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双剣使いのジェイ

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 俺も、ティナも、突っ込んだ2人へ全く不安を感じていない。
なぜならばーー

「こりゃ軽くて良いぜ! おりゃぁぁぁぁ!!」

 ジェイが手にしているのはショートソードよりもやや、二振りの短い剣。
"双剣"と言われる武器だ。

 ジェイは同年代の冒険者と比べてやや小柄だ。
腕力よりも敏捷性が高く、攻撃はロングソードのような一撃必殺よりも、双剣にて手数で勝負した方が良いと思った。
どうやらこの判断は大正解だったようだ。

 ジェイはロングソード装備時よりもはるかに俊敏な動作と、圧倒的な手数の多さで、ジャイアントヒルを千切っては投げている。

「SYHA AAAA!!!」

「う、うわっ!? オオアオダイショウ!!」

 戦いの匂いに釣られて、水路の奥からかなり大きな蛇の魔物:オオアオダイショウが姿を表す。
鋭い毒牙がジェイを狙って輝いていたのだが、

「トーカちゃん、今!」

「は、はいっ! 行くよジェイ君! バトルアップ!」

 トーカの純真な魔力の輝きがジェイを包み込んだ。
 途端、ジェイのステップは更に軽くなり、斬撃は鋭さを増した。

 まるで獅子のような、鬼のような。
ジェイは凄まじい勢いで敵を倒してゆく。

「俺、つぇええ!!」

「もぅ、あんまり調子に乗らないのっ! ああもう! 少しは切り傷とか気にしてよ! ヒールっ!」

「サンキュー、トーカ!お前のヒールはやっぱ気持ちいいぜ!」

「もう、やだこんな時に、ジェイ君たらぁ……」

 ジェイとトーカはなんだかんだと喧嘩をしつつも、見事な連携で魔物を倒しているのだった。

 ジェイの最大の欠点ーーそれは体格に合っていない武器を使っていたことだ。
だが、武器を扱いやすいものに変えたことで、ジェイの戦い方は明らかに良い方向へ変化をした。
トーカのバフ魔法も、動きのフォローではなく、ちゃんとした"強化"の役割を担うようになっていた。

「大成功だね、お兄さん!」

 ティナもまた動きが変わったジェイとトーカの戦いぶりを嬉しそうにみつめている。

「ああ。ティナがトーカを担当してくれたから、ジェイのことに集中できたんだ。礼をいう。本当にありがとう」

「あ、あは! あははは! なんかお兄さんにそうやってお礼を言われると……ちょっと照れくさいね!」

「うっしゃぁぁぁ! オオアオダイショウも倒したぜっ!」

「ジェイ君、すっごーいっ!」

 どうやらティナと話している間に、オオアオダイショウを倒してしまったらしい。
武器を変えただけで、この成果……ふふ、ジェイとトーカはいつの日かきっと、偉業を成し遂げる冒険者となるだろう。
やがて二人は夫婦となり、子をなし、伝説を紡ぐ……よし、筋道はできた!

……リディア様、天上界よりご覧になっていらっしゃいますか?
貴方の教えは俺を通じて、きちんと次世代の若者へ受け継がれておりますよ。

「ぎゃははは! おい、見てみろよ! あいつらすげぇイキってるぜ!」

 とても良い雰囲気へ、水を差すような不愉快な言葉が聞こえた。
 
 戦闘を終えたジェイとトーカの正面。
そこにはみるからに柄の悪そうな冒険者達がいる。
あいつらは確か……

「うっせバーカ! もうお前ら"アンダースレイヤー"なんかに大きな顔させてたまるか!」

「そうです! ジェイ君はすっごく強くなりました! 私は……そんなジェイくんをこれからも支えますっ!」

「お前らみたいな田舎もん、さっさと地下水路で死んじまえってんだ。なぁ、みんな!」

 ああ、そうだ。先日、トーカに絡んでいた"アンダースレイヤー"とかいうパーティーだ。
こんなところに来てまで、ジェイを煽るとは暇そうな奴らめ。
いくら容易なダンジョンとはいえ、危険地帯であることに代わりはない。
仕方ない。ここはまたこの間のように……

「お兄さんっ!」

 ふと、ティナが強く服の裾を引っ張ってきた。
彼女は息を呑みつつ、アンダースレイヤーの背後にある闇を見つめている。
ややあって、俺もその気配に気がつく。

「伏せろっ!」

 俺が鋭く声を放つと、ティナは基より、ジェイとトーカも素早く身を屈めた。

「ぎゃぁぁあああ!!」

 アンダースレイヤーの連中は、闇の奥から現れた半透明の触手に捕まってしまった。
そしてそのまま闇の奥へとひきづり込まれてゆく。

この気配は……なるほど。

「FUSYURURURURU!!!」

「こいつ、何……?」

 目の前に現れた魔物を見て、ティナはそう溢す。

 地下水路を塞いでしまうほどの暗色の粘液体。
そこから半透明の触手のようなものが無数に伸びている。

「たすけ、て……!」

 アンダースレイヤーの連中はものの見事に、触手でぐるぐる巻きにされていて、軽く泡を吹いていた。
どうやら毒に侵されているらしい。

 暗色で、毒を持つ、巨大な粘液の化物……ふむ、こいつは危険度Bのキングポイズンスライムなのだろうが、触手を持つ個体は見かけたことがない……

「ならば名称はキングポイズンオクトパススライム……ふぅむ、どうにも長い名称だ……」

「お兄さんっ!」

 と、思考に耽っていた俺の前へティナが立った。
 仮称、キングポイズンオクトパススライムが伸ばした粘液触手を魔法障壁で弾いてくれている。
しかも弾いた衝撃でダメージを与えていると。
ティナもなかなかの成長をしているらしい。

「良い感じだな、ティナ」

「なんでお兄さん、こんな時まで冷静でいられるの!?」

「なにか問題でもあるのか?」

「あーいや、そういう訳じゃ……こんな強そうな魔物を前になんで、いつも通りなのかなぁって……」

「トーカっ!」

 不意にジェイの悲痛な叫びが地下水道にこだました。
 なんと困ったことに、トーカが触手に囚われてしまっているではないか!

「いやっ……んんっ!!」

「トーカっ! 今助けるぞっ! うおぉぉぉー!!」

「ジェイくん、1人じゃ危ないよっ!」

 ジェイは脇目も降らずに突進し、ティナも続いてゆく。
 まずい、出遅れた。
俺も慌ててティナへと続いてゆく。

「トーカをかえせぇぇぇ!!」
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