの! それが10歳に囲まれても嬉しくない!
むしろ面倒見る立場!
も~や~っ!!
「いかがされましたか? ごきぶんがすぐれないようですね」
はい、あなたたちのせいです。
「いけません。あちらにへやをよういさせますのでやすんではいかがでしょう」
その部屋に連れ込んで何をする気……なぁんて展開にはならなさそうなガ……お子様たち。
うん、すっごく心配してくれてるんだよね。
ごめんね、なんかアレな反応しちゃって。
私18歳なんです~とか言ったらどんな反応されるんだろ。……駄目だ。背伸びしたい女の子だって思われて終わりだ。
あ~も~どうしよ~~。
私は助けを求めて周囲に視線を巡らせて……結局誰も見つけられずに落胆するしかなかった。
私の知ってる人少ないもんね……。
ルドルフさまは陛下のお傍だし。あ~あ、私もグラジオスかハイネに着いて行って男の子避けにしとくんだった。
「だ、大丈夫です、みな様方。少し人気に当てられただけですわ。おほほほほ……」
なんとなく貴族っぽい感じの口調をイメージして適当に受け答えしておく。
ああ、もう……誰か助けてぇ~。
「あの、すみません。歌姫様でらっしゃいますよね」
「はい?」
強く響く女性の声に、私は思わず頭を上げる。
正面にはプラチナブロンドの髪を結い揚げ、白い布と黄色の布を交互に編み込んだようなドレスを身に纏った、目も覚めるほど美しい女性が立っていた。
私はこの女性が同好の士であることを直感的に理解する。というか声を聞けば一発で分かる。
張りがあってよく通る、うぐいすが鳴いているようなソプラノボイス。間違いなくオペラとかそんなタイプの歌を歌う声だ。
「あっ、はい。井伊谷・雲母です」
「よかった。私はルドルフ様お付きの宮廷楽士をさせていただいております、ナターリエと申します。以後お見知りおきを」
ナターリエは優雅にカーテシーを行う。
私も慌ててドレスの裾をつまんでチョンッていう感じでカーテシーもどきを返したのだが……。
「……………」
「……………」
私達の間には沈黙だけがあった。
ナターリエは凄く何かをためらっている様で、口元に握りこぶしを当て、視線を彷徨わせている。
それでも辛抱強く待ち続けると、
「キララ様」
「はい」
ようやく口を開いてくれた。
「失礼を承知で申します。私に歌を教えてくださいませんでしょうか」
「はい、いいですよ」
え、そんな事? めちゃくちゃ悩んでたからもっと凄い事言われるのかと思った。
私があまりにも軽く答えた事で、ナターリエの方が面食らってしまったらしく、目をぱちぱちとしばたたかせている。
「え? ほ、本当によろしいのですか?」
「本当にお教えしますよ? どんな歌がよろしいですか? なんだったら楽譜を写されますか?」
「が、楽譜まで!?」
なんでそんなに驚いてるんだろう。
「が、楽士にとって曲は秘中の秘ではありませんか! そ、それをそんなに気軽に教えていただけるなんて……」
それで納得がいった。確かに楽士にとって、歌えたり演奏したりできる曲は商品であり自分だけの財産だ。
自分しか歌えなければ圧倒的にその価値はあがるから、普通は他人に教えたりなどしないし、教えるにしてもかなりの大金を貰うのが普通。
でもアニソンって私が作曲したわけじゃないしね~。それを教えてお金貰うってのもあれだよね。
それに……。
「私はもっと世界に歌が広がればいいと思うんですよ。もっとみんなが気軽に歌って、気軽に音楽に触れられる。そんな世界になればいいなぁって思うんです」
私としては、ただそれしか出来ないからってだけど。
「変ですかね?」
ナターリエは少しの間だけぽかんと呆けていたが、やがて相好を崩して頭を振った。
「いいえ、素晴らしいと思います」
「ですよね」
私達は笑いあった。
きっと、音楽を心から愛する者同士だからこそできる共感ってやつだと思う。
「それで、どんな歌がいいんですか?」
「えっと……それは……」
私の問いかけで、またもナターリエは口ごもってしまう。だが、今度はその沈黙の理由がすぐに理解できた。
ナターリエの目。それはエマと同じ目をしていた。
すなわち、恋する乙女の目だ。
「ルドルフさまが好まれそうな歌ですか?」
「な、な、なぜおわかり何ですか!?」
図星を突かれたナターリエは、顔をバラ色に染めて驚く。
私は自分の頬をチョンチョンッと突っつきながら、
「だって顔に書いてましたよ」
と茶目っ気たっぷりにいじってみる。
それにルドルフさまお付きの宮廷楽士って仰ってましたし。
「うう……。ですがバレてしまっては隠す必要もありませんね。その通りなので、お願いします……」
バレてもそれを認めて突き進めるところはエマとは違うみたいだった。
なんだか最近恋のキューピッドばっかりやってる気がする。
私の赤い糸の先は、何故かおじいちゃんか子どもしかいないみたいだけど。
「じゃあこれから私の馬車にまで来られますか? お教えしますよ。あ、でもその前にルドルフさまの好みを私が知らないので、それを聞く方が先になりますね」
私がそう言った途端、ナターリエの顔が曇る。
私は今言ったばかりの内容を思い返してみるが、どこで地雷を踏んだのか全く分からなかった。
「……私は、ルドルフ様が好まれる歌を歌えないので、分かりません」
あちゃー……。それはキツイなぁ。
「ルドルフ様はお優しいので私の歌を聞いては下さるのです。ですが、いつも心から楽しんでくださらず……。でもキララ様の歌は本当に楽しんで聞いてらっしゃるんです。ここ数日など、私の見たことのない表情でキララ様を待ち望んでらっしゃって……」
ちょっとだけ、私の心に刻まれた古傷が痛む。
自分を見てもらえないのは、とても痛い。
地球に居た頃、動画をいくら出してもほとんど見てもらえなかった。たまに話題に上がっても、見向きもされずに消えていく。
自分が道端の石ころにでもなってしまったような孤独感。
とても……キツイ。
「辛いですよね。でも……それでもあきらめないナターリエさんは凄いと思います。私、尊敬します」
私は一歩前に踏み出すと、ナターリエの両手を両手でぎゅっと包み込む。
心からナターリエの事を応援してあげたかった。
「そんな……。たった一度の歌でルドルフ様のお心を捕らえてしまうようなキララ様が、私の事を尊敬するだなんて……」
「私は運が良かっただけです。一番最初に引いたくじが、たまたま当たったようなものなんです。でも、ナターリエさんは何千何万とある可能性の中から、自分で選んで当てようとしてるんです。私なんかよりずっと凄いですよ」
偶然と必然。そんなの必然的に出来る方が凄いに決まってる。
それを努力してやろうとしている人が、凄くないはずがない。
「自信を持ってください! じゃないとルドルフさまに嫌われちゃいますよ」
「え……」
さすがにルドルフさまの名前が出れば、ナターリエも真剣にならざるを得ないのだろう。明らかに表情が変わる。
「私の歌を聴けっ! ぐらいの自信をもって歌う方が、多分ルドルフさまの好みですよ」
私が『試した』時の表情からも明らかだ。多分、ルドルフさまは、自分について来られるか追い抜くぐらいの人が好みなんだと思う。
「私の歌を聴け、ですか……。面白い言葉ですね」
アニメからの受け売りですけどね。
「ナターリエさんは、今自信を無くしちゃってると思います。でも、そのぐらいの感じでばーんっとやっちゃえばいいと思います」
「ばーん……」
ナターリエは何度か私に言われた言葉を反芻した後、強く頷いた。
「じゃあ、行きましょうよ。教えたげます。あ、ついでにデュエットしましょうよデュエット!」
エマを含めて三人居れば、今まで歌えなかった歌にも挑戦できるし。
あ、明日いきなりお披露目とかもいいかも!
確か皇帝陛下がいらっしゃるから、ルドルフさまもいらっしゃるはず。
なんて私は内心一人で盛り上がっていたのだが、ナターリエは少し申し訳なさそうな顔をする。
「す、すみません。私はこれから……」
「あ、歌うんですね。分かりました。その後とか大丈夫ですか?」
「……まったくためらいもなく、他の何よりも歌を優先なさるんですね、キララ様は」
「当然です」
歌は好きだし、その歌を聴いてもらえるのも最高で、歌い終わった後に次の歌の話ってもう最高だよね。
睡眠時間無くなっちゃうけど。
「ふふっ。ルドルフ様がキララ様の歌をお好きな理由が少しわかった気がします」
ナターリエはまっすぐ私の目を見る。
そこには、それまでの少し自信が無さそうな彼女の姿は無かった。
「負けませんっ」
「お受けいたしますっ」
私も、一番好きな歌手の座を譲りたくはない。
それがたった一人でも。誰かの大切な人でも、だ。
傲慢かもしれないけど、私はそういう気持ちで歌を歌っている。
私達は少しの間にらみ合って、
「ふふっ」
「あはっ」
やがてどちらからともなく笑いを漏らした。
「それでは、これから私の歌を聴いて……いえ、聴け、ですね」
「はい」
それまで流れていた音楽が急に止んだ。
使用人の人達が、床を綺麗にしたり、机を壁際に寄せたりして、パタパタと忙しそうに駆け回っている。
「すみませんっ。もう時間がありませんので失礼します。キララ様はこの後のダンスのお時間をお楽しみください」
ナターリエは私にもう一度カーテシーをすると、急いで楽団の方へと向かっていった。
1
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】王命婚により月に一度閨事を受け入れる妻になっていました
ユユ
恋愛
目覚めたら、貴族を題材にした
漫画のような世界だった。
まさか、死んで別世界の人になるって
いうやつですか?
はい?夫がいる!?
異性と付き合ったことのない私に!?
え?王命婚姻?子を産め!?
異性と交際したことも
エッチをしたこともなく、
ひたすら庶民レストランで働いていた
私に貴族の妻は無理なので
さっさと子を産んで
自由になろうと思います。
* 作り話です
* 5万字未満
* 完結保証付き
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる