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【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】

閑話2:水の魔法使いと炎の大剣使い――ビギナ・ゼラ【後編】(*ビギナ視点)

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「あはー! サンキューっす!」

 赤い鎧を装備した長い犬耳を持つビムガンの少女は、大剣(ハイパーソード)を軽々と肩に掲げつつ、八重歯を覗かせ礼を言った。

「いくら貴方が有利属性の“火”だからって油断しないでください!」
「めんごめんごっす」
「め、めんご?」
「ごめんって意味っすよ。まっ、きっと君が飛び込んでくれるって信じてたっすからねぇ」
「もう……」

 なんだか調子が狂う。だけど、不思議と嫌では無かった。

「貴方“ビムガン”ですよね? ランクは?」
「Bっす!」
「じゃあ武芸(マーシャルアーツ)以外にも、属性単体魔法は使えますよね?」
「いやーそれが、あはは……お恥ずかしながらギリギリBランクの、ファイヤーダート程度しかウチ、使えませんで……」
「それで十分! じゃあこのまま脇へ飛んで。そしたらファイヤーダートを出来るだけたくさんを放って」
「おっ? なんか考えがあるっすね?」
「うん!」
「いーっすよ! 付き合うッすよ!」
「じゃあ、行きますよ……アタックッ!」

 ビギナは掛け声を上げて飛ぶ。
長い犬耳の赤い大剣使いも離れた。彼女は飛びながら、片手で軽々と大剣を突き出す。

「時に厄災を、時に……あー、えっと、なんだっけ……ああ! 叡智を授けし偉大なる炎の力! 我の力を……贄、だっけ? こほん! 鍵たる言葉を持って力を貸してたもう、っす!」

 寛大なのだろう炎の精霊は、彼女のたどたどしい詠唱でも、きちんと力を授けてくれたらしい。大剣の先端が赤い輝きを放つ。

「いくっすよぉ! ファイヤーダート! 乱れ撃ちっす!!」

 大剣の先端に宿った赤がより一層の輝きを放つ。それ小さな手投矢(ダーツ)となって大量に飛び出す。

「アクアショットランス!」

 そして既に高速詠唱を済ませていたビギナは、水の大槍(スピア)を放った。

 相反する2つの魔力がぶつかり、爆ぜた。反属性の力は、一瞬互いの存在を否定して姿を消す。しかし力が消滅したわけでは無かった。衝突した力は暗黒点という新たな力となって顕現する。

 反属性のぶつかり合いよって生ずる四元素由来では無い魔法の力――これを聖王国では【闇属性魔法】と呼ぶ。

「「「どぉーっ!!! せぇーーーっ!!!」」」

 術式で制御を掛けていない混沌の闇属性の力は激しく渦を巻く。そしてマンドラゴラの大群をを砂や岩と共に吸い込み、暗黒の中で押しつぶしてゆく。次第に混沌の力は勢力を弱めて、縮小してゆく。そして最後のマンドラゴラが吸い込まれたところで、混沌の闇は消えてなくなるのだった。

「ひゅー! やっぱ人間の魔法って凄いっすねぇー! たはー……!」

 そう叫んだビムガンの彼女は、盛大に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫ですか!?」

 ビギナが慌てて駆け寄ると、彼女は苦笑いを浮かべた。

「いやぁー、実はウチめっちゃ燃費悪いんっすよ……」
「燃費?」

 赤い鎧の内側から“くぅ”と腹の虫らしき悲鳴が聞こえていた。
 
「ちゅうわけで、なんか喰いモンないっすか? ウチも腹ペコっす。動けんっす」
「もう……」

 ビギナは呆れ声を上げる。だけども心底嫌かと聞かれれば、あまりそうではないと言いきれそうな気がしたのだった。


……
……
……


「御馳走様っす! いやぁー美味かったっす! 君、もしかして天才っすか!?」
「はいはい、ありがとうございます。でもどんなにおだてても、御かわり有りませんからね」

 三日分の食糧が一瞬にして、ビムガンの彼女の胃袋の中に消えていた。また食材探しからやり直さないといけいないなと、ビギナは頭を痛めたのだった。でも不思議と悪い気がしないのは、長い犬耳をもつ彼女がいつも笑っているから、なのかもしれない。

「そーいや、後で自己紹介するって言ったっすね。こほん! 改めまして、ウチは【ゼラ】 Bランク冒険者で職能種(ジョブ)はご覧の通り“大剣使い”っす!」
「ビギナです。Bランクで魔法使いです」
「どぅえっ!? ビギッち、あんなの凄いのにウチと同じBランクなんっすか!? まじっすか!?」

 いちいちリアクションも大きい【ゼラ】という冒険者。しかもいきなり仇名が付けられていた。だけどやっぱり、あんまり悪い気がしない。

「そ、そんなに驚くことですか?」
「だってどかーん、と水の大槍を扱うわ、さらっと闇属性魔法を使ったんすよ!? ウチ、いままでそんなBランクの魔法使いなんて会ったことないっす! ビギっちは間違いなくAか、もしくはSランクの実力あるっすよ!?」

 そういえばクルスと別れて以降は、色々なことがあり昇段試験どころではなかった。闇属性魔法の使用も、学校で理論を学んだだけで、放ったのはさっきが初めてだった。もしかすると実力はゼラが言う通り上がっているのかもしれない。

「いやぁー、やっぱ樹海にいる人はみんなただものじゃないっすね!」
「そ、そう?」
「そーっすよ! ウチもね、樹海(ここ)が禁断の地ってのは分かってるんすけど、ここで鍛えりゃより強くなれるって思ってっすね! ビギッちもそうっすよね?」
「いえ、私はその……ここで人を探してるんです」
「ほほう、男っすね?」
「なっ――!?」

 ゼラの言葉に、ビギナの胸は大きな高鳴りを発した。それだけクルスの存在が自分の中で、かなり大きくなっているのだと思い知る瞬間だった。


「なはは、図星っすか! いーっすよ、いーっすよ! これが恋ってやつっすねぇ。青春っすねぇ」
「そ、そんなんじゃありません! 私は、えっと、いつも助けてくれる先輩が、ここにいるかもって、だからその……!」
「ビギッち可愛いっすねぇ。ちなみにどんな男性なんっすか?」
「えっと……私より年上の男性で、弓を得意とする方で、ちょっと話し方が堅苦しい……」
「あー、もしかしてその方って“クルス先輩”っすか?」
「し、知ってるの!? どこで!? どこで見かけたの!? ゼラさん教えて! 先輩はいまどこに!?」

 そう迫るビギナにさすがのゼラも若干引き気味だった。

「い、いや、お会いしたのはもう数か月も前のことっす! ウチが前のパーティーに加わって樹海で毒蜂に襲われたところを助けてくれたんっすよ!」

 数か月前――時期的にクルスがフォーミュラにパーティーを追い出されたと合致する。
となれば、クルスはビギナと別れてから樹海に住み着いていると考えられた。ならばやはり、ここで彼を探すのが得策だと改めて感じた。

「あのビギッち、ウチから提案があるんっすけど……」
「?」
「良かったらウチとパーティー組まんっすか?」
「ゼラさんと?」
「おっす! ウチも実は、ここで鍛えてりゃまた“クルス先輩”にお会いできるるんじゃないかって思ってましてね。で、また色々とご指導いただきたいな、なんて思ってるんすよ。だったらウチら二人の目的は一緒っすよね?」

 ゼラの提案は、今のビギナにとって魅力的だった。確かにさっきのマンドラゴラの襲来も、ゼラと組まねば負けていた可能性が高い。ならば前衛の大剣使いと組むのは、今後のことを考えてもメリットばかりである。
更にビギナは、この出会いを、心の中では凄く喜んでいた。

 元々あまり大勢の輪の中に入るのが不得意だったため、地元での交友関係は少なかった。
魔法学院でも、周りが金持ちか高貴な身分の人ばかりで、気後れしてしまっていた。
友達と言えば、同じような境遇で、しかもビギナよりも少し年上のルームメイトだった“モーラ=テトラ”位である。

 ゼラと出会ってまだ一日も経っていない。だけども、ビギナには無い輝きを持つ彼女とは、なんとなくだがこの先上手くやってゆけるような気がしてならなかった。

「あは……あはは! な、なんか急にごめんっす! そうっすよねぇ。どこの馬の骨ともわかんない人に突然パーティーだなんて、困るっすよねぇ」

 ただ明るいだけじゃなくて、こういう他人の気持ちを思いやる姿勢も、とても好ましい。

「良いですよ、ゼラさん! 是非、私とパーティーを組んでください!」
「へっ……? ま、マジっすか!? 本当っすか!?」
「はい! 宜しくお願いします、ゼラさん!」

 ビギナは笑顔で握手を求めた。ゼラも少し恥ずかしそうではあったが、しっかりと握手を返してきてくれた。

「こちらこそよろしくっす! ビギッち!」
「はい!」
「もう身内なんすから、ウチのことはゼラでいいっすよ! あと面倒臭さそうな、丁寧な言葉も止めて欲しいっす」
「え? あ、はい?」
「うん! で良いっすよ! ほら、もう一回っす!」
「えっと……う、うん。宜しくね、ゼラ……?」
「それで良いっす! うんうん! じゃあウチは寝るっす。もう限界っす! お休みっすー」
「あっ、ちょっと!?」

 ゼラは鎧を着たままバタンと倒れて、あっという間にぐうすか眠り始めたのだった。

「もう、マイペースなんだからぁ……」

 ビギナは盛大に鼾をかくゼラを見て、頬を緩ませる。身体を冷やしてはいけないと思い彼女へシーツをかけると、ビギナも横になった。

 凄く豪快で、明るくて、ついさっき出会ったばかりなのに、まるでずっと昔から知っている友人のような。
今まで出会ったことの無い性格のゼラというビムガンの少女。
自分にはない魅力を持つ彼女に、ビギナはすっかり引き込まれていることに気が付く。

 水の魔法使い――ビギナ
 そして炎の大剣使い――ゼラ

 二人の樹海でのクルスを探す旅が、ここから始まる。
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