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夕方6
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「ほら、入院してるとすることがないし考えてばかりいるの。でも考えるのはいいことなの?無駄に自分を苦しめるだけな作業なの?わからなくなるわ。彼が帰った後、いろいろ思ったんだけど、確かに彼と結婚したとき、人並みの幸せや家庭を築きたいっていうよこしまな発想があったことは認めるんだけど、やっぱりそれなりに彼のこと好きだって感じてたのよ?そのことを最近よく考えてるの。あの気持ちはなんだったのかなって。わたしね、結構男性に対して構えてて警戒心が強いの。でも彼はそれをものともせずにぐいぐい来てくれて、そういうのは新鮮だった。だってそんな感じの人あまりいなかったんだもの。そういう珍しい体験に少し、好奇心を抱いてたと思う。そう、好きっていうかね、あのつきあい初めの頃のわたしはとにかく興味津々だったの。彼が次に何をいうか、どうするか、それを知りたくてたまらなかった。その強い感情を、好きって言う感情なんじゃないかって思ってたの。だって、それまであまりそういう経験なかったのよ。だからなんだけど。それが好きで、合ってるかしら?違うわよね、うん、後から考えて、違ったなって気づいたのよ?ちゃんと。かなり遅かったんだけど。自分とはいろいろ考え方や選択が違っているものだから、その思考や行動が新鮮で興味深いなっていうポジティブな感情はたしかにあった。それも含めて、恋愛感情だって思おうとしたの、だってそう思うほうが正しい気がしたんだもの、いやちょっと違うな、多分その選択が楽だったのかもしれない。だって、こんな性格なのにわたし、人並みでいたかったんだもの」
「でもね、この前映画を観てて思ったのよ。イタリア映画ね。ヒロインがとっても逞しいの。強くて素敵。でもこんな女性が果たして日本で受けるかな、受けないだろうなって。それで思ったの。海外だと自立して自分の意見をしっかり言える大人の女性が、好まれるけど、日本ではそうでもないって一般論みたいに言ったりするでしょ、そしてなんとなくそれを、海外の女性観のほうが成熟してて上位にあるように捉えてしまう。わたし自身もそれを立派な女性観、恋愛観のように思ってしまったりしてたの。でもよく考えると、どういう相手を好きになるか、どういう相手を恋愛対象として素敵に感じるかっていうのは、実はとっても社会的なことで、戦って勝ち取る文化や社会においては配偶者やパートナーにもその能力がいるってだけなんだと思う。そして日本だと戦って勝ち取ることよりも、空気を読んだり調和して笑顔でやりすごす能力が高いほうが、うまくいくってだけ。だからわたしたちの中ではそういうことがうまい人が、好かれるの。あくまで一般論よ?もちろんね。でもそう考えたとき、わたしたちがどういう人を好きになるかってことは、わたしたち個人の意志じゃなくて、社会によって規定されて縛られてるんだなって思ったの。例えば百年前の小説なんて読むと、価値観も恋愛観もまるで違うでしょ。絶対的な真実の強い愛なんて思い上がってみたりしても実は、社会的につくられた気の迷いみたいなものじゃない?そう、わたしたちは完全に自由に人を好きになる自由なんてもってない。なんらかの社会的影響や屈折、利害みたいなものが、好きになることに強く関わってて、絶対的で自由な愛情なんて存在してなくて、あくまで社会的で、相対的なものでしかない。相対的なものにむきになるなんて馬鹿げてないかな。すぐ我にかえってしまわないのかな。わたしはあなたのことを相対的に好きなんだと思う、なんてもし言うなら言ったわたしは馬鹿げてるし、聞いたほうだってひくわよね。うん、むしろ引いてほしいわ。実は相対的な感情だってわかってるから、結婚っていう法的な拘束がわたしたちには必要だったのだと思う。だって相対的である以上、その感情を凌駕する相手とまた巡り合う可能性はむしろ高いわよね?適齢期に近くにいた相対的に好きな相手程度の感情なのだから。ただその自由をお互い縛る契約としての結婚、もちろんそれは社会的な意義はあるわよね。でもあくまで社会的な意義。だって、心を揺さぶったり感情的に支配されるのとは別の次元の話よね」
「でもね、この前映画を観てて思ったのよ。イタリア映画ね。ヒロインがとっても逞しいの。強くて素敵。でもこんな女性が果たして日本で受けるかな、受けないだろうなって。それで思ったの。海外だと自立して自分の意見をしっかり言える大人の女性が、好まれるけど、日本ではそうでもないって一般論みたいに言ったりするでしょ、そしてなんとなくそれを、海外の女性観のほうが成熟してて上位にあるように捉えてしまう。わたし自身もそれを立派な女性観、恋愛観のように思ってしまったりしてたの。でもよく考えると、どういう相手を好きになるか、どういう相手を恋愛対象として素敵に感じるかっていうのは、実はとっても社会的なことで、戦って勝ち取る文化や社会においては配偶者やパートナーにもその能力がいるってだけなんだと思う。そして日本だと戦って勝ち取ることよりも、空気を読んだり調和して笑顔でやりすごす能力が高いほうが、うまくいくってだけ。だからわたしたちの中ではそういうことがうまい人が、好かれるの。あくまで一般論よ?もちろんね。でもそう考えたとき、わたしたちがどういう人を好きになるかってことは、わたしたち個人の意志じゃなくて、社会によって規定されて縛られてるんだなって思ったの。例えば百年前の小説なんて読むと、価値観も恋愛観もまるで違うでしょ。絶対的な真実の強い愛なんて思い上がってみたりしても実は、社会的につくられた気の迷いみたいなものじゃない?そう、わたしたちは完全に自由に人を好きになる自由なんてもってない。なんらかの社会的影響や屈折、利害みたいなものが、好きになることに強く関わってて、絶対的で自由な愛情なんて存在してなくて、あくまで社会的で、相対的なものでしかない。相対的なものにむきになるなんて馬鹿げてないかな。すぐ我にかえってしまわないのかな。わたしはあなたのことを相対的に好きなんだと思う、なんてもし言うなら言ったわたしは馬鹿げてるし、聞いたほうだってひくわよね。うん、むしろ引いてほしいわ。実は相対的な感情だってわかってるから、結婚っていう法的な拘束がわたしたちには必要だったのだと思う。だって相対的である以上、その感情を凌駕する相手とまた巡り合う可能性はむしろ高いわよね?適齢期に近くにいた相対的に好きな相手程度の感情なのだから。ただその自由をお互い縛る契約としての結婚、もちろんそれは社会的な意義はあるわよね。でもあくまで社会的な意義。だって、心を揺さぶったり感情的に支配されるのとは別の次元の話よね」
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