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Episode 19
しおりを挟む「シャーロットっ!!」
ガシャン!と乱暴に開けられた扉の音と、同時に聞こえた必死な声。
──……名前、呼ばれた……?
浮上してくるシャーロットの意識は、力強く抱きすくめられたことで、一気に覚醒する。
「な、んで……ここに………。」
◇◇◇
「シャーロットがいないだって!?」
「それはどういうことですか?寮母様!」
女子寮を訪ねたユリウスとアーネストは、マザーからの想定外の返事にいつになく取り乱していた。
「夕刻の門限前に、確かにシャーロットさんから帰宅の報告を受けたんですが、今彼女を呼びに2階へ上がる途中、踊り場でこれを見つけまして。」
そう言ってマザーが差し出したのはシャーロットの鞄だった。
「部屋はもちろん、ダイニングや娯楽室も確認しましたが姿が見えないんです……!」
「っ!」
──寮内で拉致などありえるか?……一体何があったんだ!?
ユリウスは体中が脈打つような焦りに、頭の中がグチャグチャになる。
こんなにも思考が繋がらないのは初めての経験で、焦りは更に加速していった。
「マザー、ブライア嬢はこちらで探します。このことは他言無用でお願い出来ますか?」
「………わかりました。」
アーネストの落ち着いた態度に、マザーは半ば仕方なくではあるが頷き、ユリウスも呼吸を整える。
「オスカーとルイ殿下と分かれたのは失敗でしたね。」
一旦寮から離れた二人は、王太子付きの影の護衛の一人をマルセル公爵邸に向かわせ、残りの三人のうち二人を学園構内に散らした。
オスカー達は一度ロウエルの様子を確認するため、魔術研究棟へと行っている。
「ナイゼル講師が関係しているなら、ルイ殿下が動くはずです。」
「ああ。少なくとも本人は直接動いていないね。」
「そもそも事件に巻き込まれたと結論付けるのも尚早でしょうし……。」
「そう、だね。」
ユリウスもそれはわかっていた。今ある情報だけでは、シャーロットが危険に晒されていると決まったわけではないのだ。
──なのに何なんだ……。この僕が、万が一を考えて恐ろしくなるなんて……!
シャーロットは『聖女』という駒。国を護るために必要な存在。
「……それだけだったはずなのに……。」
「殿下?」
「いや、何でもない。とりあえず、校舎を探そう。」
「はい。」
護衛の一人がアーネストに魔石のランタンを手渡した。その光がハッキリと辺りを照らす程に、既に群青が夜を連れてきている……。
「急ぐぞ、アーネスト。」
「はっ。」
──頼む。無事でいてくれ!
◇◇◇
一方オスカーとルイは、足早に研究棟へと向かっていた。
「さっきのユリウス。あんな感情を見せるなんて、驚いた。」
「そうですね。殿下には、珍しいことかもしれません。」
「なぁ、俺達は今、ただの同級生だ。敬語はやめてくれ。アーネストもいないだろ?」
茶化すような軽口だが、オスカーはルイの底知れなさに脅威を感じる。
──殿下ではなくアーネストの名前を出す辺り。本当に侮れない方だ。
「……二人の時だけだぞ。」
「おっ、いいね。気楽が一番。」
「よく言う……。」
二人の会話は急にそこで途切れた。トルストの影の気配に、ルイが立ち止まったからだ。
「どうした?」
「ナイゼルに動きが。」
「何があった?」
「魔導師の一人と揉めています。」
「魔導師と?」
二人は顔を見合わせると、研究棟へ走り出した。
「早く言え!シャーロットに何をしたんだ!」
「エルっ!!ダメだ!落ち着け!!」
オスカーとルイが辿り着いた時、ロウエルが魔法の鎖で魔導師の男を縛り上げ、その体に食い込むほどに締め付けているところだった。
更に激昂して拳をあげるロウエルを、セシルが後ろから羽交い締めにして必死に引き離そうとしている。
「何故お前が『聖女』に手を出した!?」
「ふっ、あんな小娘が聖女様だ?権力者に片っ端から色目使ってる売女だろうが!」
「貴様ぁぁ!」
「エル!!」
ロウエルが放つ凄まじい魔力のオーラに、オスカーでさえ怯んでしまい体が動かなかった。
それでも彼は、一つの言葉に冷静さを取り戻す。
──聖女?シャーロットに何かあったのか!?
「ナイゼル先生!落ち着いて!」
オスカーは咄嗟に男とロウエルの間に防御の結界を張った。
突然体が弾かれ、周りが見えていなかったロウエルもやっと我に返る。
「エルっ、平気!?」
「セ、シル……ぼ、僕は今……?」
「大丈夫。使っていない。使っていないよ。」
動揺するロウエルの両肩を掴み、ハッキリと言い切ったセシル。その言葉に一気に脱力したロウエルが地面にへたり込んだ。
「ナイゼル先生、一体何があったんですか?」
「……オスカーくん……。その……さっき、その男と女の子が話してるのを聞いてしまって……。目障りな偽聖女に思い知らせたって……。」
「……何?」
その言葉の刹那。オスカーが射殺しそうなほどの殺気で、男を睨みつける。
「おいおい、今度はオスカーか?皆んなブライア嬢のことになると我を忘れ過ぎだ。」
ルイは飄々とそう言いながら、光の鎖に縛られたままの男に近付くと、しゃがみ込んで顎をクッと持ち上げた。
「どうなさいますか?王弟殿下。私は他国の人間ですが、候補といえど聖女に危害を加えたのなら処罰の対象では?」
「ああ。ルイ王子の言う通りだ。」
男は二人の王族の会話から事態の重さを突きつけられ、にわかに震え出す。
「おゆ、お許し下さい、殿下!ほんの出来心だったのです!い、妹が、マルセル公爵令嬢のお側にいられなくなったのは、ブライア男爵令嬢のせいだと……。それでっ。」
「それで?彼女に何を?」
星が煌めき出した夜空の下──。
「この男は研究室所属の者だ。私とナイゼルで対処するから、君たちはブライア嬢を頼むよ。」
全て聞き出したオスカーとルイは、セシルの言葉に急いで踵を返したのだった……。
──シャーロット!
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