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第1章
はじめまして
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クロワッサンへの未練を諦めきれないまま、切なげな目で窓の外を見ていたキアラがどう見えたのか、向かい側に座る同乗者が申し訳なさそうに口を開いた。
「その…急なお話となり、申し訳ございませんでした。忙しなくご実家を後にさせてしまい…」
「え?あ、ああ!大丈夫ですわ。不安ですとかそういうことではございませんから。オホホホ…」
まさか朝食を食べ損ねたことが名残り惜しくてなんて言えるわけもなく。
おそらく彼は、若い娘が突然家族と離れることに心細さを感じているのだろうと心配してくれているのだ。
なお、キアラにその気持ちがないわけではない。
順位としてはかなり後ろの方にあるだけで。
「貴女のようなご令嬢を突然一人で王城にやるなど、ご両親もさぞ心配されているでしょう。」
「そうですわね。(私が甘いものにかまけて依頼されたことを蔑ろにするのではないか)心配しておりましたわね。」
さすがに王族の方に対してそんなことするわけないのに。
また遠い目で窓の外をみてしまった。
すると、向かいに座る彼が慌てたように言い募る。
「もしオルティス侯爵令嬢に不遜な態度をとるような輩がいれば、王国騎士団員にお申し付けください!」
「不遜…?あ、ええ、ご配慮いただきありがとうございます。」
お礼を言って微笑むと、騎士の彼は戸惑うようにして俯いてしまった。
何か気に障ったのだろうか。
確かに何の話かはよく分からなかったが、困ったことがあれば相談してよいということだと思って礼を述べたのだが…。
「そういえば、お名前を伺っていませんでしたわね。失礼いたしました。」
「あ!こちらこそ名乗りもせず失礼いたしました。王国騎士団第一部隊隊員イーサン・ノークと申します。道中の護衛を仰せつかっております。以後、お見知り置きを。」
「よろしくお願いいたします、ノーク様。」
「様だなんて…」
と言って頬をかく彼は、キアラよりも幾らか幼く見える。
陽に当たると明るく艶めく少し癖のある茶髪に、太めの眉とくっきり二重がキリリとした、なかなかの美少年だ。
話し方からも、真面目で控えめなことがうかがえる。
「ノーク様は、私の今後について何かご存知なのですか?」
「いえ、私は隊長命令でお迎えを仰せつかっただけです。ただ、急遽決まったことで、オルティス侯爵令嬢も戸惑っておいでかもしれないと、隊長は気にされておいででした。」
「まあ、皆さんお優しい方ばかりなのですね。そのお話だけで幾分安心いたしましたわ。」
自分は大丈夫だと笑顔で暗に伝えてみたのだが、ノークはまたしてもモジモジと顔を俯けてしまった。
隊長のバカとか、僕に免疫がないからってとか聞こえるが何のことだ。
あと、顔が赤いのは光の加減だろうか。
「ノーク様、ご気分でも悪いのですか?」
「い、いいえ!ピンピンしています!なんでもありません!」
「はあ…」
ああ、なるほど。
エマの言っていたとおり、男性との会話とは思ったよりも難しいものなのだなとキアラは一人納得した。
その後もノークは何とか話をしてキアラの緊張をほぐしてくれようとするのだが、(実を言うと緊張はそれほどしていないのだが)キアラが笑うたびに俯いてしまうので、それには困ってしまった。
「ま、眩しい…!」
「え、眩しいですか?カーテンを引きましょうか?」
「いえ、それはあまり意味ないので…!」
のくだりが一番不可思議だった。
そうして1時間後、ようやく王城に着いたときには、なぜかノークの方がグッタリとしていた。
なぜだどうしてこうなった。
初見のときよりやつれたように見えるノークに再びエスコートされて馬車から降りると、謁見の間なる広間に案内すると言う。
静々とノークに付き従って進むうちに、あることに気がついてしまった。
私、今、ものすごくお腹減ってるわ…!
謁見の時間が途端に気になり始めるのだった。
「その…急なお話となり、申し訳ございませんでした。忙しなくご実家を後にさせてしまい…」
「え?あ、ああ!大丈夫ですわ。不安ですとかそういうことではございませんから。オホホホ…」
まさか朝食を食べ損ねたことが名残り惜しくてなんて言えるわけもなく。
おそらく彼は、若い娘が突然家族と離れることに心細さを感じているのだろうと心配してくれているのだ。
なお、キアラにその気持ちがないわけではない。
順位としてはかなり後ろの方にあるだけで。
「貴女のようなご令嬢を突然一人で王城にやるなど、ご両親もさぞ心配されているでしょう。」
「そうですわね。(私が甘いものにかまけて依頼されたことを蔑ろにするのではないか)心配しておりましたわね。」
さすがに王族の方に対してそんなことするわけないのに。
また遠い目で窓の外をみてしまった。
すると、向かいに座る彼が慌てたように言い募る。
「もしオルティス侯爵令嬢に不遜な態度をとるような輩がいれば、王国騎士団員にお申し付けください!」
「不遜…?あ、ええ、ご配慮いただきありがとうございます。」
お礼を言って微笑むと、騎士の彼は戸惑うようにして俯いてしまった。
何か気に障ったのだろうか。
確かに何の話かはよく分からなかったが、困ったことがあれば相談してよいということだと思って礼を述べたのだが…。
「そういえば、お名前を伺っていませんでしたわね。失礼いたしました。」
「あ!こちらこそ名乗りもせず失礼いたしました。王国騎士団第一部隊隊員イーサン・ノークと申します。道中の護衛を仰せつかっております。以後、お見知り置きを。」
「よろしくお願いいたします、ノーク様。」
「様だなんて…」
と言って頬をかく彼は、キアラよりも幾らか幼く見える。
陽に当たると明るく艶めく少し癖のある茶髪に、太めの眉とくっきり二重がキリリとした、なかなかの美少年だ。
話し方からも、真面目で控えめなことがうかがえる。
「ノーク様は、私の今後について何かご存知なのですか?」
「いえ、私は隊長命令でお迎えを仰せつかっただけです。ただ、急遽決まったことで、オルティス侯爵令嬢も戸惑っておいでかもしれないと、隊長は気にされておいででした。」
「まあ、皆さんお優しい方ばかりなのですね。そのお話だけで幾分安心いたしましたわ。」
自分は大丈夫だと笑顔で暗に伝えてみたのだが、ノークはまたしてもモジモジと顔を俯けてしまった。
隊長のバカとか、僕に免疫がないからってとか聞こえるが何のことだ。
あと、顔が赤いのは光の加減だろうか。
「ノーク様、ご気分でも悪いのですか?」
「い、いいえ!ピンピンしています!なんでもありません!」
「はあ…」
ああ、なるほど。
エマの言っていたとおり、男性との会話とは思ったよりも難しいものなのだなとキアラは一人納得した。
その後もノークは何とか話をしてキアラの緊張をほぐしてくれようとするのだが、(実を言うと緊張はそれほどしていないのだが)キアラが笑うたびに俯いてしまうので、それには困ってしまった。
「ま、眩しい…!」
「え、眩しいですか?カーテンを引きましょうか?」
「いえ、それはあまり意味ないので…!」
のくだりが一番不可思議だった。
そうして1時間後、ようやく王城に着いたときには、なぜかノークの方がグッタリとしていた。
なぜだどうしてこうなった。
初見のときよりやつれたように見えるノークに再びエスコートされて馬車から降りると、謁見の間なる広間に案内すると言う。
静々とノークに付き従って進むうちに、あることに気がついてしまった。
私、今、ものすごくお腹減ってるわ…!
謁見の時間が途端に気になり始めるのだった。
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