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王都進出

13.着いて来られても困るんだが

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翌朝、俺とエリサは開店前にギルドに向かった。そこで導入検定を受ける事になったのだが、予想以上に時間が掛かった。
それは、今日は店を開ける事が出来ない。というレベルだ。
スキル項目ごとに検定があり受けていくのだが、俺の場合は記述が多かった。だが、調合等は記述以外に簡単な実技までやる羽目になった。
エリサに関して言えば、実技がメインのようだった。ただ、戦闘知識的な検定も存在したようだが、文字を書けないエリサにとっては無用な検定だったようだ。

「結果は明日出るからね。」
面倒くせぇ。
そうだとは思ったけどさ。結果と判定がその場で出るとも思ってねぇ。生前であれば内容によってその場で結果が分かるのもあるが、この世界じゃ期待はしてなかった。
「分かった。明日また来るよ。」

「あたし、凄い疲れたぞ。」
ギルドを出て直ぐに、肩を落として歩くエリサが言う。それに関しては俺も同感だ。やる事が多すぎなんだよ。それも信用というものに繋がっているのだろうが。
「それより腹が減ったな。」
「あたしは大分前から減ってるぞ。」
もうすぐ夕方になりそうな時間だ、減って当然だよな。アニタはまだ仕事だろうから、適当に二人分買って帰るか。
「何か買って家でゆっくり食うか。」
「うん。」

途中にあるパン屋で、いろいろ買ったんだが、つい買いすぎてしまった。パンって美味そうだからあれもこれもと思っているうちに、つい買いすぎちまうんだよな。
だがこの量、俺は食えそうにねぇな。エリサは食っちまうだろうが、食いきれない分をエリサに全部食べられるのも癪だな。
「楽しみだなぁ。」
涎を啜りながら俺の持つ紙袋に目を輝かせるエリサを見て確信した。こいつは絶対全部食う。俺の分まで間違いなく食うだろう。
「あれ、苛められてるぞ。」
垂れる涎を啜るのも忘れ、エリサが指さして言った。脇道の細い路地、襤褸を来た男が数人の男に暴行を受けていた。
「気のせいだろ。」
面倒なんで関わりたくねぇ。世界が変わろうが、人間は人間って事だ。あれに関わってこっちまで巻き込まれるのは勘弁だ。
「でも、泣いてる・・・」
「他人だろ、そこまで気にしてられるか。」
「でもご主人は、薬で人を助けてるぞ。」
うるせぇな。
「代わりに金を貰ってるだろ。俺らだって生活するには金が必要だ。得にもならねぇ面倒ごとに首を突っ込んでる暇はねぇ。」
それで感謝されるより、馬鹿を見る人間の方が多いんだよ。
「人間は自分勝手な生き物なんだ。関わらない方が正解なんだよ。」
その場から動こうとしないエリサに言ってやるが、それでも動こうとしない。
「でもご主人は、あまり役に立ってないあたしを傍に置いてくれている。ご飯も、寝る所も与えてくれているぞ。」
うぜぇ。
そんなの俺の勝手でしかない。だから、今見なかった事にして通り過ぎるのも俺の勝手だ。
「待つくらいならしてやる。」
「ほんとか!?ちょっと行ってくる。」
表情が明るくなったエリサは、言うなりその三人の方に駆け出して行った。

正義感とか、そんなものじゃないんだろうな、エリサの場合。どちらかと言えば本能で動いているんだろう。
そういや、群れから追い出されたとか言ってたっけ。その辺の思いとか、関係あるんだろうか。
いや、どうでもいいな。

そんな事を考えながら、エリサの動向を見ていると、あっという間に三人を殴り飛ばしていた。禅問答じゃないが、殴っている奴を殴ったら、殴っている奴と同じじゃないのか?そう聞いたところで、エリサは俺の求める答えを言う事はないだろうな。
どちらかと言えば、自分に真っ直ぐな思いを口にするだけだろう。
そういうのは、要らねぇ。
三人は直ぐに逃げ出し、エリサの我儘もあっという間に終わった。エリサは倒れている相手に何かを言うと、直ぐにこっちに戻って来た。

「あぁ!狡いぞご主人、何で先に食べてるんだ。」
「え、暇だったから。」
焼いた鶏肉を挟んだパンは、この世界でも旨い。
「腹も減ってるしな。」
恨めしそうに見て来るエリサに、続いて言ってやる。
「あたしだって空いてるぞ!」
知ってるよ。
「しょうがねぇな、ほれ。」
「やった!」
袋から同じものを取り出して渡すと、嬉しそうにエリサは直ぐ齧りついた。満足そうな笑みを浮かべて黙々と食べる。
「じゃ、帰るぞ。」
「うん。」

下手に助けたりなんかすると、余計なものを背負わされてしまう。エリサには、その辺を言っても分からないだろうな。そんな事を思って歩き始める。
純粋なのは良い事なのか、悪い事なのかは分からない。ただ、本人はそれでもいいのだろう。だってその純粋さは、面倒だなんて考えが無いんだよ、多分な。

「あ、あの・・・」
「どした、まだ何かあるのか?」
だから、こんな事になっても普通に接してしまうんだろう。
面倒くせぇ。
「どうして、助けてくれたのかと思って。」
「どうしてだ?」
俺を見るな、アホか!
「お前がやったんだろうが。」
「そうだよね。」
と言いながらエリサはにこっとした。口をもぐもぐ動かしたままだが。まぁ、細かい事は考えてないんだろう。だから、打算も何も無い気がした。そんなやりとりを、近付いて来た男は不思議そうに見ている。
「何となく?あたしは群れを追い出された時、どうしていいか分からなかった、惨めな思いもした。もしかするとそれを思い出して、動いたのかも。」
「犬に打算は無いんだとさ。気にするな。」
「犬じゃないってば!」
だが、男は何を言っているか分からないという風に、変わらず立ち尽くしていた。深く考えすぎなんじゃねぇか。
「ほら、いくぞ。」
「あ、また食ってる!あたしにもくれ。」
「我儘な奴だな。」
歩き出しながら袋からパンを取り出すと、エリサが掴みそうなところで引いてやる。
「むぅっ!」
頬を膨らませ抗議をしてくるので、そろそろ止めておくか。どうせ力じゃ敵わないしな。

「で、まだ何か用なのか?」
何故か着いて来るので、足を止め聞いてみる。どちらかと言えば、エリサが後ろをちらちら気にする方が鬱陶しかったんだが。
「その、私、行くところが無くて・・・」
「だからって俺らに着いて来ても現実は変わらねぇぞ。」
なんか女みてぇな奴だな。
・・・
嫌な奴を思い出した。
「分かっています。ただ、あの場所にはもう居たくないの。」
そりゃそっちの勝手だけどさ、着いて来る理由にはならねぇだろ。そう思った時、男の腹が鳴ったのが聞こえた。振り向くと男は恥ずかしそうに顔を逸らしている。
「エリサ、好きなの後1個取れ。」
「うん。」
俺も1個取ると、残りは紙袋ごと男に差し出した。
「私、そんなつもりじゃ・・・」
「それくらは分かってる。いいから食え。」
押し付けるように渡すと、背中を向けて歩き始める。身形からして、あんまり食ってなさそうなんだが、そんな奴の前で黙々と食ってられるか。まるで嫌がらせしてるみたいで良い気分じゃねぇ。
それも、俺の勝手な思いでしかねぇが。
「あ・・・ありがとうございます。」



「お前の所為だぞ、クソ犬。」
「だから犬って言うな!」
テーブルに向かい並んで座るエリサの椅子に蹴りを入れる。向かい側では申し訳なさそうな顔で、マーレがこちらを見ては視線を落としていた。
結局家まで着いて来た男は、マーレという名前らしい。
「あの、ご迷惑なようなので、私は帰ります。」
「行くところが無いとか言ってなかったか?」
確かそんな事を言っていたのを思い出し突っ込んでみたが、暗い表情になってまた視線を落とした。聞かなきゃよかったぜ。
「家、のようなものはあります。寝るだけの場所ですが。他に、どうしていいか分からず、何も出来ずに過ごす日々で、誰かと話したかったのかもしれません。」
俺なんか異世界に来たって言ったら信じないだろうな。
「話し相手くらいにはなってやる、エリサが。」
「え!」
え!じゃねぇよ、拾ったのはお前だろうが。
「ただな、どうしていいか分からねぇ、何もしないってのは違うんじゃねぇのか。」
「・・・」
どうしたもんかね・・・
「私、気付いたらこんなになってて、本当にどうしていいか分からない。」
はぁ、話しにならんな。
と言って関わってしまった以上、放置して、あいつらにまたちょっかい出されて、そのうち野垂れ死んだとか聞いても寝覚めの気分が良く無さそうだ。
ほんとにこのアホ犬・・・
そう思いながら冷めた目を向けると逸らしやがった。一応自覚はあるらしいな。

「ただいまぁ・・・って、誰?」
「迷い犬2号。」
「犬じゃない!」
「・・・」
「・・・」
反応したのはエリサだけか。パブロフの犬について説明したら、エリサはどんな反応示すかな。
って、今はそんな面白い事を考えている場合じゃない。
「順を追って説明してもらえるかしら?」
アニタさんはちょっと怒っているご様子。
「ほらエリサ、お前がやったんだからちゃんと説明しろ。」
「分かった。苛められてたのを助けた。着いて来た。」
終わりかよ!
「リア、説明して。」
満面の笑顔になりやがった。これ以上は危険な気がする。
そもそも俺の家だぞ、そう言ってやりたいが、同居を許している以上アニタやエリサにとっても自宅なわけだ。

アホ犬が役に立たないので、マーレが家に来たところまでを説明する。
「へぇ、三人で美味しいパンを食べたのね。」
そこじゃねぇだろ!何の為に説明したと思ってんだよ。
「うん、旨かったぞ!」
お前も黙れ!
「まぁそれで、どうしたもんかと考えていたところで、アニタが帰って来たってわけだ。」
「そうなのね。とりあえず、晩御飯にしよう。」
何も考えてねぇな。ってか放棄しやがっただろ。
「あの、私は帰りますね。」
「え、何でよ?食べていかないの?」
普通、この状況なら遠慮するわな。アニタの感覚の方が変だろ。そう思うのは、俺がこことは別世界の存在だったからなのだろうか。
「あの、これ以上ご厄介になるわけには。」
それも今更な気がするな、だったら着いて来なければいいだけだし。それでもマーレは、誰かに縋りたかったのかも知れない。
まったく、変なのに捕まったもんだ・・・アホ犬の所為で。
「気にするな、食っていけばいい。」
「そうだ。みんなで食べる方が楽しいぞ。」
「え、でも・・・」
別に気にする事でもねぇし、アニタやエリサが嫌がってるわけでもねぇ。むしろ乗り気だし、俺だけがここで異を唱えても俺がつまらない思いをするだけだ。
「じゃ、決まりね。だったら、お風呂入った方がいいんじゃない?エリサ沸かしてきてよ。」
「おう、任せろ!」
そういや、お世辞にも良い身形とは言えねぇよな。
「あの、そこまでは。」
「いいから。それと、服も綺麗にしたいわね。」
「うちに男もんの服なんかねぇだろ。」
「私のを貸してあげる。」
「なら良い。」
流石に俺の体形じゃ小さくて入らないだろう。その点、アニタなら身長もあるし、着れない事はないだろうな。
本人を置き去りに進んでいく話しに、マーレは口を挟もうとしても挟めず、困惑しているだけだった。



「あの、ありがとうございます。」
風呂上りのマーレはそこそこの好青年に見えた。まぁ、イケメンな方だろう。若い頃の俺程じゃないが。
そのマーレは気恥しそうに、両手を前にしてもじもじしている。
さっきも思ったが、女みてぇな奴だな。
「やっぱり、細身だからちょうどいいと思ったのよね。」
アニタの服もすんなり着こなしている。ちなみに、マーレの場合は細身じゃなく窶れているって言うんだがな。
「つまりアニタは意外と・・・」
「何か?」
笑顔で顎を掴むのを止めろ!

「へぇ、じゃぁ今は何もしていないんだ。」
「はい。同じ場所に住んでいる人も、同じような生活なんです。そこからどうしたらいいのか、何処に聞いたら仕事が出来るのかもわからなく。一度、仕事をしようとしたのですが、住んでいる場所を言ったら追い返されました。」
どうでもいい。
あれだ、日本で言うならホームレスに近いな。
飯を食いながらアニタが色々聞き出しているが、俺にはまったく興味がねぇ。仕事の依頼を受けるにしろ、出来れば背景とか知りたくも無いしな。
「そうだリア。」
聞きたくねぇ!
絶対ろくな事を言わないだろ。
何かを思いついたように話しかけて来るアニタにそんな事を全力で思った。
「雇ったら?」
・・・
やっぱりな。
「誰が金を払って、どこから捻出するんだよ・・・」
「リア。」
「ご主人。」
このアホ共が!なんでもかんでも軽く考え過ぎだろうが、この世界はみんなこんな感じなのか?いや、少なくともメイニはそんなアホじゃなかった。
「分かった。拾ったのはエリサだから、エリサの小遣いから払おう。それなら俺も納得だ。」
「酷いぞご主人!」
お前らの能天気さに比べればましだ。

ただ、その話しが出た時のマーレの目に、希望のような光が一瞬だけ見えた気がした。だからあんまり関わりたくねぇんだよ。
「そこまでご迷惑を掛けるわけには・・・」
「え、やっぱりここは嫌?」
やっぱりってなんだよ。
「俺の家がダメみたいじゃねぇか。そう思ってんなら出てってもいいぞ。」
「そういう意味じゃないでしょ。」
揚げ足取りのようになったがそれよりも、どういう意図で言っているのかの方が気になる。が、これ以上その事を論点にしたところで、建設的な会話になるとは思えない。
「迷惑ってのは、相手が迷惑と思って初めて迷惑になるんだ。マーレが決める事じゃねぇ。」
「その、それは・・・」
「普通に迷惑じゃないって言えばいいのに。」
だぁっ、うるせぇっ!
黙ってろアホ女。
「よし、採用は能力を聞いてからだな。」
「雇ってから伸ばすって方法もあるわよ。」
無視。
「あたしと庭で薬草育てるか?」
却下。
「料理は出来るか?」
「はい。料理教室に通っていたので、結構自信はあります。」
料理教室?
この世界にもそんなものがあるんだな。
その疑問はさておき、今までの会話の中で、マーレは一番はっきりと俺の方を見て答えた。
「よし、掃除は?」
「はい、嫌いじゃないです。どちらかと言うと細目にやる方です。」
へぇ。俺は嫌いだ。
「じゃ、採用。」
「え?」
「やったな、マーレ。ご主人の許可がおりたぞ!」
笑顔になるアニタとエリサとは別に、マーレだけが呆けた顔をしていた。

お人好しにも程があんだろ。そう思ったが、実は都合がいい気はしていた。薬の受注は無理だろうが、慣れれば販売くらい出来るだろう。それは俺とエリサがギルドに顔を出している間、店を開けておく事が可能になる。
それにアニタが仕事に行っている間の食事もそうだし、店内の清掃もそうだ。買いにかなくて済むし、そもそも掃除は嫌いだ。

「本当に、いいんですか?」
「良いって言ったんだ、聞き返すな。」
「はい。」
まったく、予定外の出来事で、出費になるな。店に置くとなると服も用意しなきゃならないだろう。今のマーレを見る限り、悪いが自分で用意出来るとも思えない。
「なぁ、帰りたいか?」
「そりゃ、自分の部屋の方が落ち着くんじゃない?」
「アニタには聞いてねぇ。」
そう言うと不服そうな顔をしたが、マーレ本人は今までの表情が消え、暗く俯いた。それが答えなんだろう。
「よし、今日はエリサの部屋に泊まってけ。」
「え!?なんであたし?」
「誰の所為でこうなったんだっけなぁ?」
「うっ・・・」
マイペースなエリサも責任というものを感じるらしい。
「あの・・・」
「嫌じゃないんなら、いちいち否定を入れるな、面倒だ。」
「はい。」
何処か困ったような顔で頷くマーレは、それでも暗さは無かった。

「後は服だな。明日買いに行くか。」
「あ、だったらその服は上げるよ。意外と似合っているし遠慮しないで。」
きつくなって入らなくなったに一票。
アニタの言葉にそんな事を思った。
「それじゃ、遠慮なく頂きます。だけど私、お金を持ってないのですが・・・」
「心配するな、先行投資だ。俺も慈善事業でやってるわけじゃねぇ、その分はそのうち回収する。」
「ありがとうございます。」

王都に来ていきなり、こんな拾い物をするとは思わなかった。生前の俺なら間違いなく放置していただろうが。だが、こんな事が起きる度に拾ってたんじゃ、きりがない無いな。ペットを飼いきれなくなって放置している奴らみたいにならなきゃいいが。



翌朝、起きると既に朝食が用意されていた。どうやらマーレがあるもので用意してくれたようだが、確かに言うだけあって美味しかった。
これでアニタに何かあっても、家での食事には困らないだろう。ついでに店内も掃除されていて、綺麗になっていた。
アニタより使えるんじゃねぇか?

それからアニタが仕事に行くと、三人で服を買いに行った。もっとも買うのはマーレの分だけだ。何故か女性用の服を選びに行ったので、男性用に矯正。なんか女みたいと思っていたんだが、まさか行くとは思わなかった。
着まわせる分の服を買うと、その足でそのままギルドへ結果を聞きに向かう。



「結果は?」
「うん、出てるよ。早速聞く?」
「聞く!」
聞く以外の選択肢があんのかよ・・・
「導入用なので、判定結果はLV10までしかないの。まずエリサからいくね。」
なるほど、LV10ねぇ。LVって、本当にゲームだよな。何度目か分からないが、そんな事を思った。
「耐久はそれほどでもないけど、力と速さは最大値。それに伴う戦闘力も最大なんだけど、技術的にはLV8かな。ちなみに知識関係はすべてLV1ね。」
「ぷっ。」
「笑うな!ご主人よりは強いぞ!」
ふん、まだ俺の結果を聞いてもないだろうが。
「次リアちゃんね。戦闘能力系はエリサと逆ですべてLV1。」
「ご主人は貧弱だな。」
「うるせぇアホ犬。」
「犬じゃない!」
「黙って聞こうか?」
『はい。』
サーラの顔は笑顔だったが、只ならぬ重圧を感じてエリサと同様に返事をしてしまった。メリアの時はこんな雰囲気なんか無かったが、この妹は胸だけじゃなく威圧もただ者じゃねぇ。
そんな事を思わされた。
「残念だけど、導入じゃ計れないみたい。一応、薬関係の知識はすべてLV10だけど、結果が完璧だったから、出来れば上位検定受けた方がいいんじゃないかな。」
面倒くせぇ。
「いいじゃねぇか、それで。」
「ギルドとしても正確な数値を把握しておきたいの。」
そりゃギルドの勝手だな。俺は仕事さえ受けれればいいから、別にLV10でも構わない。
「それに、LVが高いほど難しい依頼が来るから、必然と報酬も良くなるよ。」
そんな事は分かっている。普通に考えればそうなるだろう。ただ、依頼にもよるが俺の場合戦闘が主じゃない。大した依頼じゃなくても、信頼や伝手から大きな依頼になる可能性だってありうる。
それもLVの高い方が確度はあがるってのも分かるが、面倒だな。

仕方が無い、受けるか。
今まではたまたま運が良かっただけだ。普段から黒い話しなんて転がり込んじゃ来ないだろう。唯一あるとすればメイニだが、手を広げない限り滅多に来ない事になる。メイニが紹介してくれる事に期待していては、結局街の薬屋で終わる可能性が高い。
そんなのは俺の望みじゃねぇ。あんな場所で、街の薬屋でのんびり暮らすなんて、そんなつまらない人生で終わるために俺は存在しているんじゃねぇ。

生前は平凡なサラリーマンだったんだ。また同じ様な生き方なんて、面白くもなんともねぇからな。

「いいぜ、どうやったら受けれる?」
「あたしも受ける!」
「良かった。ここから先はギルドでは受けれないから、検定場に行く必要があるの。そこで本格的な内容について計れるから。」
うげ・・・
検定場まであるのかよ。
「ところで、そっちの人は?」
サーラは一緒に連れて来ていたマーレの方を見て聞いて来る。
「あ、マーレと言います。」
「ギルドに入るの?」
「いえ、私は着いて来ただけですから。」
「うちで新しく雇ったんだ。」
おかしいな、マーレの奴、目の間に凶器があるのに興味もなさそうだ。普通、男なら見るだろ。
「そっか。ところで、薬の依頼なら回せそうなのが2件あるけど、見る?」
お、早速か。
「あぁ。」
「あたしのは?」
「残念、エリサ向きのは今はないの。ちょっと待っててね。」
サーラがカウンターの奥に依頼を確認しに行くと、マーレの方を見る。
「此処でも仕事は出来るらしいぞ、登録すれば。」
言ってみたら、少し困った顔をした。
「まだ、慣れてなくて。もう少し慣れたら、考えてみます。」
「そうか。」
何に慣れてないのかは知らないが、面倒なんで聞く気は無い。

それから俺は、2件の依頼を受けて家に戻ると、店を開けた。依頼内容は大した事のない薬の納品だったが、これからだ。
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