7 / 79
二十数年越しの復讐
しおりを挟む「お、お前ら何やってる! 殺せぇー!! そのクソガキをころせぇー!!」
ボン・ボンの指示を受け、ようやく手下の連中が武器を抜いた。
どいつもこいつも悪そうな顔ぶれで、中にはちらほらと賞金のかけられたお尋ねものの姿も見受けられる。
だったら、こいつらにも、相応の罰を与えねばならん!
「し、死ねぇー!!」
手下が三人ほど、切り掛かってきた。
しかし刃は俺に届かず、かなり間を置いて停止している。
光の精霊の力を借りた防御障壁。
無詠唱でも、力任せな太刀筋くらいは簡単に防げるようだ。
「邪魔だ。失せろ!」
叫ぶのと同時に、ただ闇雲に周囲へ魔力の波動を放った。
発せられた圧力は空気を震撼させ、森の木々を揺らし、手下を吹っ飛ばす。
手下はそのまま巨木の幹へ背中から叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
おそらく首の骨が折れたり、内臓が破裂して、即死だったのだろう。
賞金首を三人討伐完了。
なかなかの報奨金になってくれることだろう。
「お終いか? それでも泣く子も黙るボン・ボン盗賊団か?」
「な、なんなんだよ、このガキ……こんな奴に敵うわけねぇよぉー!!」
圧倒的な実力差を見せつけたことで、すっかり戦意を喪失した手下どもは武器を投げ捨て、逃げ出してゆく。
しかしコイツらもまた、ボン・ボンと共に長年にわたって、悪事を行ってきた馬鹿者どもだ。
たとえここでボン・ボンを仕留めても、生かしてしまったこいつらが第二・第三の悪漢になるとも限らない。容赦する必要は皆無。
「逃さん! 厳かなる美しさを持つ氷の精霊よ……我へ、其の凍てつく力を化し与えん……!」
氷の精霊が魔力経路の中で、笑みを浮かべた。
力の矛先は、四方八方へ逃げ惑っている11名ほどのボン・ボンの手下全員。
「ブリザードロック!!」
俺を中心に四方八方へ氷の粒が飛んでゆく。
たとえ木の裏へ逃げようとも無駄だ。
氷の粒は対象を延々と付け狙う。
「あがっ! がががっ!!」
氷の粒を受けたボン・ボンの手下どもが、次々と凍結し、絶命してゆく。
ーー我が国ケイキの法において、お尋ね者の捕縛に関しては、生死を問われない。
つまり死体を突き出しても、ちゃんと賞金が支払われるので、こうして殺《や》ってしまっても、全然構わないのだ!
「このがきゃぁぁぁぁぁーーーー!」
背後から叫び声と共にボン・ボンの殺気が向けられるも、その太刀筋は、相変わらず展開しっぱなしの光の障壁に弾かれる。
そしてボン・ボンが怯んだところで、奴の腹へただまとめただけの風の魔術を放つ。
「ぐふぅ!?」
風の魔術の圧力は、まるで拳で叩いたかのように、ボン・ボンの腹の肉を窪ませた。
奴は地面へうずくまり、吐瀉物を吐き出しつつ、嗚咽を漏らしている。
そんなボン・ボンへ、俺は改めて、風の暴力を打ち込む。
「ひぎゃっ!」
風が爆ぜ、ボン・ボンの巨体が惨めに吹き飛んだ。
まるで無作為に蹴り上げられた球のようだった。
その様子が滑稽で、楽しく、俺はボン・ボンへむけて、何度も、何度も風の魔力を放ち、奴を地面へ叩きつけ続ける。
やがてボン・ボンは勘弁したのか、地面へおでこを擦り付け、這いつくばった。
「も、もう勘弁してくれぇ! あのシフォン人はお前の好きにしていいから! 俺も大人しく退散するからぁ!」
「さて……冥府へ堕ちてもらうぞ、ボン・ボン!」
不愉快な命乞いを、冷たい一言で一蹴する。
ボン・ボンの顔が一瞬で真っ青に染まった。
「た、頼むぅ! 見逃してくれぇ! か、金なら払う! いくらでもくれてやる! だから命だけはぁ!」
「……ふざけるな……!」
「ーーっ!?」
「お前は散々、そうやって命乞いをしていた人達を平気で踏み躙ってきたはずだ! そして今も、そこの二人のシフォン人を……!」
ボン・ボンには多額の懸賞金がかけられている。
極刑である断頭台での公開処刑を望む声も多数あり、こいつの場合は特例として、生きて突き出せば、死体で突き出すよりも遥に良い賞金が得られと言われている。
しかしーー
「ボン・ボン……お前には死よりも恐ろしい罰を与えてやる!」
「や、やめてぇ……! 頼むからぁ……!」
「これはこれまでお前に傷つけられたみんなの怒り……エマの悲しみだぁ!」
俺の怒りを受け、魔力経路が、光を一切否定する黒色に染まった。
「死と闇を司り、夜と冥負を支配せし黒き偉大なる精霊ハーディアス……畏れ多くも、下賎の人たる我へ、其の素晴らしき力を貸したもう……」
俺を中心に霧とも、液体とも、そして炎とも取れる漆黒の力が溢れ出た。
熱さと冷たさの両方を持つ、漆黒の力はボン・ボンをちびらせ、その場へ縛りつける。
「こ、こりゃ……!?」
「お前に死なんて生優しいものは許さない。永遠の闇の中で、もがき、苦しみ、泣き叫べ!」
「ひぃぃぃっ!」
「さぁ、堕ちろぉ! 闇之監獄《ダークプリズン》の世界へ!」
ボン・ボンの下に広がった闇から、手のようなものが無数に湧いてくる。
手は奴の体のあらゆるところを掴んで、粘ついた闇の中へ引き摺り込んでゆく。
「な、なんだこれ……! ひゃああぁぁあーーーー!」
「それが恐怖と、そして絶望だボン・ボン! 思い知ったか! ふふふ……ふはははははっ!」
思わず上がった俺の高笑いの中、ボン・ボンはどんどん闇に引きづられ、堕ちて行く。
「頼む、こんなの嫌だぁ……! こ、殺して……殺してくれぇぇぇぇ! ここだけはいやだぁぁぁ!!」
「生きるんだボン・ボン。お前は永遠に……暗く、冷たく、そして苦痛に満ちた闇の中でな!」
「あがあぁぁぁぁぁぁ!! ひああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
ボン・ボンは断末魔を最後に、闇に飲まれ、その存在を目の前から消し去ったのだった。
奴は闇の精霊ハーディアスが管理する世界の一つへ落ちていった。
そこは様々な負の感情が蠢く、とても苦しく寂しい場所。
しかもその魂は浄化されず、そのままの姿で途方もない時の流れの中で、延々と責苦を与えられるという。まさにボン・ボンにはお似合いの末路であった。
「エマ……ようやく、君の仇が取れたよ……20年以上も待たせてごめん……。今もどこかで、君が幸せに過ごしていてくれることを願っているよ……」
俺は夜空を見上げ、今どこで、何をしているのかさえわからない初恋の人へ、復讐完了の報告を告げるのだった。
「さてと……」
俺は気持ちを切り替え、視線を戻す。
そして抱き合ったままの姿勢で、こちらを見ているシフォン人姉妹へ歩み寄る。
「こっちが、ピルっていうのはわかるが、君は?」
俺はギュッと小さなシフォン人ーーピルーーを抱いたままでいる、姉の方へ問いかけた。
「えっと……パル、と申します……」
姉の方ーーパルーーが名前を素直に答えたのは、俺に恐れを抱いているからであろう。
誰だって、あれだけ無慈悲に魔術を使う姿を見てしまえば、怯えるのは当然だと思う。
「パルとピルか、了解だ……この近くに安全圏があるので、そこで食事にしないか?」
俺は少し声をやわらげ、そう提案する。
「え? あの、えっと……」
パルはさらに戸惑った様子を見せた。
これはいけない。
色々と先走り過ぎるのが、俺の悪い癖だ。
「俺はトーガ・ヒューズ。魔術師を生業としている。さっきの食事のけんだが、実は今所持している食材が、今夜で限界なんだ。一人じゃ食べきれない。でも捨てるには勿体無い。そこで君たちとこうして出会えたので、一緒に消化してくれないかなと思い、今の提案をしたわけだ」
「……」
「ダメ、かな? まぁ、二人で野宿したいのなら止めないけど……」
俺は姉のパルへ向かって手を差し出した。
「そ、そういうこと、でしたら……」
するとパルは戸惑いながらも、差し出した手を握り返してくる。
とても奴隷とは思えない、白く美しい手だと思うのだった。
550
お気に入りに追加
1,119
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
邪神ですか?いいえ、神です!
弥生菊美
ファンタジー
普段はお人好しの偽善者、戦闘開始スイッチオンでドS戦闘狂の女主人公!?
「貴方にはあなたの世界で言うところの神様になっていただきたいのです」
いい人のフリをして生きてきた少女・タキナは、皮肉にも自らの善行を理由に死んでしまう。しかし、善性を世界の創造主に買われ、異世界の神に転生することに。
任されたのは、滅亡寸前の異世界。
世界を守るため、タキナは与えられた神としての「力」を使っていく。
……が、なぜか力を使うほどに「戦闘狂」になっていく!?
集った仲間達も、なぜか皆一癖ある者ばかり。
力も知能もあるけれど忠誠心が暴走しがちな付き人の少女に、強いけど傲慢さが玉に瑕のドラゴンの少年、そして歩く18禁なエルフのお姉さん!?
しかも、どうやらタキナにも隠された真実がこの世界にはあるようで……。
偽善者少女神は、本当に異世界を滅亡から救えるのか!?
表紙絵/浅倉様 X @kurakuwakurai
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる