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ピルは俺のことを……?

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 誰がおじさん時代の俺の死亡届を出し、ライセンスを抹消したのかは気にはなる。
でも、それは後回しだ。
 今は考えてもよくわからないことに、時間を使っている暇はない。

 俺は早速、ライセンス取得資格認定試験の予定表へ視線を落とす。
するとパルが俺へ身を寄せて、同じ書類を覗き込んでくる。

「まぁ! 明日がその試験の日なのですね! 良かったですねトーガ様!」

「? もしかしてタタン語が読めるのか?」

「はい! 幼い頃宮殿で習っていまして。もちろん、ピルも読めますよ」

「宮殿……? もしかしてパルとピルって、お姫様だったとか!?」

「そ、そんなたいしたものじゃないですよ! 少数部族ですし、それに……私たち以外はみんなバラバラになって、滅んだみたいなものですし……ちなみに“パ族”っていうんですよ!」

 本人は出身部族のことを卑下してそういうが、属国化後に敵国であるケイキの公用語であるタタン語を学ぶということは、外との繋がりのあるかなり有力な部族だったに違いない。
 これは益々、実はお姫様だったパルとピルのために、2人の居場所を取り戻す必要がある。

 俺は早速、明日実施されるライセンス取得資格認定試験の用紙へ、"トーガ・ヒューズ"と記入した。
するとどこからともなくペンを持ってきていたパルが、俺の下へ"パル・パ・ルル"とタタン語で名前を記入した。

 ほう……パルのフルネームは【パル・パ・ルル】っていうのか……と、突っ込むべきところはそこじゃない! しかも一族の文字を名前の頭に使われているし、パルはいるべきところにいれば、相当な権力の持ち主……!?

「お、おい! まさか君まで……!?」

「いつまでもトーガ様へおんぶにだっこでは困ってしまいますから!」

「しかし……」

「私も一緒に、あなたの夢を追いたいのです。家族ですから……」

 パルはこちらへ真剣な眼差しを送ってきた。
こんなに空のように透き通った眼差しで見つめられれば、断るわけには行かない。

「安心してください。毎晩、トーガ様から"注入"を受けてる私は意外と強いんですからね」

「……わかった。なら一緒に頑張ろう」

「はい!」

「あ、あの、えっとぉ……」

 突然、パルと反対側にいたピルが袖を引いてくる。
いつもは元気いっぱいなピルだが、今日は朝から様子がおかしい。

「わたしも、試験うけてもいいですか……?」

 意外なピルの発言に、俺は思わず「本気か?」と聞き返してしまった。

「わ、わたしも、お姉ちゃんみたいに、とーがさまのお役に立ちたいです! だから……お願います!」

 ピルは必死な様子でそう訴えかけてくる。
しかし正直なところ俺は迷っていた。

 パルに関しては目の前で彼女の鮮やかな格闘術を見ているし、加えて俺からの"注入"もあるので、問題ないと踏んでいる。
だがピルに関して未だ知らないことが多すぎる。そもそもこの子が荒事に向いているかどうかもわからない。

 それにピルの実力を見定める時間がないことも原因だ。
なにせ、今回の試験を見送ってしまえば、次の募集は半月も先になってしまうからだ。
第一、試験といっても危険が皆無ではない。こんなことでピルを怪我させたくはないのが本音だったりする。

「ピル、これは遊びじゃないのよ? いくら試験だからって、きっと危ないことがたくさんあるはずよ?」

「だ、だいじょうぶだもん! めいわくかけないもん!」

 パルの言葉に、ピルはやや怒ったように反論する。
するとややあってパルは、

「トーガ様、ピルは簡単な魔術が使えます。ですから、トーガ様の危惧していらっしゃる最悪の事態の可能性は低いかと思います」

「……わかった、良いだろう」

 なんとなく、パルの今の言葉の裏側に、どういった気持ちがあるのか理解した俺は、ピルへ受験を認める発言をする。

「ありがとうとーがさま、お姉ちゃん! じゃあ、わたしが書類ていしゅしてくるねー!」

 名前を記入し終えたピルは、嬉々とした様子で受付のカウンターへ向かってゆく。
そんなピルの背中を見て、パルは深いため息を吐いた。

「ありがとうございます、トーガ様。ピルのわがままを聞いてくださって……」

「いや、あそこで断っても余計にピルはヘソを曲げただろうからな。受かったら幸運ということにしておけば良いだろう」

「試験中は私が責任を持ってピルの面倒をみますので……」

「いや、そこは2人でみることにしよう。パルには絶対に合格してもらいたいからな」

「頼ってくださり嬉しいですよ。頑張りますね、私!」

 これまでパルの言動から、ピルの合格の可能性は低いのだろう。
でも、本人のやる気を削ぐのも良くはない。
ここは現実を見て、自分の実力を思い知ってほしい。
そんな考えに基づく判断なのだった。

「この生意気なシフォン人が! 奴隷のくせして……!」

「かんけいないもん! 先に並んでたのはわたしで、貴方たちが横入りしてきただけでしょ!?」

 と受付カウンターの方か、不穏なピルの声が聞こえてくる。

 なんとなく会話の内容から、ピルが睨み合っている冒険者一頭が、彼女の前に割り込んで入ってきたのだろう。
 今のシフォン人は、確かに珍重はされていても、奴隷という見方が強い。
だからああやって、無碍に扱う連中もまま存在する。

「うちの身内がどうしたか?」

「とーがさまっ!」

 俺が敢えて大声でそう声を放つと、ピルは嬉しそうに俺のことを呼ぶ。
すると、先ほどまでピルに絡んでいた冒険者一党の顔面が青く染まり始める。

「トーガって……もしかして!? 昨日に城門で大暴れしたっていう!?」

「大暴れしたかどうかはよくわからないが、俺が、この子"家族"のトーガだ」

「ピル、どっちが悪かったのか説明してくれる?」

 遅れてやってきたパルは、冒険者一党を無視して、ピルへ問いかける。
途端、俺の時以上に、冒険者たちは顔を真っ青に染めた。

「お、おい、このシフォン人の女って……!」

「あれだろ? その怪力で氷塊の動きを止めっていう……」

「おい、お前たち。パルへ失礼なことを言うのはやめろ!」

 俺はヒソヒソと話していた冒険者を一括した。
そして顔を引き攣らせた彼らへ詰め寄ってゆく。

「さて、この場合、俺が謝るべきか? それとも?」

「うっ……す、すみまんでした、色々と……」

 横入り冒険者一党は素直に謝罪し、そそくさとその場から走り去ってゆく。

 やはり城門で力を見せつけておいてよかった。
結果、こうして俺という存在が認知されている。やはりこうして目立たなければ、人生の最短ルートは歩めないのだ。

「とーがさま、ありがと! ぎゅー!」

「おいおい、ピル、皆の前で恥ずかしいじゃないか」

 しかも目立って、こんなに可愛いピルに懐かれるのだから、今の境遇は悪くないと思う。
 そしてそんなピルを見守っているパルもまた、ちゃんとお姉さんができているようだ。

「お、おい、ピル……?」

「……」

 ピルは俺に抱き着いたまま、なかなか離れようとはしない。
確かにこの子には少々甘えん坊なところはあるが……

「あ、あっ! ごめんなさい……じゃましちゃって……」

 なぜか顔を赤く染めているピルは、名残惜しそうに俺の身体から離れて行く。

 俺とて木の股の間から生まれた訳ではないし、最近はパルからの目一杯の愛情をいただいている。だから、なんとなくではあるが、ピルが俺へ抱く気持ちがわかったような気がした。

(一応、後でパルに相談をしておくか……)
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