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肩を掴まれて、彼の方へと向きを変えられてしまう。
薄暗い中、左方から差し込む夕陽の光が私と彼を半々に照らす。
私と同じように彼の頬が赤く染まっているのは夕陽のせいなのか、それとも同じ緊張を感じているのか分からない。
するりと左手を掴まれて、彼の両手で包まれる。
「リルレットの手は暖かいな」
「そうでしょうか……ユリウスとそう変わらないですよ」
「暖かいさ、とても心地いいから……ずっと繋いでいたいと言えば君は困るかい?」
「ずるいです。嫌だなんて言うはずないの分かって言ってますよね」
「そうだね、ずっと繋いでいよう。僕は手放す気はないからさ」
左手の指が開かれ、薬指にさりげなくはめられたのは青色に輝く宝石が煌めく指輪だった。
あまりにも自然にはめられて言葉が出せないでいると、彼と私の指は交差して絡み合う。
「これからずっと僕と一緒にいてくれる? 補佐官としてだけでなく、リルレット・フロスティアとして……」
「…………いつも、いつもずるいです。貴方はそうやって私を驚かすようにしてきて」
「その照れた顔が大好きだからね」
本当に……ずるくて、狡猾な貴方が私は大好きだ。
私の照れた顔が好きな貴方と同じように、そうやっていたずらっぽく笑う表情が好き。
でも、たまには私から仕掛けてもいいだろう。
「ユリウス」
「どうしたの……––––っ!!」
彼の服の襟を掴み、顔を引き寄せて口付けを交わす。
私からの突然のキスに顔を真っ赤にするユリウスを見て頬を緩めてしまう。
「私はずっと貴方の背中を守ります。だから私の背中を頼みますね? 一生……お互いにね」
彼は照れた顔のまま、私と額を合わせる。
お互いの熱い息を感じられる距離で見つめあい、頬は互いに赤く染まり瞳は期待で潤む。
「リルレットが甘えるのは今かな?」
「っ……今のではダメですか?」
「ダメ、満足できない」
抱き絞められながら、彼の方から唇を重ねてくれる。
今までとは違って少しだけ強くて、甘い吐息が漏れ出てしまうようなキス。
激しく高鳴る鼓動はお互いに共鳴するように身体を揺らして熱を上げていく。
「ん……」
漏れ出る声が恥ずかしくて、頬が赤くなる。
手……どこに置けばいいか分からない、頭がぼうっとして何も考えられない。
呼吸する事さえ忘れてしまう、それ程まで熱がこもっていた。
気を抜けば足から崩れ落ちてしまいそうで、彼の腕をしがみつくように掴む。
私達を照らしていた夕陽が傾き、重なり合う影が仄暗い部屋の暗闇へと溶け込んでしまう。
暗闇に染まった部屋の中で、そっと唇が離れていく。
「これ以上は、まだ少し我慢だね」
「こ……これ以上とは?」
私は顔を真っ赤にしながら尋ねると彼はくつくつと笑う。
「僕に言わせる? リルレットは分からないのかな?」
顔が再び近づいて、暗くても表情はよく分かる。
彼の表情はまたいたずらっ子のような、見慣れた笑みを浮かべていたから。
「答えはもしかすると……リール君なら知っているかもね」
「……またからかってますね」
「ごめん、ずっと一緒に居られると思ったら嬉しくてつい、ね」
呟いた彼は私の手を握って引いた。
向かう先は執務室の外であり、私は首を傾げて思わず問いかける。
「あの、何処か行くの?」
「もちろん、これからギーデウス伯にも会って正式に僕らの事を伝えに行こう。僕のフロスティア家にも君の覚悟が決まり次第に直ぐに向かうよ」
「い、いきなりですね。ユリウスの覚悟はできているのですか? 相手は私の父ですよ」
返す彼の笑みは当たり前だというように余裕の笑みだ。
薄目で私を見つめて、くすりと笑いながら頷く。
「覚悟なんてずっと前から決まってるよ。色々とあってむしろ我慢してたぐらいさ、誰かに邪魔立てされる前に早く君と式を挙げたい。だから僕らの関係を早く皆に伝えに向かおう」
「そ、そんなに真っ直ぐに見つめて言わないでください。もう貴方のつ……妻なのは変わらないでしょう?」
「……ごめん、やっぱり行くのは後にしよう。もう一回言ってくれないだろうか?」
「っ!! 早く行きますよ、続ければ準備の時間さえ無くなりそうですから」
「妻……改めて君が言うと胸が破裂しそうな程に嬉しいよ。お願いだからもう一度……」
「い! き! ますよ!」
今度は私が彼の手を引いて執務室を出ていく。
笑い合って進むこの時間がとても嬉しくて、手放したくない程に幸せだ。
私の初恋が踏みにじられた時、死を考えてしまう程に人生を悲観した。
だけど、自由に生きてみようと考えて良かったと共に歩くユリウスの横顔を見て実感する。
騎士となり、新たな道を踏み出せば幸せを掴む事ができた。
もちろん、こんな都合よく人生は転がらない事は分かっている。
不正解ばかり、正解なんて分からない……だって私達は人生一回目の新人だ。
だからこそ、これからもやりたいように自由に生きていこう。
きっと……それがなによりも後悔しない選択になるだろう。
「私……幸せだよ、ユリウス」
不意に彼の頬にキスを落とすと、また照れた顔を浮かべてくれる。
そんな貴方が愛おしく……大好きだ。
ユリウス、これからも自由に生きていこうね。
薄暗い中、左方から差し込む夕陽の光が私と彼を半々に照らす。
私と同じように彼の頬が赤く染まっているのは夕陽のせいなのか、それとも同じ緊張を感じているのか分からない。
するりと左手を掴まれて、彼の両手で包まれる。
「リルレットの手は暖かいな」
「そうでしょうか……ユリウスとそう変わらないですよ」
「暖かいさ、とても心地いいから……ずっと繋いでいたいと言えば君は困るかい?」
「ずるいです。嫌だなんて言うはずないの分かって言ってますよね」
「そうだね、ずっと繋いでいよう。僕は手放す気はないからさ」
左手の指が開かれ、薬指にさりげなくはめられたのは青色に輝く宝石が煌めく指輪だった。
あまりにも自然にはめられて言葉が出せないでいると、彼と私の指は交差して絡み合う。
「これからずっと僕と一緒にいてくれる? 補佐官としてだけでなく、リルレット・フロスティアとして……」
「…………いつも、いつもずるいです。貴方はそうやって私を驚かすようにしてきて」
「その照れた顔が大好きだからね」
本当に……ずるくて、狡猾な貴方が私は大好きだ。
私の照れた顔が好きな貴方と同じように、そうやっていたずらっぽく笑う表情が好き。
でも、たまには私から仕掛けてもいいだろう。
「ユリウス」
「どうしたの……––––っ!!」
彼の服の襟を掴み、顔を引き寄せて口付けを交わす。
私からの突然のキスに顔を真っ赤にするユリウスを見て頬を緩めてしまう。
「私はずっと貴方の背中を守ります。だから私の背中を頼みますね? 一生……お互いにね」
彼は照れた顔のまま、私と額を合わせる。
お互いの熱い息を感じられる距離で見つめあい、頬は互いに赤く染まり瞳は期待で潤む。
「リルレットが甘えるのは今かな?」
「っ……今のではダメですか?」
「ダメ、満足できない」
抱き絞められながら、彼の方から唇を重ねてくれる。
今までとは違って少しだけ強くて、甘い吐息が漏れ出てしまうようなキス。
激しく高鳴る鼓動はお互いに共鳴するように身体を揺らして熱を上げていく。
「ん……」
漏れ出る声が恥ずかしくて、頬が赤くなる。
手……どこに置けばいいか分からない、頭がぼうっとして何も考えられない。
呼吸する事さえ忘れてしまう、それ程まで熱がこもっていた。
気を抜けば足から崩れ落ちてしまいそうで、彼の腕をしがみつくように掴む。
私達を照らしていた夕陽が傾き、重なり合う影が仄暗い部屋の暗闇へと溶け込んでしまう。
暗闇に染まった部屋の中で、そっと唇が離れていく。
「これ以上は、まだ少し我慢だね」
「こ……これ以上とは?」
私は顔を真っ赤にしながら尋ねると彼はくつくつと笑う。
「僕に言わせる? リルレットは分からないのかな?」
顔が再び近づいて、暗くても表情はよく分かる。
彼の表情はまたいたずらっ子のような、見慣れた笑みを浮かべていたから。
「答えはもしかすると……リール君なら知っているかもね」
「……またからかってますね」
「ごめん、ずっと一緒に居られると思ったら嬉しくてつい、ね」
呟いた彼は私の手を握って引いた。
向かう先は執務室の外であり、私は首を傾げて思わず問いかける。
「あの、何処か行くの?」
「もちろん、これからギーデウス伯にも会って正式に僕らの事を伝えに行こう。僕のフロスティア家にも君の覚悟が決まり次第に直ぐに向かうよ」
「い、いきなりですね。ユリウスの覚悟はできているのですか? 相手は私の父ですよ」
返す彼の笑みは当たり前だというように余裕の笑みだ。
薄目で私を見つめて、くすりと笑いながら頷く。
「覚悟なんてずっと前から決まってるよ。色々とあってむしろ我慢してたぐらいさ、誰かに邪魔立てされる前に早く君と式を挙げたい。だから僕らの関係を早く皆に伝えに向かおう」
「そ、そんなに真っ直ぐに見つめて言わないでください。もう貴方のつ……妻なのは変わらないでしょう?」
「……ごめん、やっぱり行くのは後にしよう。もう一回言ってくれないだろうか?」
「っ!! 早く行きますよ、続ければ準備の時間さえ無くなりそうですから」
「妻……改めて君が言うと胸が破裂しそうな程に嬉しいよ。お願いだからもう一度……」
「い! き! ますよ!」
今度は私が彼の手を引いて執務室を出ていく。
笑い合って進むこの時間がとても嬉しくて、手放したくない程に幸せだ。
私の初恋が踏みにじられた時、死を考えてしまう程に人生を悲観した。
だけど、自由に生きてみようと考えて良かったと共に歩くユリウスの横顔を見て実感する。
騎士となり、新たな道を踏み出せば幸せを掴む事ができた。
もちろん、こんな都合よく人生は転がらない事は分かっている。
不正解ばかり、正解なんて分からない……だって私達は人生一回目の新人だ。
だからこそ、これからもやりたいように自由に生きていこう。
きっと……それがなによりも後悔しない選択になるだろう。
「私……幸せだよ、ユリウス」
不意に彼の頬にキスを落とすと、また照れた顔を浮かべてくれる。
そんな貴方が愛おしく……大好きだ。
ユリウス、これからも自由に生きていこうね。
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