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ガトー・ガナッシュの正体は……
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「ガトー隊長が!? そんなことをおっしゃって大丈夫なんですか……?」
たとえ名誉ある王国騎士であろうとも、国の信頼を受けている王国魔術師へ疑いをかけるなど、あってはならない。
もしも、ことが露見し、証拠不十分だった場合、ジェシカさん自身の身に危険が迫る。
そしてジェシカさん自身もそれはわかっているはずだ。
しかし彼女は全く揺らいだ態度をみせていない。
「ガトーは、普段はふざけた態度をとっているけど、あれは仮の姿。奴はあなたが思っている以上に危険な人物よ。トーガくんは……ガトーが、かつての戦乱時、多数のシフォン人をその手で葬ったいたことはご存知?」
「"北部戦線の荒鷲"と呼ばれていたんですよね。でも、そのことと、ガトー隊長の何が危険なのか、結びつきません」
「私は戦後、多数の従軍兵に当時のガトーの様子を聞いて回ったわ。すると皆一様にこう答えるのよ……ガトーはシフォン人を嬉々とした様子で殺害し続けていたとね……捕虜のシフォン人さえも、その手にかけていたそうよ」
「そんな……だって、今、ガトー隊長はチル・ナ・ララというシフォン人の方を妻に迎えていて……」
「そのシフォン人って、たぶんここに写っている人よね?」
ジェシカさんは懐から、精巧な筆致の写しがきのようなものーーこれは裕福層を中心に利用されている"写真"というものだろうか。
その灰色の版の中には、真っ白な雪を背景に、どことなくジェシカさんに似た若い男性、明らかに若い頃のガトー隊長、そして先日お会いした彼女と寸分違わない姿で微笑むシフォン人女性の姿があった。
「これは父の遺品の中から出てきたものよ。私の父とガトーは良いとして、このチルというシフォン人女性は明らかにおかしくはない?」
「たしかに……先日、俺がお会いしたチルさんは、どうみてもパルとさほど年齢が変わらなかったような気がします」
「記録によると、このチル・ナ・ルルという女性は、戦時中、こちらのスパイとして活躍していたシフォン人だったらしいわ。でもこの女性は、タルトン人側の内通者だと、シフォン人陣営に露見し、同族によって殺害された」
「なら、今、ガトー様の館にいるチルという女性は何者……」
「死んだはずの人間が、寸分違わぬ姿で存在している……ひょっとすると、この女は、ガトーの生み出した人造生命体……」
「まさか、ホムンクルス!?」
錬金術師が禁忌の輩と言われる所以は、性交ではない方法で、命を生み出そうとしていたところにあった。
そして実際、獄死したクーべ・チュールも、決戦の時、俺たちへ自らのホムンクルスを差し向けていた。
「と、なると、ガトー隊長は……!?」
「人の手での命を生み出す愚か者、錬金術師の可能性が高い。そして、奴が戦時中、多数のシフォン人を殺めていたのは、その要たる"賢者の石"を生成するため。これはずっと口の固かったクーべ・チュールが唯一吐いた情報よ」
賢者の石とは、錬金術師が力の要と称する、赤い色をした液体とも固体とも取れる物質だ。
そしてソレは俺が若がえり、強大な力を手にするきっかけとなったものでもある。
「では賢者の石とはシフォン人を原料に……?」
「厳密にはシフォン人の魔力が原料ね。生まれつきもつ、タルトン人よりも高いそれを抽出し、結晶化しているのが賢者の石の正体だそうよ。ただこの情報はあくまでクーべから聞き出したものだから、実証はまだだけどね」
「……」
「クーべはこの話を口にした途端、厳重なバステイヤ収容所の中で、何者かに殺された。この犯行は、さっきトーガくんが指摘した通り、王国魔術師クラスの魔術師でなければ不可能。そして王国魔術師内において、錬金術師と思われる人物こそ……」
「少し待ってくださいジェシカさん。その判断のしかたは早計ではありませんか?」
俺はあえて、ジェシカさんの言葉を遮った。
きっと彼女は実は錬金術師だったガトー隊長が、口封じのためにクーべ・チュールを殺害したと言いたいのだろう。
「今、ジェシカさんが俺に伝えたことは全てあなたの推察……むしろ、最初からガトー様を犯人と決めつけている節があると思いました」
「……」
「それに……余計なことだったらすみませんが、俺は、あなたの言葉から、ガトー隊長に対して、すごく"個人的な感情"を感じます」
俺が思ったことを正直に述べると、ジェシカさんは苦々しい表情を浮かべる。
「……だって、あいつは……ガトーは、私のお父さんを、殺した輩だから……!」
再びジェシカさんの口から出た、衝撃的な事実に、強い驚きを感じている。
だからこそ、まずは彼女の言葉に耳を傾けることとした。
「私のお父さんは……ウォルター・フランソワーズはあの戦争の時、戦争終結に向けた和平役として活動していたわ。でもね、当時、お父さんの同僚だったガトーは、そのことにすごく反発していたの。幼い日の私は、そのことで度々口論を繰り広げていたお父さんとガトーの様子を屋敷で見ていたわ……そしてその直後、お父さんは帰らぬ人となったわ……」
そう語るジェシカさんからは沸々とした怒りのようなものが感じられた。
「ガトーはね、お父さんが死んだ時、わざわざ家にまできて、その報告をしに来たの。その時奴は、親友を守れなかったことを必死に謝罪してきたわ。でもね、その時私、感じちゃったのよ。ああ、こいつはお父さんが居なくなって、良かったと思っているなって……それからよ、アイツが水を得た魚の如く、シフォン人の虐殺を開始したのは……」
「……」
「そしてその疑いから私は何年もかけて色々と調べて、王国騎士にまでなって……だんだんと奴の異常さが浮き彫りになって、国家転覆を目論む錬金術師であるとの答えに辿り着いて……そして奴は遂に動き出した……」
「……それで、ジェシカさんは、それを教えた上で何をお望みで?」
「奴を、ガトーを倒す手助けをしてくれない?」
やはり、本題はそこだったかと思った。
それほどジェシカさんが俺のことを信頼してくれているのは嬉しい限り。
しかし、だからといって、
「すみませんが、やはりお話になりませんね。俺は王国魔術師で、さらにガトー隊長の部下です。いくら、恩人であるジェシカさんの頼みとはいえ、おいそれと二つ返事で了承できる案件ではありません。これまで開示いただいた情報も全て、不確定なものが多すぎます」
「そうよね……やっぱり、君でもそう判断するわよね……。あなたでもそういうんだから、他に信じてくれる人なんて居るはずないわよね……」
ジェシカさんは寂しげにそう呟くと、ソファーから立ち上がった。
「ごめんなさい、急に変な話をしてしまって……この話は、信頼できるトーガくんだからこそ、したのよ。だから、くれぐれも他言無用でお願いね?」
「まさか、お一人でガトー様のことを?」
「ええ。もしも私の推測が正しかったのなら、ガトーをこの手で殺めても、問題にはならないわ。だって奴は、国家転覆を目論む錬金術師なのだから……!」
「待ってください」
部屋を出てゆこうとするジェシカさんを呼び止める。
すると彼女は驚いた様子で、こちらを振り返ってくる。
「俺はあくまで"確たる証拠"がないので、すぐに協力の返事ができないだけです」
意外だったろう、俺の言葉を受けて、ジェシカさんは嬉しそうな、戸惑っているような、そんな不思議な表情をしている。
「信じてくれるの?」
「火のないところに煙は立ちません。だからまずは"検証"から入りたいと思います」
「検証? でもどうやって……」
「俺をクーべが殺されたバステイヤ収容所へ連れてってください。俺の仲間に最近、とても優秀な物質念写を獲得した者がいるので、彼女にクーべ殺害の真実を見てもらおうと思います。もしも、ガトー隊長が犯人であれば、そこでなにかしらの証拠が掴めることでしょう。その上で、協力するかどうか判断したいと思います」
ーーご連絡ーー
6月15・16日の更新をお休みします。
また、以降は隔日更新にする予定です。
よろしくお願いいたします。
たとえ名誉ある王国騎士であろうとも、国の信頼を受けている王国魔術師へ疑いをかけるなど、あってはならない。
もしも、ことが露見し、証拠不十分だった場合、ジェシカさん自身の身に危険が迫る。
そしてジェシカさん自身もそれはわかっているはずだ。
しかし彼女は全く揺らいだ態度をみせていない。
「ガトーは、普段はふざけた態度をとっているけど、あれは仮の姿。奴はあなたが思っている以上に危険な人物よ。トーガくんは……ガトーが、かつての戦乱時、多数のシフォン人をその手で葬ったいたことはご存知?」
「"北部戦線の荒鷲"と呼ばれていたんですよね。でも、そのことと、ガトー隊長の何が危険なのか、結びつきません」
「私は戦後、多数の従軍兵に当時のガトーの様子を聞いて回ったわ。すると皆一様にこう答えるのよ……ガトーはシフォン人を嬉々とした様子で殺害し続けていたとね……捕虜のシフォン人さえも、その手にかけていたそうよ」
「そんな……だって、今、ガトー隊長はチル・ナ・ララというシフォン人の方を妻に迎えていて……」
「そのシフォン人って、たぶんここに写っている人よね?」
ジェシカさんは懐から、精巧な筆致の写しがきのようなものーーこれは裕福層を中心に利用されている"写真"というものだろうか。
その灰色の版の中には、真っ白な雪を背景に、どことなくジェシカさんに似た若い男性、明らかに若い頃のガトー隊長、そして先日お会いした彼女と寸分違わない姿で微笑むシフォン人女性の姿があった。
「これは父の遺品の中から出てきたものよ。私の父とガトーは良いとして、このチルというシフォン人女性は明らかにおかしくはない?」
「たしかに……先日、俺がお会いしたチルさんは、どうみてもパルとさほど年齢が変わらなかったような気がします」
「記録によると、このチル・ナ・ルルという女性は、戦時中、こちらのスパイとして活躍していたシフォン人だったらしいわ。でもこの女性は、タルトン人側の内通者だと、シフォン人陣営に露見し、同族によって殺害された」
「なら、今、ガトー様の館にいるチルという女性は何者……」
「死んだはずの人間が、寸分違わぬ姿で存在している……ひょっとすると、この女は、ガトーの生み出した人造生命体……」
「まさか、ホムンクルス!?」
錬金術師が禁忌の輩と言われる所以は、性交ではない方法で、命を生み出そうとしていたところにあった。
そして実際、獄死したクーべ・チュールも、決戦の時、俺たちへ自らのホムンクルスを差し向けていた。
「と、なると、ガトー隊長は……!?」
「人の手での命を生み出す愚か者、錬金術師の可能性が高い。そして、奴が戦時中、多数のシフォン人を殺めていたのは、その要たる"賢者の石"を生成するため。これはずっと口の固かったクーべ・チュールが唯一吐いた情報よ」
賢者の石とは、錬金術師が力の要と称する、赤い色をした液体とも固体とも取れる物質だ。
そしてソレは俺が若がえり、強大な力を手にするきっかけとなったものでもある。
「では賢者の石とはシフォン人を原料に……?」
「厳密にはシフォン人の魔力が原料ね。生まれつきもつ、タルトン人よりも高いそれを抽出し、結晶化しているのが賢者の石の正体だそうよ。ただこの情報はあくまでクーべから聞き出したものだから、実証はまだだけどね」
「……」
「クーべはこの話を口にした途端、厳重なバステイヤ収容所の中で、何者かに殺された。この犯行は、さっきトーガくんが指摘した通り、王国魔術師クラスの魔術師でなければ不可能。そして王国魔術師内において、錬金術師と思われる人物こそ……」
「少し待ってくださいジェシカさん。その判断のしかたは早計ではありませんか?」
俺はあえて、ジェシカさんの言葉を遮った。
きっと彼女は実は錬金術師だったガトー隊長が、口封じのためにクーべ・チュールを殺害したと言いたいのだろう。
「今、ジェシカさんが俺に伝えたことは全てあなたの推察……むしろ、最初からガトー様を犯人と決めつけている節があると思いました」
「……」
「それに……余計なことだったらすみませんが、俺は、あなたの言葉から、ガトー隊長に対して、すごく"個人的な感情"を感じます」
俺が思ったことを正直に述べると、ジェシカさんは苦々しい表情を浮かべる。
「……だって、あいつは……ガトーは、私のお父さんを、殺した輩だから……!」
再びジェシカさんの口から出た、衝撃的な事実に、強い驚きを感じている。
だからこそ、まずは彼女の言葉に耳を傾けることとした。
「私のお父さんは……ウォルター・フランソワーズはあの戦争の時、戦争終結に向けた和平役として活動していたわ。でもね、当時、お父さんの同僚だったガトーは、そのことにすごく反発していたの。幼い日の私は、そのことで度々口論を繰り広げていたお父さんとガトーの様子を屋敷で見ていたわ……そしてその直後、お父さんは帰らぬ人となったわ……」
そう語るジェシカさんからは沸々とした怒りのようなものが感じられた。
「ガトーはね、お父さんが死んだ時、わざわざ家にまできて、その報告をしに来たの。その時奴は、親友を守れなかったことを必死に謝罪してきたわ。でもね、その時私、感じちゃったのよ。ああ、こいつはお父さんが居なくなって、良かったと思っているなって……それからよ、アイツが水を得た魚の如く、シフォン人の虐殺を開始したのは……」
「……」
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「……それで、ジェシカさんは、それを教えた上で何をお望みで?」
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ジェシカさんは寂しげにそう呟くと、ソファーから立ち上がった。
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「ええ。もしも私の推測が正しかったのなら、ガトーをこの手で殺めても、問題にはならないわ。だって奴は、国家転覆を目論む錬金術師なのだから……!」
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意外だったろう、俺の言葉を受けて、ジェシカさんは嬉しそうな、戸惑っているような、そんな不思議な表情をしている。
「信じてくれるの?」
「火のないところに煙は立ちません。だからまずは"検証"から入りたいと思います」
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「俺をクーべが殺されたバステイヤ収容所へ連れてってください。俺の仲間に最近、とても優秀な物質念写を獲得した者がいるので、彼女にクーべ殺害の真実を見てもらおうと思います。もしも、ガトー隊長が犯人であれば、そこでなにかしらの証拠が掴めることでしょう。その上で、協力するかどうか判断したいと思います」
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