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36話 まだ何か用ですか?
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「莉菜・・・」
翌朝、水奈月莉菜はノートに書かれた文章を読んで、小さくもう一人の名前を漏らした。
きつく閉じた目からは、涙が溢れノートを濡らしていった。
「うぅ、早く帰りてー。」
「そう思ってんの祐二だけじゃないから。」
分かっていた事だけど、朝からこの乗りだ。
僕もそうなんだけど、ゲームの発売日とそれから数日はもうそればかり考えてしまう。
でも不思議と、今日のアップデートはそこまでじゃない。
なんでだろう。
「だよなぁ。だからって早退すんなよ。」
「しないっての。」
むしろしたことねーよ!
もしやったとしたら、ボスに沈められるのが目に見えている。
放課後を知らせるチャイムが鳴ると、祐二と目くばせをして教室を出る。
四乃森さんもだけど。
どう言おうが早く帰ってやりたい事には変わりがない。
帰ったら早速起動して、アップデートファイルをインストールしなきゃ。
って、思ってたのにな・・・。
「あの、まだ何か用ですか?」
僕の帰り道、待ち伏せるように遠影さんが居た。はっ!闇討ち!
いや、呪われるのか?
ついに実力行使?
「あ、あの。私も、DEWやっているんです。」
「呪わないですか?」
なんか今、不吉な単語が聞こえた気がするけど、まあいいか。
「呪ったりなんかしません。」
「それなら良かったです。僕は急いでいるのでこれで。」
と言って帰ろうとすると手首を掴まれた。
何故逃がしてくれない!
「友達がだめなら、せめて一緒にしませんか?」
えぇ・・・
僕、呪いとか嫌なんですけど。何故僕に関わろうとする。しかも呪い殺すとか言っていたくせに。
水奈月さんに言われて掌返しか。
は!?と、見せかけてからの?
「の、呪いとか、僕はちょっと興味が無いので、他をあたってください。」
手を離そうとするが、両手でしっかりと掴まれ逃れられない。
「呪いじゃありません!」
へっ?
遠影さんは泣きそうな顔をしながら、呪いの事を強く否定した。
泣きそうになられても、僕が苛めてるみたいじゃないか。
僕、被害者だよね?
「DEWに、混ぜて欲しいんです。」
遠影さんは懇願するように言ってくる。そこで祐二が言っていた事を思い出してしまった。
確かに小柄で可愛い上に、強力な武器を携えている。
「えっと、他を、あたってください。」
顔を逸らして僕は言うと、強引に帰ろうと決めた。
「一緒に出来る人が居ないんです。お願いです雪待さん!」
「ちょ・・・」
手首を掴んでいた手が、僕の肘の関節部分をがっしりと抱えてきた。
「は、離してください。」
上腕が強力な武器の谷間に収まってしまってますから、勘弁してください!
「ダメですか?」
下から涙目で見上げられると、どうしようもない。実はこれが、呪いなんじゃないか?
>呪いを受け入れる。
腕を動かして感触を確かめる。
もっと強く挟んでくださいと言う。
別のものを挟んでくださいと言う。
バカか!ってか後半しもネタしかないじゃないか!僕そんなキャラじゃないって思ってたのに・・・
>呪いを受け入れる。
しかたない、よな・・・もう、呪われたんだよ。
「わ、わかりましたから、離してください・・・」
「ありがとうございます・・・」
なんかキャラ変わったよね、絶対。あの日の剣幕は何処に行ったのだろう?
分からないけど、とりあえず解放されて僕は家に帰りついた。
家に帰った僕は早速、アップデートしてプレイした。
祐二と四乃森さんの三人でやっていると、SHAMANという名前が加わった。
呪術師・・・
当然誰だって話しになったけど、説明は学校でするからと、遠影さんとだけ教えておいた。
次の日の放課後。
部屋の中には珍しく紅茶とケーキが二人分存在した。ボスが僕の分まで用意するなんて・・・天候が荒れるんじゃないだろうか。
この前言った、まともになったとかの所為だろうか。
つまり、普通の人間扱いされてなかったのか?
「数音の部屋、なんか落ち着くのよね。」
僕は自分の部屋だから落ち着くけど、女の子が落ち着くとか思えないなぁ。
「そうですか?」
「うん。」
「ゲームとマンガばっかですけど。」
「数音が居るからかな。」
それじゃ部屋じゃなくてもいいんじゃないだろうか。よく分からない。
「ちょっと足疲れた。」
そう言って莉菜さんは足の向きを変える。ってか膝を立てて動かすから見えたんですが・・・白。
「見たよね?」
と言って悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「い、いえ。」
「ううん、見た。」
多分、わざとだな。
「どうしてくれようかなぁ・・・」
莉菜さんはそう言いながら、膝立ちになると両手をわきわきさせながら近づいて来る。
「えぇ、絶対わざとですよね。」
「でも見ようと思わなきゃ見えないよね?」
ぐ、そう言われると。
「す、すいません。」
「ゆるさん!」
飛びかかるように莉菜さんは僕を押し倒すと、そのまま重なるように倒れてくる。
「ね、少しこのままでいて。」
抱きつくように莉菜さんは僕の上で、そう言った。
「はい。」
世の中、不思議な事があるもんなんだな。僕がこんな状況になるなんて。
でも、この温もりは現実だよね。
そう思って、僕は莉菜さんの背中に手を回した。
抱きしめるという感覚を、初めて知った。
暖かくて、ほっとする。
莉菜さんの腕がさらに、僕を強く引き寄せる。
気付くと、僕は莉菜さんと唇を重ねていた。いつもよりずっと長く・・・
お互いの鼻息が生暖かい。
いつもの触れるだけのキスではなく、しっかりと重ねられた唇はとても柔らかくて、頭がぼーっとした。
どれくらいそうしていたのだろう。
莉菜さんが口を離すと、透明な糸のようなものが口と口の間に出来て途切れた。
少しぼーっとして意識がはっきりしてくる。
またもや下になっている僕は、やっぱり逆なんだろうかと気づく。
横で微笑む莉菜さんは、まだ僕に腕を回して微笑んでいる。
その顔は、いつも以上に大人びて見え、とても綺麗だった。
その顔を見ていると、僕は吸い込まれるように、今度は自分から唇を重ねに行っていた。
後に思った事だけど、自分がこんな事をするなんて思えなかった。
特に何を話すでもなく、僕と莉菜さんは夕方までそうしていた。
ボスの夕食の合図で我に返る。
な・・・何をしていたんだ僕は。
う、下のあれもしっかり固くなっているし・・・
ってか、当たってないよな・・・
うぅ、しかし恥ずかしい。
「数音、ありがとう。時間が止まって欲しかったけれど、そうはいかないよね。」
起き上がってスカートの裾を直し、手櫛で髪を整えながら莉菜さんは言った。
「す、すいません。」
「なんで謝るのよ。私はともて幸せだったよ。」
そう言われるとそうだけど、なんか自分の意思とは関係なく、いろいろ行動しちゃったような気がして。
「数音から、してくれたね。」
「は、恥ずかしいから、あまり言わないでください。」
「次はぁ、数音が抱き寄せるところからだね。」
いつからそんなノルマ制になったんだよ。
それから、莉菜さんはいつも通り食事をして帰っていた。
当たり前のように悪鬼が居た事にうんざりしたが、何かを悟ったように気持ち悪いくらいニヤニヤしていた。
もしかして、気付かれた?
「それじゃ、明後日の朝七時ね。」
「はい。」
途中まで送って家に帰る。家で尋問と言う恐怖が待っている事など考えもせず。
翌朝、水奈月莉菜はノートに書かれた文章を読んで、小さくもう一人の名前を漏らした。
きつく閉じた目からは、涙が溢れノートを濡らしていった。
「うぅ、早く帰りてー。」
「そう思ってんの祐二だけじゃないから。」
分かっていた事だけど、朝からこの乗りだ。
僕もそうなんだけど、ゲームの発売日とそれから数日はもうそればかり考えてしまう。
でも不思議と、今日のアップデートはそこまでじゃない。
なんでだろう。
「だよなぁ。だからって早退すんなよ。」
「しないっての。」
むしろしたことねーよ!
もしやったとしたら、ボスに沈められるのが目に見えている。
放課後を知らせるチャイムが鳴ると、祐二と目くばせをして教室を出る。
四乃森さんもだけど。
どう言おうが早く帰ってやりたい事には変わりがない。
帰ったら早速起動して、アップデートファイルをインストールしなきゃ。
って、思ってたのにな・・・。
「あの、まだ何か用ですか?」
僕の帰り道、待ち伏せるように遠影さんが居た。はっ!闇討ち!
いや、呪われるのか?
ついに実力行使?
「あ、あの。私も、DEWやっているんです。」
「呪わないですか?」
なんか今、不吉な単語が聞こえた気がするけど、まあいいか。
「呪ったりなんかしません。」
「それなら良かったです。僕は急いでいるのでこれで。」
と言って帰ろうとすると手首を掴まれた。
何故逃がしてくれない!
「友達がだめなら、せめて一緒にしませんか?」
えぇ・・・
僕、呪いとか嫌なんですけど。何故僕に関わろうとする。しかも呪い殺すとか言っていたくせに。
水奈月さんに言われて掌返しか。
は!?と、見せかけてからの?
「の、呪いとか、僕はちょっと興味が無いので、他をあたってください。」
手を離そうとするが、両手でしっかりと掴まれ逃れられない。
「呪いじゃありません!」
へっ?
遠影さんは泣きそうな顔をしながら、呪いの事を強く否定した。
泣きそうになられても、僕が苛めてるみたいじゃないか。
僕、被害者だよね?
「DEWに、混ぜて欲しいんです。」
遠影さんは懇願するように言ってくる。そこで祐二が言っていた事を思い出してしまった。
確かに小柄で可愛い上に、強力な武器を携えている。
「えっと、他を、あたってください。」
顔を逸らして僕は言うと、強引に帰ろうと決めた。
「一緒に出来る人が居ないんです。お願いです雪待さん!」
「ちょ・・・」
手首を掴んでいた手が、僕の肘の関節部分をがっしりと抱えてきた。
「は、離してください。」
上腕が強力な武器の谷間に収まってしまってますから、勘弁してください!
「ダメですか?」
下から涙目で見上げられると、どうしようもない。実はこれが、呪いなんじゃないか?
>呪いを受け入れる。
腕を動かして感触を確かめる。
もっと強く挟んでくださいと言う。
別のものを挟んでくださいと言う。
バカか!ってか後半しもネタしかないじゃないか!僕そんなキャラじゃないって思ってたのに・・・
>呪いを受け入れる。
しかたない、よな・・・もう、呪われたんだよ。
「わ、わかりましたから、離してください・・・」
「ありがとうございます・・・」
なんかキャラ変わったよね、絶対。あの日の剣幕は何処に行ったのだろう?
分からないけど、とりあえず解放されて僕は家に帰りついた。
家に帰った僕は早速、アップデートしてプレイした。
祐二と四乃森さんの三人でやっていると、SHAMANという名前が加わった。
呪術師・・・
当然誰だって話しになったけど、説明は学校でするからと、遠影さんとだけ教えておいた。
次の日の放課後。
部屋の中には珍しく紅茶とケーキが二人分存在した。ボスが僕の分まで用意するなんて・・・天候が荒れるんじゃないだろうか。
この前言った、まともになったとかの所為だろうか。
つまり、普通の人間扱いされてなかったのか?
「数音の部屋、なんか落ち着くのよね。」
僕は自分の部屋だから落ち着くけど、女の子が落ち着くとか思えないなぁ。
「そうですか?」
「うん。」
「ゲームとマンガばっかですけど。」
「数音が居るからかな。」
それじゃ部屋じゃなくてもいいんじゃないだろうか。よく分からない。
「ちょっと足疲れた。」
そう言って莉菜さんは足の向きを変える。ってか膝を立てて動かすから見えたんですが・・・白。
「見たよね?」
と言って悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「い、いえ。」
「ううん、見た。」
多分、わざとだな。
「どうしてくれようかなぁ・・・」
莉菜さんはそう言いながら、膝立ちになると両手をわきわきさせながら近づいて来る。
「えぇ、絶対わざとですよね。」
「でも見ようと思わなきゃ見えないよね?」
ぐ、そう言われると。
「す、すいません。」
「ゆるさん!」
飛びかかるように莉菜さんは僕を押し倒すと、そのまま重なるように倒れてくる。
「ね、少しこのままでいて。」
抱きつくように莉菜さんは僕の上で、そう言った。
「はい。」
世の中、不思議な事があるもんなんだな。僕がこんな状況になるなんて。
でも、この温もりは現実だよね。
そう思って、僕は莉菜さんの背中に手を回した。
抱きしめるという感覚を、初めて知った。
暖かくて、ほっとする。
莉菜さんの腕がさらに、僕を強く引き寄せる。
気付くと、僕は莉菜さんと唇を重ねていた。いつもよりずっと長く・・・
お互いの鼻息が生暖かい。
いつもの触れるだけのキスではなく、しっかりと重ねられた唇はとても柔らかくて、頭がぼーっとした。
どれくらいそうしていたのだろう。
莉菜さんが口を離すと、透明な糸のようなものが口と口の間に出来て途切れた。
少しぼーっとして意識がはっきりしてくる。
またもや下になっている僕は、やっぱり逆なんだろうかと気づく。
横で微笑む莉菜さんは、まだ僕に腕を回して微笑んでいる。
その顔は、いつも以上に大人びて見え、とても綺麗だった。
その顔を見ていると、僕は吸い込まれるように、今度は自分から唇を重ねに行っていた。
後に思った事だけど、自分がこんな事をするなんて思えなかった。
特に何を話すでもなく、僕と莉菜さんは夕方までそうしていた。
ボスの夕食の合図で我に返る。
な・・・何をしていたんだ僕は。
う、下のあれもしっかり固くなっているし・・・
ってか、当たってないよな・・・
うぅ、しかし恥ずかしい。
「数音、ありがとう。時間が止まって欲しかったけれど、そうはいかないよね。」
起き上がってスカートの裾を直し、手櫛で髪を整えながら莉菜さんは言った。
「す、すいません。」
「なんで謝るのよ。私はともて幸せだったよ。」
そう言われるとそうだけど、なんか自分の意思とは関係なく、いろいろ行動しちゃったような気がして。
「数音から、してくれたね。」
「は、恥ずかしいから、あまり言わないでください。」
「次はぁ、数音が抱き寄せるところからだね。」
いつからそんなノルマ制になったんだよ。
それから、莉菜さんはいつも通り食事をして帰っていた。
当たり前のように悪鬼が居た事にうんざりしたが、何かを悟ったように気持ち悪いくらいニヤニヤしていた。
もしかして、気付かれた?
「それじゃ、明後日の朝七時ね。」
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