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二十数年越しの復讐

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「お、お前ら何やってる! 殺せぇー!! そのクソガキをころせぇー!!」

 ボン・ボンの指示を受け、ようやく手下の連中が武器を抜いた。

 どいつもこいつも悪そうな顔ぶれで、中にはちらほらと賞金のかけられたお尋ねものの姿も見受けられる。
だったら、こいつらにも、相応の罰を与えねばならん!

「し、死ねぇー!!」

 手下が三人ほど、切り掛かってきた。
しかし刃は俺に届かず、かなり間を置いて停止している。

 光の精霊の力を借りた防御障壁。
無詠唱でも、力任せな太刀筋くらいは簡単に防げるようだ。

「邪魔だ。失せろ!」

 叫ぶのと同時に、ただ闇雲に周囲へ魔力の波動を放った。
発せられた圧力は空気を震撼させ、森の木々を揺らし、手下を吹っ飛ばす。
手下はそのまま巨木の幹へ背中から叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
おそらく首の骨が折れたり、内臓が破裂して、即死だったのだろう。

 賞金首を三人討伐完了。
なかなかの報奨金になってくれることだろう。

「お終いか? それでも泣く子も黙るボン・ボン盗賊団か?」

「な、なんなんだよ、このガキ……こんな奴に敵うわけねぇよぉー!!」

 圧倒的な実力差を見せつけたことで、すっかり戦意を喪失した手下どもは武器を投げ捨て、逃げ出してゆく。

 しかしコイツらもまた、ボン・ボンと共に長年にわたって、悪事を行ってきた馬鹿者どもだ。

 たとえここでボン・ボンを仕留めても、生かしてしまったこいつらが第二・第三の悪漢になるとも限らない。容赦する必要は皆無。

「逃さん! 厳かなる美しさを持つ氷の精霊よ……我へ、其の凍てつく力を化し与えん……!」

 氷の精霊が魔力経路の中で、笑みを浮かべた。
力の矛先は、四方八方へ逃げ惑っている11名ほどのボン・ボンの手下全員。

「ブリザードロック!!」

 俺を中心に四方八方へ氷の粒が飛んでゆく。
たとえ木の裏へ逃げようとも無駄だ。
氷の粒は対象を延々と付け狙う。

「あがっ! がががっ!!」

 氷の粒を受けたボン・ボンの手下どもが、次々と凍結し、絶命してゆく。

ーー我が国ケイキの法において、お尋ね者の捕縛に関しては、生死を問われない。
つまり死体を突き出しても、ちゃんと賞金が支払われるので、こうして殺《や》ってしまっても、全然構わないのだ!

「このがきゃぁぁぁぁぁーーーー!」

 背後から叫び声と共にボン・ボンの殺気が向けられるも、その太刀筋は、相変わらず展開しっぱなしの光の障壁に弾かれる。
そしてボン・ボンが怯んだところで、奴の腹へただまとめただけの風の魔術を放つ。

「ぐふぅ!?」

 風の魔術の圧力は、まるで拳で叩いたかのように、ボン・ボンの腹の肉を窪ませた。
奴は地面へうずくまり、吐瀉物を吐き出しつつ、嗚咽を漏らしている。
 そんなボン・ボンへ、俺は改めて、風の暴力を打ち込む。

「ひぎゃっ!」

 風が爆ぜ、ボン・ボンの巨体が惨めに吹き飛んだ。
まるで無作為に蹴り上げられた球のようだった。
その様子が滑稽で、楽しく、俺はボン・ボンへむけて、何度も、何度も風の魔力を放ち、奴を地面へ叩きつけ続ける。
 やがてボン・ボンは勘弁したのか、地面へおでこを擦り付け、這いつくばった。

「も、もう勘弁してくれぇ! あのシフォン人はお前の好きにしていいから! 俺も大人しく退散するからぁ!」

「さて……冥府へ堕ちてもらうぞ、ボン・ボン!」

 不愉快な命乞いを、冷たい一言で一蹴する。
 ボン・ボンの顔が一瞬で真っ青に染まった。

「た、頼むぅ! 見逃してくれぇ! か、金なら払う! いくらでもくれてやる! だから命だけはぁ!」

「……ふざけるな……!」

「ーーっ!?」

「お前は散々、そうやって命乞いをしていた人達を平気で踏み躙ってきたはずだ! そして今も、そこの二人のシフォン人を……!」

 ボン・ボンには多額の懸賞金がかけられている。
極刑である断頭台での公開処刑を望む声も多数あり、こいつの場合は特例として、生きて突き出せば、死体で突き出すよりも遥に良い賞金が得られと言われている。
しかしーー

「ボン・ボン……お前には死よりも恐ろしい罰を与えてやる!」

「や、やめてぇ……! 頼むからぁ……!」

「これはこれまでお前に傷つけられたみんなの怒り……エマの悲しみだぁ!」

 俺の怒りを受け、魔力経路が、光を一切否定する黒色に染まった。

「死と闇を司り、夜と冥負を支配せし黒き偉大なる精霊ハーディアス……畏れ多くも、下賎の人たる我へ、其の素晴らしき力を貸したもう……」

 俺を中心に霧とも、液体とも、そして炎とも取れる漆黒の力が溢れ出た。
熱さと冷たさの両方を持つ、漆黒の力はボン・ボンをちびらせ、その場へ縛りつける。

「こ、こりゃ……!?」

「お前に死なんて生優しいものは許さない。永遠の闇の中で、もがき、苦しみ、泣き叫べ!」

「ひぃぃぃっ!」

「さぁ、堕ちろぉ! 闇之監獄《ダークプリズン》の世界へ!」

 ボン・ボンの下に広がった闇から、手のようなものが無数に湧いてくる。
手は奴の体のあらゆるところを掴んで、粘ついた闇の中へ引き摺り込んでゆく。

「な、なんだこれ……! ひゃああぁぁあーーーー!」

「それが恐怖と、そして絶望だボン・ボン! 思い知ったか! ふふふ……ふはははははっ!」

 思わず上がった俺の高笑いの中、ボン・ボンはどんどん闇に引きづられ、堕ちて行く。

「頼む、こんなの嫌だぁ……! こ、殺して……殺してくれぇぇぇぇ! ここだけはいやだぁぁぁ!!」

「生きるんだボン・ボン。お前は永遠に……暗く、冷たく、そして苦痛に満ちた闇の中でな!」

「あがあぁぁぁぁぁぁ!! ひああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 ボン・ボンは断末魔を最後に、闇に飲まれ、その存在を目の前から消し去ったのだった。

 奴は闇の精霊ハーディアスが管理する世界の一つへ落ちていった。
そこは様々な負の感情が蠢く、とても苦しく寂しい場所。
しかもその魂は浄化されず、そのままの姿で途方もない時の流れの中で、延々と責苦を与えられるという。まさにボン・ボンにはお似合いの末路であった。

「エマ……ようやく、君の仇が取れたよ……20年以上も待たせてごめん……。今もどこかで、君が幸せに過ごしていてくれることを願っているよ……」

 俺は夜空を見上げ、今どこで、何をしているのかさえわからない初恋の人へ、復讐完了の報告を告げるのだった。

「さてと……」

 俺は気持ちを切り替え、視線を戻す。

そして抱き合ったままの姿勢で、こちらを見ているシフォン人姉妹へ歩み寄る。

「こっちが、ピルっていうのはわかるが、君は?」

俺はギュッと小さなシフォン人ーーピルーーを抱いたままでいる、姉の方へ問いかけた。

「えっと……パル、と申します……」

 姉の方ーーパルーーが名前を素直に答えたのは、俺に恐れを抱いているからであろう。
 誰だって、あれだけ無慈悲に魔術を使う姿を見てしまえば、怯えるのは当然だと思う。

「パルとピルか、了解だ……この近くに安全圏があるので、そこで食事にしないか?」

 俺は少し声をやわらげ、そう提案する。

「え? あの、えっと……」

 パルはさらに戸惑った様子を見せた。

 これはいけない。
色々と先走り過ぎるのが、俺の悪い癖だ。

「俺はトーガ・ヒューズ。魔術師を生業としている。さっきの食事のけんだが、実は今所持している食材が、今夜で限界なんだ。一人じゃ食べきれない。でも捨てるには勿体無い。そこで君たちとこうして出会えたので、一緒に消化してくれないかなと思い、今の提案をしたわけだ」

「……」

「ダメ、かな? まぁ、二人で野宿したいのなら止めないけど……」

 俺は姉のパルへ向かって手を差し出した。

「そ、そういうこと、でしたら……」

するとパルは戸惑いながらも、差し出した手を握り返してくる。

とても奴隷とは思えない、白く美しい手だと思うのだった。

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