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第33話 ホントに分かんないの? ばぁ~かっ
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太陽もかなり傾き、日差しも柔らかくなってきた頃、私とグラジオスは一緒に同じ馬に乗って帰路についていた。
グラジオスは道中ほとんど無言で、必要最低限の事しか話さなかった。でも、私の決断を気にしているのはバレバレで、あ~とかえ~とか言って、切り出そうとはするのだが、結局ヘタレて黙りこんでしまうのだった。
「ねえグラジオス、お腹減った。何か持ってないの?」
私は昨晩、今朝、昼と何も食べていない。このままではお腹と背中がくっ付いてしまいそうだ。
晩御飯まではまだ時間がありそうだったが、何かお腹に入れないと持ちそうになかった。
「持っていない」
「ぶ~……役立たず~……」
不満を口にしつつ、私は背もたれに体を預ける。目の前にある、手綱を握るグラジオスの案外太くてたくましい腕を軽く抱きしめると、私は目を閉じた。
「おい、雲母」
かっぽかっぽと馬蹄の奏でる心地いいリズムと交渉なんていう慣れない事をしたことから来る疲労の合わせ技で、私の意識は闇に引きずり込まれていく。
それに抵抗する意義を欠片も見いだせなかった私は、
「……寝る」
短く言い残して意識を手放した。
「……きろ。雲母、起きろ」
「……ふえ?」
張りのあるバリトンの声が耳朶を揺らし、私はゆっくりと目を開けた。
空は茜色と紫色の二色に染まっており、ちょうど逢魔が時と言われる頃合だろう。
辺りを見回せば、私はエマの居るあのテントの前まで帰り着いていた。
「ついたの?」
「……まだ寝ぼけているのか?」
グラジオスの皮肉で私は現状を把握する。となれば私が求める物は一つだけ。
「ごはんっ!」
私はガバッと体を起こすと、急いで馬から飛び降りる。
「グラジオス、運んでくれてありがとっ。護衛の皆さんもありがとうっ!!」
そのままお礼もそこそこに、背後で何か言っているグラジオスを無視してテントの中へと走り込んだ。
テントの中ではエマがストーブの上に置いたお鍋でスープらしきものを煮込んでおり、漂って来たかぐわしい香りが空っぽのお腹の中で思い切り暴れ回る。
私の理性は、そんな暴力の前に簡単に屈してしまった。
「エマただいまっ! お願いもうお腹が空いて死にそうなの食べていいっ!?」
「あ、えっと、雲母さん。はい、大丈夫ですよ。今盛り付けますからちょっと待っててくださいね」
エマは何か言いたかったようではあるが、それをぐっとこらえると私のためにスープをよそってくれた。
差し出された深い木皿の中には、たっぷり野菜とお肉が入った美味しそうなスープが注がれている。
私はエマから手渡されたスプーンを握ると、立ったまんまでスープの攻略に取り掛かった。
「あっっふ! んっ!」
「お、落ちついて食べてください。出来立てでまだ熱いですから」
「んっ、ごめんっ」
二口目は何度もフーフーと息を吹きかけ、十分に冷ましてから口に入れる。
バジルの香りと野菜の甘味、ちょいどいい塩気が混然一体となって口の中に広がり、私の体を感動と幸福で満たした。
「おいし~っ」
「ありがとうございます。……あの、それで……」
エマは何か尋ねたいが、私の食事を邪魔するのは気が引ける、といった感じで、体をもじもじさせている。
もっとも、聞きたいことなんて一つしか見当たらないのだが。
「グラジオスなら今外に居ると思う。一緒に帰って来たところだし」
「そっ、そうなんですねっ?」
ぱぁっと顔を輝かせたエマは、すみませんっと言い残すとテントの外へ走って行ってしまった。
私はその背中を目で追いかけながら、ホントに好きなんだなぁ、なんて思いつつも美味しいスープに舌鼓を打っていた。
十秒もしない内に、エマが肩を落としてテントの中に入ってくる。どうやら既にグラジオスは居なかったらしい。多分だけど、馬を片付けに行ったのだろう。
「おかえり~、エマ」
「えっと、はい……」
「エマは健気だね~」
「い、いえっ。そのっ、じ、従者として私は……ですねっ」
私の言葉に露骨に反応するエマを肴にスープを堪能する。空腹もあるが、それ加味してもなおエマの腕を振るって作られたスープは絶品だった。
「ホント美味しいよ、このスープ。グラジオスも喜ぶんじゃないかな?」
「そっ、そうですか? あ、ありがとうございます。ええ、ええと……じゃあお食事をお運びした方がよろしいでしょうか? も、もう殿下はテントにお戻りになられたでしょうか?」
ストーブの近くに備え付けられた台には、お盆と木皿にスプーンが準備されている。大方グラジオスとハイネ、それから自分用だろう。
どれも幌馬車に乗って旅してきた時の物だ。
もしかしたらスープの材料も、幌馬車にあったものを使ったのかもしれない。
「あ」
そこで思い出す。色々な荷物の入ったランドセルと普段着が、幌馬車の中に置いたままなことを。
「そだ、荷物取りにいかないと」
一応盗難の恐れが無いとはいえ、脱ぎ捨てた服がそのままなのは何となく気持ち悪い。
私がお皿を台の上に置こうとした瞬間。
「雲母、忘れ物だ」
グラジオスが私のランドセルを手に、テントの中へと入って来た。
「姉御、お疲れ様っす」
その後ろからハイネが続いて入ってくる。手が若干ダランッとしているのは昨夜の影響がまだ残っているからに違いない。
一番負担大きかっただろうからなぁ……。と、ちょっと反省する。
「殿下、ハイネ様。ただいまお食事をお持ちしようとしていたところでして……」
「いい、俺たちもここで頂こう。ハイネ卿は構わないか?」
「うっす。エマさんの美味い飯が食えるのならどこだって天国っす」
「あぅ……えっと、で、では準備いたしますので……」
エマはちょっと顔を赤らめながら、食事の準備に取り掛かる。
そんなエマを他所に、私はスープの満たされた木皿を置くと、グラジオスからランドセルを受け取った。
「ありがとー。ハイネもね」
「うっす、姉御もお勤めご苦労様でした! すいません、自分ついていけなくて」
「だ、大丈夫だよ」
なんかヤのつく自由業みたいな気がするからそのノリちょっと……もにょる。尊敬してくれてるのは分かるんだけどね。
「……グラジオス、私の着替えは?」
「その中に突っ込んでおいた」
「そ、ありがと」
適当に突っ込まれててしわくちゃになってたら嫌だなぁ。……って、あ。
私は少し面白い事を思いつき、にんまりと笑う。
「グラジオス。私の服触ったんだぁ」
「さ、触らなければ入れられないからな」
あ、動揺してる動揺してる。ちょっとは意識してるんだ。ぬひひ。
「どう、くんくんした?」
「するかっ! お前は俺をなんだと思っている!!」
「飼い主に捨てられて泣きそうになってる大型犬」
即座に返された答えに、グラジオスが沈黙する。
だってそうでしょ? あの時私に向かって迷惑だって言った時の表情、まさにそれだったもん。
そんなグラジオス達に、エマは皿を配り、腰掛ける場所を用意していく。
「いや~、エマってば凄い働き者だよね~。料理も上手だし」
「こ、これが私の仕事ですから。私はこれしかできませんし」
「ハープ弾けるし踊れるじゃ~ん。それも五人の貴族様から求婚されるくらいに」
「そっ、そんなに来たっすか!?」
ハイネが目を丸くして驚く。
「不思議じゃないでしょ。エマって絶対いいお嫁さんになるよぉ~。どう、グラジオス?」
なんて、少しだけエマの恋路を補助してみる。
「何故俺に言う……」
「あああああのっ、雲母さんっ!? でで、殿下が困ってらっしゃいます! そ、その私なんかが殿下のお、およっお嫁さんにだなんてっ」
もうエマは耳まで真っ赤になりながら、手を豊かな胸の前で合わせ、もじもじと体を不自然に左右に揺すっており、見るからに挙動不審、グラジオスに気があるのがバレバレである。
もうエマってばホント可愛いいっ。年下だしね。年下だしねっ!
……あ、ハイネがちょっとショック受けてる。
このおっぱい星人めっ!!
「ん~~っ。こんなに可愛いエマはグラジオスなんかにもったいない! 私のお嫁さんにするっ」
そう宣言した私は、思いっきりエマに抱き着き、柔らかいエマの感触を堪能する。ついでに背中で揺れる三つ編みも弄ぶ。
「あ、ごめんエマ。もうちょっとかがんで。あとおっぱい引っ込めて」
「無理ですぅっ!」
ちっ、私のエマ縮乳計画が破綻してしまうとは。
「羨ましいっす、姉御!」
「へへ~ん。ハイネはそこでお座りしてなさい。エマは私の物なんだから」
「羨ましいっす!!」
「ひ~んっ」
騒ぐ私達を、グラジオスは少し離れてみている。まるで自分は関係ないとでもういうかのように。
でもさ。そんなの、間違ってるからね。
「グラジオス、これが答えだよっ」
私はそう言うと、エマをグラジオスめがけて突き飛ばす。
エマはそのまま倒れ込み、グラジオスの腕の中にすっぽりと納まってしまった。
しばらく二人はガッツリと見つめ合い――。
――エマが、壊れた。
「でででで殿下っ!! もも申し訳ありませんっ!! わ、私の様な卑しいメイドの分際でお手を煩わせてしまい……」
「い、いや。今のは雲母のせいであってだな」
「すみませんすみませんすみませんっ!!」
エマは目をグルグルさせながら慌ててグラジオスの手を振り切ってテントの端まで逃げると、そのまま荷物に蹴つまずいて、ふにゃっと可愛らしい子猫の様な悲鳴を上げた。
……ちなみにスカートがまくれ上がり、かぼちゃパンツが丸見えである。それを見てしまったハイネが鼻血を吹き出して盛大に倒れ、頭から熱いスープを被って大騒ぎで辺りを駆け回る。
それだけでは終わらない。悲鳴を聞きつけた兵士が入ってきてハイネとぶつかり、エマは自身のスカートがまくれている事に気付いて悲鳴を上げる。それを聞いて更に……。
もうこの場所は収集が着かないくらいてんやわんやである。
「ねえ、グラジオス。分かった?」
「……なにがだ?」
お手上げ状態のグラジオスは、道中での質問に頭が回らないのか、それとも本当に分からないのか、分からないふりをしているのか。
でも、きっと伝わるはずだ。時間がかかっても、きっと。
「ホントに分かんないの? ばぁ~かっ」
グラジオスは道中ほとんど無言で、必要最低限の事しか話さなかった。でも、私の決断を気にしているのはバレバレで、あ~とかえ~とか言って、切り出そうとはするのだが、結局ヘタレて黙りこんでしまうのだった。
「ねえグラジオス、お腹減った。何か持ってないの?」
私は昨晩、今朝、昼と何も食べていない。このままではお腹と背中がくっ付いてしまいそうだ。
晩御飯まではまだ時間がありそうだったが、何かお腹に入れないと持ちそうになかった。
「持っていない」
「ぶ~……役立たず~……」
不満を口にしつつ、私は背もたれに体を預ける。目の前にある、手綱を握るグラジオスの案外太くてたくましい腕を軽く抱きしめると、私は目を閉じた。
「おい、雲母」
かっぽかっぽと馬蹄の奏でる心地いいリズムと交渉なんていう慣れない事をしたことから来る疲労の合わせ技で、私の意識は闇に引きずり込まれていく。
それに抵抗する意義を欠片も見いだせなかった私は、
「……寝る」
短く言い残して意識を手放した。
「……きろ。雲母、起きろ」
「……ふえ?」
張りのあるバリトンの声が耳朶を揺らし、私はゆっくりと目を開けた。
空は茜色と紫色の二色に染まっており、ちょうど逢魔が時と言われる頃合だろう。
辺りを見回せば、私はエマの居るあのテントの前まで帰り着いていた。
「ついたの?」
「……まだ寝ぼけているのか?」
グラジオスの皮肉で私は現状を把握する。となれば私が求める物は一つだけ。
「ごはんっ!」
私はガバッと体を起こすと、急いで馬から飛び降りる。
「グラジオス、運んでくれてありがとっ。護衛の皆さんもありがとうっ!!」
そのままお礼もそこそこに、背後で何か言っているグラジオスを無視してテントの中へと走り込んだ。
テントの中ではエマがストーブの上に置いたお鍋でスープらしきものを煮込んでおり、漂って来たかぐわしい香りが空っぽのお腹の中で思い切り暴れ回る。
私の理性は、そんな暴力の前に簡単に屈してしまった。
「エマただいまっ! お願いもうお腹が空いて死にそうなの食べていいっ!?」
「あ、えっと、雲母さん。はい、大丈夫ですよ。今盛り付けますからちょっと待っててくださいね」
エマは何か言いたかったようではあるが、それをぐっとこらえると私のためにスープをよそってくれた。
差し出された深い木皿の中には、たっぷり野菜とお肉が入った美味しそうなスープが注がれている。
私はエマから手渡されたスプーンを握ると、立ったまんまでスープの攻略に取り掛かった。
「あっっふ! んっ!」
「お、落ちついて食べてください。出来立てでまだ熱いですから」
「んっ、ごめんっ」
二口目は何度もフーフーと息を吹きかけ、十分に冷ましてから口に入れる。
バジルの香りと野菜の甘味、ちょいどいい塩気が混然一体となって口の中に広がり、私の体を感動と幸福で満たした。
「おいし~っ」
「ありがとうございます。……あの、それで……」
エマは何か尋ねたいが、私の食事を邪魔するのは気が引ける、といった感じで、体をもじもじさせている。
もっとも、聞きたいことなんて一つしか見当たらないのだが。
「グラジオスなら今外に居ると思う。一緒に帰って来たところだし」
「そっ、そうなんですねっ?」
ぱぁっと顔を輝かせたエマは、すみませんっと言い残すとテントの外へ走って行ってしまった。
私はその背中を目で追いかけながら、ホントに好きなんだなぁ、なんて思いつつも美味しいスープに舌鼓を打っていた。
十秒もしない内に、エマが肩を落としてテントの中に入ってくる。どうやら既にグラジオスは居なかったらしい。多分だけど、馬を片付けに行ったのだろう。
「おかえり~、エマ」
「えっと、はい……」
「エマは健気だね~」
「い、いえっ。そのっ、じ、従者として私は……ですねっ」
私の言葉に露骨に反応するエマを肴にスープを堪能する。空腹もあるが、それ加味してもなおエマの腕を振るって作られたスープは絶品だった。
「ホント美味しいよ、このスープ。グラジオスも喜ぶんじゃないかな?」
「そっ、そうですか? あ、ありがとうございます。ええ、ええと……じゃあお食事をお運びした方がよろしいでしょうか? も、もう殿下はテントにお戻りになられたでしょうか?」
ストーブの近くに備え付けられた台には、お盆と木皿にスプーンが準備されている。大方グラジオスとハイネ、それから自分用だろう。
どれも幌馬車に乗って旅してきた時の物だ。
もしかしたらスープの材料も、幌馬車にあったものを使ったのかもしれない。
「あ」
そこで思い出す。色々な荷物の入ったランドセルと普段着が、幌馬車の中に置いたままなことを。
「そだ、荷物取りにいかないと」
一応盗難の恐れが無いとはいえ、脱ぎ捨てた服がそのままなのは何となく気持ち悪い。
私がお皿を台の上に置こうとした瞬間。
「雲母、忘れ物だ」
グラジオスが私のランドセルを手に、テントの中へと入って来た。
「姉御、お疲れ様っす」
その後ろからハイネが続いて入ってくる。手が若干ダランッとしているのは昨夜の影響がまだ残っているからに違いない。
一番負担大きかっただろうからなぁ……。と、ちょっと反省する。
「殿下、ハイネ様。ただいまお食事をお持ちしようとしていたところでして……」
「いい、俺たちもここで頂こう。ハイネ卿は構わないか?」
「うっす。エマさんの美味い飯が食えるのならどこだって天国っす」
「あぅ……えっと、で、では準備いたしますので……」
エマはちょっと顔を赤らめながら、食事の準備に取り掛かる。
そんなエマを他所に、私はスープの満たされた木皿を置くと、グラジオスからランドセルを受け取った。
「ありがとー。ハイネもね」
「うっす、姉御もお勤めご苦労様でした! すいません、自分ついていけなくて」
「だ、大丈夫だよ」
なんかヤのつく自由業みたいな気がするからそのノリちょっと……もにょる。尊敬してくれてるのは分かるんだけどね。
「……グラジオス、私の着替えは?」
「その中に突っ込んでおいた」
「そ、ありがと」
適当に突っ込まれててしわくちゃになってたら嫌だなぁ。……って、あ。
私は少し面白い事を思いつき、にんまりと笑う。
「グラジオス。私の服触ったんだぁ」
「さ、触らなければ入れられないからな」
あ、動揺してる動揺してる。ちょっとは意識してるんだ。ぬひひ。
「どう、くんくんした?」
「するかっ! お前は俺をなんだと思っている!!」
「飼い主に捨てられて泣きそうになってる大型犬」
即座に返された答えに、グラジオスが沈黙する。
だってそうでしょ? あの時私に向かって迷惑だって言った時の表情、まさにそれだったもん。
そんなグラジオス達に、エマは皿を配り、腰掛ける場所を用意していく。
「いや~、エマってば凄い働き者だよね~。料理も上手だし」
「こ、これが私の仕事ですから。私はこれしかできませんし」
「ハープ弾けるし踊れるじゃ~ん。それも五人の貴族様から求婚されるくらいに」
「そっ、そんなに来たっすか!?」
ハイネが目を丸くして驚く。
「不思議じゃないでしょ。エマって絶対いいお嫁さんになるよぉ~。どう、グラジオス?」
なんて、少しだけエマの恋路を補助してみる。
「何故俺に言う……」
「あああああのっ、雲母さんっ!? でで、殿下が困ってらっしゃいます! そ、その私なんかが殿下のお、およっお嫁さんにだなんてっ」
もうエマは耳まで真っ赤になりながら、手を豊かな胸の前で合わせ、もじもじと体を不自然に左右に揺すっており、見るからに挙動不審、グラジオスに気があるのがバレバレである。
もうエマってばホント可愛いいっ。年下だしね。年下だしねっ!
……あ、ハイネがちょっとショック受けてる。
このおっぱい星人めっ!!
「ん~~っ。こんなに可愛いエマはグラジオスなんかにもったいない! 私のお嫁さんにするっ」
そう宣言した私は、思いっきりエマに抱き着き、柔らかいエマの感触を堪能する。ついでに背中で揺れる三つ編みも弄ぶ。
「あ、ごめんエマ。もうちょっとかがんで。あとおっぱい引っ込めて」
「無理ですぅっ!」
ちっ、私のエマ縮乳計画が破綻してしまうとは。
「羨ましいっす、姉御!」
「へへ~ん。ハイネはそこでお座りしてなさい。エマは私の物なんだから」
「羨ましいっす!!」
「ひ~んっ」
騒ぐ私達を、グラジオスは少し離れてみている。まるで自分は関係ないとでもういうかのように。
でもさ。そんなの、間違ってるからね。
「グラジオス、これが答えだよっ」
私はそう言うと、エマをグラジオスめがけて突き飛ばす。
エマはそのまま倒れ込み、グラジオスの腕の中にすっぽりと納まってしまった。
しばらく二人はガッツリと見つめ合い――。
――エマが、壊れた。
「でででで殿下っ!! もも申し訳ありませんっ!! わ、私の様な卑しいメイドの分際でお手を煩わせてしまい……」
「い、いや。今のは雲母のせいであってだな」
「すみませんすみませんすみませんっ!!」
エマは目をグルグルさせながら慌ててグラジオスの手を振り切ってテントの端まで逃げると、そのまま荷物に蹴つまずいて、ふにゃっと可愛らしい子猫の様な悲鳴を上げた。
……ちなみにスカートがまくれ上がり、かぼちゃパンツが丸見えである。それを見てしまったハイネが鼻血を吹き出して盛大に倒れ、頭から熱いスープを被って大騒ぎで辺りを駆け回る。
それだけでは終わらない。悲鳴を聞きつけた兵士が入ってきてハイネとぶつかり、エマは自身のスカートがまくれている事に気付いて悲鳴を上げる。それを聞いて更に……。
もうこの場所は収集が着かないくらいてんやわんやである。
「ねえ、グラジオス。分かった?」
「……なにがだ?」
お手上げ状態のグラジオスは、道中での質問に頭が回らないのか、それとも本当に分からないのか、分からないふりをしているのか。
でも、きっと伝わるはずだ。時間がかかっても、きっと。
「ホントに分かんないの? ばぁ~かっ」
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