上 下
8 / 47

魔法の実験

しおりを挟む
気がつくと俺は白い空間にいた。

……ここはどこなんだ?……確か…ギルド長室でギルアスさんとエレンさんと話した後、ギルドの休憩室で就寝準備をして寝たはず……なら、ここは漫画なんかでよくある『夢の中』ってやつか?

そんなことを考えていると、前方の少し離れたところにテーブルと向かい合って椅子に座っている男女が現れた。

「……ねぇ、あなた。大切な話をしてもいいかしら?これからのことに関わることよ。」

「これからに関わること、か……確かに重要だな。…で、その話っていうのは?」

……俺のことは見えてないんだな。少し離れてはいるけど、見えない距離じゃないからな。

「そ、その……実は……」

「ん?どうしたんだ?」

「…………あ、赤ちゃんがいるのよ……私とあなたの赤ちゃんが……私のお腹に……」

「!!!本当か!?本当なのか!?」

おお!お二人さんおめでとうさん!

「ハハハ…俺達の…子供か……俺が父親になるのか……」

「ええ!本当に嬉しいわ!」

男性は手で顔を覆っているが、笑顔なのが一目で分かった。女性も幸せそうに笑ってるな。

「……だが…厄介事が増えるのも事実か……」

……?厄介事?何か特別な事情があるのか?

「…ええ……私達はこの子を守れるかしら…?もし…守りきれなかったら……」

「大丈夫だ。そりゃ、守りきれなかったらバッドエンドになるだろうが……逆に言えば守りきりさえすればハッピーエンドなんだ。俺がお前も、勿論お腹の子も守ってやる。だから大丈夫だ。」

……むちゃくちゃカッコいい事言うじゃないか!うん!是非、この人達には幸せになって欲しいな!どんな事情があるのか分からないけど……二人とも頑張れ!





 
「………………ん……朝か……」

次に気が付けばギルドの休憩室だった。

「…にしても、あの夢は何だったんだろうな?何か意味があるのか?」

予知夢とかそういう類いの夢なら、必ず意味があるよな……何かを伝えたかったのか?てか、根本的な話、あの人らは誰なんだ?俺の知り合いにはいないぞ?
 
俺はベッドに座って色々考えてみたが……結局何も分からなかった。

「……まぁ、何か意味があるなら『その時』になったら分かるよな?さすがにヒントがあれだけってことはないだろうし。」

…………ないよな?…うん、そうだと思おう。



俺は色々考えた後、支度をして食堂に向かった。

「…………スゥゥ……ハァァ……よし、行くか。」

ギルドの食堂はバイキング形式で自分で食べたい料理を食べたいだけ取れる。そのバイキング形式なのはいいと思う。けどな……ここは冒険者ギルドの食堂だ。つまり、冒険者だらけだ。で、冒険者は気さくで軽くて豪快な人がめちゃくちゃいる。なかなかの頻度で料理を取ってるといきなり話しかけてきたりするんだよな。……要するに、コミュ障の俺にとってはかなりの攻撃だ。だから、俺は食堂に入る前に深呼吸をして気合いをいれた。
 
食堂の扉の取っ手を握る。

「………………やっぱ無理だな……」

結局無理なんかい!

俺は自分で自分にツッコんだ。

あれだけ、準備万端!って感じの雰囲気出しといて結局無理とか……情けないな……けど、無理なもんは無理なんだ……

「よう、ヒビキ。おはようさん。こんな所で何してるんだ?」

「おはようございます、ギルアスさん。いや…中に入ろうとは思うんですけど……中に入るとよく話しかけられるじゃないですか?なので、さっき入ろうとして取っ手を握ってはみたんですけど……やっぱり無理でした。」

「…ハァ……ったくお前は……まぁ…入ろうと取っ手を握っただけ頑張った方か……」

ギルアスさんは呆れたようにため息をついて、そんなことを言う。……俺、ギルアスさんの中で自分がどんな評価されてんのか気になったんだけど……まぁ、いいか。ギルアスさんの言う通り、この世界に来る前だと入ろうともしなかっただろうからな。入ろうとしただけ、頑張ったさ。……完全に自己満足だけどな。……何でこの世界に来て頑張り始めたかって?まぁ、ずっとギルアスさんに甘えるわけにはいかないし、自立しなきゃいけないからな。それに……エレンさんとパーティーを組むなら、エレンさんもコミュ障だし……まぁ、そこは男として少しでもリードできたらいいな、って思ったんだ。

「ほら、一緒に行ってやるから中に入るぞ。」

「はい。ありがとうございます。」

「待ってぇぇぇ!私も一緒にぃぃぃ!」

……うん、皆予想なんかしなくても分かったよな?そうです……エレンさんの声です……

エレンさんが結構な勢いで走ってくる。……どこかのタイミングで転ける気がするな……

「…あっ……」

あっ!やっぱり躓いた!

俺は魔法を発動した。イメージは反重力だ。重力に逆らってプカプカと浮くイメージをした。

「…え?う、浮いてる!?なにこれ!?」

魔法はきちんと発動して、エレンさんは転ける前にプカプカとその場で浮いている。……俺はそのまま風魔法を発動させようとしたが、やっぱり止めた。イメージが反重力だからな。重力に逆らって浮きはするが、動かすことは出来ないから風魔法を発動しようとした。けど…昨日、森に入って魔物を討伐してる時にエレンさんが「魔法を使いながら別の魔法を発動させると必ず失敗するからしたって無駄なんだよね。これは何百年にも渡って研究されてきたけど、誰一人として成功させることは出来なかったからね。確実だよ。」って言ってたんだよな。

「………えっと……これ、ヒビキだよね?もう大丈夫だよ?」

「……エレンさん…少し実験してもいいですか?」

「え?う、うん…いいけど……何するの?」

……多分、魔法を同時に使えないのはイメージがあやふやになるからだよな?なら、パソコンでウィンドウを同時に並べるイメージで魔法を使えば魔法も同時に使えるんじゃないか?

俺はそう考えて、ウィンドウを同時に並べるイメージで魔法を発動した。……一つ目のウィンドウは浮遊魔法、二つ目のウィンドウは風魔法……

「……よし!成功だ!」

俺の予想通り、浮遊魔法と風魔法の同時展開が成功した。

「……ま、まさかこれって…」

エレンさんが驚いた顔をしている。

エレンさんは魔法使いだから、魔力の流れで二つ同時に魔法を使ったのが分かったのか?

「……エレンが何に驚いてるかは『今は』聞かない。早くメシ食ってギルド長室に行くぞ。」

「わ、分かりました。」

俺達はエレンさんに掛けた風魔法と浮遊魔法を解除して食堂に入った。

……さっき、ギルアスさん…『今は』を強調してたよな……うぅ…後で質問攻めにされるなぁ……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

処理中です...