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22話

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 宣言した私へと、イエルク様達は満足そうに頷く。

「僕らとしては、ルマニア王国の情勢が安定すればどうなっても構わない。せっかくの貿易路の憂いは無くす事だけ約束してほしい」

「承知しております。皆さまにはご迷惑をお掛けせぬよう、善処いたします」

 ひとまず納得してもらえたと思う。
 貿易路の完成間近に、この国での問題を終わらせてほしいと皆が思っている。
 いつまでも、この情勢不安を引っ張ることはできない。

「では、次の議題を––––」

 私の考えを聞き終え、他国の方が口を開いた瞬間だった。
 慌てる足音が私達の部屋へと近づき、扉がノックもなく開かれた。

「ラテシア様! 至急ご報告があります!」

「ど、どうしたのですか」

 我がフロレイス公爵家の訓練された私兵が、ノックもなく入ってきた。
 このような非礼をするなど、よほどの報告かと身構えたが……
 その兵は感極まったように、頬に笑みを浮かべて口を開いた。

「本日、正式に王家が声明を発表いたしました!」

「王家が?」

「従軍経験者への土地を返還すると共に、セリム陛下が……情勢不安の責任は自らにあると認めたのです!!!!」

「っ!」

 その言葉に、私も含めた皆が驚愕で言葉が出なかった。
 あれだけ強情であり、非を認めようとしなかったセリムが……

「土地の返還については、すでに各貴族家と交渉を済ませているようです。事実上の無血降伏を、王家が認めました!」

 すでに、交渉を終えている。
 その言葉を聞いて、同席しているリガル様へと驚きで視線を合わせる。

 なぜならそれが意味するのは、セリムがかなり前から……非を認めて行動していた事に他ならぬ。
 不平が極力無いように尽力した証だ。

「セリム……王としての意地を、見せてくれたのですね」

「ですな。ラテシア様」

 政争の終止符を打つともいうべき王家の声明。
 それを聞いて他国の方々もホッと安堵していた。
 情勢不安の中、最悪の結果を避ける未来へと動き出したのだから。

「良かったね、ラテシア嬢。君が国を動かしたに等しい結果だ。やはり……今からでもうちの国に来ないか?」

「イエルク様……お褒めの言葉、光栄です。お誘いはお断りしますが……」

「また振られちゃったか」

 冗談めかした言葉に、イエルク様も喜んでくれているのだと分かる。
 その後、他国の皆様は満足げにそれぞれが帰路につく。

 私達も政争の終わりを感じ取り、皆が安堵した表情を交わしていた時だった。

「ラテシア様! 報告があります!!」

 新たな報告が、皆の表情を……一瞬にして緊迫したものへと変えた。


 ◇◇◇


 フロレイス公爵領内、そこへやって来たのは数百人規模の護衛に囲まれた豪奢な馬車だった。
 その馬車には見覚えがある。
 ルマニア王国の王家のみが所有する馬車だ。

「……リガル様、本当に彼女が来たのでしょうか」

「ええ、王家からの遣いとして……ミラ王妃が王家直属の護衛騎士達と共に来たようです」

 リガル様に見せてもらったのは、確かに王印が押された書状。
 此度の王家の声明を、王妃のミラが自ら伝えにきたというのだ。

「お久しぶりです。ラテシアさん」

 馬車から降りた彼女は、カーテシーと共に私を見つめる。
 茶色の髪は以前よりも長くなっており、紅の瞳には余裕が帯びていた。
 とても降伏ともいえる声明を伝えに来たように思えないのは、私の勘違いだろうか。
 
「本日は王家が非を認めた事を伝えに来たと共に、貴方を王城へとお連れするために私が来ました」

「ミラ……まさか貴方が自ら、この場にくるとはね」

「あくまで平和的な和解という事を示すため、無力な私がこの大役を預かったの。セリムだって納得してくれたわ」

 そんな言葉を述べるミラは、私へと手を伸ばす。
 艶めいた髪を揺らし、笑みを浮かべた。

「ということで、私と共に王城へ来てくださいラテシアさん。もうセリムは貴方に対して降伏しました……ここからはいがみ合わず、平和的に話し合いをしましょうか」

「ミラ、私はその前に色々と聞きたい事があるの。貴方が前王の死や、私の父の不幸を知っていた理由を教えなさい」

「……」

「無言は許さない。事情を聴取させてもらうわ、ミラ」

 私の言葉にミラは暫しの沈黙で答えた後。
 大きなため息を吐いた。

「見損ないましたわ。ラテシアさん」

「……」

「そんな些事よりも、今は国の安定化のためにすぐに王家との和解を進めるのが一番でしょう? 今も民達は暴動に怯えてる。早く王城に来てセリムと話し合い、民を安心させましょうよ」 

「一理あるかも……しれないわね」

「そうでしょう? ラテシアさんの聞きたい事は、私がたっぷりと王城への道中で話してあげるわ? 気になるでしょう? だから着いてきて」

 真相を焦らしつつ答えるミラ。
 だが彼女の言う通り、今は王家との和解を優先し……王国民や、従軍経験者達の生活を取り戻すのが先決だ。

「分かりました。着いていきます」

「では、馬車に乗りなさい。王家直属護衛騎士まで着いているのだから安心して、そちらの護衛は少人数でお願いね」



 ミラは嬉しそうに微笑み、私を馬車へと手招く。
 彼女が連れてきた護衛騎士達が一様に、馬車までの道を開いた瞬間。
 私は、笑って言葉を続けた。
 

 
「と……言うと思いましたか? ミラ」

「……は?」

「捕縛、取り囲みなさい」

 私が呟いた途端だった。
 この現状を見守っていた我がフロレイス公爵家の私兵達が、即座にミラの護衛騎士達を連行していく。
 やはり……王家直属護衛騎士にしては、あまりにあっさりと彼らは捕縛される。

 そして、隙をついたおかげでミラも逃げる時間さえ与えずに捕らわれる。

「な、なにをするの!? これが王家の遣いに対する扱いならば、到底許されないわよ!」

「ええ、確かに貴方が王家の遣いとして来たならその通りです。でも……」

 呟きながら、私はミラが連れてきた王家直属の護衛騎士達を一瞥する。
 うん……やはり。
 誰一人、私は知らないな。

「彼らは王家直属の護衛騎士ではありませんね?」

「っ!」

「顔を見れば分かります。誰一人として、私が知る者がいないのですから」

「まさか……あんた、王家直属の護衛騎士達の顔を……覚えていとでもいうの?」

「当然よ」

「嘘、嘘よ! 出鱈目言わないで! 離しなさい! この女の嘘に騙されて、貴方達は王家の護衛騎士に手をかけているのよ! 反逆罪に問われるわよ!」

 ミラが必死にフロレイス公爵家の私兵へと叫ぶが、無駄だった。
 彼らはミラの言葉を信じず、私を信じてくれているのだから。

「ミラ、大方……王家の護衛騎士と偽ったごろつきで、私を王城に連れていく途中で害そうと思ったのでしょう?」

「違う……この女の嘘、嘘よ! こんな人数を覚えていられるはずがない!!!」

「私は王宮に所属する全員を覚えております……それが、貴方が奪った王妃の責務でしたから」

「っ……」
 
 王妃が自らやってきたという事実で信用を得ようとしたのだろうが。
 ミラの杜撰な企みが通用するはずがない。

「私を……政争相手の言葉を疑いもなく応じる間抜けだと思いましたか?」

「この……」
 
「さて、聞かせてもらいましょうか。ここまでして私を連行したかった理由をね?」

 私の言葉に、ミラはただ歯を噛み締めて悔しげに表情を歪めた。
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