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【最終章:ベルナデットの記憶】

お姫様とようじょ、盗賊に捕まる!?(*ネイコ視点)

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「姫様を守るです! クロエ! サトッコちゃん!」

 見た目は童女にしか見えないが、しかしれっきとした成人のロイヤルガードの女は勇しく声を上げ、腰の鞘から剣を抜く。
彼女の名は――【ネイコ】 黒い猫耳が特徴のビムガン族の勇敢な若者である。

「そうネ! ワタシ達の命に代えても、姫様はお守りするネ! ついでにネコちゃんもネ!」

 ネイコに呼応して、金色の髪が美しい、猫耳ビムガン――【クロエ】は拳を構える。

「そ、そうです! 姫様に危害を加えるなら、まずは私たちを倒してからにしてくださいっ!」

 三人の中では一番大人びて見える、長い髪の間からちょこんと猫耳を生やすビムガン――【サトッコ】はいつでも蹴りを放てるよう、地面を踏み締めた。

 三人はビムガン王族を警護するロイヤルガード。その身、その命は王族を守るためにある。

「にゃにゃ!? ネイコ、クロエ、サトッコ!」

 ロイヤルガードの後ろで綺麗なドレス姿の"幼いビムガンの少女"が悲痛な声を上げた。

「私たちロイヤルガードがいながら、こんなことになってしまってすみませんなのです! 【ゼフィ】様の御身はこの命に代えても守り抜くのです!」

 ネイコの熱い意思を受けて、ビムガン族族長の娘――【ゼフィ=リバモワ】は何もできない自分に悔しさを覚えて唇を噛み締める。

「ほう、忠義を尽くし、自らの命を投げ売るか。同じ騎士として敬意を表するぞ」

 目前の蒼いビキニアーマーを着た、"女騎士"はそうネイコたちをあざ笑った。
 放たれた冷たい雰囲気にネイコは背筋を凍らせる。しかしロイヤルガードとしての使命感で心を燃やし、蒼騎士の冷たさを払拭する。

「うるさいです! 不意打ちしてきたお前に、褒められてもなんも嬉しくないのです! 行くです! ロイヤルガード――アタックっ!」
「ウィ!」
「うん!」

 ネイコの一声で三人のロイヤルガードは蒼騎士へ向けて飛び出した。

「猛虎剣(タイガーソード)奥義! 虎十字(タイガークロス)ですっ!」

 十字の衝撃波が抜刀したネイコの剣から放たれ、

「ワタシもやるネ! 獅子拳(レオマーシャル)奥義! 獅子爪拳(レオネイル)ネ!」

 クロエは拳を振り、爪のような衝撃波を放つ。

「狼牙拳(ウルフマーシャル)奥義! 狼牙脚(ウルフネイル)!」

 サトッコは足で空を切り、衝撃波を発生させる。

「威勢は良し。しかし!」

 蒼い女騎士は手中の長剣を素早く振った。刃が細かなブロックに分割され、鞭のように撓(しな)り、蛇のように不規則な動きを見せる。更に刃の一つ一つには、まるで"血"を思わせる、緋色の輝きが宿っていた。

 蛇剣(じゃけん)と血晶(けっしょう)魔法――かつて魔神皇によって生み出された異形の力は、ネイコたちの放った武芸(マーシャルアーツ)を霧散させる。そればかりか、彼女たちを紙切れのように吹き飛ばした。

「ネイコ、クロエ、サトッコ!!」

 ゼフィの叫びもむなしく、蒼騎士は仰向けに倒れ込んだネイコの胸当てを踏みつける。
そして彼女の首へ剣の刃を押し当てた。

「お、お前、ただの盗賊じゃないですね!?」
「肯定だけはしてやろう、小娘」
「くっ……目的はなんですか!?」
「冥途の土産に教えてやる。本来の目的は族長の娘ではなく貴様ら非処女のビムガンだ!」
「ひ、非処女!?」
「そうだ。我が盟友復活のために、貴様の非処女の血をもらうぞ!」
「ちょーっと待ったネ!!」

 起き上がったクロエが叫んだ。

「ネコちゃんに失礼ネ! ネコちゃんは処女ネっ! ヴァージンネっ!」
「ちょ……クロエ、何いうですかっ!? しかも姫様の前で!?」
「ま、まさかネコちゃん、ワタシというものがありながら、いつの間にかノットヴァージンになってたネ!? まさか相手はサトゥーじゃないネ!? オーマイガー!」
「いやいや、そうじゃなくて!!」
「もしも非処女の命が必要なら間違ってます! 私たち三人は……え、えっとぉ……ビムガンですけど、みんな処女ですっ!! だからあなたたちの役には立てません!」

 最後にサトッコの絶叫が響き渡る。

「なんだと……? フラン!」

 蒼騎士がそう叫ぶと、樹上から金の髪を二本に結った人形のように表情が固定されている少女――【フラン】が降り立ってくる。

「解析開始(アナライズスタート)!」

 フランは碧眼から光を放ち、三人のロイヤルガードたちをくまなく照らす。
やがて固まっていたフランの表情に歪みが生じた。

「間違いない! こいつらはビムガンの癖に性交の痕跡なし! これでは"タウバ"の復活に使えない!!」
「淫乱で有名なビムガンの癖に処女だと!? しかも三人も揃って!? 最近の若者はそういうことに興味が薄いとは聞いてはいたが……! おかしいぞ、狂っているぞ! ええい、忌々しい! 処女だとくそっ!!」
「お、お前さっきから処女処女うるさいのですっ! 処女の何が悪いですかぁぁぁぁ――――!!」

 ネイコの大絶叫が響き渡った。

「そうネ! 何が悪いネ! ネコちゃんの処女は、ワタシの目がキラキラしているうちは絶対に渡さないネ!」
「う、うん! クロエちゃんの言う通り! ネイコちゃんはずっとお花畑の匂いがする、永遠のようじょなんだからっ!」
「サトッコちゃんまで!? ああ、もう、そんな恥ずかしいこと大声で叫ぶんじゃないですっ!!」

 ネイコの首筋へ、蒼騎士は更に押し当てた。

「やかましいわ、小童!」
「ひぃっ!」

 ネイコはおとなしくなる。白い首筋にうっすらと血が滲む。

「ま、待つネ! もうちょっとだけお話しようネ!」
「そ、そうですよ! 最後なんだからもう少し、もう少しだけ! お話くらい!!」
「さ、最後ってなんですかぁ!?」
「ウザい、煩い……黙れ」

 フランの鋭い視線で、クロエとサトッコは背筋を伸ばした。どうやら動けないらしい。

「トリア、どうする?」

 フランは蒼騎士――【トリア】へ目配せをした。

「当てが外れたな。しかし、我らの話を聞いたものを活かしておくわけにはいかない」
「同意。なら族長の娘を使って、非処女のビムガンを要求する。それが良い」
「なるほど、その手があったか。ならばそうするとしよう。しかしその前に、さんざん煩い声を聴かせてくれた小童共を処分せねばな!」

 トリアの殺意の籠った視線に、ネイコは背筋を伸ばす。

(もっと色んなお酒というかワインが飲みたいのです! こんなところで死にたくないです! だから誰か早く来てほしいです!!)


●●●


 ビムガン族族長"フルバ=リバモワ"の娘【ゼフィ=リバモワ】を乗せた馬車が、アルビオン付近の森で消息を絶った。
そんな情報がビムガンの耳にしか聞こえない特殊な音を放つ笛で放たれたらしい。

 事情を知ったクルス達はゼラの先導に従って、ゼフィが消息を絶ったという森へ向かう。
そして森の近くまで来た時、先行するゼラの長く垂れ下がった長耳がピクリと震えた。

「この声って……まずいっす、クルス先輩!」

 ゼフィが消えたという森の前でゼラが叫ぶ。

「なにか聞こえたのか!?」
「ゼフィ様の声が聞こえたっす! この森にいるのは間違いないっす! ちょっとヤバそう様子っす! なんかたくさんの人間に取り囲まれてるっす」

 ゼラの様子からどうやら飛び込むのを躊躇う暇は無いらしい。
しかし闇雲に飛び込むのも愚作である。

「ロナ、今の状態でもできるか?」
「やってみます!」

 クルスの意思を瞬時に理解したロナは足元から無数の蔓を伸ばした。
蔓は森の低い位置で素早く広がり、木々に絡み付いてゆく。
蔓に絡まれた木や草は、ロナの耳目となり、森の中の様子を彼女へ伝えだす。 

「いました。小さな猫耳の女の子と、同い年? 位に見えるビムガンと、他二人。交戦中のようです。ほかの敵の数は合計20。一応警戒はしていますが、さほど緊張感があるわけではありません」
「先輩! この森に危険な"青鬼盗賊団"が住み着いているって噂になってます! たぶん、ゼフィ様はその連中に!」

 ビギナの情報が確かなら、一刻の猶予もない。
 クルスは瞬時に今居るメンバーの配置を頭の中へ思い描く。

「了解だ! ビギナ、フェア! 二人は先行し、周囲の敵の敵のかく乱を頼む!
「承知した」
「はい! よろしくお願いしますフェアさん!」
「こちらこそよろしくお願いします、ビギナ殿!」
「フェアさんと一緒だ! やった。ふふ!」

 何故か頬を赤く染めつつ、嬉しそうにするビギナであった。
やはり少し"危ない雰囲気"である。

「ロナはこの場で待機をベラはロナ警護を頼む!」
「わかりました!」
「おう! ねえ様は僕が守るのだぁ!」
「ゼラとセシリーは俺と共に突入し、ゼフィ様の救出を行う! 良いな!?」

 全員がクルスを信じ、首肯を返した。

「では参りましょう、ビギナ殿!」
「はい! フェアさん!」

 少しビギナの声が上ずっているように感じるのは気のせいだろうか。
かくしてフェアとビギナが森の中へ先行してゆく。
やがて、静かだった森の中で剣撃や、魔法の音が響いてきた。

「ビギナさん、フェアさん交戦中! 敵、注意が逸れました! 今です!」
「行くぞ! ゼラ、セシリー!」
「はいっす!」
「了解よ!」
「みんな気を付けるんだぞぉーい!」

 ベラに見送られ、クルス達三人は森の中へ突っ込んでいった。



*この機会に是非、同時掲載作品「ようじょ、お酒にはまる ~ワインに出会って、色々な人と交流し、少しずつ成長してゆく物語~」もよろしくお願いいたします。
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