薄氷が割れる

しまっコ

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月の障りの時以外、レオンハルトは毎日マリカを抱いた。
はじめは雄芯を入れられる圧迫感が怖かったけれど、今ではマリカもレオンハルトを受け入れる喜びを感じている。 
凹凸の少ない子どものような体をひそかに気にしていたマリカだが、レオンハルトの愛撫を受けるようになってから目に見えて胸が丸く膨らみ、優しく揉みしだかれるたび自分が女になったことを実感できた。 
ただ、この国の人々の多くがマリカを歓迎していないことは肌で感じてしまう。
マリカの身の回りのことをやってくれる侍女たちは、レオンハルトとブリュンヒルデの厳しい審査を通った精鋭でマリカにとても優しくしてくれる。
しかし、そういうごく一部の人たちを除くと、多くの獣人はマリカという異物に否定的だった。 
――あの細腰で嫡子を産めるのか 
――子どもが子どもを産むようなものだ 
――なぜ陛下は後宮を解散したのか 
――獅子獣人の妾妃に嫡子を産ませるべきだ 
――あの貧弱なヒトから生まれた子が次代の王になどなれるわけがない 
以前よりも自由に城内を歩かせてもらえるようになり、城で働く者たちの何気ない会話が耳に入ってくる。それらの多くはマリカに対する懐疑と落胆の声で、マリカの心を重くした。 
 
「マリカ? 体調が悪いのか」 
きもちが塞いているせいか、朝起きたときから頭がぼうっとして食欲がなかった。
そんなマリカにレオンハルトが心配そうに問うてきた。 
居室に控えていたブリュンヒルデもマリカのことを心配して額に手を当ててくる。
「微熱があるかもしれない。カフカを呼ぼう」 
「大丈夫。体は何ともないの」 
「体以外に何か問題があるのか」 
二人に挟まれてソファーに座り、顔を覗き込まれる。
マリカは思い切って相談することにした。 
「ヒルデは今もつがいを探しているの?」 
唐突に問われ、ブリュンヒルデは面食らったようだ。 
「正直言うと諦めている。つがいが見つからなくても、私は君たち二人の騎士として充実した人生を歩むことができるだろう」 
「あのね、もし、ヒルデがつがいを諦めているのなら、レオンハルト様の妃になるというのは無理かしら」 
二人の表情が凍り付いた。 
「一体、なぜそんなことを言い出した」 
レオンハルトの声が地を這うように低くなり、マリカは泣きそうになった。 
「私ではレオンハルト様の嫡子を産めないかもしれないでしょう。もし妃にお子を産んでいただくのなら、ヒルデがいいなって……駄目?」 
上目遣いで見ると、ブリュンヒルデは頭が痛いとでも言いたげな仕草で口を開いた。
 「マリカ。私とレオンは実の姉弟も同然の関係だ。親兄弟と男女の関係にはなれないだろう?」 
マリカは眉尻を下げた。いい考えだと思ったのに――…。 
「マリカ。婚儀での俺の誓いを覚えているか。俺の妃はおまえ一人だ。俺が抱く女もおまえだけだ」 
「でも……」 
「誰かに何かを言われたのか。傍仕えか」 
マリカはぎょっとして顔をあげた。罪もない傍仕えが叱責を受けては困る。 
「違います。私が勝手に悩んでいただけで。傍仕えの者たちは全く関係ありません」 
「ならば護衛か」 
「いいえ、違います。本当です」 
「それ以外の誰かおまえの心を乱したのだな?」 
マリカの顔から血の気が引く。レオンハルトの怒りのスイッチを踏み抜いてしまったらしい。 
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