111 / 123
【最終章:ベルナデットの記憶】
赤と青の闘争(*ゼラ視点)
しおりを挟む巨大ラフレシアの蔓はゼラやベラ、そして1000のビムガンの援護を受けて、着実に東の塔へ近づきつづあった。
(また何か来たわね!)
巨大ラフレシアを操っているセシリーは新たな脅威を蔓を通じて感じ取る。
その脅威に向かったのは、ビムガンのゼラ。
そしてその相手とは――
「ベラっち、トリアはウチに任せるっす!」
「おう! ゼラねえ様も気をつけるのだぁ!」
ベラは根と共に先へ進んでゆく。
剣を打ちあった赤と青の剣士は、刃越しに互いに睨み合う。
「さぁ、今日こそとっ捕まえてやるっす、トリア・ベルンカステル!」
「くっ……邪魔だぁー!」
五魔刃四ノ刃――吸血騎トリア・ベルンカステルは怒りに満ちた声を上げ、ゼラを蛇剣で振り払う。
⚫️⚫️⚫️
ゼラへ怪しく紅く輝く刃が、蛇ようにうねって襲いかかる。
血晶(けっしょう)魔法と蛇剣(じゃけん)。
トリア・ベルンカステルは魔神皇が生み出した、驚異の力を駆使して、ゼラへ襲いかかる。
しかしゼラはここ一年で、様々な死線をくぐり抜けてきたビムガンの猛者。
鈍重な大剣をリズミカルに扱って、トリアのそれを弾き続けている。
(さてさて、どう攻めてやるっすか)
ゼラは蛇剣を弾きつつ、機会を伺う。
その時、これまでとは少し違う手応えが、大剣の柄から伝わる。
打ち合いのリズムが狂い、大剣がわずかに空振る。
剣の向こう側でトリアが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。
「かぁぁぁーっ!」
トリアは吸血騎らしく長い犬歯を覗かせ、ゼラへ飛びかかる。
「させんっす!」
「ぐはっ!?」
ゼラは寸前のところでトリアの腹へ拳を叩きつけた。
拳を受けたトリアの体が、大きくくの字に折れ曲がり綺麗な弧を描いて飛んでゆく。
「ひゅー危なかったっす。ウチ、首筋は弱いんっすよねぇ」
「おのれ、味な真似を……」
よろよろとトリアは起き上がった。通常の人間ではビムガンの拳には耐えられない。死んでもおかしくは無い筈。しかし相手はビムガンと同じく人間よりも遥かに強靭な体をもった吸血騎。一筋縄では行かない脅威の敵。
そして戦闘民族の血が騒ぎ、闘争本能が高まっているゼラにとっては、望むべき相手でも会った。
「死ねぇぇぇ!!」
「死なんっす!!」
再度、蛇剣と大剣の打ち合いが始まった。
蛇剣が鞭のように動き視界外から迫るも、ゼラは人よりも優れた聴覚で刃が引き裂く空気の音を聞き取り、見ずとも大剣を掲げて一撃を防ぎきる。
やはりトリアの腹へ、思い切り拳を見舞った影響か、蛇剣の動きに先ほどまでのキレがない。
「さぁさぁ、どんどん来るっす! ウチを楽しませるっす! それともお腹が痛くて本気出せないっすかぁ!?」
「お、おのれ……! こうなれば!」
トリアは打ち合いを止めて、大きく後方へ飛び退いた。
腰当てに装着されていた、小さな皮のラックを開ける。そしてそこから"赤い液体の入った"長細いガラス管を取り出した。
「ライン、私に力をっ!」
トリアは白い歯でコルク栓を引き抜き、赤い液体を飲み干す。すると、風もないのに、彼女の長い髪が逆立った。
瞳が血のような赤に染まり、蒼いビキニアーマーから、真紅の輝きが迸る。
ゼラの肌が圧倒的な力を感じて鳥肌を浮かべたのも束の間、気づけば目前にトリアが現れていた。
「ラインの力を得た私に絶望するがいい!!」
「っ!?」
辛うじて蛇剣の襲撃を、大剣で弾くことができた。しかし矢継ぎ早に、上段から蛇剣の斬撃がゼラへ襲いかかる。
動きも何もかもが、先ほどのトリアと比べて段違いだった。
聴覚、視覚、あらゆる感覚を総動員しても、弾き、避けるのが精一杯で、隙をついての攻撃に転じられない。。
「どうだ、ビムガン! これが魔神皇様の、ラインの血を飲んだ力だ! この力を手にした私に勝てぬものなどおらん!」
「ぐわっ!?」
蛇剣が分厚い鎧の胸当てを盛大に切り裂いた。その衝撃は、ゼラを紙のように吹き飛ばす。
「ここまでだ、ビムガン。死んでもらうぞ!」
トリアがゆっくりと迫る。
ゼラは必死に立ち上がろうとするが、地面へ叩きつけらた衝撃でうまく体が動かない。
(やべぇっす……これ、マジでやべぇ状況っす……!)
すると、ゼラの脳裏へ皆の姿が浮かんだ。
親友のビギナ、ようやく打ち解けることができたばかりのセシリー。
ベラ、フェア、ロナそして……ゼラを受け入れてくれた、強く逞しい弓使いのクルス。
(そうっす……ウチはみんなとまた一緒に過ごすっす。みんなでクルス先輩を支えるっす!)
クルスの再び会うまで、子種を貰い、その子供を育て上げるまで死んでたまるか。
こんなところで呑気に寝んねして、最期の時を待っている場合ではない!
ゼラはよろよろと立ち上がり、しかししっかりと地面を踏みしめた。
「ほう、まだ立つ気力が残されていたか?」
「ビムガン舐めんじゃないっす。それに……大事な人の力を借りられるのは、お前だけの専売特許じゃないっす!」
ゼラは内側から魔力を発した。
壮絶な赤い輝きが荒野を照らし出し、その眩しさはトリアを一瞬怯ませる。
「装備解除(キャストオフ)!」
赤い輝きが壊れた大鎧を吹き飛ばす。
鎖帷子だけになり、身軽になったゼラは地面を蹴り、輝きで怯んだトリアへ距離を一気に詰める。
咄嗟にトリアは蛇剣を構えようとしたが、時すでに遅し!
「猛虎剣(タイガーソード)秘奥義! おりゃぁー!」
真っ赤に輝く大剣の柄がトリアの顔面を激しく殴打した。続けて刃が青い吸血騎を切り裂く。その繰り返しが神速の速度で繰り返される。
それはまるで荒ぶり、怒る、虎の猛撃。これこそ――!
「猛虎乱撃斬(ランペイジタイガ)! クルス先輩から子種をもらうまでウチは死なないっす! 生きるのを諦めないっす!!」
「くくっ……あはは!」
ゼラの猛攻を受け、激しく突き飛ばされながらも尚、吸血騎トリアは立ち上がった。
しかしこれまでとは違い、ボロボロになりながらもトリアは笑みを浮かべていた。
それはゼラも同様だった。
「面白い、面白いぞ、ビムガン!」
「そっすね、ウチも今めっちゃ楽しいっす!」
ゼラは大剣を構えなおした。トリアもそれに応じる。
「このまま殺すのは惜しい戦士だ。名を聞こう!」
「うっす! ウチは炎の大剣使いゼラ=リバモワ!」
「私は五魔刃四の刃――吸血騎トリア・ベルンカステル!」
赤と青の輝きが荒野に輝く。
「みんなとクルス先輩のため!」
「同志とライン復活のため!」
赤と青の戦士は同時に地を蹴り、三度目の死合を開始した。
「「いざっ!」」
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
(完)愛人を持とうとする夫
青空一夏
恋愛
戦国時代の愛人を持とうとする夫の物語。
旦那様は、私が妊娠したら年若い侍女を……
戦国武将はそれが普通と言いますが
旦那様、貴方はそれをしてはいけない。
胸くそ夫がお仕置きされるお話。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる