上 下
33 / 123
【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】

冒険者殲滅戦――<ブリーフィング(クルスside)>

しおりを挟む

「――以上が冒険者一党のこれまでの動きです。人間の数は総勢36。南の方角より七隊に別れて捜索を開始しています。各集団に杖を持った魔法使いがそれぞれ一名ずつ付いています」

 アルラウネのロナは、まるで近くで見てきたように、クルスへ報告をした。
 ロナの根は樹海全域に伸びているらしく、神経を研ぎ澄ませば、樹海のあらゆる情報を収集できるとのことだった。
 全く持って恐ろしく、何よりも頼もしく感じるクルスなのだった。

「魔法使いの中に瞳が赤く、少し耳の長い、白いローブを着た銀髪の少女はいるか?」
「えっ? あ、ああ、はい! ちょっとお待ちを!」

 ロナは慌てふためきながら、再び神経を集中させる。

(居ないでくれ、ビギナ……)

 これからクルスは、同族である人間を敵にする。
 最悪、殺す覚悟さえ固めていた。しかしビギナだけは別だった。
人を敵に回すと決意したが、彼女だけは助けたかった。だから昨晩、依頼を断るように告げたのだった。

「赤い瞳、長い耳に、銀髪、そして白いローブの魔法使い……いますね」
「ッ!?」

「樹海の真ん中をまっすぐ進んでいる集団の中にいます。メンバーはとても重そうな鎧を着た男性、背の小さな男性と背が大きな女性。クルスさんのような弓使いもいます。その先頭には、金色の鎧を着た男性。彼はとても強そうです。美味しそうな……じゃなかった、強い魔力を感じます」

「そうか……」

 敵の中にビギナがいる。その事実は、クルスの胸中へ暗い闇を落とす。

(忠告を聞き入れてくれなかったのか? しかも何故、フォーミュラの下に……?)

 クルスと離れている間に、ビギナに何かがあったのは明白だった。そして原因は恐らく魔法剣士のフォーミュラに違いない。この状況は、彼女の望まないものだと考えられた。ならばビギナだけは助けたい。必ず。

「なに怖い顔しているの? やっぱり同族と対峙するのは気が進まないのかしら?」

 脇にいたラフレシアは疑いの視線を送っている。
 マタンゴは今でも斬ってかかりそうな程、鋭い殺気を放っている。
これ以上の妙な態度は余計な疑いを持たれかねない。

「申し訳ない。敵の中に厄介な連中をみつけたのでついな。さぁ、始めよう!」

 クルスは手にした大きな羊皮紙を地面へ広げる。そこにはロナとベラの助力を得て描いた、樹海の簡単な地図があった。
地図へ向けて、ロナが蔓を伸ばす。

「先ほども言いましたが、36名の冒険者集団は基本的に5人一組、7パーティーに別れて南方から進んできています。このルートを真っ直ぐ進めば、樹海全てを探索することになります」
「被害状況は?」
「それがさっきから、ですね、どんどん魔物や動物がその……」
「わかった。そこまでで良い。ありがとう」

 ロナの表情から、被害がどれだけ被害なのかは分かった。うかうかとしていては本当にこの樹海事態が駄目になってしまうかもしれない。

「五人一組、そして魔法使いの随行。陣形を組める編成で、恐らく退避を強く意識した編成だ。パーティーの損耗状況に合わせて、魔法使いは“退避魔法”を発動させるだろう。もしくは魔法使い自体が倒れれば、“退避魔法(エスケイプ)”を発動させて一党をすべて樹海へ出すそうだ」
「だったらその魔法使いを倒せば手っ取り早いのだな?」

 冒険者として心得があるベラは、明解な言葉を口にする。

「ああ、その通りだ。さすがだな」
「えっへん! 僕はさすがなのだぁ!」

「では要領を説明する。仮に西の端から進行してきているパーティーを1と数え、最も東に位置するものを7とする。まずはラフレシア、君は東の1、2、3に姿を見せ、彼らを敵を誘い……」

「貴様! それはお嬢様に囮になれということか!?」
「待ちなさいマタンゴ」

 マタンゴを制して、ラフレシアがクルスを見やった。

「悪かったわね、続けて。それで私は姿をみせてどうすればいいの?」

「奴らの目的は君が寄生しているセシリー=カロッゾの身体だ。だから君はあえて姿を見せて敵を引き付けてもらいたい。更に“誘因臭気”を使って、この地点へ誘い込んでくれ。そしてそこに待機していたマタンゴが敵を一網打尽にする。どうだ?」

「なるほど。確かに“そこ”に敵を集められればマタンゴ一人でも、魔法使いのみにターゲットを絞れば行けるわね、となると次は東の4、5、6、7を“ここ”へ誘い込めばいいのかしら?」

 ラフレシアはクルスの考えていた地点を指さした。この頭の回転の速さはラフレシアのものなのか、はたまたセシリー=カロッゾの身体が元々持ち合わせて実力なのか。とにもかくにも、クルスは頼もしさを覚えた。

「その通りだ。しかし正確には4を覗く連中だ。ここではベラが待機。敵が集結したのと同時にバインドボイスを放って、敵を壊滅させる」
「ほうほう、なるほどなのだ! 面白そうなのだ!」

 ベラもクルスの考えを理解し、声を上げた。

「恐らくこれで敵の大半は戦闘不能にできるはずだ。その間に俺は4のパーティー、つまり敵の主戦力である“勇者パーティー”を足止めする。しかし俺一人では彼らを止めることはできない。なので、他の敵を排除後、速やかに集結し、勇者パーティーを一気に叩く! ロナ、君には申し訳ないが常に樹海の全域に神経を張って、状況を逐一報告してほしい」

「わかりました! 任せてください!」
「これが俺の考えだ。皆、どうだ?」

 クルスの問いにロナもベラも、そしてラフレシアとマタンゴも異を唱えなった。
どうやら承認してくれたらしい。

「ありがとう。俺たちの戦力は、敵に比べて圧倒的に少ない。だからこそ確実に“魔法使い”の排除を優先する。そのことだけは忘れないでほしい」
「了解よ。うふふ、楽しそうじゃない」

 ラフレシアは妖艶な笑みを浮かべ、

「とりあえず貴様の案通りに動いてやろう。しかし少しでも妙な真似を見せたら切り捨てる。そのことだけは忘れるな」

 マタンゴはぎらついた視線でクルスを睨む。

「よし! 始めるぞっ!」

 クルスの一声で、森の怪人たちは飛び出してゆく。

 ここに樹海を守るための戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞
ファンタジー
 魔法に誰よりも強い憧れを持ち、人生の全てを魔法のために費やした男がいた。  しかし彼は魔法の源である魔力を持たず、ついに魔法を使うことができずに死んだ。  強い未練を残した彼は魂のまま世界を彷徨い、やがていじめにより自死を選んだ貴族の少年フィリオの身体を得る。  魔法を使えるようになったことを喜ぶ男はフィリオとして振舞いながら、自ら構築した魔法理論の探究に精を出していた。  生前のフィリオをいじめていた貴族たちや、自ら首を突っ込んでいく厄介ごとをものともせず。 ☆ お気に入り登録していただけると、更新の通知があり便利です。 作者のモチベーションにもつながりますので、アカウントお持ちの方はお気軽にお気に入り登録していただけるとありがたいです。 よろしくお願いします。 タイトル変えました。 元のタイトル 「魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます」

処理中です...