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14話

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のそりと身体を起こす
ガンガンと頭が痛み、吐き気がする

「飲み過ぎた、これも全てあのバカ娘のせいだ」

重たい身体を起こし、寝台の横に置いているコップに手を伸ばす
みすが入っていない?

「ちっ…朝方には水を入れておくように言ったはずだ、グズ共が」

イライラし、舌打する

「おい!!誰か!!おい!!」

使用人達を呼ぶために声を張り上げるが
返事はなかった
おかしい、俺が起きた時に服を着替えさせたり、身の回りの世話のために常に部屋の外には使用人を置いていたはずなのに
寒くないように毛布をくるみながら部屋の外に出る
シンっと静まり返った廊下、誰もいない

「なにが起こっている?」

疑問と共に恐る恐ると各部屋を見て回る
やはり、誰もいない

「おい!!おい!!俺が起きたのだぞ!!早く来ないか!!グロウズが起きたのだぞ!!!」

何度も大声で叫ぶがやはり返事はない
広い屋敷の中に1人しかいないせいか、いつもよりも肌寒く感じる
ペタペタと裸足で歩いて、リビングへと向かい扉を開く

「おはようございます、グロウズさん」

「おわ!?」

部屋の中には使用人の中で最も長く仕えるメイド長のエマがいた
人がいたと思った安心と同時に返事をしなかった怒りがこみ上げてきた

「おい!!他の使用人はどうし…」

言い終わる前に目の前に紙を突き出される
何十枚もの紙の束

「これは?」

「この屋敷に仕える使用人全ての退職届です、お受け取りください」

「は?」

「では、お渡ししましたので…失礼します」

動揺して固まる俺を置いて、エマは荷物を持って出ていこうとする
慌てて声を掛ける

「ま、まて!これはどういうことだ?」

「そのままの意味です、皆が新しい働き口を見つけてこの屋敷での仕事を辞めただけですよ」

「は!?何を言っている!そんな事が許されるはずがないだろう?」

「いえ、グロウズさんは知っておりませんでしたがシャーロット様が何年か前に雇用契約書を変えてくださっていたのですよ、いつでも辞められるように…何を言われても違法性はありませんので」

あ…あのバカ娘が!?
怒りで頭が沸騰しそうだった、地団駄を踏み
すがりつくようにエマへ詰め寄る

「な、なら俺の世話は誰がするんだ!?ど、どうすれば!!」

エマは「はぁ…」と呆れたようにため息をつく

「身の回りの心配の前にご自身のご安全をご心配された方がいいですよ」

「は!?な、何を言って」

「では、お世話になりました」

エマは俺を置いて出ていった
広い屋敷でただ一人残された俺は立ち尽くし、どうすればいいのか分からずに
とりあえずなにか食べるものを探した
キッチンへ行くといくつか食材があった
料理の仕方など、今まで使用人達に任せていたのでどうすればいいいのかわからない

生のままかじりついてもとても食えたものではない
腹を空かして、うろうろとしていると

ガシャン!!

「ひぃぃ!!!」

突然、窓が割れる
大きな音をたてて割れた窓に驚き、腰をぬかしてしまう
な、なにが起こったのだ?

慌てて起き上がり窓の外を見ると民たちが大勢
屋敷の周りを取り囲んでいた、怒りで顔を染めて皆が石や農具を持っていた

「え、衛兵はなにをしている!………!?」

慌ててエマから受け取った書類の中身を見る
使用人達だけではない
衛兵や馬の飼育員
はては庭師まで全てが辞めているのだ

「おい!!グロウズ!!出てこい!!」

ガシャン!!!

「ひぃぃ!!!」

再度投げ込まれる石、当たりそうになり身を屈める
這いずるように自室に入り、寝台の中でこもる

次から次へとガラスが割れていく
いままで重税をしいてきた民衆達が衛兵がいなくなり守る者もいないグロウズに制裁を下すのは当たり前だった
エマの心配していた言葉、このことだったのかと後悔しても遅かった


「ここにいたのか!!」

「ひ!!」

布団をはがされ、民衆達がすでに寝台の周りを取り囲んでいた
逃げ場なんてない、身体が震え…股の間を暖かい液体が流れる

「ゆ…ゆるして…ください」

泣いて懇願しても
彼らの表情は変わらない
今まで苦しめてきた者達はその怒りの矛先を変えるはずがなかったのだ
振り上げられた拳、血を流し倒れても民衆達は止まらない

今まで押さえつけてきた反動は止まらず
次々と振るわれる暴力にただ泣いて謝ることしかできなかった




この日、グロウズ伯爵は命を助けてもらう事を条件に
爵位を捨て、重税の撤廃を約束した



グロウズ・レクセンブルク伯爵
長く続いていたレクセンブルク家はこの日を持って終わった

後に残ったのは薄汚い衣服で物乞いをするグロウズだけだったのだが




シャーロットはそれを知る事も、考えることもなかった




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