26 / 49
24
しおりを挟む
補佐官となってからいつも訪れていた執務室のはずなのに、扉をノックする事にとても緊張して胸が大きく鼓動する。
緊張の中には恐怖心も混ざる。
アルフレッドに恋していた時、彼は突然理由もなく私から離れしまった。
嫌われた理由が私にも分からない、失礼な事をした記憶なんてない。
だからこそ、ユリウス様にも同じように嫌われてしまうのが怖くて仕方ない。
けど、突っ立ているわけにもいかない。
大きく深呼吸をして、扉を数回ノックすると優しい声色で「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します」
入った瞬間だった。
手を引かれて壁に押し当てられ、ユリウス様と視線を合わせる。
彼は、憂いを帯びた瞳で私を見つめていた。
「不安だったよ。待つのは怖い」
「ユリウス様も……怖いと思うのですね」
「僕は臆病だから。誰かに君を奪われるのではないかとずっと心配してしまう」
話し出せばいつも通りなのに、お互いに視線を外せない。
ドクドクと大きな鼓動はどちらから鳴っているのか、分からなかった。
「ユリウス様は……いつから想ってくれていたのですか?」
私の問いに彼はふっと微笑む。
「本当は騎士団から追い出す気だった。性別を偽って騎士団に入団してきた君に甘くみるなと厳しい鍛錬を強いて諦めさせようとしたのに……諦めるどころか喜々として僕のしごきについてきた、思えばその時に惹かれていた」
彼はそっと私の髪を一房すいて、頬に手を当てる。
「キッカケはマルクに僕の噂を吹聴されている事が聞こえて胸がざわついた事。否定したくて出かけた日、僕の代わりに泣いてくれた優しい君を手放したくないと思ってしまった」
彼は顔を近づけ、息の当るような距離となる。
耳元で囁かれるような声に、頭がポーッとしてしまう。
「僕は話したよ? 次は君だ」
「近い……ですよ。恥ずかしいです」
「今まで我慢させられたからね。これぐらいは我慢してよ」
きっと……照れる私を見たいのだろう。
恥ずかしいが、別にユリウス様になら見られてもいいと思ってしまう。
それぐらい、私は彼の事が。
「私は、酒場での時に気持ちが分かりました。それまでは厳しい指導を強いるユリウス様を悪魔だと思ってましたよ」
「知ってる」
いたずらっぽく小さく笑うユリウス様に私からそっと手を当てる。
意外そうに驚いた彼を少しだけ可愛いと思う。
「でも気付いたのです。さっきユリウス様は私を追い出すために厳しくしたと言っていましたが、本当は全て私のために厳しくしてくれていたのですよね? 危ない職務だからこそ、甘えを失くそうとしてくれた。心配しての行動だと知って、貴方は優しいと気付いたの」
「優しいかな?」
「優しいですよ、だって……厳しい訓練の時、私がいつ倒れても大丈夫なように、ずっと傍にいてくれたじゃないですか? 忙しい癖に」
彼自身も自覚していなかったのだろう、目を見開き……嬉しそうに微笑んだ。
「ユリウス様の事、こう見えてもしっかりと見ていますからね」
「本当、僕以上に見えているみたいだね」
「それに……貴方は私に元気をくれたから、あの本が私の人生を変えてくれた」
私達は息遣いを感じる距離へと近づく。
鼓動する胸、見つめ合いながら壁際でユリウス様は口を開いた。
「好きだと……もう伝えていいかな? リール」
私は彼の両頬に手を当てながら、ニコリと微笑む。
既に言っている、なんて野暮な事は言わない。
「もう女性と隠す気はありません……だから、リルレットと呼んで欲しいです。ユリウス様」
「分かった。リルレット……好きだ」
「私も、好きです」
お互いに伝えた言葉、自然と息遣いは途絶えて唇を重ね合わせる。
思わず漏れた甘い吐息を聞き、ユリウス様は私を強く抱きしめた。
「んっ……ユリウス様」
「ユリウスでいい、君にはそう呼んでほしい」
「ふふ、分かりましたよ。ユリウス」
彼は私と指を絡めていく。
返すように手の甲を優しく指先で撫でると、彼は再びキスをくれた。
彼と気持ちを伝え合う事が嬉しくて、幸せで仕方がない。
けど、私には確認しないといけない事がある。
「ユリウス、私が妃候補だったと知っていても受け入れてくれるの?」
分かっているのに、アルフレッドの事を思い出して尋ねてしまう。
嫌われるような理由を一つでも残したくなかった。
そんな気持ちを汲み取ってか、彼は安心させるように私の額にキスを落とした。
「君は、僕が別の女性と婚約関係だった事を知って嫌いになる?」
「そ、そんな訳ありませ……」
人差し指で口元を抑えられ、彼は耳元で囁いた。
「同じ。最後に愛してくれるのが僕であれば……関係ない」
私が馬鹿だった。
わかりきっていた答えだったのだ、こんな事。
だけど、その答えが胸を沸き立たせる程に嬉しくて……たまらずに彼の胸に顔をうずめる。
「ずるいぐらい……好きにさせてくれますね」
「これからは我慢しないから。覚悟しておいてねリルレット」
「お手柔らかにお願いします……」
再び唇を重ね合わせ、指を重ねる。
密かに想い合っていた私達は終わり、これからお互いに素直に生きていく。
隠すような恋から、伝え合う恋へ。
緊張の中には恐怖心も混ざる。
アルフレッドに恋していた時、彼は突然理由もなく私から離れしまった。
嫌われた理由が私にも分からない、失礼な事をした記憶なんてない。
だからこそ、ユリウス様にも同じように嫌われてしまうのが怖くて仕方ない。
けど、突っ立ているわけにもいかない。
大きく深呼吸をして、扉を数回ノックすると優しい声色で「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します」
入った瞬間だった。
手を引かれて壁に押し当てられ、ユリウス様と視線を合わせる。
彼は、憂いを帯びた瞳で私を見つめていた。
「不安だったよ。待つのは怖い」
「ユリウス様も……怖いと思うのですね」
「僕は臆病だから。誰かに君を奪われるのではないかとずっと心配してしまう」
話し出せばいつも通りなのに、お互いに視線を外せない。
ドクドクと大きな鼓動はどちらから鳴っているのか、分からなかった。
「ユリウス様は……いつから想ってくれていたのですか?」
私の問いに彼はふっと微笑む。
「本当は騎士団から追い出す気だった。性別を偽って騎士団に入団してきた君に甘くみるなと厳しい鍛錬を強いて諦めさせようとしたのに……諦めるどころか喜々として僕のしごきについてきた、思えばその時に惹かれていた」
彼はそっと私の髪を一房すいて、頬に手を当てる。
「キッカケはマルクに僕の噂を吹聴されている事が聞こえて胸がざわついた事。否定したくて出かけた日、僕の代わりに泣いてくれた優しい君を手放したくないと思ってしまった」
彼は顔を近づけ、息の当るような距離となる。
耳元で囁かれるような声に、頭がポーッとしてしまう。
「僕は話したよ? 次は君だ」
「近い……ですよ。恥ずかしいです」
「今まで我慢させられたからね。これぐらいは我慢してよ」
きっと……照れる私を見たいのだろう。
恥ずかしいが、別にユリウス様になら見られてもいいと思ってしまう。
それぐらい、私は彼の事が。
「私は、酒場での時に気持ちが分かりました。それまでは厳しい指導を強いるユリウス様を悪魔だと思ってましたよ」
「知ってる」
いたずらっぽく小さく笑うユリウス様に私からそっと手を当てる。
意外そうに驚いた彼を少しだけ可愛いと思う。
「でも気付いたのです。さっきユリウス様は私を追い出すために厳しくしたと言っていましたが、本当は全て私のために厳しくしてくれていたのですよね? 危ない職務だからこそ、甘えを失くそうとしてくれた。心配しての行動だと知って、貴方は優しいと気付いたの」
「優しいかな?」
「優しいですよ、だって……厳しい訓練の時、私がいつ倒れても大丈夫なように、ずっと傍にいてくれたじゃないですか? 忙しい癖に」
彼自身も自覚していなかったのだろう、目を見開き……嬉しそうに微笑んだ。
「ユリウス様の事、こう見えてもしっかりと見ていますからね」
「本当、僕以上に見えているみたいだね」
「それに……貴方は私に元気をくれたから、あの本が私の人生を変えてくれた」
私達は息遣いを感じる距離へと近づく。
鼓動する胸、見つめ合いながら壁際でユリウス様は口を開いた。
「好きだと……もう伝えていいかな? リール」
私は彼の両頬に手を当てながら、ニコリと微笑む。
既に言っている、なんて野暮な事は言わない。
「もう女性と隠す気はありません……だから、リルレットと呼んで欲しいです。ユリウス様」
「分かった。リルレット……好きだ」
「私も、好きです」
お互いに伝えた言葉、自然と息遣いは途絶えて唇を重ね合わせる。
思わず漏れた甘い吐息を聞き、ユリウス様は私を強く抱きしめた。
「んっ……ユリウス様」
「ユリウスでいい、君にはそう呼んでほしい」
「ふふ、分かりましたよ。ユリウス」
彼は私と指を絡めていく。
返すように手の甲を優しく指先で撫でると、彼は再びキスをくれた。
彼と気持ちを伝え合う事が嬉しくて、幸せで仕方がない。
けど、私には確認しないといけない事がある。
「ユリウス、私が妃候補だったと知っていても受け入れてくれるの?」
分かっているのに、アルフレッドの事を思い出して尋ねてしまう。
嫌われるような理由を一つでも残したくなかった。
そんな気持ちを汲み取ってか、彼は安心させるように私の額にキスを落とした。
「君は、僕が別の女性と婚約関係だった事を知って嫌いになる?」
「そ、そんな訳ありませ……」
人差し指で口元を抑えられ、彼は耳元で囁いた。
「同じ。最後に愛してくれるのが僕であれば……関係ない」
私が馬鹿だった。
わかりきっていた答えだったのだ、こんな事。
だけど、その答えが胸を沸き立たせる程に嬉しくて……たまらずに彼の胸に顔をうずめる。
「ずるいぐらい……好きにさせてくれますね」
「これからは我慢しないから。覚悟しておいてねリルレット」
「お手柔らかにお願いします……」
再び唇を重ね合わせ、指を重ねる。
密かに想い合っていた私達は終わり、これからお互いに素直に生きていく。
隠すような恋から、伝え合う恋へ。
111
お気に入りに追加
2,534
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路
今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。
すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。
ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。
それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。
そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ……
※短い……はず
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
どうかそのまま真実の愛という幻想の中でいつまでもお幸せにお過ごし下さいね。
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、私は婚約者であるアルタール・ロクサーヌ殿下に婚約解消をされてしまう。
どうやら、殿下は真実の愛に目覚めたらしい……。
しかし、殿下のお相手は徐々に現実を理解し……。
全五話
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!
山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。
居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。
その噂話とは!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる