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【最終章:ベルナデットの記憶】
★【ビギナ】のところへゆく
しおりを挟むビギナ――クルスの冒険者としての後輩で、おそらく七人の中では最も付き合いが長い。
だからこそ、彼女が今、どこで何をしているのかはなんとなくわかった。
(やはりここか)
魔法学院の図書館。そこでビギナは書物に当たっていた。
本のタイトルからどうやら“魔神皇大戦”に関しての資料を読み込んでいるらしい。
まじめで勤勉なビギナらしいと思いつつ、彼女へ近づいてゆく。
「なにか良いヒントはみつかったか?」
「ひゃぁ!?」
ビギナは素っ頓狂な声を上げて振り返った。かなり集中していらしい。
「驚かせて済まなかった」
「いえ……すみません。私こそ……」
しかしすぐさま元気を無くし、銀の髪の間から覗く長耳が僅かに萎れる。
「どうかしたか?」
「……はい。実はその……モーラさんのことが……」
「モーラがどうかしたのか?」
「いくら探しても、学院のどこにも居ないんです」
「たしか、モーラは"テトラ家"の者だったな? いち早く御家が救出したのではないか?」
「だと、良いんですけど……でも、もしも何かあったのなら……」
やはり不安は拭い去れないらしい。それだけビギナは"モーラ"のことを大切な友人と思っているのだと感じる。
「ならばタウバを倒し終えたのち、モーラを探そう。きっと強い彼女のことだ、大丈夫なはずだ」
クルスはビギナの小さな手を包み込みながら、そう言った。
「そうですね……。モーラさんですからね……ありがとうございました、先輩!」
少し不安が和らいだのか、ビギナはクルスの手を握り返し、微笑みを浮かべた。
「ところで先輩、何かご用ですか?」
「ああ。今までの礼を言おうと思ってな」
「お礼?」
「俺とロナのわがままに付き合ってくれてありがとう。君の存在がなければ、俺もロナもタウバと戦う意思は固まらなかった」
「……」
「こんなことを言った上で申し訳ないが、重荷には感じないで欲しい。何よりも俺は君に生き残ってもらいたい。それが一番の願いだ」
「ありがとうございます。こうして今も私が生きているのは、先輩とロナさんのおかげなんです……」
ビギナはより強く手を握り返して来る。以前、手をつないだ時は柔らかくそして頼りなかった。
しかし数多の経験を積んだ彼女の手は、いつの間にか冒険者らしく逞しいものになっていた。
先輩として後輩の成長は嬉しかった。
「たくさん助けていただきました。だからこそ私はその恩返しがしたい。そう思っています」
「そうか」
「先輩」
「ん?」
「先輩も無茶はしないでくださいね? もう貴方と離れるのは嫌ですから……」
「ビギナ……」
クルスとビギナの視線が交わった。
それだけで彼女が何を求めているかが分かった。そしてそれはクルスも同じ想いであった。
かつての先輩と後輩は、口づけを交わし、変化した関係を再確認する。
ビギナもまたクルスにとって大事な人。ロナのように守りたく、これからも共にありたい一人の女性。
「ありがとうございます。これからも一緒に居てください、クルスさん……」
ビギナは小さな身を寄せてきた。クルスは彼女を背中から抱きしめ返す。
もう二度と手放さない。どんな状況になろうとも。何があろうとも。
クルスはそう改めて誓いを立てるのだった。
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