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【最終章:ベルナデットの記憶】
●おまけEND【ちーとだいまほうつかいロナ】
しおりを挟むあらゆる結末を見た元大魔法使いベルナデット=エレゴラを改め、すっかり魔力が戻ったアルラウネのロナはほんのちょっぴり不満を覚えた。
みんな仲良しハーレムでのエンドは、確かに彼女が望んだものではある。これはこれで良し。
問題は、それぞれの少女達との個別の可能性である。
「なんで私だけクルスさんとの二人きりラブラブエンドがないんですか! これは由々しき事態です! タイトルにもある通り、私はメインヒロインなんです! だから個別エンドが無いのは、さすがに頂けません!」
かくして、“初代”といって差し支えない、【ちーとだいまほうつかい】は禁忌魔法を発動させる決意を固めた。
その禁忌魔法こそ! 【次元連結魔法メイオウゼーライマ】――あらゆる時間、可能性を操作し、因果を無理やりこねくり回して自由に組み替える、魔女に匹敵するこの力。
ぶっちゃけ無茶ぶりである、禁忌にも程がある。さすがは初代ちーとだいまほうつかいのベルナデット、否、ロナである。
「次元解析完了……因果の調整は、これぐらいかなぁ……ああ、でもリンカの設定は難しいけど必須で……よし! さぁ、クルスさんと私たちだけのラブラブ未来をこの手に! めいおーっ!!」
ロナは蔓に輝きを宿して、それを地面へ叩き付ける。
輝きは一瞬で世界を、次元を、時間を包みこみ、捻じ曲げ、こねくりまわして、無理やりくっつけて、そして――
●●●
ここは聖王国のとある森の中にある小さな一軒家。
厨房に立つロナは、鼻歌を口ずさみつつ、今夜の夕食である特製サンダーバードシチューをコトコト煮込んでいる。
「戻ったぞ」
「お帰りなさい!」
弾んだ声で迎えるは、狩りから戻った彼女の最愛の夫の“クルス”
「お帰りなのだ―!」
「ベラお姉ちゃん、お家の中を走っちゃだめだよぉー!」
ロナとクルスの愛の結晶であるお父さん大好きッ子の姉妹ベラ(姉)とリンカ(妹)は、早速夫へ飛び着いた。
本当はロナが真っ先に飛びつきたいが、ここは我慢。お母さんたるもの、まずは子供たちのことを優先すべきである。
「ベラ、リンカ、ただいま」
「でへへ、パパぁ! チューなのだぁ!」
「も、もうぅ! ベラお姉ちゃんばっかずるいよぉ! リンカもぉ!」
「リンカは妹だからお姉ちゃんの方が先なのだ~」
「ベラ、お姉ちゃんはね、妹を大事にしなきゃいけないのよ? わかる?」
と、ロナがそういうと、ベラは「はひぃ!」と背筋を伸ばし短い悲鳴を上げながら、クルスをリンカへ譲り渡す。
「お、おとーさん! お帰りなさい……」
「ただいまリンカ。神代文字は上手になったか?」
「うん!“え”がね、ちゃんと書けるようになったよ!」
クルスに撫でられ、リンカ(妹)もご満悦な様子。
「あらあら、ベラもリンカも甘えんぼさんね」
そう言いつつちゃかりロナもクルスの腕へ抱き着くのだった。
胸を押し付けるのは勿論わざとで計算の内。こうすれば、きっとクルスの食後のデザートはロナで決定である。
「今日は貴方の大好きなシチューですよ?」
「そうか。ロナのシチューは絶品だからな。楽しみだ」
「もちろん、食後は?」
「う、むぅ……実は息子と弓で狩りにでかけるのが、夢の一つでな……」
全くもって、朗らかな良い家庭の風景。
ロナの望んだ、最高のハッピーエンド。
やはり次元をこねくり回して、無理やり繋いで正解である。
と、そんな幸せな家庭へ伸びた二つの影。
影の主はジャラジャラと、錫杖を鳴らしてやってきた。
「やっぱり先輩は、ご、ご家庭を持って……ふぁわ~……!」
「ビギッち! しっかりするっす! 気をしっかり持つ……って、クルス先輩!? もしかしてビギッちが言ってたお付き合いしてる先輩ってクルス先輩のことだったんすか!?」
ゼラはビギナを抱き留めつつ、驚きの声を上げた。
気絶した筈のビギナをすぐさま起き上がり、
「あ、あれ? もしかしてゼラが今度結婚するっていう冒険者の先輩って……もしかして!?」
二人は顔を突き合わせながら何度も「え?」を繰り返し、やがて声を声を揃えて「ええ――!?」と大絶叫。
「先輩、これはどういうことですか!?」
「正直に白状するっす、クルス先輩!」
二人は眉を吊り上げずずっと迫り、クルスは声にならない声を漏らしつつ、後ずさりする。
と、そんな中、突然家の中へ飛んで入ってきた、複数の謎の飛行物体。
正体は刃を持つ、鋭い種である。
一同は思わずしゃがみ込んだ。そうして種の襲撃が一通り収まった時のこと、
「クルスっ! あんたやっぱり!! 私、という女が居ながら、他所の女とこんな! むきー!! 殺すわ、殺してやる、殺すぅー!!」
次いでずかずかと遠慮なしに入ってきたのは、顔を真っ赤に染めて眉をピンと吊り上げたカロッゾ男爵家の三女セシリー=カロッゾ嬢。お怒りモードなのは誰の目にも明らかである。
そしてセシリーの後ろに控えていた侍女騎士のフェアは、腰に差したサーベルを握り締めつつ、鋭い殺気を放つ。
「我が師よ、これはどういうことか。まずはきちんとお嬢様へご説明を。しかる後私にもきちんと説明をしていただこうか」
「お前ら急に入ってきて何なのだ! パパは僕のパパなのだ!」
ベラは勇ましく、般若のような四人の闖入者へ立ちはだかった。
「先輩、私と農園を継いでくれるって話はどうなったんですか!?」
「クルス先輩! ビムガン自治区でウチと添い遂げてくれるってのは嘘だったんすか!?」
「何言ってんのよ! クルスは私と樹海でお茶をしながら暮らすのよ! それ以外の生き方なんて認めないわ!」
「私だけの師になってくれるのではなかったのか? クルス殿?」
「だ・か・ら! パパは僕とリンカとロナママのパパなのだぁ! お前ら何むちゃくちゃ言ってるのだぁ!! いい加減にしないとぶち殺すぞい!」
五つの視線が交錯しあい、バチバチと火花を散らす。
すると突然、ドン! と机を叩く激しい音が鳴り響く。
五つの視線が向かう先、そこには渦中の男、クルスの姿が!
「お前たち、一体なんの話をしているんだ!? 俺はそんな約束した覚えがない! 決してないぞ!! ビギナと農園? ゼラと添い遂げる? セシリーとお茶だとか、フェアだけの師匠だとか、知らん! 申し訳ないが、知らんぞ、そんなことはっ!!」
(あらら……ちょっと調整間違えちゃいましたかね……?)
やはり因果の調整には細心の注意を払うべきだった。
自分の周りの設定をいじくりまわすのに必死で、他の設定をサボりがちにしてしまったがために、個別のラブラブエンドの世界から、ビギナ、ゼラ、セシリー、フェアを“ロナとクルスのラブラブ明るい家族計画エンド”の世界へ呼び込んでしまったらしい。
でも、これはこれで……
「みなさん! クルスさんは私だけのクルスさんです! 大事な大事な私の旦那様です! だから誰にも譲りません!」
「ロ、ロナ、君は何を!?」
「ふふ……」
こんな可能性も面白いような、先がどうなるかみてみたいような。
いたずらっ子のロナである。
「先輩!」
「クルス先輩!」
「クルスっ!」
「クルス殿!」
「パパぁ!」
これから始まるのはハートフルなラブコメか、はたまた血で血を洗う凄惨な一人の男を奪い合う女たちの闘争劇か。
いずれにしてもロクでも無さそな物語がこれから始まる……のかもしれない?
「さぁ、クルスさん、ここであなたはどの子を選びます?」
「私ですっ!」
「ウチっす!」
「私よ!」
「クルス殿……?」
「僕なのだぁ!」
「無茶いうなぁ!! これは一体なんなんだぁ!!」
おしまい
*これまでご覧いただきありがとうございました!
また、近況ボードへ裏話などを記載しておりますので宜しければご覧ください。
(文字数制限あるため一部抜粋です。全文をご覧になりたい方は、なろう、もしくはカクヨムでお願いしたします)
最後になりますが、面白そう・面白かったなど、思って頂けましたらお気に入り登録などをよろしくお願いいたします! ご感想もお待ちしております。
また関連作である「パーティーを追い出された元勇者志望のDランク冒険者、声を無くしたSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される」も併せてよろしくお願いいたします!
それでは約三か月間、お付き合い頂きありがとうございました。
最新作が出た際はまたご覧いただければ幸いです!
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