上 下
37 / 47

食堂にて

しおりを挟む
「ふふふ、スイ君は果物が好きなのね!また準備しておくわ!」

「やったぁ!ありがとぉ!」

グレイスさんの奥さんであるファルラさんは子供好きだそうでスイに甘々だ。ギルアスさんとグレイスさんは何やら二人で話している。エレンさんはリンファさんにガチガチに緊張していることをからかわれていて、ダグラスさんは眠いのかコックリコックリしている。そんな中俺は……

「旦那さま!旦那さまは可愛い系か清楚系、どちらがお好きですか!」

「アイシャさんはどちらも似合うと思いますよ。」

「むぅ!私は旦那さまの好みを聞いているんです!ではどんな色がお好みですか?可愛いピンク?それともおしとやかな白や青ですか?もしくは少し大人な赤や黒ですか?」

…と、そんな具合にアイシャさんに服の好みについて質問攻めにされている。

「俺自身は黒とかが好きですが……アイシャさんはピンク色や水色でデザインは落ち着いたものが似合うと思いますよ。」

「そうですか?デザイナーがピンクや水色といった淡い色が似合うと言うので普段着ているんです。」

なるほどなぁ……

「……では、黄色やオレンジなんかはどうですか?」

「黄色やオレンジですか?考えたことなかったです!さっそく明日デザイナーに提案してみます!」

アイシャさんは明るい性格だしイメージにピッタリだと思う。

「参考になればいいんですが……」

「ならないわけありません!旦那さまが提案してくださったんですから!」

なんというか……アイシャさんが『旦那さま』と言ったら殺気のようなものを感じるんだよなぁ……まぁ、勝手に俺を嫌ってるから気にするつもりもないけどな。てか、そもそも『旦那さま』じゃないんだけどな……

「良ければ旦那さまの職業をお聞きしても?」

なんか魔法使いと剣士の組み合わせは珍しいらしいけど……いいよな?ギルアスさんの家族だし。

「『魔法使い』と『剣士』です。」

「……魔法…使いと剣士……」

「みたいですね。俺はただ両方使えて便利だなぁ…くらいにしか思ってないんですが……」

アイシャさんもかなり驚いたみたいだ。だが…アイシャさんは何かを考えているようにも見えた。ギルアスさんの方をチラチラと見ている。睨むように俺を見ていたコレラさんもきょとんとして驚いている。グレイスさんも目を丸くしている。

「あー…ヒビキ。基本、お前の職業は秘密にしとけよ。」

「はい、分かってます。なので『信用』してる人の前でしか話してませんよ?」

「ならいいが……」

ギルアスさんの秘密にしとけと言う言葉に俺が返事をすると……何故かギルアスさんまで驚いたようだった。

「ヒビキ……ボク、ねむい……」

さっきまで元気そうに遊んでいたスイがコックリコックリしながら近づいて来た。

「部屋に戻るか?」

「うん…………だっこ……」

……可愛い!!

「よっと…スイ、寝てて大丈夫だからな。」

「…うん……」

スイを抱っこしてギルアスさん達の方を見た。

「すみません。スイを寝かしつけるのに一旦失礼します。」

「おう、俺達は多分会議室にいると思うから使用人に案内してもらえよ。」

「はい、分かりました。では失礼します。」

多分この後はどうして俺達が王都に来ることになったのか『本当』の理由を話すんだろうな。……なるべく早く会議室にいかないとな。





※三人称

「……『信用』か……」

ヒビキとスイが出ていった食堂でギルアスがポツリと呟いた。

「兄上…ヒビキ君の職業は……」

「いや…どうだろうな。ヒビキが本当にそうなら…勇者召喚の意味がなくなるだろ。」

「それは…そうですが……」

グレイスはどこか気まずそうにしている。エレンは話の意味が分からずポカンとしていた。

「叔父様、旦那さまとはどんな経緯で会ったのですか?」

「ルネの街で一人で立ち尽くしていたから声をかけたんだ。それから少し話して分かったのが記憶喪失だ。出身地を聞いても分からない。話せたのは名前と年齢だけだ。」

「そう…ですか……」

ギルアスは全員の顔を見た。

「お前らも感じたかもしれないが……ヒビキは『取り扱い注意』って感じだ。例えるなら……ガラス玉だな。……普段は綺麗な透き通った透明でテーブルから落ちたくらいならコロコロと転がって何事もなかったようにその場にいる。」

ギルアスはどこからか取り出したガラス玉をわざと床に落とした。ガラス玉は床に当たるとコンッと音を立ててコロコロと転がった。ガラス玉を拾い上げたギルアスは話を続ける。

「だが……ほんの少し…本当に少し、当たり所が悪ければそのガラス玉は粉々に砕け散る。」

ギルアスはガラス玉の一部分に印を付け、印が床に当たるように落とした。するとガラス玉は粉々に砕け散った。

「アイツには…ヒビキには……何かある。必ずな。それも…俺達ではどうしようもないような事がな。」

ギルアスはフッと笑った。

「ったく……どうも俺達は面倒事に巻き込まれたみたいだな。」

ギルアスは『面倒事』なんて言っているがその顔は穏やかなものだった……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

処理中です...