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番外編・ルウさんぽ

ルウとの日々・4

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 雪が溶け始め、雫が太陽でキラキラと輝く中。
 学び舎で授業を終えた帰り道。
 共に歩くルウが上目遣いで見つめてきた。

「ねね、ナーちゃん」

「ん? どうしたの、ルウ」

「あのね、あのね。お願いがあってね」

 少しだけ照れながら、ルウは何か言いたげだ。
 寒さで白い息を吐いて、緊張した面持ちで見つめてくる。
 この子からお願いがあるのは珍しく、私はしゃがんで目線を合わせた。

「なんでもお願いしていいよ、ルウ」

「んっとね。ルウね、今日はおかーさん達がいないから。おるすばんなの」

 ルウがお留守番なんて珍しい。
 基本的に両親のどちらかが自宅にいて、一人きりの時なんてない子だから。

「おるすばんで、ひとりは寂しいからいっしょいてほしい」 

 初めて一人で家に居ないといけない。
 幼い子供にとって、それがどれだけ寂しくて怖いのか痛いほど分かる。
 まだお留守番が怖いなら、望み通りに……

「いいよルウ。今日は一緒に宿題しようね」

「やた! ナーちゃんすき!」

 ルウは私の手を握り、笑顔で飛び跳ねた。
 喜んでくれるなら、こんな可愛らしいお願いは幾つだって聞いてあげたいぐらいだ。

「じゃあ、いこ! ナーちゃん!」

「うん、いこうか」

「えへへ、ナーちゃんといっしょ。いっしょ!」

 ご機嫌に鼻歌を歌うルウに手を引かれて、今日は一緒に留守番だ。


   ◇◇◇


 ルウの自宅に辿り着き、さっそく宿題を始める。
 一時間が経った頃、ルウは鉛筆を持つ手を止めた。

「むずかしい、ナーちゃん」

「ルウ、ここはねかけ算だから……こうしてあげて」

「わかった! ナーちゃんすごい!」

 私の宿題はすんなり終わったので、今日はルウの分からない所を教えてあげよう。 

「むぅ~割り算むずかしい~」

「ふふ、難しいよね。こうやってやると……」

 授業中、初等部の子にモーセさんが教えていた言葉を思い出して教えていく。
 ルウは難しいと迷いつつも。
 少し教えてあげるだけで直ぐに分かってくれた、賢い子だ。

「あと二問、がんばってルウ」

「うん……見ててねナーちゃん。ルウがちゃんと解くよ」

 鉛筆を動かして、何度も迷って悩みながら。
 ルウは宿題の最後の二問を、自らの力で答えに導いた。

「できた!」

「よくできたね、ルウ。最後はモーセさんも難しいって言ってたのに」

「えへへ、ルウすごい?」

「凄いよ、ルウ。えらいね」

 ルウにそう言ってあげると、ルウは「おててかして」と呟き。
 私の手を握り、自らの頭にのせた。

「ナーちゃんなでなでして。ほめて」

 なんてお願いなのだろうか。
 疲れなんて吹き飛ぶ可愛らしさで、私は思わず無言でルウの頭をいっぱいなでてあげた。

「やたー!」

「えらいね。ルウ」

「えへへ」

 ひとしきり撫でていると、ルウは満足したのか立ち上がる。
 そして今度は、私の後ろへと回った。

「どうしたの? ルウ」

「おべんきょ、おしえてくれたお礼だよ」

 そんな呟きと共に、私の肩へとポンと小さな重みが伝わる。
 交互にポンポンと、ルウが握った柔らかい手がリズムよく肩を叩いてくれたのだ。

「かたとんとん、ナーちゃんへのお礼!」

「ありがとう……ルウ。疲れが吹き飛ぶよ……本当に」

「いっぱいとんとんするね。べんきょうおしえてくれてありがと、だいすき。ナーちゃん」

 肩を叩くルウの明るい声と、気持ちの良い肩への刺激。
 宿題をして疲れていた身体は……今日一日の疲れなど吹き飛ばすように癒された。
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