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三章
思惑・エリーside
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私は、久しぶりに幼馴染ともいえるグレインと出会った。
彼の美しい顔、そして鍛え抜かれた身体は魅了的だった。
しかし……
「ちっ……最悪よ!」
グレインと別れた場所から少し離れ、とある路地裏へと入り、忌々しさから舌打ちをする。
そこで待っていた私の護衛が、心配そうに尋ねてきた。
「奥様、どうしたのですか?」
「グレインは、結婚しているかもしれないわ。確証はないけど、子供がいたもの」
それに……私に声をかけてきた女性。
あれほど美しい女性は見た事がなくて、苛立ちが募る。
あの女がグレインの妻なら、彼が私に振り向かなかった理由も頷ける。
「なら……奥様の計画が難しくなりますね」
「……ええ、そうよ」
護衛の言う通り、想い描いていた計画は頓挫した。
そもそもグレインと会ったのは、偶然ではないのだ。
数日前、我の夫である伯爵家が入国管理をしている関係上。
偶然、入国者の中にグレインの名前を見つけた。
その名を見て、まず怒りが沸いた。
十年以上前、私の誕生会にグレインを招待したのに、彼は来なかった。
平民ごときに会を拒否された者として、あの会では大きな恥をかかされたのだ。
だが、それ以上に……この巡り合わせに胸が鼓動する気持ちもあった。
風の噂で聞いていたのだ。
今のグレインはあのアイゼン帝国のダルテリオ伯爵となっている。
想像を超えた大出世であり、かつての恋心が残っていてほしいと思ってしまった。
「せっかく、グレインのお嫁さんになれるかもしれなかったのに」
「残念でしたね」
諦めに近い言葉を漏らせば、護衛もため息交じりに笑う。
私は結婚しているが、今の夫とは子供も出来ず、関係は冷え切っている。
恐らく夫は愛人もいるだろうし、私も目の前にいる護衛とは遊びの仲だ。
この現状から抜けるため、伯爵家に大出世したグレインの妻になる計画まで考えたのに……
「奥様、諦めていいのですか?」
「それは……」
計画では、グレインをパーティーに招待して薬を飲ませ、無理やり身体の関係を持つ。
そして私は離婚をして、彼には責任をとって婚姻関係を結んでもらう予定だった。
「家族がいるなら、難しいわよね……」
「いっそ、第二夫人になればいいじゃないですか。一人目の妻は追い出せばいいんですよ」
「貴方! いいこと言うわね!」
「でしょう? それに……奥様は今回のパーティーに、貴族を大勢を呼んでいるので後にも引けませんよ」
護衛の言う通り、私は数日前に入国管理書類でグレインの名を見て、直ぐにパーティーの準備を始めた。
招待した貴族たちは生粋の貴族至上主義、平民上がりで伯爵家をもらったグレインを嘲笑するような人達だろう。
そんな敵だらけの場に呼び出し、私だけが彼の味方をして信用を得る予定だった。
今更、彼らにグレインが来ないからと、パーティーの中止はできない。
「貴方の言う通りね……まずは既成事実を作り、グレインの第二夫人を狙うわ」
そうだ、相手に家庭があるなんて関係ない。
私が想い描いていた通りに計画を進めればいいのだ。
「早速、またグレインを招待してくるわ!」
「頑張ってください奥様。俺も奥様と関係を持っている事を旦那様にばれたくないので、アイゼン帝国に行ってくれた方がいいんですよ」
相変わらず軽薄な護衛の言葉に苦笑しつつ、グレインの元へ向かおうとした……
瞬間だった。
「向かう必要はない」
声が聞こえて視線を向ければ、路地裏から大通りに向かう道を男が塞いでいた。
逆光で……顔が良く見えない。
「誰だ、あんた?」
真っ先に、護衛が剣を抜いて歩き出す。
それもそうだろう……先程までの会話を聞いていたのなら、口封じはしておくべきだ。
「今すぐに住所と名前を教えろ。もしさっきの会話を流せば、お前を殺すぞ?」
「やってみろ」
「はぁ? 上等だ、本当に殺してやるよ」
護衛が脅すように睨みつけ、男性の前に立った。
途端に、その表情が大きく歪む。
「て……てめぇ……なんてふざけた格好を––」
そんな言葉を吐いた瞬間。
護衛の剣がバキリと容易く折れ、謎の力に押されるように頭を壁に叩き付けられた。
一瞬で……護衛が気絶してしまう。
顔の見えぬ男性は、指先を動かしただけだなのに。
「ひっ!?」
「俺の愛するカティと、最高に可愛い子供たちが選んだコレが、ふざけた格好だと? 貴様……」
男性は意味の分からぬ言葉を吐きながら、怒りを含んだ声で倒れた護衛へと呟く。
やがて、再び私へと歩み出してきた。
「グレインは、お前のパーティーとやらに参加させよう。呼ばなくてもいい」
「え……?」
「だが、直ぐに分かる。あいつは、お前ごときにどうこうできる男じゃない」
「あ、貴方は誰なのよ!?」
「言う必要はない」
眼前まで迫った男が私の前に立つ。
途端に……護衛が発した言葉と同様に、ふざけた格好だと言おうとした口を塞ぐ。
「っ……!!」
なんて格好なのよ、こいつ。
ぐるぐるの模様がはいった眼鏡に、ふざけた赤鼻、そして奇抜な帽子。
あまりにふざけた格好だが、先程の会話から察するに、馬鹿にすれば逆鱗に触れることになる。
な……なんて危険人物なの!?
「グレインがお前の手に負えぬ者だと、すぐに知るはずだ」
こんな格好で、正体も分からぬ謎の男が、そこまで言うなんて。
グレイン……貴方は一体なにものなの!?
「大人しく、二日後のパーティーまで待っておけ。分かったな」
「ひっ……!!」
男は、それだけを告げて背を向ける。
なにやら手鏡で自分の格好を確認しており、酷く気に入っている様子だ。
「カティが褒めてくれた……」なんて言いながら、大通りへ向かった。
謎の男。
恐ろしいのは、私の護衛の中でも実力者だった彼を一瞬で気絶させたこと。
なにより格好が謎過ぎて思考が読めない。
そんな男が認めているグレインが、今になって恐ろしく感じる。
ちょっかいをかけようとした事を後悔したが、もう遅い事にも気付く。
グレインが本当にパーティーに来るのなら、私が招待した平民を馬鹿にする貴族たちの相手をする事になる。
そうなれば……全ては私の責任?
「あ……あぁぁ」
私は訳の分からぬ存在に怯え、二日後のパーティーに恐怖した。
彼の美しい顔、そして鍛え抜かれた身体は魅了的だった。
しかし……
「ちっ……最悪よ!」
グレインと別れた場所から少し離れ、とある路地裏へと入り、忌々しさから舌打ちをする。
そこで待っていた私の護衛が、心配そうに尋ねてきた。
「奥様、どうしたのですか?」
「グレインは、結婚しているかもしれないわ。確証はないけど、子供がいたもの」
それに……私に声をかけてきた女性。
あれほど美しい女性は見た事がなくて、苛立ちが募る。
あの女がグレインの妻なら、彼が私に振り向かなかった理由も頷ける。
「なら……奥様の計画が難しくなりますね」
「……ええ、そうよ」
護衛の言う通り、想い描いていた計画は頓挫した。
そもそもグレインと会ったのは、偶然ではないのだ。
数日前、我の夫である伯爵家が入国管理をしている関係上。
偶然、入国者の中にグレインの名前を見つけた。
その名を見て、まず怒りが沸いた。
十年以上前、私の誕生会にグレインを招待したのに、彼は来なかった。
平民ごときに会を拒否された者として、あの会では大きな恥をかかされたのだ。
だが、それ以上に……この巡り合わせに胸が鼓動する気持ちもあった。
風の噂で聞いていたのだ。
今のグレインはあのアイゼン帝国のダルテリオ伯爵となっている。
想像を超えた大出世であり、かつての恋心が残っていてほしいと思ってしまった。
「せっかく、グレインのお嫁さんになれるかもしれなかったのに」
「残念でしたね」
諦めに近い言葉を漏らせば、護衛もため息交じりに笑う。
私は結婚しているが、今の夫とは子供も出来ず、関係は冷え切っている。
恐らく夫は愛人もいるだろうし、私も目の前にいる護衛とは遊びの仲だ。
この現状から抜けるため、伯爵家に大出世したグレインの妻になる計画まで考えたのに……
「奥様、諦めていいのですか?」
「それは……」
計画では、グレインをパーティーに招待して薬を飲ませ、無理やり身体の関係を持つ。
そして私は離婚をして、彼には責任をとって婚姻関係を結んでもらう予定だった。
「家族がいるなら、難しいわよね……」
「いっそ、第二夫人になればいいじゃないですか。一人目の妻は追い出せばいいんですよ」
「貴方! いいこと言うわね!」
「でしょう? それに……奥様は今回のパーティーに、貴族を大勢を呼んでいるので後にも引けませんよ」
護衛の言う通り、私は数日前に入国管理書類でグレインの名を見て、直ぐにパーティーの準備を始めた。
招待した貴族たちは生粋の貴族至上主義、平民上がりで伯爵家をもらったグレインを嘲笑するような人達だろう。
そんな敵だらけの場に呼び出し、私だけが彼の味方をして信用を得る予定だった。
今更、彼らにグレインが来ないからと、パーティーの中止はできない。
「貴方の言う通りね……まずは既成事実を作り、グレインの第二夫人を狙うわ」
そうだ、相手に家庭があるなんて関係ない。
私が想い描いていた通りに計画を進めればいいのだ。
「早速、またグレインを招待してくるわ!」
「頑張ってください奥様。俺も奥様と関係を持っている事を旦那様にばれたくないので、アイゼン帝国に行ってくれた方がいいんですよ」
相変わらず軽薄な護衛の言葉に苦笑しつつ、グレインの元へ向かおうとした……
瞬間だった。
「向かう必要はない」
声が聞こえて視線を向ければ、路地裏から大通りに向かう道を男が塞いでいた。
逆光で……顔が良く見えない。
「誰だ、あんた?」
真っ先に、護衛が剣を抜いて歩き出す。
それもそうだろう……先程までの会話を聞いていたのなら、口封じはしておくべきだ。
「今すぐに住所と名前を教えろ。もしさっきの会話を流せば、お前を殺すぞ?」
「やってみろ」
「はぁ? 上等だ、本当に殺してやるよ」
護衛が脅すように睨みつけ、男性の前に立った。
途端に、その表情が大きく歪む。
「て……てめぇ……なんてふざけた格好を––」
そんな言葉を吐いた瞬間。
護衛の剣がバキリと容易く折れ、謎の力に押されるように頭を壁に叩き付けられた。
一瞬で……護衛が気絶してしまう。
顔の見えぬ男性は、指先を動かしただけだなのに。
「ひっ!?」
「俺の愛するカティと、最高に可愛い子供たちが選んだコレが、ふざけた格好だと? 貴様……」
男性は意味の分からぬ言葉を吐きながら、怒りを含んだ声で倒れた護衛へと呟く。
やがて、再び私へと歩み出してきた。
「グレインは、お前のパーティーとやらに参加させよう。呼ばなくてもいい」
「え……?」
「だが、直ぐに分かる。あいつは、お前ごときにどうこうできる男じゃない」
「あ、貴方は誰なのよ!?」
「言う必要はない」
眼前まで迫った男が私の前に立つ。
途端に……護衛が発した言葉と同様に、ふざけた格好だと言おうとした口を塞ぐ。
「っ……!!」
なんて格好なのよ、こいつ。
ぐるぐるの模様がはいった眼鏡に、ふざけた赤鼻、そして奇抜な帽子。
あまりにふざけた格好だが、先程の会話から察するに、馬鹿にすれば逆鱗に触れることになる。
な……なんて危険人物なの!?
「グレインがお前の手に負えぬ者だと、すぐに知るはずだ」
こんな格好で、正体も分からぬ謎の男が、そこまで言うなんて。
グレイン……貴方は一体なにものなの!?
「大人しく、二日後のパーティーまで待っておけ。分かったな」
「ひっ……!!」
男は、それだけを告げて背を向ける。
なにやら手鏡で自分の格好を確認しており、酷く気に入っている様子だ。
「カティが褒めてくれた……」なんて言いながら、大通りへ向かった。
謎の男。
恐ろしいのは、私の護衛の中でも実力者だった彼を一瞬で気絶させたこと。
なにより格好が謎過ぎて思考が読めない。
そんな男が認めているグレインが、今になって恐ろしく感じる。
ちょっかいをかけようとした事を後悔したが、もう遅い事にも気付く。
グレインが本当にパーティーに来るのなら、私が招待した平民を馬鹿にする貴族たちの相手をする事になる。
そうなれば……全ては私の責任?
「あ……あぁぁ」
私は訳の分からぬ存在に怯え、二日後のパーティーに恐怖した。
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