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16話 あの、出来るんですか?

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「誘ってくれて、うれしかった。」
そうなのか。もの凄く勇気を出して、精神擦り減らした甲斐があった。
「だって、数音から誘ってくれたの、初めてだから。」
さらっと名前になっている。
さっきですよね、名前で呼んでいいって会話したの。なんでそんなに慣れるの早いの?
僕は、無理です。
でも言われてみれば、誘われてばかりで誘った事はない。
やっぱり、誘われたら嬉しいんだろうか。
「そう、だね。あ、でも日曜日、ご飯。」
「あれは私が誘ったデートの流れでしょ、ノーカウント。」
だめなのか。
「ところで、今日もDEWやるの?」
「うん。」
やらないわけがないだろ。何て言えるわけがない。
「そう、やるのね。」
水奈月さんだって分かっているんじゃないのか?僕がやりたくてたまらないって事。なのにどうしてわざわざ聞いてくるんだろう。
「それが、どうかしました?」
「ううん、別に。ただ、やるのかなって思ったの。」
よく分からない。おそらく水奈月さんも、絶対やるだろうって思ってるんじゃないかな。
「で、やるのよね?」
「え、うん、やりますが。」
何故また聞く?どうしたいんだ?何が言いたいんだよ・・・
水奈月さんの僕に向けられる眼差しが、何かを訴えかけているような感じがした。一体何を求めているんだ。
「ふーん、そう。」
誰か助けて・・・
どうしたらいいんだよぉ。
「あの、一緒にやりますか?」
「うん、やる!」
と、水奈月さんはすごく嬉しそうに返事をした。水奈月さんの求めていた事がやっと分かった、同時に僕の鈍さも。話しの流れから誘って欲しかったんだ。
「誘われると、嬉しいですか?」
「当たり前でしょ。特に用事が無い時は、誘われたら嬉しいに決まってるじゃない。」
僕には、分からなかった。
それは女の子の気持ちだからなのか、僕の器量が足らないからなのか。多分、両方だ。



『莉菜、DEWやらない?
 出来れば、私が居ない時に、
 雪待くんと、一緒にプレイして欲しい。
 居るだけでもいいから。
 知らないところで、何かが起きるのが、
 やっぱり怖いの・・・』
水奈月莉菜は、それを読むとノートを強く握りしめて唇を噛んだ。



「四人はいいな。素材集め手伝いつつもサクサク進めるよ。」
大分慣れてきたとはいえ、水奈月さんは僕らより遅れている。それでも、一緒に遊べるのは楽しかった。
「ほんと楽しいよね。」
「もうすぐゴールデンウィークじゃん。家から出そうに無いな。」
言われてみればそうだ。僕なんて毎年、引きこもりみたいな生活してるっけ。
「祐二は家族と旅行だろ?」
「あ?んなもん、俺抜きで行かせるわ。今年はDEWやるから行かねー。」
「うわ、ひでー。」
「数音だってそうするだろ。」
「僕にそれ以外の選択肢があると思ってんの?」
「だよな。」
肯定すんなよ。言っていいのは自分だけだっての。とはいえ、毎年そうだから反論は出来ない。

「おはよ。やっぱいいわDEW。四人だと楽ちんだよね。」
Aliceを一番笑いものにしている奴が登校してきたがった。
「水奈月もやるとは思って無かったよ。てっきりゲームなんて無縁だと思ってたからさ、昨日はありがとな。」
四乃森さんが水奈月さんにそう言った。水奈月さんは足を組みながら本を読んでいたが、四乃森さんに目を向ける。
「ん、ああ。」
とだけ言ってまた本に目を落とした。
「まあ、あたし的にAliceの衝撃からはまだ抜けられてなんだけどな。DEW一番の衝撃だよ。」
黙れっ。
まだ言うかっ。
もううるさいな。
死んどけ。
「あんまり言うと、数音が泣いちゃうから。」
泣かねーよっ!お前も同罪だからなアホ祐二。
「そりゃ駄目だ。すまん雪待。」
「いや、別に・・・」
「Aliceが居なくなったら楽しさ半減になっちゃうよな。」
謝る気ゼロじゃねーか!結局そこかよ。
と思ったところで、チャイムが鳴りそれぞれ席へ散っていった。



「雪待、頼みがある。」
放課後、鞄に荷物を仕舞って帰ろうとすると水奈月さんが話しかけて来た。視界にそそくさと教室を抜けていく祐二が目に入る。
逃げたな。あのヤロウ・・・
「な、なんですか?体育館倉庫は、もう駄目ですよ。」
「わ、分かっている。」
ならいいけど。と思いつつも、ちょっと残念な気持ちが無いわけではない。僕も男なんだなって思った。
「ちょっと、家に来てほしい。雪待にしか頼めない。」
はっ?
僕は帰ってDEWやりたいんだけど。何故、家に誘ってくる・・・。
「どういう、事ですか?」
「その、デッドエンドウォーをやりたいんだが、まったくやり方が分からなくてな。私に少し、障りでもいいんで教えてくれないか?」
・・・
やってますよね?
と思ったが、こっちの水奈月さんはやってないんだな。なんとなく、そんな気はしていた。
こっちの時は、ログインしていない事から。
きっと何か理由があるのだろうけど。

>誘っているんですか?
 この前の続きですか?
 次は何を脱ぐんですか?
 僕も脱いだ方がいいですか?

話しを聞いてるのか!?あれだな、誰かの願望か何かじゃないのかな。
しかもどれを選んでも、お花畑が見えそうだよ。
>僕も・・・
ってアホかっ!何処に需要があるんだよ。
じゃなくて

「いい、ですよ。」
断る事は出来ない。水奈月さんは水奈月さんだから、邪険に出来るわけもない。
「そうか、ありがと。」
「ところで、ゲームは出来るんですか?」
そこで水奈月さんが首を傾げる。
「あいつに出来て私に出来ない道理はないだろう?」
ああ、うん。そうだね。
僕はそれを聞いて、すんなり帰れそうにないなって思えた。



「あらいらっしゃい。ゆっくりしていってね。」
水奈月さんの家に上がると、水奈月母がそう言ってきた。ゆっくりしたくはないけど。
「今日はゆうちゃん一緒じゃないのね?」
ゆうちゃん?
「森高なら逃げ帰った。」
あ、祐二の事か。ん?聞いた事が無いけど、祐二と水奈月さんは仲が良いのか?母親がそう呼ぶということは。
「あらそう。」
水奈月母はそう言って、部屋から出て言った。
何故か疎外感が・・・。
だったら祐二に教えてもらえばいいのに。
「早速だが、どうすればいい?」
若干不貞腐れ気味の僕に、水奈月さんが聞いてくる。どうするも何も、R3を起動してくれないと。
「電源入れてください。」
僕がそう言うと、水奈月さんが固まった。
おい・・・
「この前設置したあと、試してみました?」
「いや、触ってすらいない。」
まじかーーーーっ!
そこから教えるのか。水奈月さんが本当に操作出来るかどうかすら、僕は不安になってきた。
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