職業寵妃の薬膳茶

なか

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 本当にどこにでもあるよくある話。
小さな国と大きな国があれば、征服されるか、従属するか、何らかのメリットを提示して友好関係を築くか。

 俺が生まれ育ったのは国というには少し小さいナーザリー神国。神に愛される神秘の国とよばれているが、ただの自然豊かな信仰心の篤い小さな島国だ。

 大して魅力もないせいか、昔話による不可侵のせいか、小さいながらも独立国家としてずっと長いこと成立してきた。しかしその平穏な日々もいつまで続くかは分からないものだ。

 帝国の使者が来るというので、一応歓待準備をしていたのに、やってきた使者が携えていたのは残念なお知らせだった。
 要は王の直系の人間から人質を出せってこと。


 ほっといても害にも特にもならない、こんな古い小さな国に対してなんなんだろうね。

 ただ今の皇帝は好戦的で即位後領土を広げ、あまりいい噂は聞かない。最近は年取ってきて少し落ち着いているみたけだけど、あちこちの国の女性を献上させてるって話だし、ちょっと遠くの神話の国に興味を持っただけなんだろ。
 助平親父め。迷惑なことこの上ない。

 使者は先触れで、迎えの本隊は後からくるとか。そのまんま連れてくつもり満々、抵抗したら勝ち目のない戦になるのなんて目に見えている。
 礼儀のなってない人間はあまり好きではない。

 まあ、好みを言っていても仕方がない。選択の余地はないのだ。
 条件は直系の人間ってだけだったから、ごたつく家族を説き伏せて俺が行くことにした。父さん母さん、兄さん姉さんたち達者で暮らせよ。
 そうは言っても、無事に帝国まで行けるかも心配だが、到着してから何されるか分からないし、碌な未来が想像できないなーとぼんやりしているうちに粛々と物事は進む。
 迎えの本隊の大掛かりな警備のもと、俺は船上の人となった。


 船と馬車を乗り継ぎ、尻に根が生えるーと何度も呟き、長い旅の終わりが見え始めたころ、隊の雰囲気がにわかに騒がしくなった。早馬が到着して、どうやら人質を所望した皇帝が急逝したらしい。
 病気か暗殺か、なんて物騒な話だ。恨みもかなり買ってるだろうし、暗殺が有力だろうね。

 そんなことはどうでもいいが、俺の処遇はどうなるんだろうなと思っていたが、とりあえず進むらしく、まあ、これでじゃあさようなら、引き返すわけにはいかないよな。


 そんな想定外の展開もあったが、俺は後宮の片隅に建つこじんまりした離宮に留めおかれた。つまりは軟禁だ。こじんまりとは言ったが、他の建物に比べてでかなりでかいし、俺にしては十分豪華。豪華すぎて落ち着かない。
 離宮とその周りの庭園までが許可された範囲で、そこから外に出れないが、三食昼寝付きで馬車に閉じ込められていたのより快適だ。

 大きな国の統治者が急死じゃ忙しいよなーとは思うが、何不自由なく生活してはいても、俺のこと忘れられてるんじゃ?なんて疑問も湧くころ、一人の男が訪ねてきた。


 男が言うには、うちの国の神秘的な立ち位置と、噂で美人が多いってことから、単に興味本位で今回のことを迫ったらしい。下衆め。
 黒髪黒目もしくは緑目が多く、ちょっと顔立ちは帝国と違ってすっきり系だけど、確かにうちの王族は特に美人が多い。

 ただ、その中にいればそれが普通だし、あまり美醜にこだわらないタイプが多い。飾り立てるのはちょっとダサいと思われてる。俺の衣装も帝国に合わせて普段よりちょっと派手目だけど、基本すっきり簡素なものだ。

 血筋とか外見より敬虔さとか、品格とかのほうが大事にされる。帝国とは価値観が根底から違うのだ。

 だから血筋や見た目は問題なくても、粗野な俺はみそっかす扱いだ。末っ子で甘やかされたにしても、こればかりが持って生まれた性質だから仕方ない。
 神様だって信じてるし、ちゃんと朝晩の礼拝も神殿でのお勤めも欠かさないのにな。残念だ。


 皇帝の後をこの男が継ぐという。
 第一皇子だが、正妃の子じゃないからちょっと揉めてたんだって。それはそれはご苦労様。直径の王族とはいえ、王座につく可能性がほとんどない俺には分からない世界だ。

 元正妃とこの男の母の測妃二人だけを残して、皇帝の後宮は解散することになったらしい。それぞれの希望を聞いて行き先を調整したと。
 どうりで少し前、遠くでざわざわしていたのか。引越ししてたんだな。そりゃ大変だっただろう。
 俺みたいに無理やり連れてこられた人が、この後の人生幸せになってくれればいいと思う。知らない人だけど境遇も近い。後で祈っとこう。


 正妃と側妃はこことは別にそれぞれ離宮を持ってて、そちらで暮らすから後宮は無人ってことになる。俺はまだ正式に入ってないはず。

「あなたには大変申し訳ないことをした。ただ、皇帝が死んだからと言って、じゃあ、国に返しますとは難しく、形だけの私の後宮だが、このままここで暮らしてくれないだろうか」

 腰の低い新皇帝さまだ。
 だからと言って、申出を断ることはできないだろう。俺には選択権がないのだ。

「承知致しました」

 俺は頭を垂れた。


 それが俺がこの男の後宮にいる理由。





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