105 / 123
【最終章:ベルナデットの記憶】
★【ベラ】のところへゆく
しおりを挟むクルスはベラの姿を探して閑散とした魔法学院の校舎をさ迷い歩いていた。
「いくのだー!」
と、窓の向こうから元気のよいベラの声が聞こえてくる。
窓の外を覗いてみると、
「それっ! リンカ、行ったよ!」
ボールを蹴り上げたオーキスが叫び、
「あ、あ、あっ! え、えい! きゃっ!!」
リンカはボールを上手く蹴られなかったばかりか、すってんころりんと、芝生へしりもちを付く。
「だ、大丈夫!?」
「リンカはへたっぴなのだー! やっぱり僕がさいきょうなのだ!」
ベラがそう言ってふんぞり返ると、リンカは「もう一回!」と悔しさをにじませつつ、ボールを蹴った。
いつの間に仲良くなったのか、三人はボールを蹴って回す遊びに興じている。
楽しそうに遊んでいるところは邪魔をしたくない。クルスが、その場を去ろうとつま先を蹴りだす。
すると、何かが飛んできて、窓ガラスを蹴破った。
「クルス! 見つけたのだ! 僕たちと一緒に遊ぶのだ!」
「こら! いきなり窓を蹴破る奴があるか!!」
思わずクルスはそう叫ぶ。しかしベラは全く動じた素振りを見せず、クルスの腕に飛びついてくる。
「声を掛けないでどこかへ行こうとしたクルスが悪いのだ! 罰として僕と遊ぶのだ―!」
「お、おい!?」
小さい身体に結構な力を持ったベラはぐいぐいクルスを引っ張って外へ連れ出す。
「どぉせぇーい!」
「ぐおっ!?」
「「クルスさん!?」」
突然、芝生に投げ出されたクルスを見てリンカとオーキスは驚きの声を上げた。
「僕の魔球を食らうのだぁ!」
ベラはクルスが起き上がるのを待たず、ボールを思い切り蹴った。
しかし飛び起きたクルスは辛くも、胸でボールを受け止め、顔面直撃を防ぐ。
「お返しだ!」
クルスはベラに負けじと、思い切りボールを蹴り上げる。するとベラはぴょんと軽快に飛んで、球を胸で受け止めた。
「リンカ、今度こそ決めるのだ!」
「あわわ!?」
ベラは胸を逸らしてボールをリンカの方へ向ける。
リンカは辛うじてボールを蹴り上げることができた。しかしボールは明後日の方向へ飛んで行く。
「よっと!」
しかし颯爽とボールの前に現れたオーキスが球を足で受け止めた。
「クルス先輩!」
オーキスからの正確なパスをクルスは足で受け止める。
そうしてクルスを加えた四人は、夢中になってボールを追い始めた。
「ベラ、いつの間にリンカやオーキスと仲良くなったんだ?」
クルスはベラへボールを回し、
「オーキスが誘ってくれたのだぁ!」
ベラはオーキスへボールを流す。
「リンカと二人でするのもアレかなと思って! だからベラに声かけたんです!」
オーキスはリンカへ向かってボールを蹴り上げる。
「あわ、あわわ! きゃっ!」
リンカは一生懸命ボールを蹴ろうと足を出すが、空振り、再びすってんころりん。
確かにこれでは遊ぶどころでは無さそうである。
「リンカ、大丈夫かぁ?」
「う、うん。さっきからへたっぴでごめんね、ベラちゃん……」
ベラの方が少し大人なのだろうか、転んだリンカへ手を差し伸べていた。そうして改めて二人が並んでいるところを見て、やはり似ていると思った。
リンカはベルナデットの子供で、ベラはアルラウネのロナから分化したマンドラゴラである。
ならばこの二人は同じ存在から産まれた、姉妹であると気が付く。
世代と時間を超えて、存在する二人。稀有な関係であるのは間違いない。
「ねぇ、ベラちゃん。ずっと気になってたんだけど、ベラちゃんとクルスさんってどういう関係なの?」
「クルスはねえ様と僕の大事な人なのだぁ!」
リンカの問いにそう答えたベラはぴょんと跳ねて、ダダッとクルスを目掛けてかけてくる。
「ぬおっ!?」
そして飛びつくと同時に、クルスの頬へキスをしてきた。
「な、なんだ急に!?」
「でへへ! したかったからしたのだ! これで良いのだ!」
ベラはふんぞり返り、強引なキスを見た初心なリンカとオーキスは興味津々ではあるものの、顔を真っ赤に染めている。
底抜けに明るいベラ。この笑顔はこれからも守り続けたい。クルスはそう思う。
「さぁ、続きやるのだぁ!」
ベラの元気のいい声に促され、クルスたちは球蹴りを続ける。
空は相変わらず、赤紫の雲に包まれてどんよりとしている。
しかし身体を動かし、汗を流すクルスたちの心はどんな晴天よりも、晴れやかな気持ちになっていたのだった。
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
(完)愛人を持とうとする夫
青空一夏
恋愛
戦国時代の愛人を持とうとする夫の物語。
旦那様は、私が妊娠したら年若い侍女を……
戦国武将はそれが普通と言いますが
旦那様、貴方はそれをしてはいけない。
胸くそ夫がお仕置きされるお話。
【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。
ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。
その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。
無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。
手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。
屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。
【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】
だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる