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二章
68話
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幾日か過ぎた頃。
騎士が数人やって来て、少女の遺体を見つけた。
『……遺体だ』
『病気で捨てられた孤児がいるなんて報告があったが……遅かったか』
『ごめんな、俺達が……もっと早く来ていれば』
『せめて、共同墓地に埋めてやろう』
『あぁ』
騎士達が少女の遺体を丁重に運んでいくのを、コッコちゃんは茂みから見つめていた。
コッコちゃんなりに、それが最善だと思ったのだろう。
それから、コッコちゃんは一羽で過ごした。
何処かに行く当てもなく、歩き回っては時折少女が埋めた若木を見つめる日々。
そんな日々を、数か月過ごしていた時。
『鶏? どうしてこんなとこに』
『まぁ、いいだろ。売れそうだからな、捕獲しとこう』
狩猟を生業とする人々に捕獲され、コッコちゃんは連れて行かれてしまった。
捕獲されたコッコちゃんは、抵抗もせずに項垂れる。
少女のいない日々に嫌気がさしていたのかもしれない。
そこから、視界は真っ暗に変わってしまう。
コッコちゃん自身も、絶望して……何も見なくなって……
……?
なに……これ。
コッコちゃんの考えていることが……伝わってくる……?
◇◇◇
人間なんて、だいきらい。
あの子を、たすけてくれなかったから。
『よろしくね、コッコちゃん』
つれていかれた先であった人は。
あの子と同じ茶色の髪で、あの子みたいな笑顔を浮かべた。
だから、だいきらいだった。
あの子を思い出して、かなしくなるから。
『コッコちゃん、今日も元気だね~お散歩?』
何度か逃げ出した。
あの子を思い出したくなくて、近づかないようにしたかった。
なのに……
『ま、待って! コッコちゃん!』
この人は、いつだって追いかけてきて。
逃げても怒らなくて。
冷たくしても、いつも撫でてくれた。
『コッコちゃんは可愛いね~』
笑って抱きしめてきて。
嫌いなのに……思い出したくないのに。
あの子みたいに……やさしく一緒にいてくれた。
『コッコちゃん、私ね。貴方に出会えてうれしいよ』
……この人を見ていたら、あの子を思い出して辛いから近づかないようにしていたけど。
でもね……思い出したの。
––私がいなくても幸せにね。ココ
あの子はきっと、ココが幸せになるのを願ってる。
だからもう……ココじゃなくて……コッコとして生きていくってきめたんだ。
そしてね、おねがいしてここに連れてきてもらったの。
あの子が最後に残してくれた、思い出の木に。
ココは幸せだよって、伝えにきたの。
約束を守って、わすれないでいたよ。
大好きな人ができたよって伝えて、安心させてあげたくて。
……コッコね。いまは大好きがいっぱいあって、幸せだよ。
だから、君も一緒に連れて行くよ。
コッコのかぞくと、だいすきなひとたち。
そしてだいすきな君とも……いっしょにいたいから。
君も……コッコのかぞくだよ。
ぜったい、忘れない。
◇◇◇
「……」
「…………ん」
「おかたん!」
「カティ!」
「ぅ……」
意識が現実に戻ってきたのか、私は目を覚ます。
倒れていたのだろう、シルウィオに横抱きされていたようだ。
「ごめなさい、おかたん! ごめなさい。まほーつかって」
「大丈夫か? カティ」
「コケ……」
心配する皆に、私は笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ……皆。シルウィオ、ありがとう」
「無理はするな」
シルウィオにおろしてもらい、私は泣きじゃくるリルレットの頭を撫でた。
「ご、ごめなさい。おかたんにかってにまほーつかって」
「リルレット、いいの……ありがとう。コッコちゃんのお願い聞いてくれて」
「うっ……うん」
「安心して、お母さんは元気いっぱいだからね」
「うん」
リルレットを撫でた後、私は近くにいたコッコちゃんを見つめて抱きしめた。
いつもは抵抗するコッコちゃんも、大人しく私に身を預けてくれる。
「コッコちゃん、大好きだよ」
「コケ、コケ」
「あの子を連れて帰ってあげようね。コッコちゃんの幸せの元に」
「コケ!」
コッコちゃんの想いを無下にはしない。
私はシルウィオに頼み、生えていた若木を傷つけぬように城の庭園へ持って帰ってもらう事にした。
彼は了承してくれて、魔法により根っこと土ごと若木を浮かせてくれる。
その時だった。
––忘れないでくれて、ありがとうね。ココ
「コ……」
「声……?」
シルウィオや、リルレットは気付いている様子はない。
しかし私とコッコちゃんには、確かに声が語りかけてくるのだ。
––ココ……いや、コッコ……私ね、ずっと見てるから
「コケ……」
––連れて行ってくれてありがとう。私……コッコに会えて、本当に幸せだよ
「コケー!」
鳴いたコッコちゃんに、ふわりと風が吹く。
若木が揺れて、木の葉が一枚……コッコちゃんを撫でるように落ちていった。
それ以上の声は聞こえる事はなかったけれど。
きっと……。
あの子とコッコちゃん、お互いの気持ちは伝わったはずだ。
必ず。
◇◇◇
若木を馬車に積み、ギルクへ再び近くの街に案内してもらった後。
私達は彼へ城へ帰ることを伝えた。
「も……もう、お帰りになるんですね」
「はい。ありがとう……ギルク」
「い、いえ」
馬車の車窓からリルレットが手を振り、コッコちゃんも顔を覗かせてギルクを見ていた。
「ばいばい、ぎうくー」
「コケー!」
「はいっ!! 姫様もコッコさんも、お元気で」
私の隣にいたシルウィオもギルクへと視線を向ける。
「給金の件は……ジェラルドに伝えておこう」
「あ! い、いえいえ。忘れてください! 皇帝陛下達のお役に立てただけでも光栄ですから」
そう言いつつも、嬉しさでにやけている彼に思わず笑ってしまう。
そんな彼の傷のついた手を、シルウィオは見つめた。
「手……」
「え、手が何か?」
「腕のいい医者がいる。治してもらえ、紹介文は書いてやる」
「…………その、お願いしたい気持ちはありますが。先に、カーティア様へお話をしたい事があるのです。よろしいでしょうか」
真剣な表情になったギルクは私へと視線を移す。
シルウィオが静かに頷けば、ギルクは私へと跪いてグラナート式の礼をした。
「カーティア様……俺、ずっと」
「ギルク、レブナンにも伝えましたが……私は謝罪など」
「いえ! 俺は……謝罪などできぬ事を貴方にしてしまっていたと……理解しています」
いつになく真剣な眼差しで、彼は言葉を続けた。
「俺は、グラナートで己惚れていました。自身の責務すら果たさず、貴方にした仕打ちは許される行為ではありません。この手は俺に課せられた罰だと思っています」
「ギルク……」
「そんな俺ですが、不躾なお願いをさせてほしいのです。俺は……また一から鍛錬を積み。地方騎士から、帝国を代表する騎士になってみせます! 国外にまで俺の名が響くほどに活躍してみせます」
彼は、真っ直ぐに私を見つめて言葉を告げていく。
「もし、俺が皆に認められる帝国騎士になれたなら。この手を治し、貴方の傍に仕える事を許してほしいのです。あの時、放棄してしまっていた責務を……全うさせてください」
「……」
静かに頭を下げ続ける彼に、私は無言のままシルウィオと馬車に乗る。
答えを考えて……私は振り返り答えた。
「待ってますよ。ギルク。今度こそ、護ってくださいね」
「っ!!!! ……あり難き、お言葉です! カーティア様!」
頭を下げながら、地面に雫を落とし続ける彼。
その見送りを受けながら、馬車は走り出す。
私達の居場所へと。
馬車の揺れに身を任せながら、私は隣に座るシルウィオの手を取って問いかけた。
「良かったですか? 許可してしまって」
「いい。あいつが賊と戦っていた時に、前はなかった才覚を感じた。力になるはずだ」
「っ。そうなのですね……」
「案外、有言実行するのかもしれないな」
シルウィオのお墨付きとなれば、その可能性があるのだろう。
少し期待しながら待つのも、悪くないかもしれない。
「コケェ!」
二人で話していれば、コッコちゃんが私の膝上に乗ってきた。
リルレットはシルウィオの膝上に飛び乗る。
「かえったらね。こーこと木をうえるの!」
「コ!」
「そうね、大切に埋めてあげましょうね」
「コケ!」
コッコちゃんは私に気持ちを伝えたからなのか、いつもよりもとびきり甘えて私へと身を預けてくれる。
私は馬車に載せた若木に感謝をしながら、城へと戻る馬車の揺れに身を任せた。
騎士が数人やって来て、少女の遺体を見つけた。
『……遺体だ』
『病気で捨てられた孤児がいるなんて報告があったが……遅かったか』
『ごめんな、俺達が……もっと早く来ていれば』
『せめて、共同墓地に埋めてやろう』
『あぁ』
騎士達が少女の遺体を丁重に運んでいくのを、コッコちゃんは茂みから見つめていた。
コッコちゃんなりに、それが最善だと思ったのだろう。
それから、コッコちゃんは一羽で過ごした。
何処かに行く当てもなく、歩き回っては時折少女が埋めた若木を見つめる日々。
そんな日々を、数か月過ごしていた時。
『鶏? どうしてこんなとこに』
『まぁ、いいだろ。売れそうだからな、捕獲しとこう』
狩猟を生業とする人々に捕獲され、コッコちゃんは連れて行かれてしまった。
捕獲されたコッコちゃんは、抵抗もせずに項垂れる。
少女のいない日々に嫌気がさしていたのかもしれない。
そこから、視界は真っ暗に変わってしまう。
コッコちゃん自身も、絶望して……何も見なくなって……
……?
なに……これ。
コッコちゃんの考えていることが……伝わってくる……?
◇◇◇
人間なんて、だいきらい。
あの子を、たすけてくれなかったから。
『よろしくね、コッコちゃん』
つれていかれた先であった人は。
あの子と同じ茶色の髪で、あの子みたいな笑顔を浮かべた。
だから、だいきらいだった。
あの子を思い出して、かなしくなるから。
『コッコちゃん、今日も元気だね~お散歩?』
何度か逃げ出した。
あの子を思い出したくなくて、近づかないようにしたかった。
なのに……
『ま、待って! コッコちゃん!』
この人は、いつだって追いかけてきて。
逃げても怒らなくて。
冷たくしても、いつも撫でてくれた。
『コッコちゃんは可愛いね~』
笑って抱きしめてきて。
嫌いなのに……思い出したくないのに。
あの子みたいに……やさしく一緒にいてくれた。
『コッコちゃん、私ね。貴方に出会えてうれしいよ』
……この人を見ていたら、あの子を思い出して辛いから近づかないようにしていたけど。
でもね……思い出したの。
––私がいなくても幸せにね。ココ
あの子はきっと、ココが幸せになるのを願ってる。
だからもう……ココじゃなくて……コッコとして生きていくってきめたんだ。
そしてね、おねがいしてここに連れてきてもらったの。
あの子が最後に残してくれた、思い出の木に。
ココは幸せだよって、伝えにきたの。
約束を守って、わすれないでいたよ。
大好きな人ができたよって伝えて、安心させてあげたくて。
……コッコね。いまは大好きがいっぱいあって、幸せだよ。
だから、君も一緒に連れて行くよ。
コッコのかぞくと、だいすきなひとたち。
そしてだいすきな君とも……いっしょにいたいから。
君も……コッコのかぞくだよ。
ぜったい、忘れない。
◇◇◇
「……」
「…………ん」
「おかたん!」
「カティ!」
「ぅ……」
意識が現実に戻ってきたのか、私は目を覚ます。
倒れていたのだろう、シルウィオに横抱きされていたようだ。
「ごめなさい、おかたん! ごめなさい。まほーつかって」
「大丈夫か? カティ」
「コケ……」
心配する皆に、私は笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ……皆。シルウィオ、ありがとう」
「無理はするな」
シルウィオにおろしてもらい、私は泣きじゃくるリルレットの頭を撫でた。
「ご、ごめなさい。おかたんにかってにまほーつかって」
「リルレット、いいの……ありがとう。コッコちゃんのお願い聞いてくれて」
「うっ……うん」
「安心して、お母さんは元気いっぱいだからね」
「うん」
リルレットを撫でた後、私は近くにいたコッコちゃんを見つめて抱きしめた。
いつもは抵抗するコッコちゃんも、大人しく私に身を預けてくれる。
「コッコちゃん、大好きだよ」
「コケ、コケ」
「あの子を連れて帰ってあげようね。コッコちゃんの幸せの元に」
「コケ!」
コッコちゃんの想いを無下にはしない。
私はシルウィオに頼み、生えていた若木を傷つけぬように城の庭園へ持って帰ってもらう事にした。
彼は了承してくれて、魔法により根っこと土ごと若木を浮かせてくれる。
その時だった。
––忘れないでくれて、ありがとうね。ココ
「コ……」
「声……?」
シルウィオや、リルレットは気付いている様子はない。
しかし私とコッコちゃんには、確かに声が語りかけてくるのだ。
––ココ……いや、コッコ……私ね、ずっと見てるから
「コケ……」
––連れて行ってくれてありがとう。私……コッコに会えて、本当に幸せだよ
「コケー!」
鳴いたコッコちゃんに、ふわりと風が吹く。
若木が揺れて、木の葉が一枚……コッコちゃんを撫でるように落ちていった。
それ以上の声は聞こえる事はなかったけれど。
きっと……。
あの子とコッコちゃん、お互いの気持ちは伝わったはずだ。
必ず。
◇◇◇
若木を馬車に積み、ギルクへ再び近くの街に案内してもらった後。
私達は彼へ城へ帰ることを伝えた。
「も……もう、お帰りになるんですね」
「はい。ありがとう……ギルク」
「い、いえ」
馬車の車窓からリルレットが手を振り、コッコちゃんも顔を覗かせてギルクを見ていた。
「ばいばい、ぎうくー」
「コケー!」
「はいっ!! 姫様もコッコさんも、お元気で」
私の隣にいたシルウィオもギルクへと視線を向ける。
「給金の件は……ジェラルドに伝えておこう」
「あ! い、いえいえ。忘れてください! 皇帝陛下達のお役に立てただけでも光栄ですから」
そう言いつつも、嬉しさでにやけている彼に思わず笑ってしまう。
そんな彼の傷のついた手を、シルウィオは見つめた。
「手……」
「え、手が何か?」
「腕のいい医者がいる。治してもらえ、紹介文は書いてやる」
「…………その、お願いしたい気持ちはありますが。先に、カーティア様へお話をしたい事があるのです。よろしいでしょうか」
真剣な表情になったギルクは私へと視線を移す。
シルウィオが静かに頷けば、ギルクは私へと跪いてグラナート式の礼をした。
「カーティア様……俺、ずっと」
「ギルク、レブナンにも伝えましたが……私は謝罪など」
「いえ! 俺は……謝罪などできぬ事を貴方にしてしまっていたと……理解しています」
いつになく真剣な眼差しで、彼は言葉を続けた。
「俺は、グラナートで己惚れていました。自身の責務すら果たさず、貴方にした仕打ちは許される行為ではありません。この手は俺に課せられた罰だと思っています」
「ギルク……」
「そんな俺ですが、不躾なお願いをさせてほしいのです。俺は……また一から鍛錬を積み。地方騎士から、帝国を代表する騎士になってみせます! 国外にまで俺の名が響くほどに活躍してみせます」
彼は、真っ直ぐに私を見つめて言葉を告げていく。
「もし、俺が皆に認められる帝国騎士になれたなら。この手を治し、貴方の傍に仕える事を許してほしいのです。あの時、放棄してしまっていた責務を……全うさせてください」
「……」
静かに頭を下げ続ける彼に、私は無言のままシルウィオと馬車に乗る。
答えを考えて……私は振り返り答えた。
「待ってますよ。ギルク。今度こそ、護ってくださいね」
「っ!!!! ……あり難き、お言葉です! カーティア様!」
頭を下げながら、地面に雫を落とし続ける彼。
その見送りを受けながら、馬車は走り出す。
私達の居場所へと。
馬車の揺れに身を任せながら、私は隣に座るシルウィオの手を取って問いかけた。
「良かったですか? 許可してしまって」
「いい。あいつが賊と戦っていた時に、前はなかった才覚を感じた。力になるはずだ」
「っ。そうなのですね……」
「案外、有言実行するのかもしれないな」
シルウィオのお墨付きとなれば、その可能性があるのだろう。
少し期待しながら待つのも、悪くないかもしれない。
「コケェ!」
二人で話していれば、コッコちゃんが私の膝上に乗ってきた。
リルレットはシルウィオの膝上に飛び乗る。
「かえったらね。こーこと木をうえるの!」
「コ!」
「そうね、大切に埋めてあげましょうね」
「コケ!」
コッコちゃんは私に気持ちを伝えたからなのか、いつもよりもとびきり甘えて私へと身を預けてくれる。
私は馬車に載せた若木に感謝をしながら、城へと戻る馬車の揺れに身を任せた。
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