41 / 48
Episode 41
しおりを挟むシャーロットが大神殿に入りロウエルの元へとたどり着くまでの間、真っ黒な靄で視界が埋まる通路を進みながら彼女の頭の中は蓋が外れた美琴の記憶で埋め尽くされていた。
ゼッドの姿が引き金となり、一気に溢れ出たその中で見つけた一つの台詞。
『……せっかく転生して幸せになれると思ったのに!ヒロインになれないこんな世界なんて……壊れちゃえばいい……!』
小説の中でも、セシルの心臓には魔石が埋まっていた。
だがそれは、王族を恨む闇の遣い手によって無理やり埋め込まれたもので、シャーロットは彼の目の前でその闇の遣い手を殺して囁くのだ。
『私が助けてあげる。』
シャーロットの狙いは魔石に溜め込まれていた闇の魔力。
そのことに気づいていたセシルは、王弟として誇り高く死を選ぼうとする。いざという時のために持たされていた聖女の光の石を使い、自ら心臓の魔石を壊そうとするのだ。
その時、シャーロットの怒りが爆発し、彼女の魔力全てが闇へと変わっていく……。
『許さない!何一つ私の思い通りにさせない、この世界の人間を!絶対に、許すものかぁぁぁ!』
目眩がするほどにハッキリと思い出した小説の一場面に、彼女はこめかみを押さえる。
「そうだ、小説の中の私は、それで異形の者になってしまうんだ……。でも……。」
結末を言えば、シャーロット以外は皆んなハッピーエンドだ。
ユリウスとカティアローザの愛の力で光の石が聖なる光を放ち、闇に呑まれかけた世界とシャーロットを浄化する。そして彼女は、そのまま静かに消滅していくのだ。
セシルも、体から取り出すために必要な闇の魔力とその傷を瞬時に癒やすための光の魔力、二つの強い力を同時に浴びたことで無事に魔石の呪縛から解き放たれる。
──もしかして……ナイゼル先生は、始めからセシル殿下を助ける方法を知っていたんじゃないかな……。私に、あんなに魔力のコントロールを教えてくれたのは、私の……聖女として覚醒した光の魔力が必要だったからなんじゃ……。
シャーロットのその疑念は、魔王と化したロウエルを前にした瞬間、確信へと変わった。
──やっぱり!先生は暴走を起こしたんじゃない。意図的に闇の魔力を覚醒させたんだ!
大神殿に現れたシャーロットを見て彼は優しく微笑み、握りしめた手のひらを開いてみせる。
そこにあったのは、二つの黒い石だった。
──もう、ゼッドの言いなりにならなくて大丈夫なんですね、先生?
そこからシャーロットは、ゼッドと話して時間を稼ぎながら、気づかれない程度の光で少しずつロウエルを浄化しつづけた。
そうしてゼッドを観察しているうちに、また彼女の中に一つの疑念が生まれる。
ゼッドは今も神なのだろうか?と……。
「簡単よ。あなたは逆に、ナイゼル先生の手のひらで踊らされていたの。多分、先生が私と出会ってからずっとね……。」
「……嘘だ……そんな……、そんな馬鹿なことが……。」
シャーロットの言葉に怒り動揺するたびに、ゼッドの白く透き通っていた髪が光を失い、少しずつ濁っていく。
そして、ロウエルの姿が元に戻った瞬間、その髪は彼の双眸と同じく禍々しい紅に染まってしまった。
「おかえりなさい、先生。」
「ありがとう、シャーロット。」
全てをわかりあった、情とはまた別の特別な絆で結ばれた二人を見て、ゼッドは渦巻く怒りに飲み込まれていく……。
「忌々しい……人間如きが僕を出し抜くなどと!」
「諦めなよ、ゼッド!もうあんたはセシルを人質に出来ない!このままシャーロットが光の柱に新たな守護を与えれば、瘴気に侵されることなんて決してない。」
「あなたには、もう神の力なんてないんでしょ?」
「……っ、うるさいっ!うるさい、うるさい、うるさいーー!!」
自らを神だと……美しく汚れない崇高な存在だと口にしたゼッドの面影は、もうどこにもなかった。
醜く顔を歪めた彼の紅い髪が逆立ち、魔力とはまた違った負のオーラが彼を包み込む。
「ああ、そうだよ。ケイノンが薄汚れた世界に堕天なんてさせるから、神力は減る一方だった。一刻も早く正式な創造神……絶対神になって力を取り戻そうと思ったのにっ!アリアが光の乙女なんてよこすから!」
彼の瞳に狂気が溢れ、突然ゼッドは壊れたように笑い出した。
「そうか……これが……、これが絶望か……。実に重たく暗い感情だね……。へぇ、なかなかいいものだ。これを、君たち二人にも味あわせてあげるよ……。ねえ?僕と同じように、大切なものを失えばいい!」
残された力の全てで、ゼッドが鋭く二筋の紅い閃光を放つ。
「──っ!?やめてぇぇっ!」
その時、一体どうやって動き、自分が何をしたのか?
シャーロットには何一つわからなかった。
ただ、大切なものを……彼を守らなくては……。彼だけは絶対に失えない……と。
爆音が響き渡る。土煙をあげて崩れ落ちていく大神殿。
シャーロットはそれを、外側から見つめていた……。
10
お気に入りに追加
217
あなたにおすすめの小説
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
転生モブ令嬢は転生侯爵様(攻略対象)と偽装婚約することになりましたーなのに、あれ?溺愛されてます?―
イトカワジンカイ
恋愛
「「もしかして転生者?!」」
リディと男性の声がハモり、目の前の男性ルシアン・バークレーが驚きの表情を浮かべた。
リディは乙女ゲーム「セレントキス」の世界に転生した…モブキャラとして。
ヒロインは義妹で義母と共にリディを虐待してくるのだが、中身21世紀女子高生のリディはそれにめげず、自立して家を出ようと密かに仕事をして金を稼いでいた。
転生者であるリディは前世で得意だったタロット占いを仕事にしていたのだが、そこに客として攻略対象のルシアンが現れる。だが、ルシアンも転生者であった!
ルシアンの依頼はヒロインのシャルロッテから逃げてルシアンルートを回避する事だった。そこでリディは占いと前世でのゲームプレイ経験を駆使してルシアンルート回避の協力をするのだが、何故か偽装婚約をする展開になってしまい…?
「私はモブキャラですよ?!攻略対象の貴方とは住む世界が違うんです!」
※ファンタジーでゆるゆる設定ですのでご都合主義は大目に見てください
※ノベルバ・エブリスタでも掲載
【完結】婚約破棄された公爵令嬢は推しの為に生きる!
永倉伊織
恋愛
王国の英雄ナタリア・ヴァイスハーフェンの為に、全てを捧げて生きて行きたいマリエール・シュヴァイツァー公爵令嬢は、自ら望んで婚約破棄をして貰う事に成功する。
自由の身となったマリエールは、ナタリア(推し)の為に生きる事を誓う。
婚約者に新しい回復薬の精製法を勝手に発表されて婚約破棄された令嬢は実家から追放されて隣国へと旅立った。半年後、その回復薬の欠陥が判明し
竹井ゴールド
恋愛
王宮で新たな回復薬を開発した男爵令嬢は、回復薬を勝手に発表された上に、その手柄を婚約者に奪われて婚約破棄されてしまう。
更には婚約者に逃げられた責任を問われて実家からも追放されるのだった。
その後、令嬢は逃げるように隣国へと旅立った。
婚約破棄や実家を追放の失意から、ではなく、回復薬には重大な欠陥があり、それで公表しなかったのに発表されてしまい、連座で罪に問われる事を恐れて・・・
【2022/10/30、出版申請、11/11、慰めメール】
【2022/11/1、24hポイント8800pt突破】
【2023/5/13、出版申請(2回目)、5/26、慰めメール】
【2024/9/16、出版申請(3回目)】
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる