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16話

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私がウィリアム様の屋敷に来てから
数か月が経った
肌寒かった風は暖かくなり、緑豊かな風景が増えてきた
屋敷の周りの花も色を変えた、私も少し手伝いをしているが
ウィリアム様の菜園の知識は教わる事が多い

そして大きく変わった事がある

「ウィリアム様!ラスト1周です!」

「あぁ!競争しようか!シャーロット!」

「ええ!」

2人が駆け出す、この数か月私はウィリアム様に負けた事はなかった
昔から運動をしていたから負ける気もなかったが
今日この日、僅差でウィリアム様が勝ったのだ

「…負けました…ウィリアム様」

「は…はは…僕は倒れそうだけどね…はぁ…はぁ」

膝が震えている彼は地面に座り込み息を吐いた
私は少しだけ余裕があったけど、いずれペースも追いつかないかもしれない
彼は痛そうに太ももをストレッチしている
ニヤリと私はいたずらっぽく笑いながら彼の近くに座る

「ウィリアム様、今日は勝ったご褒美があります」

「へ?」

彼が首を傾げたと同時に手を伸ばして彼の太ももをマッサージする

「っ!?シャーロット!」

「お疲れでしょうから、私からの労いです」

彼は顔を真っ赤にしながら俯き「ありがとう」と小さく呟く
最近分かってきたのだ、彼は気恥ずかしい時は顔を赤くしてうつむく

その姿がどこか可愛くて、思わずいたずらをしてしまう
お互いの仲が良くなったからこそ、最初の頃にあった緊張と気まずさは無くなっていた
彼との距離は近くなったのはいい事だが、未だに彼の伝えたい事はまだ聞けない

むぅ…私は気になって未だに眠るときに考えてしまうのに

「少し痛いよ、シャーロット…」

「あ…ごめんなさい…」

いけない、思わず力がこもっていた
力を少し弱めて良くもむ、筋肉痛になって明日一緒に走れなかったら寂しいから

走り始めた頃は筋肉痛でよく動けないウィリアム様を励ましたものだ


「ありがとう、シャーロット…朝食を食べに帰ろうか」

「はい、ウィリアム様」

もはや習慣化し、日課となった運動を終えて
屋敷へと戻る

「お帰りなさいませ、お二人とも」

「ただいま、エマ」

屋敷で働く事となったエマは今はグロウズ伯爵家にいたころと同じくメイド長となっている
数人の使用人と共に仕事をこなす
オルターさんはウィリアム様の事務仕事の手伝いを行っている

すっかり料理はエマ達が引き継いでおり
オルターさんに並ぶ、いやお互いの知識を混ぜ改良されてさらに美味しくなった料理が食卓に並ぶ
ほほが落ちそうになりながら、食べていく

「ウィリアム様…少しよろしいでしょうか?」

「どうした?オルター」

食後、ゆっくりとコーヒーを飲んでいるとオルターさんが少し戸惑いながら手紙を手渡してきた
誰からだろう?
ウィリアム様が宛先を見ると、少し困惑した表情を見せた

「どうしました?ウィリアム様」

「………レオナードからだ」

「っ?」

思わず、寒気を感じてしまう、忘れていたはずの嫌悪感が襲ってきた
私を心配してかウィリアム様が傍にきて背中をなでてくれる

「大丈夫か?シャーロット…」

「は、はい…すいません取り乱してしまいました…内容は?」

「それが…」

彼が手紙を見せてくれる
汚い文字だ…せめて使用人に代筆してもらえばいいのに
何とか読み進めていく

ざっくりと内容をまとめると

数日後、レオナードの20の誕生日となるためパーティーを開催する

その招待状のようだった
文の途中で脈絡もなく「お前は俺を忘れられないだろう」だとか
「俺の魅力に気付いた頃だ」「早く戻ってこい」と書かれていた

忘れられないのはレオナードへの嫌悪感のみだ、今の今まで記憶から消えていたのにね

「どうしますか?ウィリアム様」

私は彼に問いかける
これは私と彼への招待状だ
レオナードの意図は分かる、ウィリアム様を会場に連れ出して
貴族達の前で公に馬鹿にするのだろう、そして私に再度戻ってくるように言ってくるはずだ
もう、無駄だというのに

「…ぼ、僕は…」

迷っている様子だった
公爵家の人間として王子の誘いを無下にはできないだろう
だが、参加すればまた笑われると心配している

「大丈夫ですよ…ウィリアム様」

私は彼の手を握る
震えていた、怖いのだろう…安心してほしいと思って両手で包み込む

「シャーロット…僕は…僕はまだ弱いみたいだ…」

頭を下げる彼に寄り添うように立ち
そっと、頭を撫でる

「ウィリアム様、1人ではありませんよ…」

「僕は成長できたのか?怖いんだ…パーティーに参加してまた馬鹿にされたら
君と一緒に過ごした時間が、成長しようと君と進んだ時間が否定された気がして…」

「………」

私はウィリアム様の手を引く
そしてそのまま屋敷の外へと連れてい

彼は驚きながらも黙ってついてきてくれた

「見てください、ウィリアム様……今朝水やりしている時に気付いたのです」

「これは………」

彼にそれを見せた
見事に花を咲かせたコスモスが色鮮やかに庭を彩っている
全てが綺麗に咲いて、失敗していない

「ウィリアム様…きっと大丈夫です、一緒に過ごした時間は決して無駄ではありません………私も、あなたも」

「…………そうだねシャーロット…よし!」

パンっと彼は自分の頬を勢いよく叩くと、痛がりながらも
いつもの笑顔に戻っていた

「そうだ、僕はもう………前のように下を向いて埋まっていた僕じゃないんだ………前を向けたんだ…君がいたから」

彼の言葉に微笑み、頷く
手を繋ぎ彼の温もりを感じ
私の温もりも伝えながら

「私も…あなたと一緒なら…」


コスモスが風に揺れる
もう、土に埋まっていた私達ではなかった


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