死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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二章

59話

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 あれから、太皇太后を見つけるため各国へと使者を送られたが、未だに見つかる事はなく……
 平穏な日々が過ぎていき、リルレットはもうすぐ二歳だ。
 
 そんなある日。
 庭園の野原に座り込み、本を見つめるリルレットへと私は声をかけた。

「リルレット、また見てるの?」

「うん、これすき!」

 リルレットは茶色の髪を揺らし、紅の瞳をキラキラとさせながらとある魔術書を見せる。
 それはカルセイン国が発行した魔術書であり、驚いたことにあのシュルク殿下が書いた本らしい。カルセイン国の様々な魔法が乗っており、それが最近のリルレットのお気に入りだった。

「内容……分かるの?」

「おえかきあるからわかる! でも、りるは……おかたんによんでほしい」

「ふふ、いいよ。どこを読んでほしいの?」

 座れば、私の膝にリルレットがちょこんと乗って、共に魔術書を読む。
 私にはちんぷんかんぷんだけど、リルレットには理解できているようで楽しそうだ。

「コケー!」
「コ!」
「ピピ!!」

「あーー! こーこ! こんにちわ!」

「コケェーー!」
 
 大所帯となったコッコちゃん一家も、私達の周りをウロウロと歩き回っていた
 時折、撫でて欲しそうにすり寄ってきたり、癒しの空間は心が安らぐ。

 ここは天国だろうか。
 
「カティ、リル」

 そんな考えを抱いていると。
 いつものようにシルウィオが私達の元へと来た。

「なにしてる?」

「おとた! おほんをよんでもらってるの」

「…………奴の魔術書か」

 少し嫌そうなのは、この魔術書を書いたのがシュルク殿下だからか。
 嫉妬しているのだろうと微笑みながら、彼に飛びつくリルレットを見守る。

「リル、今日はなにがしたい?」

「りるね! かくれんぼしたい!」

「……いいぞ」

「やた! やた!」
 
 最近は彼の政務が終わり次第、リルレットと遊ぶのが日課となっている。
 今日はかくれんぼみたいだ。

「おとたがさがして! おかたんはいっしょ!」

「リルレット、転ばないように手繋いで走ろう?」

「うん!」

 目を瞑ったシルウィオを置いて、私達は隠れる場所を探した。
 そして庭園の茂みに、笑いをこらえるリルレットと共に隠れる。
 
「おとた、みつけてくれるかな」

「きっと、リルを見つけてくれるよ」

「ふふ、うれし!」

 ワクワクと楽しむリルレットを見ていると。
 身を隠す茂みが揺れて、シルウィオが顔をのぞかせた。

「ここか」

「え!?」
「おとた! はやいー!」

 あっさりと、シルウィオに見つかってしまう。
 リルレットは驚きつつも、抱きついていた。

「見つけるの、早いねシルウィオ……」

「……」

 なにやら彼が下を向くので、その視線を追うと。
 いつの間にか付いて来ていたのか、コッコちゃん達の家族が列を作って私達の隠れた場所に集まっていた。
 なるほど、簡単に見つかる訳だ。

「コケケケ」「ピッピピ」

「あー! こーこもきてる!」

「リル、次は何がしたい?」

「えーとね、えっとね。りるね、ぐーうと、じーいともいっしょあそびたい!」

 リルの言葉に、私はシルウィオと視線を合わせた後に答えた。

「ごめんねリルレット。二人ともお仕事で居ないの」

「えーー! じゃあ、じゃあ! きょーはだっこしてなでて、おかたん! おとた!」

「ふふ、いいよ。おいで!」

「やた! だいすき!」

 飛びついてきたリルレットを抱っこして、シルウィオがこの子の頭を優しく撫でる。
 嬉しそうに笑っているこの子には聞こえぬように、私は彼へと囁いた。
 
「本当に、ジェラルド様一人でも良かったの?」

「……あぁ」

「でも……」

「心配するな」

 実は、潜ませていたレブナン達から数日前に文が届いたのだ。
 そこに記載されていた内容は凶悪だったが……私達は敢えて、気付かぬふりをして過ごしていた。
 全ては、まだ姿も分からぬ主犯の尻尾を掴むため。泳がせているのだ。
 
 だけど、それはジェラルド様が一人で危険に晒される策のため、心配でもある。
 彼はジェラルド様に全幅の信頼を置き、大丈夫だと言った。
 


 それでも、心配な気持ちはある。
 ジェラルド様、どうかご無事で……
 




   ◇◇◇





 城内のとある通路。
 人影のない場所で佇むジェラルドは呟く。

「届いた文の指示通り、一人で来た」

「よく来てくれた。ジェラルド殿」

 物陰から、一人の赤黒い鎧をまとった騎士が姿を現す。
 帝国騎士でなく、ヴォーレンが連れていた騎士だった。 
 彼は悠然とジェラルドへと近づくと、その首筋に剣を向けた。

「城内に入る手筈まで整えてくれて、助かったよ」

「……」

 ジェラルドの瞳に殺気が帯びるが、騎士は笑い声を上げる。

「分かってるな? お前の娘の近くには既にこちらの者が控えている。俺を殺しても……連絡が途絶えれば、娘二人は殺されてしまうぞ」

「……望みはなんだ」

「簡単だ。ここで自死しろ」

「っ……」

「俺の主の計画には、お前が邪魔みたいでな……」

「ふざけたことを……」

「元騎士団長らしいが、こうして立ち合えば俺でも簡単に殺せそうだ。しかし……主の計画通り、お前には自分で死んでもらう」

 ジェラルドに渡されたのは、小さなナイフだった。

「簡単だ。首に突き刺してさっさと死ね」

「……」

「お前の屋敷に向かっている連中は男ばかりにしたんだ。逆らえば、娘たちがどんな最後になるのか想像がつくだろう? 殺されるだけで済むと思わない方がいい。娘は幼くとも女だもんな?」

 ジェラルドは手に持つナイフを握り、目を瞑る。

「分かったら、さっさと死ぬんだな。あまり長引かせるなら、娘は他国の色好きに売って––」

「貴様らは、カーティア様を侮り過ぎだな……」

「は? 何を言って」

 首を傾げた騎士へ、ジェラルドは小さく微笑んだ。

「……あの方が手配した内通者のおかげで、貴様らの計画など筒抜けだ」

「なっ! おまえっ!!」

 騎士は、驚愕と共に剣を動かした。
 ジェラルドが漂わせた殺意に、身体が防衛のために勝手に動いたのだ。

 しかし……

「おぶっッツ!! がはっ!!」
 
 ジェラルドはあっさりと素手で剣を払い、そのまま騎士の顔を掴んで壁に叩きつける。
 大きな音が鳴り響き、バラバラと壁から破片が落ちていく中。
 ジェラルドの腕に筋が浮かび、その握力が騎士のヘルムを少しずつへこませていった。
 ヘルムの隙間から、血が噴き出す。

「あ! あぁぁぁ!! い、いだい! あ、あたまが! やめ!」

「静かにしろ……城内には姫様やカーティア様もおられる。こんな所は見せる訳にはいかない」

 騎士の鎧の隙間から、ナイフが突き刺される。
 叫ぼうとしても、ジェラルドの殺意がそれを許してくれなかった。

「あ、がぁ! や……やめて、くれ」

「娘達の元にはグレインが向かってくれているが……心配もある。だから、さっさと私の仕事を終わらせてくれるか?」

 ジェラルドはナイフ何度も突き刺して、傷口を抉るように動かす。
 悲鳴が上げそうな騎士の口を抑え、再度「静かに」と呟いた。

 ジェラルドの表情に、いつもの笑みはなく……かつての騎士時代のように。
 脅すための、冷たい無表情を見せる。

「さっさと、貴様らの主を明かせ」

「あ……あぁ……あぐ……や、やめ」

 その鋭い視線に、騎士は身震いする恐怖を感じた。
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