上 下
53 / 56
番外編・ルウさんぽ

ルウとの日々・2

しおりを挟む
 
「ナーちゃん、おてて~」

 授業を終えて、今日もルウと手を繋いで帰路に着く。
 以前に二人で決めた手の繋ぎ方で、手袋にルウの小さな手が入り。
 ぎゅっと握ってくれた。

「えへへ、ぽかぽかだね」

「ルウの手、あったかいから私もすっごく助かってるよ」

「ルウのおてて、ぬくぬく?」

「ふふ、そうだね。ぬくぬくだよ」

 パッと表情を明るくさせて、ルウが小さな手を大きく伸ばす。
 そして、私の手を精一杯ぎゅっと握った。

「じゃあ、もっとナーちゃんをギュッして、あったかくするの」

「ありがとね。ルウ」

 可愛いルウの仕草に頬笑みながら。
 帰り道を歩いていると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

「あ! おいもさんだ!」

「おいもさん?」

 ルウが指をさすので視線を向ければ。
 道の端にて露店を出し、イモを焼いているおじさんがいた。
 甘い香りの正体は焼き芋だ。

「ルウ、おもいさんすき!」

 そう言って、ルウは自分の鞄を開いてゴソゴソと何やら探している。
 どうしたのだろうかと、覗き込めば……可愛らしい袋を取り出した。

「えへへ、ルウ……おこづかいもってきてるの」

「ルウ、買い食いは駄目だってモーセ講師が言ってるよ?」

「でもね、でもね。おもいさん食べたいもん……」

 胸に可愛らしい小遣い袋を抱いて、私を見上げるルウ。
 その瞳にねだられては、私には断る事はでき無い。

「じゃあ内緒にしてあげる。でも夜ご飯もあるから一個だけだよ?」

「やた! やた!」

 ルウは嬉しそうに、お小遣い袋を開く。
 でも……その金額は焼き芋を買うには少し足りなかった。

「おいもさん……」

 あまりに悲しそうな表情なので、私は……
 自分の持っていたお金を、焼き芋が買える分だけ入れてあげる。

「ルウ、内緒だよ?」

「っ!! ……ナーちゃん、すき」

 ギュッとお返しのハグを貰いながら、ルウは駆け出す。
 焼き芋売りのおじさんに、少し緊張しながらもお小遣い袋を広げていた。

「おじちゃん、おいもさん。いっこください」

 気のいいおじさんが、ルウに笑いかけながら焼き芋を渡す。
 それを持って、ルウは戻ってきた。
 嬉しそうに満面の笑みだ。

「かえた!」

「よかったね、ルウ」

「えへへ。ナーちゃんのおかげ」

 こんなに喜んでくれるなら、買い食いを内緒にするぐらい軽いものだ。

「じゃあ、これ……はんぶんこ!」

「え? いいの? 私はそんなにお金払ってないよ?」

「ううん。ちがうの、ルウはナーちゃんといっしょにたべたかったの」

 笑うルウが、半分の焼き芋を渡してくれる。
 ただ私と食べたいから半分にしてくれる。
 いつしか失っていた子供ながらの純粋な優しさに、不思議と笑みがこぼれた。

「ありがとう。美味しいね」

「うん! おててつないでたべたい」

「じゃあ、こっちおいで」

 焼き芋屋さんの端に置かれた、お客用椅子で一緒に食べる。
 手は互いに握りながら、片手で焼き芋を頬張った。

「えへへ。だいすきなナーちゃんと、いっしょにおもいさん~」

 ルウの陽気な声、焼き芋の香り、口いっぱいに広がる甘さに……心まで満たされる。
 本当に美味しい。

「……おかしいの。儂は買い食いは駄目だと言っておったのに」

「っ!!」
「あ……」

 焼き芋に夢中になっており、気付かなかった。
 いつの間にかモーセさんが来ており……私達の前に立っていることに。

「あ、あの……これは……」

「儂の注意を聞かない子は、宿題二倍だったはずじゃがの~?」

「わ、私がルウに買ってあげたんです。ルウは悪くありません」
「ルウがナーちゃんにお願いしたの! ナーちゃんわるくないよ!」

 互いに庇うような言葉を発した瞬間。
 モーセさんはフッと笑った。

「互いに優しい子らよの。お主らは」

 そう言って、モーセさんは焼き芋屋さんにお金を渡す。
 買った焼き芋を手にして、私達の隣に座った。

「儂も買い食いした事を黙っておいてくれるかの?」

「え?」
「モーセおじちゃん。いいの?」

「ほほほ、実はな? 儂も帰り道の途中で焼き芋の香りに釣られたんじゃ。これで共犯だな? 皆には内緒だぞ?」

 ニカリと笑うモーセさんの言葉に、私達は頬笑みながら頷く。
 優しいモーセさんの気遣いに感謝し、買い食いはしないように反省しながら。

 今日だけは。
 三人共犯で……温かくて心が満たされる焼き芋を食べた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける

高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。 幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。 愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。 ラビナ・ビビットに全てを奪われる。 ※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。 コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。 誤字脱字報告もありがとうございます!

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...