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二章

47話

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「カーティア様! この庭園、お花だらけです!」
「すごくきれい……」

 ジェラルド様はその後に仕事に一度戻らなければならず。
 彼の娘であるミリアとラーニは私の手を引いて、庭園の中を目を輝かせて散策する。
 可愛らしい彼女達と一緒にいると、自然と笑ってしまう。

「あの畑はなんですか?」

「あれは、私が育てている作物なの。二人が食べるようなお野菜を育てているのよ」

「すごい! カーティア様……皇后様なのにお野菜も!」
「可愛い鶏もいるよ!」

「コケケ」

 この子達にとって新鮮な事ばかりなのだろう、楽しんでくれている。
 まぁ……城内で作物を育てている国など私も知らぬから驚きも理解できるかもしれない。
 それよりもコッコちゃんがいつもは触らせてくれないのに、二人には身を許して撫でられるのは許している。
 サービスまで出来るなんて、流石コッコちゃんだ。
 
 グラナートにいた頃から子供と関わる機会はあまりなかった。
 だから子供の屈託のない笑顔を見るのは久しぶりだ。

「二人は何処かいきたい?」

「あっちの! いっぱいお花咲いてるところ!」

 ミリアとラーニと共に向かったのは、庭園内で最も様々な花が咲いている花畑だ。
 綺麗な色とりどりの花を見て二人は目を輝かせる。
 私は庭師の方へ許可をとり、花畑を荒らさない程度に自由にしてもいいよと二人に伝える。
 すると、二人は年相応にはしゃぎながら花畑を愛でるように駆けていった。

「私も……あんな時があったなぁ」

 ジェラルド様の娘でありながら、私自身と重なってしまう。

 花畑でしゃがみこみ、なにやら話をしている二人を木陰で見つめながらふと考えてしまう。 
 私とシルウィオにも……あんなふうに、子供が。

「……」
 
 い、いやいや。なにを考えているのだろうか。
 ……早計だ。うん
 熱くなった顔を冷ますように、手を仰いで自分の顔に風を当てる。

「……か、考えないようにしよう。うん……」

 焦り、火照った熱が収まってきた時。
 私の元へ遊んでいた二人がやって来る。ニコニコと笑いながら。

「どうしたの? 二人とも」

「あのね、今日カーティア様にお会いしたかったのは、ありがとうって伝えたかったからなの」
「ミリアと一緒に、おとうさまについて感謝しに来たの」

「感謝? なんのこ––」

 言葉の途中で、二人が私の傍へと駆け寄って頭へと何かを乗せる。
 甘い香りがするそれは、花冠だった。

「これ……いいの?」

「うん! カーティア様のおかげでおとうさまも嬉しそうだから」
「カーティア様が来てから、帝国のお城が凄く暖かくなったって喜んでたの! ありがとう! カーティア様」

「……ふふ。私こそ、ありがとう」

 ジェラルド様……二人の娘に愛されているな。
 そう思いながら、可愛らしい二人を思わず抱きしめてしまう。
 彼女達の、子供らしく天真爛漫な姿には心がキュンとするのだ。

「二人とも、ジェラルド様を支えてあげてね」

「うん!」
「わかりました!」

「えらいわね。二人とも」

 二人の頭を撫でた後、おしゃべりをしたり、遊んだりと時間を過ごしていると二人は私の膝上に頭を乗せてスヤスヤと眠ってしまった。可愛いらしい寝顔だ。


 少し時間が経って、仕事を終えたジェラルド様が二人を迎えに来る。
 彼は苦笑しながら二人を軽々と抱っこしていく、その姿はかっこいいお父様だった。

「ありがとうございます。カーティア様……二人とも、どうしても会ってみたいというもので」

「いえ、私もとても癒されました。また彼女達が望めばいつでも来て下さいね」

「ありがたき幸せです。暗くなれば二人とも怖がってしまいますので、今日はここで」
 
「はい、ジェラルド様」

 ジェラルド様に抱っこされながら眠っていた二人は、少し目を開いて私へと手を振ってくれた。
 その仕草に、胸が疼くのだ。

「可愛いな……」

 ジェラルド様の背が見えなくまるまで見送りながら、私は思わず呟いていた。
 そのまま、足は自然とシルウィオの元へと向かっていた。
 執務室へと辿り着き、扉をノックする。

「シルウィオ、今……少し大丈夫ですか」

「っ……カティ、大丈夫だ」

 執務室へと入れば、彼が一人で執務をしていた。
 今日はグレインの姿が見えなかったから一緒だと思っていたけど、どうやら違うようだ。

「……子供と遊ぶのはいいのか?」

「? 知っていたんですか」

「ジェラルドから聞いた。それに……窓からも見える」

「な、なら聞きたい事があるのです」

「……?」

 彼の深紅の瞳が私を見つめてきて、今から交わす言葉に緊張してしまう。
 だけど、 幸せのためにとグラナートを飛び出した日から……自分に素直に生きようと決めたのだ。
 抱いたこの気持ちを素直に、伝えて話し合おう。

 私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめて、心の奥で芽生えた質問を彼へと告げた。

「シルウィオ……は、私と子供が欲しいって……思う?」

「っ」

 思った以上に顔が火照ってしまい 鼓動が高鳴って苦しい。
 呆気にとられた彼の視線が、少し恥ずかしい。

「カティ……俺は––」

 答えようと彼が口を開いた瞬間、勢いよく扉が開いた。 
 音に驚き、視線を向ければ……

「へ、陛下!! ありました! お望みどおり育児書や子供との接し方について書かれた書物を書庫から探してきま……ぁ」

 勢いよく執務室へと入ってきたグレイン。
 幾度も見た事のある光景に、思わず笑ってしまった。
 相変わらず、いいタイミングで来るのは、彼の運がいいのか悪いのか。

「グレイン……お前はいい加減にノックを……」

「す、すみません! 陛下! 一刻も早くお知らせしようと」

「いい……少し出ていろ」

「は……はい!」

 答えようとしていた彼の代わりに、またもやグレインが全て明かしてしまったようだ。
 彼には、いつか感謝しないと……あのおっちょこちょいのおかげで、私達の関係は確かに深まっている時もあるのだから。
 グレインが出て行くと、シルウィオは視線を逸らし呟いた。

「今回は、ちゃんと正直に言って……カティと話し合おうと思っていた」

「ふふ……シルウィオ、ありがとう」

 どうやらシルウィオも、私と同じ考えを抱いてくれていたようだ。
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