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【最終章:ベルナデットの記憶】

昨日の敵は、今日の友

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 何故か後ろには魔法使いのビギナと、赤いビムガンの大剣使いのゼラのコンビがいた。
 特にビギナは顔面が真っ青で、まるで死人のようである。

「そ、そうだよね。先輩はロナさんが一番で、私は、二番……あはは、あはは……」
「大丈夫っす! ビギッちもいつかきっと先輩にして貰えるっす! ロナさんだってビギッちのことオッケーって言ってくれたじゃないっすか!!」
「何をしているんだ……?」
「はっ!? クルス先輩にロナさん!? こ、これはですね!!」

 ロナは車いすを自分で押して、ビギナへ近づく。
そして彼女の袖を引いた。

「ビギナさん、ビギナさん!」
「あはは……って、ロナさん!? こ、こんにちは!」
「こんにちは。えっとですね、すみませんが、お先に頂いちゃいました」
「そ、そうですか……」

 ビギナの長耳が元気を失って萎れた。ロナは微笑みながらビギナの手をギュッと握り締める。

「だから、ビギナさんも頑張ってください。応援してますよ」
「あの、念のためにもう一度聞きますけど……本当に良いんですか……?」
「もちろん。だって約束したじゃないですか。私たちで支えましょうって。クルスさんはみんなのクルスさんですよ?」
「ロナさん……」
「おーゼラねえさま!!」

 と、今度は道の向こうからたくさんの食べ物を手に持ったベラがセシリーとフェアを伴ってやってきた。

「おーベラっちお久しぶりっす!」
「おーっす!」

 ベラはぴょんとんと跳ねて、ゼラとハイチタッチ。どうやら冬の共同戦線で打ち解けたらしい。

「げっ! あんたは!? あの時のビムガン!?」

 対してセシリーはゼラの姿を見て、明かに引きつった様子を見せている。

「先日はどうもっす! お元気そうでなによりで!」
「ふん! この通りピンピンしてるわよ。貴方には散々、切られたけど、全然ね! おほほ!」
「のわりには枝毛目だっつすよ?」
「それはあんたが散々切ってくれたせいでしょうが!」
「そんだけ元気がありゃ大丈夫っすね!」
「ちょっとあんたねぇ!!」
「セシリーも、ゼラねえ様も喧嘩はやめるのだぁー!」

 にらみ合うゼラとセシリーの間へベラが割って入った。

「お嬢様! 騒ぐんじゃありません!」
「ゼラも! 煽らないの!!」

 と、フェアとビギナの注意の声が追い討ちをかけた。
さすがに2対3では部が悪いらしく、ゼラとセシリーは黙った。

「まぁ、良いっす。ここはウチの方が大人なんで引いてあげるっす」
「ふ、ふん! 私だって引こうとしていたところよ! 私の方が大人なんだから!」

 そっぽを向くゼラとセシリーなのだった。
どっちが大人の対応をしたのかは、よくわからなかった。

「お互いに大変ですね」
「そうなんですよねぇ……って、あなたは!?」
「ああ、貴方はたしか先日……」

 ようやくフェアの存在に気づいたビギナは身構え、顔を引きつらせる。フェアの“恐怖胞子”のことを思いだしているのかもしれない。
 するとフェアは大きく腰を折って見せた。

「先日は大変失礼をいたしました。主のご命令とはいえ、貴方様にとても酷いことをしてしまいました。心から謝罪いたします。申し訳ございませんでした」
「へっ? は、はぁ……」
「私はフェア=チャイルド。セシリー様の侍女を務めている者です。そして実は“マタンゴ”という魔物です」
「それはその、知ってます……」

 ビギナは錫杖をギュッと胸に寄せて、警戒心をあらわにした。
しかしフェアは動じず、彼女にしては珍しい、柔らかい笑顔をみせた。

「警戒なさるのは無理からぬことですが、ご安心ください。もはや我らに敵意はございません。むしろクルス殿より、貴方があの方にとってとても大切な方だと伺っております」

「た、大切!? ほ、本当ですかっ!?」

「ええ、本当ですとも。私もクルス殿を敬愛しております。そんなお方が大事にしてらっしゃる方ならば、私にとっても貴方は愛すべきお方です。ですので、今一度貴方の尊いお名前をお教え頂けませんか?」

 フェアはそっと手を差し出す。ビギナは耳を真っ赤に染めながら、それに応じた。

「さっきはすみませんでした。えっと、ビギナ、です。よろしくお願いします、フェアさん?」
「こちらこそ、ビギナさん。この素敵なお顔を涙で汚してしまいすみませんでした。一生の不覚です。以後、同じことをせぬよう心がけます」
「フェアさん……」

 ビギナとフェアは互いに手を握り合い見つめ合う。どことなくビギナの顔が赤く、“危ない雰囲気”が漂っているのは気のせいか否か。

「ちょっとフェア! 私を差し置いて何しているわけ!? 貴方は私の侍女でしょ」
「そうっす! ビギッちの親友枠はウチっす!」

 今度は仲良くセシリーとゼラのコンビが突っ込んだ。
もはやしっちゃかめっちゃである。

「ねえ様、みんな煩いのだぁ。止めて欲しいのだぁー」
「賑やかで良いじゃない。今日はお祭りなんでしょ? ふふ……」

 ロナは微笑むだけで、

(俺に止める自信は無い……)

 とクルスは思ったのだった。

「っと、親睦が深まったところでーっすっ!」

 ゼラが大声を上げて、大剣をドスンと突き刺す。一斉に皆の会話が止まった。
 
「ここで再会したのも何かのご縁っす! だからお願いがあるっす! 実は族長のご息女……ゼフィ姫様が、英雄祭に向かう道中の森で行方不明になったっす! あそこには危険な【青鬼盗賊団】がいるらしいっす! だから探すの手伝ってほしいっす!」
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