15 / 34
双剣使いのジェイ
しおりを挟む俺も、ティナも、突っ込んだ2人へ全く不安を感じていない。
なぜならばーー
「こりゃ軽くて良いぜ! おりゃぁぁぁぁ!!」
ジェイが手にしているのはショートソードよりもやや、二振りの短い剣。
"双剣"と言われる武器だ。
ジェイは同年代の冒険者と比べてやや小柄だ。
腕力よりも敏捷性が高く、攻撃はロングソードのような一撃必殺よりも、双剣にて手数で勝負した方が良いと思った。
どうやらこの判断は大正解だったようだ。
ジェイはロングソード装備時よりもはるかに俊敏な動作と、圧倒的な手数の多さで、ジャイアントヒルを千切っては投げている。
「SYHA AAAA!!!」
「う、うわっ!? オオアオダイショウ!!」
戦いの匂いに釣られて、水路の奥からかなり大きな蛇の魔物:オオアオダイショウが姿を表す。
鋭い毒牙がジェイを狙って輝いていたのだが、
「トーカちゃん、今!」
「は、はいっ! 行くよジェイ君! バトルアップ!」
トーカの純真な魔力の輝きがジェイを包み込んだ。
途端、ジェイのステップは更に軽くなり、斬撃は鋭さを増した。
まるで獅子のような、鬼のような。
ジェイは凄まじい勢いで敵を倒してゆく。
「俺、つぇええ!!」
「もぅ、あんまり調子に乗らないのっ! ああもう! 少しは切り傷とか気にしてよ! ヒールっ!」
「サンキュー、トーカ!お前のヒールはやっぱ気持ちいいぜ!」
「もう、やだこんな時に、ジェイ君たらぁ……」
ジェイとトーカはなんだかんだと喧嘩をしつつも、見事な連携で魔物を倒しているのだった。
ジェイの最大の欠点ーーそれは体格に合っていない武器を使っていたことだ。
だが、武器を扱いやすいものに変えたことで、ジェイの戦い方は明らかに良い方向へ変化をした。
トーカのバフ魔法も、動きのフォローではなく、ちゃんとした"強化"の役割を担うようになっていた。
「大成功だね、お兄さん!」
ティナもまた動きが変わったジェイとトーカの戦いぶりを嬉しそうにみつめている。
「ああ。ティナがトーカを担当してくれたから、ジェイのことに集中できたんだ。礼をいう。本当にありがとう」
「あ、あは! あははは! なんかお兄さんにそうやってお礼を言われると……ちょっと照れくさいね!」
「うっしゃぁぁぁ! オオアオダイショウも倒したぜっ!」
「ジェイ君、すっごーいっ!」
どうやらティナと話している間に、オオアオダイショウを倒してしまったらしい。
武器を変えただけで、この成果……ふふ、ジェイとトーカはいつの日かきっと、偉業を成し遂げる冒険者となるだろう。
やがて二人は夫婦となり、子をなし、伝説を紡ぐ……よし、筋道はできた!
……リディア様、天上界よりご覧になっていらっしゃいますか?
貴方の教えは俺を通じて、きちんと次世代の若者へ受け継がれておりますよ。
「ぎゃははは! おい、見てみろよ! あいつらすげぇイキってるぜ!」
とても良い雰囲気へ、水を差すような不愉快な言葉が聞こえた。
戦闘を終えたジェイとトーカの正面。
そこにはみるからに柄の悪そうな冒険者達がいる。
あいつらは確か……
「うっせバーカ! もうお前ら"アンダースレイヤー"なんかに大きな顔させてたまるか!」
「そうです! ジェイ君はすっごく強くなりました! 私は……そんなジェイくんをこれからも支えますっ!」
「お前らみたいな田舎もん、さっさと地下水路で死んじまえってんだ。なぁ、みんな!」
ああ、そうだ。先日、トーカに絡んでいた"アンダースレイヤー"とかいうパーティーだ。
こんなところに来てまで、ジェイを煽るとは暇そうな奴らめ。
いくら容易なダンジョンとはいえ、危険地帯であることに代わりはない。
仕方ない。ここはまたこの間のように……
「お兄さんっ!」
ふと、ティナが強く服の裾を引っ張ってきた。
彼女は息を呑みつつ、アンダースレイヤーの背後にある闇を見つめている。
ややあって、俺もその気配に気がつく。
「伏せろっ!」
俺が鋭く声を放つと、ティナは基より、ジェイとトーカも素早く身を屈めた。
「ぎゃぁぁあああ!!」
アンダースレイヤーの連中は、闇の奥から現れた半透明の触手に捕まってしまった。
そしてそのまま闇の奥へとひきづり込まれてゆく。
この気配は……なるほど。
「FUSYURURURURU!!!」
「こいつ、何……?」
目の前に現れた魔物を見て、ティナはそう溢す。
地下水路を塞いでしまうほどの暗色の粘液体。
そこから半透明の触手のようなものが無数に伸びている。
「たすけ、て……!」
アンダースレイヤーの連中はものの見事に、触手でぐるぐる巻きにされていて、軽く泡を吹いていた。
どうやら毒に侵されているらしい。
暗色で、毒を持つ、巨大な粘液の化物……ふむ、こいつは危険度Bのキングポイズンスライムなのだろうが、触手を持つ個体は見かけたことがない……
「ならば名称はキングポイズンオクトパススライム……ふぅむ、どうにも長い名称だ……」
「お兄さんっ!」
と、思考に耽っていた俺の前へティナが立った。
仮称、キングポイズンオクトパススライムが伸ばした粘液触手を魔法障壁で弾いてくれている。
しかも弾いた衝撃でダメージを与えていると。
ティナもなかなかの成長をしているらしい。
「良い感じだな、ティナ」
「なんでお兄さん、こんな時まで冷静でいられるの!?」
「なにか問題でもあるのか?」
「あーいや、そういう訳じゃ……こんな強そうな魔物を前になんで、いつも通りなのかなぁって……」
「トーカっ!」
不意にジェイの悲痛な叫びが地下水道にこだました。
なんと困ったことに、トーカが触手に囚われてしまっているではないか!
「いやっ……んんっ!!」
「トーカっ! 今助けるぞっ! うおぉぉぉー!!」
「ジェイくん、1人じゃ危ないよっ!」
ジェイは脇目も降らずに突進し、ティナも続いてゆく。
まずい、出遅れた。
俺も慌ててティナへと続いてゆく。
「トーカをかえせぇぇぇ!!」
25
お気に入りに追加
1,226
あなたにおすすめの小説
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!
石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり!
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。
だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。
『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。
此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に
前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる