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ローレンス達の末路

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「ああ……ぐあああぁぁ……!」

 ローレンスは1人、暗い路地裏でのたうち回っていた。

 先程までの調子の良さは、どこかへ行ってしまい、今はただ体が沸騰するように熱く、息が苦しい。

 するとどこからともなく、清廉な雰囲気を放つ男が現れ、ローレンスを見下ろした。

「調子が悪そうですね、ローレンス君」

「あ、ああ! クーべ、さんっ……! クーべ、サンだぁあぁぁ!!」

 ローレンスは悶え苦しみながらも、クーべ・チュールが現れてくれたことに歓喜していた。
彼は頬を赤く染め、恋する乙女のように胸を高鳴らせながら、クーべへ手を伸ばした。

 するとクーべはローレンスの求めにきちんと応じてその手を優しく取る。
そして彼を、まるで親のようにそっと抱きしめた。

「大丈夫ですよ、ローレンス君……あなたは強い……大丈夫です……」

「ああ……クーべ、サン……アンタ、だけだ……俺のミカタは……クーべサァアン……!」

「今、楽にしてあげますよ、ふふ……」

 クーべ・チュールは甘い声でそう囁きつつ、手にしていた煌めく赤い液体をローレンスの首から注入してゆく。

 次第にローレンスの呼吸は安定してゆき、苦しみが霧散していった。

「はぁ……はぁ……ありがとうございました、クーべさん……俺……俺ぇ……!」

 ローレンスは、この異様な魅力を持った男に縋りつこうとする。

 しかしクーべ・チュールは少し強めの力で、そんなローレンスを引き離し、立ち上がった。

 ローレンスの胸はまるで刃物で切り裂かれたかのような、苦しみに苛まれる。

 そんなローレンスへクーべ・チュールは、やや距離を置きつつも、優しい笑みを贈る。

「あなたが苦しんでいる時、私は必ず現れ、お救いしますよ。安心なさい」

「ありがとうございます……ありがとうございますぅ……!」

「さて、あの男と君……果たしてどちらが私の成功例になるのでしょうかね」

 ローレンスは何度も地面へおでこを擦り付け、感謝を述べる。
しかし気がついた時にはもう、クーべ・チュールの姿は、目の前から綺麗さっぱり消え去っていたのだった。

(また会いたいな……クーべさんに……彼の方は、同じ男だけど……あの人だったら、俺……!)

 そんな今まででは絶対に持つはずのなかった、感情を胸に抱きつつ、ローレンスはリナやエディと共に、宿泊している3番通りの宿屋へ入ってゆく。
 そして自室の扉の前へ立つたり、そこから漏れ聞こえてきた会話に、強い怒りを覚える。

「うっ……うっ……ひっく……あの村の男たち……寄ってたかって、私のことを……! 最悪っ……!」

「もう泣くな、リナ。俺はお前が汚れちまっただなんて、思っていないから……」

「エディ……!」

「俺が全部、綺麗さっぱり忘れさせてやる」

「エディ! んんぅーー!」

 薄く開けた扉の隙間から、濃厚なキスをしているエディとリナの姿をローレンスは目の当たりにする。
やがて2人はお互いに服を脱がし合い、ベッドへもつれ込んでゆく。

(俺が働いてる時に、あの2人は……! 俺だって……俺だって、クーべさんと……!)

 怒りや嫉妬、そしてクーべへの恋心。
様々な感情が渦巻き、精神がぐちゃぐちゃになっているローレンスは、迷うことなく宿屋の扉を蹴破った。

「ッ!? ロ、ローレンス! こ、これは違うんだ!」

「きゃっ!」

 ローレンスが現れるなり、エディはリナをベッドの上から突き落とした。

 そんな2人をローレンスは胡乱げ目で眺めている。

「やっぱり、お前ら、そうだったんだ……」

「こ、これは……リ、リナのやつが誘ってきたから! だからっ!」

「俺が、1人で、苦労して、苦労して、苦労して、ダーナドラゴンと戦っている時に……お前たちはァァァぁ!!!」

 ずっと抱いていた疑念が、真実として現れた時、ローレンスは迷わず剣を抜く。
そしてエディの口を塞ぐように掴みかかった。

「残念だよ、エディ……俺はお前のことをずっと親友だと思ってたのによ……」

「ふぐっ、ふがっ! ふぐぐぐぐーーーー! うぐぐぐぐっ!」

 ローレンスの剣が、エディの体へ沈んでゆく。
最初こそ、必死に逃れようと抵抗を試みていたエディであったが、やがて四肢から力が抜けてゆく。

 ローレンスが剣をぬけば、エディは糸が切れた操り人形の如く、膝をつき、その場へ倒れ込む。

「や、やだっ……ローくん、なにを……?」

 恐怖のあまり、リナはその場へへたれ込んだまま、立ち上がることすらできていない。

 そんな"元恋人"へローレンスはゆらりと視線を向ける。

「リナぁ……もうお前なんて、クーべさんに比べりゃ、クソみたいな人間だけどよぉ……」

「ゆ、許して! 私も寂しかったのっ! あんなことされて辛かったの! だからぁ!」

「クーべさんにしてもらえないぶん、てめぇで解消してやる! 悪い女にはおしおきしないとなぁ……!」

「やだっ、こんなの……ああっ!」

「そういや俺ら、恋人だったのに何ヶ月もご無沙汰だったよなぁ! 今日はその分、楽しませて貰うからなぁ!!」

 ーーそうしてリナにとっては地獄の、ローレンスにとっては快楽の時間が続いてゆく。
そして……

「……はぁ……はぁ……ひゅぅー………もう、殺して……お願い……」

 もはや限界を迎えたリナは、あられも無い姿のまま、静かに息をしているのみ。
 だが、それでもローレンスは足りなかった。全くもって満足をしていなかった。

 もうリナが、このまま死のうが関係ない。
だってこいつは、自分を裏切った最低最悪の女なのだから。

 愛してやまないクーべ・チュールと比べれば、カスみたいな人間なのだから。

ーーそんな中、突然ローレンスの体に異変が生じる。

「がが……うががあががっ……! あがががが……!」

 喉から到底声とはいえない、不気味な音が溢れ出た。
それを皮切りに、ローレンスの体が沸騰した湯のように泡立ち、変形を始めた。

 そんな人から化け物へ変わってゆくローレンスを見て、リナは何故か安堵の笑みを漏らす。

「ああ……やっと終わるんだ……終われるんだ……あは……あははははは!!!」

 リナは高笑いと共に、肉の渦の中へと沈んでゆく。

●●●

「トーガくん、ひとつ聞いていい?」

 イービルアイのマスタングくんを放ってからしばらく経ち、集会場の食堂で食事をしている最中、モニカがそう聞いてくる。

「なんだ?」

「あのローレンスって例の事件に関わりがありそうなんでしょ? なのになんでマスタングくんに追跡をお願いしたの?」

「追いかけた方が早い……確かにモニカの言うことも一理ある。だが、もし追跡が失敗したらせっかくのチャンスが無駄になってしまうだろ? 加えて、先ほどの様子から今のやつは明らかに危険な状態だと判断した。何をしでかすか、俺も予想ができん。だからまずはマスタングくんで奴の居場所や行動パターンを把握し、その上で行動指針を定めようと思っているんだ」

 語り終える頃には、モニカは顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに俯いていた。

「トーガくん、そこまで考えて……ごめんなさい、余計なこといっちゃって……」

「モニカさんは大人しそうに見えて、案外勇ましくつっこんだりしますものね、うふふ……」

 パルにそう言われ、モニカはますます恥ずかしそうな様子を見せる。

 さすがは若い頃、俺以上に勇敢だったエマの娘だと思うのだった。

 そんな中、脇の窓からパタパタと羽を揺らしつつ、マスタングくんが帰還し、俺の肩へ乗ってくる。
そして早速、マスタングくんの見てきたものを、魔力経路を使って見始めた。

「なにが見えましたか?」

「どうやらローレンス達は、3番通りの宿屋街に潜伏しているようだな」

 パルの質問に、マスタングくんの映像をみつつ、そう答える。
その時のことーー

「手の空いている冒険者諸君に告ぐ! 動けるものは今すぐ、我々王国騎士団とともに、3番通りの宿屋街に発生した魔物討伐に加われたし! 
これは国家依頼に相当することを保証する! 時間がないんだ! 急いでくれ!」

 王国騎士が集会場へ飛び込んでくるなり、そう叫ぶ。


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