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「マリカ。おまえの生まれた国の話を聞かせて貰えるか」
静かな声で問いかけられ、マリカはほっと息をついた。
「はい」
きっとこの国のために決断してくれたのだろう。
居室に戻りソファーに座ると、二人の前にお茶とお菓子が並べられた。
執事が部屋を出ていくと、室内が静寂に包まれる。
レオンハルトは無言でマリカを抱きしめた。
「レオンハルト様、聞いていただけますか?」
「ああ」
「ネーベル王国は妖精の守護で栄えてきた国です。数千年の間、外の世界から霧で隔絶され、戦争もなく平和な時を刻んできました。妖精が守護を与えるのは、王族に妖精の血が流れているからです。王族の中で時々妖精の寵愛を受ける者がおり、私の母も風の妖精王エアリオの寵を受けて私を産みました」
「時々と言ったな。今の王家で妖精を親に持つ者が他にいるのか?」
「いいえ。母の前に妖精の寵を受けたのは4代前の国王の姫だったはず」
「つまり、おまえは現王族の中で一番濃い妖精の血を引いているということか」
「はい」
レオンハルトはいよいよ暗い気持ちになった。
妖精の血が最も濃い姫――そんな娘をかの国が手放すとは思えない。
「私は生まれたときから、王太子ローレンスの妃になることが決まっていました。ローリー兄様は兄のように優しくて、私はローリー兄様に嫁ぐことに何の疑問も持たずに育ちました」
あの湖でレオンハルトと出会わなければ、マリカはあの男の妻になっていたのだろう。
今頃はあの男の子どもを産み育てていたに違いない。
「でも、この国に来てレオンハルト様に愛していただいて、何もかもが違うことに気付いたのです。兄を慕う気持ちと殿方を愛する気持ちは全く別のものであることを知ったのです」
マリカの言葉に偽りがあるとは思わない。本当にそう思っているのだろう。
それでも、ローレンスに会えば心変わりするかもしれない。それほどあの男は美しかった。
褐色の肌のいかつい獣人とはあまりにも違う典雅な男――マリカの隣に並べば誰もが似合いの二人と思うに違いない。
「レオンハルト様、どうか私を信じてください。私が愛している殿方はレオンハルト様だけです」
マリカの小さな手が頬に添えられ、レオンハルトの唇に柔らかなマリカの唇が寄せられた。
チュッと可愛らしい音がレオンハルトをたまらない気持ちにさせる。
「マリカ。おまえを誰にも渡さない」
膝に乗せたマリカを、縋るように抱きしめる。
「レオンハルト様。私はレオンハルト様の傍におります。貴方を愛しているから」
「マリカ……」
柔らかな唇を食み、小さな舌を絡めとる。舌も手も顔も、子どものような小ささだ。
記憶がないのをいいことに、自分の妻にした。
何も知らない少女だったマリカに淫らなことを教え、子を孕ませ、自分だけを頼るように仕向けた。
こんな卑怯な男をマリカは愛しているという。
ならばレオンハルトもマリカを信じるしかない。
「病み上がりの身体での遠出はきつい。よく休んでおけ」
「レオンハルト様……ありがとうございます」
明日、会いに行く許可を口にすると、マリカは涙の浮かんだ菫色の瞳でレオンハルトを見上げた。
レオンハルトは祈るような気持ちで華奢な身体を抱きしめることしかできなかった。
静かな声で問いかけられ、マリカはほっと息をついた。
「はい」
きっとこの国のために決断してくれたのだろう。
居室に戻りソファーに座ると、二人の前にお茶とお菓子が並べられた。
執事が部屋を出ていくと、室内が静寂に包まれる。
レオンハルトは無言でマリカを抱きしめた。
「レオンハルト様、聞いていただけますか?」
「ああ」
「ネーベル王国は妖精の守護で栄えてきた国です。数千年の間、外の世界から霧で隔絶され、戦争もなく平和な時を刻んできました。妖精が守護を与えるのは、王族に妖精の血が流れているからです。王族の中で時々妖精の寵愛を受ける者がおり、私の母も風の妖精王エアリオの寵を受けて私を産みました」
「時々と言ったな。今の王家で妖精を親に持つ者が他にいるのか?」
「いいえ。母の前に妖精の寵を受けたのは4代前の国王の姫だったはず」
「つまり、おまえは現王族の中で一番濃い妖精の血を引いているということか」
「はい」
レオンハルトはいよいよ暗い気持ちになった。
妖精の血が最も濃い姫――そんな娘をかの国が手放すとは思えない。
「私は生まれたときから、王太子ローレンスの妃になることが決まっていました。ローリー兄様は兄のように優しくて、私はローリー兄様に嫁ぐことに何の疑問も持たずに育ちました」
あの湖でレオンハルトと出会わなければ、マリカはあの男の妻になっていたのだろう。
今頃はあの男の子どもを産み育てていたに違いない。
「でも、この国に来てレオンハルト様に愛していただいて、何もかもが違うことに気付いたのです。兄を慕う気持ちと殿方を愛する気持ちは全く別のものであることを知ったのです」
マリカの言葉に偽りがあるとは思わない。本当にそう思っているのだろう。
それでも、ローレンスに会えば心変わりするかもしれない。それほどあの男は美しかった。
褐色の肌のいかつい獣人とはあまりにも違う典雅な男――マリカの隣に並べば誰もが似合いの二人と思うに違いない。
「レオンハルト様、どうか私を信じてください。私が愛している殿方はレオンハルト様だけです」
マリカの小さな手が頬に添えられ、レオンハルトの唇に柔らかなマリカの唇が寄せられた。
チュッと可愛らしい音がレオンハルトをたまらない気持ちにさせる。
「マリカ。おまえを誰にも渡さない」
膝に乗せたマリカを、縋るように抱きしめる。
「レオンハルト様。私はレオンハルト様の傍におります。貴方を愛しているから」
「マリカ……」
柔らかな唇を食み、小さな舌を絡めとる。舌も手も顔も、子どものような小ささだ。
記憶がないのをいいことに、自分の妻にした。
何も知らない少女だったマリカに淫らなことを教え、子を孕ませ、自分だけを頼るように仕向けた。
こんな卑怯な男をマリカは愛しているという。
ならばレオンハルトもマリカを信じるしかない。
「病み上がりの身体での遠出はきつい。よく休んでおけ」
「レオンハルト様……ありがとうございます」
明日、会いに行く許可を口にすると、マリカは涙の浮かんだ菫色の瞳でレオンハルトを見上げた。
レオンハルトは祈るような気持ちで華奢な身体を抱きしめることしかできなかった。
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