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書籍化記念話
閑話ー宰相の誉れー
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ジェラルドside
◇◇◇
アイゼン帝国の皇帝––シルウィオ陛下がカーティア様と出会う前。
私は毎日のように、文官や高位貴族にとある質問をされた。
「ジェラルド様は、陛下に恐怖はないのですか?」……と。
問われた言葉に、返答をした事は一度もない。
陛下に対する不敬だと思ったからか? 答える必要がなかったからか?
どちらも違う。
私は……陛下を純粋に恐れていたからだ。
だから心の怯えを見透かされないよう、答えなかった。
◇
「ジェラルド……公爵家の不正を正す。付いてこい」
「はっ!!」
そう言って、陛下はいつだって我らを先導して貴族の腐敗を正していった。
皇帝として完璧に職務をこなし、帝国貴族同士の争いを無くしたのだ。
そのおかげで国は一つとなり、アイゼン帝国の権威は各国に広まる。
全て、陛下の活躍があったからこそ。
だが、皆が陛下を恐れる理由はその処罰をする姿にある。
「ゆ……ゆるし……」
「お前が殺してきた者に、その謝罪をしろ」
「あぐっ……」
眉一つ動かさず、多くの貴族を陛下は処罰してきた。
表情は無で、淡々と剣を血で染める。
皆がそれらの行動を必要だと理解しながら、あまりに容赦のない陛下に恐れを抱いていた。
だが、私が陛下を真に恐れていたのは別の理由もある。
それはある日、不意を突いた貴族がナイフを陛下へと向けた時のことだった。
「死ねぇ!」
「……」
陛下は無言のまま、向けられたナイフを避けなかった。
必ず避けられる距離だったのに、まるで死を望むかのように微動だにせず刃を受けたのだ。
ボタボタと流れ落ちる鮮血を気にせず、傷を塞ごうとする様子もない。
「陛下! 直ぐに手当を!」
「いい……必要ない」
駆け寄った私達に、陛下は不機嫌そうに答える。
死ねなかったことを、残念に思うように……
そう、私が恐れたのは……そんな死すら厭わぬ陛下の姿だ。
現世に未練などなく、日々をつまらないと吐き捨てる陛下は、死すら望んでいるのだろう。
もしも陛下が死んだ場合、帝国に立ち直れぬ程の混乱が起こる事は容易に想像ができる。
それほどまでに、陛下は大きな存在だ。
だからこそ、いつ崩御されてもおかしくないという恐怖は、宰相の私に常に付きまとう。
「今日も、生きていてください……陛下」
そんな祈りを込めながら、陛下の元へと向かう日々。
妻であるレティシアも不安に思っており、陛下がどうにか生きる希望を持ってくれるように、様々な方法を試した。
しかし、全てが失敗だった。
なにも上手くいかなかった……が。
そこに一つの光明が差した。
◇◇◇
「はじめまして、シルウィオ様。カーティアと申します」
あの方が物怖じせずに陛下に言い放った一言は、今でも覚えている。
カーティア様。
彼女を、藁にもすがる思いで陛下の皇后へと迎えた。
明るい彼女ならば、陛下を変えてくださるかもしれない。
そんな最後の希望だった。
そしてカーティア様は、私の期待通り……いや、想像を超えてシルウィオ陛下の隣で明るく笑ってくださった。
そのおかげで、陛下は変わっていく……
◇
「ジェラルド……カーティアと外に出る」
「へ、陛下……?」
初めは信じられなかった。
陛下が私的に誰かと外に出るなんて、今まで一度もなかった事だったから。
「妻の隣を歩く。彼女に恥をかかせないよう、作法を教えてほしい」
「……は、はい!」
陛下は他者に対して無頓着だ。
だから誰かに歩幅も合わせた事もなくて、いつも一人きりで突き進む。
そんな陛下が……初めて、誰かと共に歩くことを望んでいた。
初めて、誰かを大事にするように考えていたのだ。
「カーティア様が喜ぶように、私が完璧な作法を教えます!」
「……」
私の言葉に、陛下は無表情のままだが、素直に頷いた。
初めて見せた変化の兆しは、そこから大きくなっていく。
◇
「ジェラルド、カーティアに贈り物をしたい。なにがいいと思う」
「カティに指輪を渡す……指のサイズは、どう測る」
そんな質問を、陛下は私と二人きりの時に尋ねる。
きっと皆の前では恥ずかしいのだろう。
陛下にそんな年相応の恥じらいがある事を知れたのも、カーティア様のおかげだ。
「陛下、私になんでも相談してください」
「……頼りにしている」
そう言ってくださる陛下に、もう恐怖など無かった。
帝国で働く者達も、きっとそうだっただろう。
今の陛下は死が迫っても……カーティア様がいる限り生きる道を選ぶはずだ。
優しくカーティア様を呼ぶ陛下の姿に、誰も恐怖など抱かない。
その確信が持てた。
◇◇◇
そんな陛下に、初めての御子が産まれた。
カーティア様との御子で、名を……
「リルレットと名付けた。ジェラルド」
「おめでとうございます、陛下! 我らが帝国の御子様に祝福を……」
「あぁ」
「ところで、なぜ私だけに報告を?」
皇室に呼ばれて、私はいの一番に陛下から報告を受けた。
その事に疑問を漏らせば、陛下は私を見つめて……初めて小さく微笑む姿を見せた。
「ジェラルド、お前がカティを選んでくれなければ……今はなかった」
「陛下……?」
「カティは俺のつまらぬ日々を変えてくれた。そしてそのキッカケは……紛れもなくお前だ」
陛下の伝えたいことを理解して、ぐっと拳を握る。
胸に……嬉しさがこみ上げてくる。
「リルレットが産まれた……そんな俺とカティの幸せを作ってくれたのは。ジェラルドのおかげだ。感謝している」
嗚咽が出そうなほどに泣いてしまったのは、あの日が最後だったかもしれない。
完璧な皇帝陛下からの感謝という、誉れ高き返礼。
身に余る光栄が、胸を満たしていったのだ。
「これからも支えてくれるか。ジェラルド」
「陛下……貴方が帝国を変えてくれたからこそ、今の平和があります。その感謝が返せるのならば、喜んでお引き受けいたします」
もう、私の中にシルウィオ陛下への恐怖などあるはずもない。
陛下は紛れもなく……完璧な皇帝陛下となったのだから。
◇◇◇
それから、何年か過ぎた。
すっかりしわが増えてしまった私の元へと、ちいさな手が伸びてくる。
「ジェラルドじぃじ!」
「おや、リルレット様。今日の魔法学は良いのですか?」
「うん! もう終わったの!」
駆け寄ってくるリルレット様を抱き上げれば、嬉しそうに笑ってくれる。
私も娘がいるが、同じほど可愛らしい。
「お姉様いいなぁ……テアも~」
陛下とカーティア様の二人目の御子であるテア様も、私の足元へとやって来る。
要望通りに抱き上げれば、姉弟揃って私のひげを結んだり、触ったりと、楽しそうだ。
二人を抱っこしながら、カーティア様の元へと向かった。
「カーティア様、可愛らしい御子様達をお連れしましたよ」
「ジェラルド様! 二人を連れて来てくれたのですね!」
「「お母様!」」
私の腕から離れて、母の元へと駆けだしていく二人。
そして三人目となる御子様……イヴァ様を抱いているカーティア様を見て、私は微笑んだ。
あの恐怖されていた陛下に、三人も子供がいるなど……誰が想像しただろうか。
私でさえ、予想できなかった未来だ。
これも……きっと……
「ジェラルド様。いつもありがとうございます」
三人の子供達を抱きながら微笑むカーティア様に、私は首を横に振る。
「いえ、感謝すべきは私ですよ」
そうだ。
きっと……こんな幸せな未来へと導いてくれたのは、カーティア様のおかげだ。
だから、私は永遠に感謝し続けよう。
死さえ望んだ陛下を変えてくださった、カーティア様に……
◇◇◇年末のご挨拶◇◇◇
皆様、いつも読んでくださりありがとうございます。
応援のご感想や、エール、しおりなど……いつも嬉しいです!
本年は、私事ながら色々と大変でした。
とくに年末……師走の忙しい時期に本業で失敗してしまい、一時は何も手に付かない状況でした。
そんな中、もう一度今作を読み直したのです。
元は、『月曜日に読みたい作品』を目指して書き出した今作。
改めて読んでみると、カーティアから元気がもらえて……また前を向いて書くことができてます!
自画自賛みたいですが、、、そんなカーティアへの感謝を込めて今回の閑話を書きました。
皆様も読んでくださって、嬉しいです!
とても寒い日が続きますが、皆様も体調に気を付けてよいお年をお迎えください。
新年に今回のお話を読んでくださった方は、あけましておめでとうございます!
本年は今作も続けながら、新作もどんどん出していく予定です!
引き続き、お待ちくださると嬉しいです!
◇◇◇
アイゼン帝国の皇帝––シルウィオ陛下がカーティア様と出会う前。
私は毎日のように、文官や高位貴族にとある質問をされた。
「ジェラルド様は、陛下に恐怖はないのですか?」……と。
問われた言葉に、返答をした事は一度もない。
陛下に対する不敬だと思ったからか? 答える必要がなかったからか?
どちらも違う。
私は……陛下を純粋に恐れていたからだ。
だから心の怯えを見透かされないよう、答えなかった。
◇
「ジェラルド……公爵家の不正を正す。付いてこい」
「はっ!!」
そう言って、陛下はいつだって我らを先導して貴族の腐敗を正していった。
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「あぐっ……」
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表情は無で、淡々と剣を血で染める。
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だが、私が陛下を真に恐れていたのは別の理由もある。
それはある日、不意を突いた貴族がナイフを陛下へと向けた時のことだった。
「死ねぇ!」
「……」
陛下は無言のまま、向けられたナイフを避けなかった。
必ず避けられる距離だったのに、まるで死を望むかのように微動だにせず刃を受けたのだ。
ボタボタと流れ落ちる鮮血を気にせず、傷を塞ごうとする様子もない。
「陛下! 直ぐに手当を!」
「いい……必要ない」
駆け寄った私達に、陛下は不機嫌そうに答える。
死ねなかったことを、残念に思うように……
そう、私が恐れたのは……そんな死すら厭わぬ陛下の姿だ。
現世に未練などなく、日々をつまらないと吐き捨てる陛下は、死すら望んでいるのだろう。
もしも陛下が死んだ場合、帝国に立ち直れぬ程の混乱が起こる事は容易に想像ができる。
それほどまでに、陛下は大きな存在だ。
だからこそ、いつ崩御されてもおかしくないという恐怖は、宰相の私に常に付きまとう。
「今日も、生きていてください……陛下」
そんな祈りを込めながら、陛下の元へと向かう日々。
妻であるレティシアも不安に思っており、陛下がどうにか生きる希望を持ってくれるように、様々な方法を試した。
しかし、全てが失敗だった。
なにも上手くいかなかった……が。
そこに一つの光明が差した。
◇◇◇
「はじめまして、シルウィオ様。カーティアと申します」
あの方が物怖じせずに陛下に言い放った一言は、今でも覚えている。
カーティア様。
彼女を、藁にもすがる思いで陛下の皇后へと迎えた。
明るい彼女ならば、陛下を変えてくださるかもしれない。
そんな最後の希望だった。
そしてカーティア様は、私の期待通り……いや、想像を超えてシルウィオ陛下の隣で明るく笑ってくださった。
そのおかげで、陛下は変わっていく……
◇
「ジェラルド……カーティアと外に出る」
「へ、陛下……?」
初めは信じられなかった。
陛下が私的に誰かと外に出るなんて、今まで一度もなかった事だったから。
「妻の隣を歩く。彼女に恥をかかせないよう、作法を教えてほしい」
「……は、はい!」
陛下は他者に対して無頓着だ。
だから誰かに歩幅も合わせた事もなくて、いつも一人きりで突き進む。
そんな陛下が……初めて、誰かと共に歩くことを望んでいた。
初めて、誰かを大事にするように考えていたのだ。
「カーティア様が喜ぶように、私が完璧な作法を教えます!」
「……」
私の言葉に、陛下は無表情のままだが、素直に頷いた。
初めて見せた変化の兆しは、そこから大きくなっていく。
◇
「ジェラルド、カーティアに贈り物をしたい。なにがいいと思う」
「カティに指輪を渡す……指のサイズは、どう測る」
そんな質問を、陛下は私と二人きりの時に尋ねる。
きっと皆の前では恥ずかしいのだろう。
陛下にそんな年相応の恥じらいがある事を知れたのも、カーティア様のおかげだ。
「陛下、私になんでも相談してください」
「……頼りにしている」
そう言ってくださる陛下に、もう恐怖など無かった。
帝国で働く者達も、きっとそうだっただろう。
今の陛下は死が迫っても……カーティア様がいる限り生きる道を選ぶはずだ。
優しくカーティア様を呼ぶ陛下の姿に、誰も恐怖など抱かない。
その確信が持てた。
◇◇◇
そんな陛下に、初めての御子が産まれた。
カーティア様との御子で、名を……
「リルレットと名付けた。ジェラルド」
「おめでとうございます、陛下! 我らが帝国の御子様に祝福を……」
「あぁ」
「ところで、なぜ私だけに報告を?」
皇室に呼ばれて、私はいの一番に陛下から報告を受けた。
その事に疑問を漏らせば、陛下は私を見つめて……初めて小さく微笑む姿を見せた。
「ジェラルド、お前がカティを選んでくれなければ……今はなかった」
「陛下……?」
「カティは俺のつまらぬ日々を変えてくれた。そしてそのキッカケは……紛れもなくお前だ」
陛下の伝えたいことを理解して、ぐっと拳を握る。
胸に……嬉しさがこみ上げてくる。
「リルレットが産まれた……そんな俺とカティの幸せを作ってくれたのは。ジェラルドのおかげだ。感謝している」
嗚咽が出そうなほどに泣いてしまったのは、あの日が最後だったかもしれない。
完璧な皇帝陛下からの感謝という、誉れ高き返礼。
身に余る光栄が、胸を満たしていったのだ。
「これからも支えてくれるか。ジェラルド」
「陛下……貴方が帝国を変えてくれたからこそ、今の平和があります。その感謝が返せるのならば、喜んでお引き受けいたします」
もう、私の中にシルウィオ陛下への恐怖などあるはずもない。
陛下は紛れもなく……完璧な皇帝陛下となったのだから。
◇◇◇
それから、何年か過ぎた。
すっかりしわが増えてしまった私の元へと、ちいさな手が伸びてくる。
「ジェラルドじぃじ!」
「おや、リルレット様。今日の魔法学は良いのですか?」
「うん! もう終わったの!」
駆け寄ってくるリルレット様を抱き上げれば、嬉しそうに笑ってくれる。
私も娘がいるが、同じほど可愛らしい。
「お姉様いいなぁ……テアも~」
陛下とカーティア様の二人目の御子であるテア様も、私の足元へとやって来る。
要望通りに抱き上げれば、姉弟揃って私のひげを結んだり、触ったりと、楽しそうだ。
二人を抱っこしながら、カーティア様の元へと向かった。
「カーティア様、可愛らしい御子様達をお連れしましたよ」
「ジェラルド様! 二人を連れて来てくれたのですね!」
「「お母様!」」
私の腕から離れて、母の元へと駆けだしていく二人。
そして三人目となる御子様……イヴァ様を抱いているカーティア様を見て、私は微笑んだ。
あの恐怖されていた陛下に、三人も子供がいるなど……誰が想像しただろうか。
私でさえ、予想できなかった未来だ。
これも……きっと……
「ジェラルド様。いつもありがとうございます」
三人の子供達を抱きながら微笑むカーティア様に、私は首を横に振る。
「いえ、感謝すべきは私ですよ」
そうだ。
きっと……こんな幸せな未来へと導いてくれたのは、カーティア様のおかげだ。
だから、私は永遠に感謝し続けよう。
死さえ望んだ陛下を変えてくださった、カーティア様に……
◇◇◇年末のご挨拶◇◇◇
皆様、いつも読んでくださりありがとうございます。
応援のご感想や、エール、しおりなど……いつも嬉しいです!
本年は、私事ながら色々と大変でした。
とくに年末……師走の忙しい時期に本業で失敗してしまい、一時は何も手に付かない状況でした。
そんな中、もう一度今作を読み直したのです。
元は、『月曜日に読みたい作品』を目指して書き出した今作。
改めて読んでみると、カーティアから元気がもらえて……また前を向いて書くことができてます!
自画自賛みたいですが、、、そんなカーティアへの感謝を込めて今回の閑話を書きました。
皆様も読んでくださって、嬉しいです!
とても寒い日が続きますが、皆様も体調に気を付けてよいお年をお迎えください。
新年に今回のお話を読んでくださった方は、あけましておめでとうございます!
本年は今作も続けながら、新作もどんどん出していく予定です!
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