18 / 36
18
しおりを挟む
翌朝、マリカとともに遅い朝食をとってから執務室に行くと見知らぬ獅子獣人の女が入り込んでいた。
全裸であることから、暗殺者の類ではなく体でレオンハルトを篭絡しようとしているのだろう。
ジークフリードが騎士団への出向日であることを知った上での犯行となると、この執務室の状況を知った者が手引きしたに違いない。
「私は陛下をお慰めするためにまいりました。妃殿下が身重の今、ご不自由を強いられていることと存じます。どうか私の身体をお使いください」
「今すぐその女を捕らえろ。皇帝の執務室に侵入した犯罪者だ」
護衛に命じると女は必死の抵抗を見せた。
「決して二心はありません。私は陛下の忠実なしもべです。陛下をお慰めしたいだけなのです」
おそらく大貴族の娘なのだろう。皇帝を前にしても堂々と言いたいことを主張し、豊満な身体を見せつけるように全裸で臆するところがない。
絶対的な寵愛を受けながらもことあるごとに恥ずかしそうに頬を染める可憐なつがいを思い出し、目の前の女に対する嫌悪感が増した。
「懲罰房に引っ立て、手引きした者を吐かせろ」
護衛騎士が女を立たせ、後ろ手に縄をうつ。
「お待ちください。私は陛下をお慰めしに来ただけで、執務室のものは一切見ていません。決して罪など犯していません」
女はスパイとして捕らわれたと思ったらしく、言い訳を始めた。
「この部屋に無断で侵入し、皇妃と皇帝を侮辱したことがキサマの罪だ」
「そのようなこと、決してしておりません。私はただ妃殿下の代わりに陛下をお慰めしたいだけです」
「キサマがマリカの代わりだと? 愚弄にも程がある」
「誠心誠意努め、きっと陛下をご満足させていただきます。どうか縄を解いてくださいませ」
豊満な胸を差し出すように流し目を送る女に嫌悪感が募る。
「その体がよほど自慢とみえる。取り調べが終わり裏をとったら王城前の噴水広場で10回鞭を打て。終わるまで服を与えることを禁ずる」
刑罰の鞭は一回撃たれただけでも大の男が泣き叫ぶ代物だ。
女の顔が一気に蒼褪めた。
「そんな。私は無実です。ただ陛下をお慰めしようとしただけですのに」
「キサマの存在自体が不快だ。これ以上ここで見苦しい体を晒すのなら、キサマの家の者も全員連座とする」
「嫌っ! 嫌よ! 放しなさい。私を誰だと思っているの? こんな扱い許さないから!」
女は喚き散らしながら連行されていった。
レオンハルトは執務机に座り溜息をついた。一刻も早く仕事を片付け、マリカの肌に触れたい。不快な出来事で削られた心には癒しが必要だ。
レオンハルトはいつにもまして真剣に執務に取り組み、その手際の良さで補佐官を驚かせた。
全裸であることから、暗殺者の類ではなく体でレオンハルトを篭絡しようとしているのだろう。
ジークフリードが騎士団への出向日であることを知った上での犯行となると、この執務室の状況を知った者が手引きしたに違いない。
「私は陛下をお慰めするためにまいりました。妃殿下が身重の今、ご不自由を強いられていることと存じます。どうか私の身体をお使いください」
「今すぐその女を捕らえろ。皇帝の執務室に侵入した犯罪者だ」
護衛に命じると女は必死の抵抗を見せた。
「決して二心はありません。私は陛下の忠実なしもべです。陛下をお慰めしたいだけなのです」
おそらく大貴族の娘なのだろう。皇帝を前にしても堂々と言いたいことを主張し、豊満な身体を見せつけるように全裸で臆するところがない。
絶対的な寵愛を受けながらもことあるごとに恥ずかしそうに頬を染める可憐なつがいを思い出し、目の前の女に対する嫌悪感が増した。
「懲罰房に引っ立て、手引きした者を吐かせろ」
護衛騎士が女を立たせ、後ろ手に縄をうつ。
「お待ちください。私は陛下をお慰めしに来ただけで、執務室のものは一切見ていません。決して罪など犯していません」
女はスパイとして捕らわれたと思ったらしく、言い訳を始めた。
「この部屋に無断で侵入し、皇妃と皇帝を侮辱したことがキサマの罪だ」
「そのようなこと、決してしておりません。私はただ妃殿下の代わりに陛下をお慰めしたいだけです」
「キサマがマリカの代わりだと? 愚弄にも程がある」
「誠心誠意努め、きっと陛下をご満足させていただきます。どうか縄を解いてくださいませ」
豊満な胸を差し出すように流し目を送る女に嫌悪感が募る。
「その体がよほど自慢とみえる。取り調べが終わり裏をとったら王城前の噴水広場で10回鞭を打て。終わるまで服を与えることを禁ずる」
刑罰の鞭は一回撃たれただけでも大の男が泣き叫ぶ代物だ。
女の顔が一気に蒼褪めた。
「そんな。私は無実です。ただ陛下をお慰めしようとしただけですのに」
「キサマの存在自体が不快だ。これ以上ここで見苦しい体を晒すのなら、キサマの家の者も全員連座とする」
「嫌っ! 嫌よ! 放しなさい。私を誰だと思っているの? こんな扱い許さないから!」
女は喚き散らしながら連行されていった。
レオンハルトは執務机に座り溜息をついた。一刻も早く仕事を片付け、マリカの肌に触れたい。不快な出来事で削られた心には癒しが必要だ。
レオンハルトはいつにもまして真剣に執務に取り組み、その手際の良さで補佐官を驚かせた。
0
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる