忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第1話「少年と少女の願い」

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 悪魔憑き……そう呼ばれる者達がいた。
 名を消され、忘れ去られ忘虐ぼうぎゃくと化し人々を襲う。
 等しくそれは記憶に残ろうとする懇願そのもの。

 ある日のスラム街。
 少年少女が暮らしていた。

「ノーティ! 早く! 早くしないと収穫祭遅れちゃうわ!」
 少女は少年の手を引いてスラムの広場に走って行く。

「収……穫……祭」
「そうよ、収穫祭! 年に一度の無料で食べ物が貰えるの! 去年も来たでしょ? さ!早く早く!」
 その広場にはスラムで人集りが絶えなかった。

「早く! この袋持って! 行くよ!」
 人混みをかき分けカビの生えかけたパンに手を伸ばす。
 しかし、手に取れたパンは1つだけだった。

「あぁ、1つしか取れなかったわ。これじゃ、お腹が満たされないわ」
 少女は徐にパンを半分に分け少年に渡した。

「ユア、ありが……とう」
 少年は少女に吃音気味の感謝の言葉を渡し、ゆっくり食べ始めた。

「どういたしまして、ノーティ」
 少女も少年に合わせるようにゆっくり食べ始めた。

 数日後

「ッユ、ッユアァ、ッ、どこぉ?」
 震えながらに少女を探す少年。
 しかし、どれだけ呼びかけても返事は一向にない。

「へへ、上物のガキが手に入ったぜ! やはり王国のスラムにはまだまだ捨てたもんじゃねぇな」
「んンッ! ンッ!」
「んだよガキが! じっとしてろ!」
 路地裏で数人と話していた中年ぐらいの男は縛り付けた少女を肩に抱えて何処かに連れて行こうとしていた。

「ッ、ユア!」
 少年は咄嗟に大きい声を出し、男達の元へ走ってく。

「んあ? 何だこのガキ?」
「う!」
 少年は男に蹴飛ばされ地面の上でうずくまってしまった。

「かは! 弱ぇ弱ぇ! こんなお子様が姫様を救うために勇者ごっこか! くそダセェ」
「う、うぅ……」
「うは! このガキ泣きやがった!」
(だめ、ノーティを殺さないで!!)
 
 少年は男との圧倒的な力の差を感じ。
 少女は願う。
 そして、何もできない自分への憎しみ。
 少年少女には予期せぬことだった。

「……あの力。」
 遠くから見る人影が1つ。

「ギャハハハハ! こんな泣き喚いて汚ねぇ汚ねぇ!」
「おい」
「んあ?」
 男達の前に現れる1人のフードを被った男性。
 2メートル近く背に背丈に近い太刀を背中に担ぎ、ボロボロの鎧を装着していた。

「何だ? このジジィ俺らが誰かわかってんの?」
「さぁ、知らねぇな。」
「知らねぇなら教えてやる! 俺らは闇ギルド滅亡の審判団ドゥームズデイ所属の罪人級ギルティ・クラス、ゲインだ!   覚悟しとけ!」
 ゲインと名乗る男は二刀の短剣を構え、フードの男に突撃して行った。

「だから、言ってんだろ? 知らないって」
 大きな太刀を男は一振りゲインに浴びせた
 あれほど元気のあったゲインの腕はフード男の一振りにより宙を舞った。

「あぁ……! あぁぁぁぁ!」
 ゲインは落とされた右腕を見つめ、腕を抑え、止血しようとしている。

「行くぞ、お前ら」
 フード男は少年と少女を抱き抱え、その場から逃げるように走って行った。

「お前ら、大丈夫か?」
「こ、ここは?」
「あぁ、ここは俺の家だ。悪いな嬢ちゃん何もない家で」
「いいえ、素敵なお家だわ!」
 少年と少女はフード男の住むボロボロの家に連れて来られていた。

「そうだな、先に自己紹介からするか、俺はアグルガスってんだ。王都で冒険者をしている」
「冒険者ってなぁに?」
「嬢ちゃんは知らなくてもいいことだ」
「ふぅん。私はユア! 隣にいるのがノーティ!」
 少年はこくりと頷いた。

「嬢ちゃん、坊やはなぜ話さないんだ?」
「あ、あのね。誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「あぁ、誰にも言わない。」
「ノーティは大切な人がいないの、だからに取り憑かれちゃうんだって」
「な! それは本当か!?」
「う、うん」
 少女は少しばかり涙目を浮かべていた。

「お前達は帰るところがあるのか?」
「ス、スラム街の端っこ」
「なら、ここにいなさい。」
「いいの?」
「あぁ、いつまでもここにいていいんだぞ」
「ありがとう! アグルガスさん!」
はよしてくれ」
「じゃあ、お父さん!」
「しょうが無い。今日から俺が君らのお父さんだ」
 少年ノーティ少女ユアはアグルガスによって引き取られた。

 たったの数日間の話であった。

 翌日

「今日は仕事があるから帰ってくるまで家を出るんじゃ無いぞ?」
「うん! わかったよ! お父さん!」
「ユアはいい子だな」
「えへへ」
 少女は照れくさく笑った。

 それから半日ほどしてアグルガスは帰ってきた。

「ただいま~! お前ら! 今日の飯だぞ!」
 アグルガスは酒瓶とボアの肉を持って帰ってきた。
 家族となった3人はボアの肉を頬張った。
 少年少女は腹の膨れ具合を確認し寝床で静かに寝静まった。

 そこから何事もなく幸せな1週間が過ぎた

「……」
 ある日の真夜中のことである。
 アグルガス家の前に男が1人。
 コンコン、と男は扉を叩く。

「何ですか?」
 少女は目を擦りながら扉を開けた。

「久しぶりだなぁ。お嬢ちゃん?」
 ニカニカと笑う男は片腕を無くしていた。

「い、いや!」
「さぁ、この間の続きをしよう!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
 少女の声は街中に響き渡った。

「おい! どうした!?」
 アグルガスが起きた頃には暗闇を走り抜ける薄らとした影が目に映っただけだった。

「おい坊や! 行くぞ!」
 アグルガスも少年を連れて男の影を追って行った。

「クソッ! あいつらがまた来るなんて!」
 アグルガスの家とスラム街は境界のを結ぶ直線の道沿いにあったため家を見つけるのは男にとって容易かった。

「ハァ、ハァ、ここまで来れば大丈夫だろ」
 過呼吸になった男は少女を墓地へと連れ去っていた。

「アニキィ、例の女を持って来やしたぜ!」
「おぅ、それはご苦労だったな。じゃ、お役御免だ」
「へ?」
 誘拐犯、ゲイン。
 彼の仕事は少女の誘拐のみ。
 闇ギルドの男により斬首となり命を絶った。

「いやぁぁぁぁ!!」
 ゲインの首は少女の元へと転がっていく。

「おい! こいつの死体片付けろ」
「ヘイ、アニキ」
 闇ギルドの男は扉の向こうにいた別の男を呼び出した。

「う……うぅ、ううううう!」
「うわ、汚ね。早く売っぱらうか」
「い、いや」
「抵抗してんじゃねぇよガキが!」
「イタッ!」
 男は少女の頬に1発平手打ちをくらわせた。

「あまり顔を傷つけるな。商品価値が下がる」
「すいやせん。アニキ」
 男は無理矢理少女の手を引く。

 ドンドン

「あ? なんだ? こんな時に」
 闇ギルドの男はドンドンと叩く音のする玄関口を開けようと手を掛ける。

「……?」
 闇ギルドの男が感じたのは妙な違和感。
 叩く音から感じる焦燥。

「おい! お前ら! その女を早く連れて行け! 追手が来てるぞ!! それ以外はお迎えだ!」
「「ヘイ!!」」
 息の合った声に武器を持った闇ギルド部下たちがゾロゾロと入り口、裏出口、全てを塞ぐように揃った。
 闇ギルドの男は1番奥の扉へと下がって行く

 ガン、とアグルガスは扉を蹴破る。

「「オラァァ!」」
 闇ギルドの部下たちは武器をアグルガスに向け襲い掛かる。

「邪魔だ!」
 アグルガスの太刀は怒りと焦りの感情があらわとなって敵を斬り裂く。
 アグルガスは部下たちを倒し少女を追いに奥の部屋へと進む。

「ハァ、ハァ、弱くても数が多いな」
 アグルガスの体はボロボロになり、最後の扉を開けた。

「よく、ここまでたどり着いたな」
 少女の身を拘束し首に刃物を突きつけていた。

「お前、その子をどうするつもりだ!?」
「どうするも何も売るんだよ! 女は金になる!」
「お前、ゲスだな」
 アグルガスは男に向けて斬り掛かる。

「喧嘩っ早いなぁ」
 アグルガスの太刀を男は軽くあしらう。

「どうした、どうした? 攻撃が当たんねぇな!」
「グッ……」
 アグルガスの攻撃が何度も何度もあしらわれている。

「なぜ当たんない!」
「お前の攻撃が単純だからだよ!」
「うぅ!!」
 アグルガスの肩から腹にかけて一直線の切り傷をつけた。

「ハハッ! お前、弱ぇな! 『卑剣のアグルガス』の名が廃れるぜ!!」
「やめろ! その名は捨てたんだ!」
「あ? お前が捨ててもお前が稼げば稼ぐほどその二つ名は消えねぇんだよ!」
「うぐっ!」
 アグルガスの腹に男の剣が突き刺さりアグルガスはそのまま倒れてしまった。

「あ、あ、アグ、アグルガス?」
 少年は倒れたアグルガスに近寄る。

「終わりだ終わり。さっさとこのガキ売っぱらうか」
「まだだ。」
「あ?」
「その子を離せ!」
「負けたくせに生意気言ってんじゃねぇよ!」
「うぐッ!」
 男はアグルガスの傷に蹴りを入れる。
 アグルガスは負けじと立ち上がる。

「はは、ハハハッ! 面白れぇ! 『卑剣のアグルガス』! お前が死ぬ前に俺の名を教えてやる!」
「痛っ!」
 男は少女を壁に投げ飛ばす。

「俺は闇ギルド滅亡の審判団ドゥームズデイ、〈罪人級ギルティ・クラス〉幹部イーニエスト・グラス!」
「Bクラス冒険者、アグルガス! 行くぞ!」
「かかって来い!」
 イーニエスト、アグルガスは相違に一振りの剣技をぶつける。

「すまない」
 アグルガスは血を垂れ流し床に倒れ込んだ

「あ~あ、終わっちまった。さて、今度こそ売りに行くか」
「あ、あ、ああぁぁぁぁぁあああ!!!」
 少年は泣き崩れ叫んだ。

「うるせぇガキだな、殺すか」
 イーニエストは少年に剣を振り下ろす。

「ダメっ!!」
 少年の目の前で少女は血を流していた。

「ユ、ユア?」
「大丈夫よ? ノーティ。私は居なくなっちゃうけど、あなたは生きるの。」
「い、いやぁ」
「ダメっ! 生きるの! あなたは私の分まで生きるの!」
 少女ユアは力付き、その場に倒れる。

「ッユ、ッユアぁユアぁ。」
「お子様のごっこは終わりか? じゃ、今度こそ死ね。」

 (お願い。神様。ノーティを、助けて)

「う、うぅ。うぅあぁぁぁぁ!!!」
「な、なんだ!? なんだ、この!! こいつだったのか!!」
 悪魔憑き。
 大切な者から忘れ去られた者は忘虐と化し人々を殺し回る。

「グルぁぁぁぁ!!!」
「ひぃぃ!! や、やめろ! やめろ! 悪魔憑きめが!」
「グルぁぁぁぁ!!」
 黒い瘴気に包まれ、鋭い牙に爪、悪魔のような角も生え、まさに悪魔。

「うぁぁぁぁ!! ウッ!!!」
 悪魔となった少年の爪はイーニエストの胴体を軽々と斬り裂いた。

「ここにも、悪魔憑きがおったか。」
「グルぁ?」
 ノーティの前に突如として現れた1人の少女。

「お主をここで始末する!」
 少女は少年に杖を向ける。
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