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鬱憤晴らし ※三人称

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「……!!」

ヒビキが目を覚ますと、まだ外は薄暗かった。休憩室に戻ったのが普通に夜だったため、まだ完全に夜が明けていないのだろう。

「クソッ!」

ヒビキはベッドに座り、強く握りしめた拳で自分の太ももを殴る。何もない前方を睨み付け、より強く拳を握った。手には血が滲み始める。

ヒビキは手早く外に出る準備をする。扉を開けると、そこにはギルアスがいた。

「よう。よく眠れたか?」

「……ギルアスさん…俺が魔法を思い切り使っても大丈夫な、人がいない場所ってありますか?」

ヒビキはギルアスの問いかけに答えずに、そう聞いた。

「……ギルドの魔法使い専用の訓練所なら、お前が魔法を全力で使っても大丈夫だと思うぞ。」

ギルアスはヒビキの、強く握ったせいで血が滲んでいる拳を見てそう答えた。

「どこですか?」

「こっちだ。」

ギルアスは、ヒビキを魔法使い専用の訓練所に案内しながら思考を巡らせる。

(…コイツは何に激怒している?ギルド長室を出た後、何かあったのか?………分からないな……一先ず、ヒビキから漏れ出ている魔力は危ないな。ギルド職員や実力のない新人だと、確実に倒れるぞ……)

怒りのあまり、ヒビキは体内にある魔力を制御しきれずに外に漏らしてしまっていたのだ。その魔力はずっしりと重く、圧がある。冒険者として名を馳せ、数多くの強敵と戦ってきたギルアスですら、ものすごいプレッシャーを感じるほどだ。

幸い、訓練所までに他人と会うことはなかった。

「ここは周りに危害が及ばないように結界が張られてる。だから、ちょっとやそっとじゃ破れない。……ここなら、お前も本気でいっても大丈夫だぞ。」

「…ありがとうございます。」

ヒビキは一歩前に出ると手を前に出して、いくつかの魔法を掛け合わせ、爆発魔法を発動させた。

ドォォォォォォン!

……広い訓練所を丸々包み込むような威力だ。

「……ッ!!」

ギルアスは、ものすごい爆風に飛ばされないように足に力をいれる。

(……始めから只者じゃないとは思っていたが…ここまでとはな……えげつない魔力量だ……)

爆発によって出来た煙で白くなった視界が晴れ始めたかと思えば、再び爆発音とともに視界が白くなる。

「……ギルアスさん…忌み子って知ってますか?」

煙が晴れると、ヒビキは後ろを少し振り向いて問いかけた。魔法でストレス発散をして、少し落ち着いたようだ。

「い、忌み子?……さあな?宗教団体や文化によっても違うんじゃないか?」

「……そうですか…」

「いきなりどうした?何に怒ってたんだ?」

ギルアスは落ち着いてきたヒビキに直接問いかけた。

「………夢で見たんです……ルキアって男の子が『忌み子』と呼ばれて、何人もの人に暴力を振るわれて、それでも我慢して両親の前では明るく振る舞ってました………俺は見てるのに…見えてるのに……触れようとしても透けて通り抜けてしまう……助けたくても…助けれない……」

「そうか……『見てるだけ』が辛かったか……」

ヒビキは、ルキアに暴力を振るった人を…夢で見ることしか出来ない自分の無力さに激怒していた。ルキアにとっては、もう過ぎたことなのかもしれない。だが…ヒビキは、助けてあげたかった。助けたかった。夢の中で見たのなら、現実には存在しない可能性もあった。けど、ヒビキは確信していた。どこかで助けをのだと……

(……けどなぁ…それだけじゃない気がするんだよな……そもそも…どうして、その『ルキア』って子供に感情的になるんだ?)

確かにそうだ。ヒビキは、ルキアに起きた出来事を自分の事のように感情的になっていた。

「……すみません。ギルアスさん、ありがとうございました。」

「……それはいいんだけどよ…今、外はちょっとした混乱状態だろうから話しに行くぞ。」

「…?わ、分かりました。」

ヒビキはギルアスの後について、訓練所を出る。すると……

「ギ、ギルド長!?先程、爆発音が…」

数人のギルド職員がギルアスに駆け寄り、ヒビキはギルアスの後ろに隠れた。

(……絶対、俺が発動した魔法だ……混乱ってこういうことか…)

ヒビキは納得もしつつ、焦りもした。

「さっきの爆発音は……まぁ…一人の魔法使いの鬱憤晴らしだから気にするな。」

「う、鬱憤晴らし……」

ギルド職員は、どこか遠い目をした。

「とにかく!問題ないから仕事に戻れ。明日から俺は王都に行くからな?俺のサインがいる書類は全部ギルド長室の机に置いといてくれ。」

「分かりました。」

ギルド職員は自分の持ち場に帰って行った。

「……そこまで隠れなくてもいいだろ?」

「……本当に知らない人と接するのだけはダメなんです……」

ヒビキはひょこっとギルアスの後ろからギルアスの隣に移った。ヒビキの言葉に苦笑いしながらも、ギルアスは微笑ましそうにしている。

「その人見知りさえどうにかすれば、指名依頼なんかも入って生活安定すると思うぞ?」

「安定しなくてもいいので、自分から人に会いたくありません。身近な人ならいいんですけど……」

「……俺には分からないな…」

「……陰キャのことは陽キャには分かりませんよ……」

……こんな話をしながら二人はギルド長室に向かったのだった……


 

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