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【最終章:ベルナデットの記憶】

★【ベラ】のところへゆく

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 クルスはベラの姿を探して閑散とした魔法学院の校舎をさ迷い歩いていた。
 
「いくのだー!」

 と、窓の向こうから元気のよいベラの声が聞こえてくる。
 窓の外を覗いてみると、
 
「それっ! リンカ、行ったよ!」

 ボールを蹴り上げたオーキスが叫び、
 
「あ、あ、あっ! え、えい! きゃっ!!」

 リンカはボールを上手く蹴られなかったばかりか、すってんころりんと、芝生へしりもちを付く。
 
「だ、大丈夫!?」
「リンカはへたっぴなのだー! やっぱり僕がさいきょうなのだ!」

 ベラがそう言ってふんぞり返ると、リンカは「もう一回!」と悔しさをにじませつつ、ボールを蹴った。
 いつの間に仲良くなったのか、三人はボールを蹴って回す遊びに興じている。

 楽しそうに遊んでいるところは邪魔をしたくない。クルスが、その場を去ろうとつま先を蹴りだす。
 すると、何かが飛んできて、窓ガラスを蹴破った。
 
「クルス! 見つけたのだ! 僕たちと一緒に遊ぶのだ!」
「こら! いきなり窓を蹴破る奴があるか!!」

 思わずクルスはそう叫ぶ。しかしベラは全く動じた素振りを見せず、クルスの腕に飛びついてくる。
 
「声を掛けないでどこかへ行こうとしたクルスが悪いのだ! 罰として僕と遊ぶのだ―!」
「お、おい!?」

 小さい身体に結構な力を持ったベラはぐいぐいクルスを引っ張って外へ連れ出す。
 
「どぉせぇーい!」
「ぐおっ!?」
「「クルスさん!?」」

 突然、芝生に投げ出されたクルスを見てリンカとオーキスは驚きの声を上げた。
 
「僕の魔球を食らうのだぁ!」

 ベラはクルスが起き上がるのを待たず、ボールを思い切り蹴った。
しかし飛び起きたクルスは辛くも、胸でボールを受け止め、顔面直撃を防ぐ。

「お返しだ!」

 クルスはベラに負けじと、思い切りボールを蹴り上げる。するとベラはぴょんと軽快に飛んで、球を胸で受け止めた。
 
「リンカ、今度こそ決めるのだ!」
「あわわ!?」

 ベラは胸を逸らしてボールをリンカの方へ向ける。
 リンカは辛うじてボールを蹴り上げることができた。しかしボールは明後日の方向へ飛んで行く。
 
「よっと!」

 しかし颯爽とボールの前に現れたオーキスが球を足で受け止めた。
 
「クルス先輩!」

 オーキスからの正確なパスをクルスは足で受け止める。
 そうしてクルスを加えた四人は、夢中になってボールを追い始めた。
 
「ベラ、いつの間にリンカやオーキスと仲良くなったんだ?」

クルスはベラへボールを回し、

「オーキスが誘ってくれたのだぁ!」

ベラはオーキスへボールを流す。

「リンカと二人でするのもアレかなと思って! だからベラに声かけたんです!」

 オーキスはリンカへ向かってボールを蹴り上げる。
 
「あわ、あわわ! きゃっ!」

 リンカは一生懸命ボールを蹴ろうと足を出すが、空振り、再びすってんころりん。
 確かにこれでは遊ぶどころでは無さそうである。
 
「リンカ、大丈夫かぁ?」
「う、うん。さっきからへたっぴでごめんね、ベラちゃん……」

 ベラの方が少し大人なのだろうか、転んだリンカへ手を差し伸べていた。そうして改めて二人が並んでいるところを見て、やはり似ていると思った。
 
 リンカはベルナデットの子供で、ベラはアルラウネのロナから分化したマンドラゴラである。
 ならばこの二人は同じ存在から産まれた、姉妹であると気が付く。
 世代と時間を超えて、存在する二人。稀有な関係であるのは間違いない。
 
「ねぇ、ベラちゃん。ずっと気になってたんだけど、ベラちゃんとクルスさんってどういう関係なの?」
「クルスはねえ様と僕の大事な人なのだぁ!」

 リンカの問いにそう答えたベラはぴょんと跳ねて、ダダッとクルスを目掛けてかけてくる。
 
「ぬおっ!?」

 そして飛びつくと同時に、クルスの頬へキスをしてきた。
 
「な、なんだ急に!?」
「でへへ! したかったからしたのだ! これで良いのだ!」

 ベラはふんぞり返り、強引なキスを見た初心なリンカとオーキスは興味津々ではあるものの、顔を真っ赤に染めている。
 
 底抜けに明るいベラ。この笑顔はこれからも守り続けたい。クルスはそう思う。
 
「さぁ、続きやるのだぁ!」

 ベラの元気のいい声に促され、クルスたちは球蹴りを続ける。
 空は相変わらず、赤紫の雲に包まれてどんよりとしている。
 しかし身体を動かし、汗を流すクルスたちの心はどんな晴天よりも、晴れやかな気持ちになっていたのだった。
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