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「ねぇ?何読んでるの?」

 問いかけられた言葉、普段から人と話す事を避けて生きてきた私は返す言葉が上手く出てこずにあわあわと慌てていると読んでいた本をひったくられるように取られてしまう。
 一切関わりのないクラスの人気者の女子…私は抵抗も出来なかった。

「あっ……」

「ふーーーん」

 パラパラとページがめくられていく、その手つきに本を大事にしようなんて思いやりは一切なく、何かを見つけたのか、ニヤニヤとした顔で私を見つめた。

「ねぇ?この物語の王子ってさ…カッコイイね~○○ちゃんって王子様とかと結婚したいの?」

 彼女の問いかけ、私は答えられずに言葉に詰まっていると彼女はニコリと微笑んだ。

「大丈夫だって誰にも言わないからさ、正直に言ってみて?…私ねこの物語が好きな貴方とは仲良くできそう」

「………」

 今にして思えば…なぜあの時に馬鹿正直に彼女を信じてしまったのだろう、クラスでは孤独で友達のいなかった私は思わず甘い言葉に誘導されるように頷いてしまった。

 その瞬間。

「ぷっあははははは!!!!!」

 大きくこだました彼女の笑い声はくクラスに響き、周囲の生徒達の視線が一気に集まっていく…冷や汗が流れて先程の言葉を否定しようと思ったが遅かった。

「みんな~~聞いてよ!この子!高校生にもなってこんな本を読んで王子様と結婚したいんだって~~夢見過ぎ~」

 周囲の生徒達の視線が集まる、その表情はなにか遊び道具を見つけた子供のように…いや、もっと邪悪だった…餌を見つけた獣のように私へと瞳が向く。

「なになに?未だにこんな話を信じてるの?」
「やだ恥ずかしい~」
「本当にね~こんな夢を抱いてるだけ無駄だよね」

 好き勝手に言葉を言われるが私は何も言い返せずに俯いていると最初に話しかけてきていた人気者の彼女は邪悪な笑顔を向けながら私に向かって言葉を投げかける。

「ねぇ?もう無駄な夢を抱いていても意味ないし、叶わないんだからさ…………こんなの、いらないよね」

「っ!!やめ!!」

 制止の声は間に合わず、ビリビリと本のページは破られていく、そしてボロボロになった本をゴミ箱に投げ捨てる。
 私が幼き頃より大切にしていた思い出や物語、夢はいとも簡単に踏みにじられた。
 彼女は私の肩に手を置くと背筋の凍りそうな程の冷たい笑みを浮かべた。


「じゃあ……約束通り…仲良くしましょうね?」



 それから…私の地獄のような日々が始まった。
 孤独では無くなった…その対価はあまりにも重く、苦しい日々であった。

 馬鹿にされ、嫌な事をされてはただジッと耐えた…嵐はいつか過ぎ去るはずだから、私の反応を面白がって馬鹿にしているだけ、だから反応しないでおけば…そう思っていたが反対に彼女達の行動はエスカレートしていった。

ジャリジャリ

「やめて…お願いだから」

「だめ~ねぇ貴方の髪って長いからさ…こんなに要らないよね?」
「やだ~○○いんしつ~」
「違うって、この子のためよ…ほら可愛くなれば王子様も迎えに来てくれるかもよ?」

 馬鹿にして笑う彼女達に髪を乱雑に切られていく、長く伸ばしていた髪は物語に登場するお姫様を夢見て子供の頃から大切に伸ばしていたのに…無慈悲に落ちていく髪の毛にただただ泣く事しか出来なかった。
 先生は面倒ごとを避けて見て見ぬふりを貫いた、両親には相談できなかった……いつも忙しそうにしている両親に迷惑をかけてはいけないと思って打ち明ける事が出来ずに日々を過ごしていた。


 そんなある日。

「大丈夫か?」

 声をかけてきた男子は私よりも学年が上の先輩だった、校舎の影で泣いていた私に手を差し伸べてくれた先輩は本当に王子様のようで…私は彼に全てを打ち明けた。

「酷いな…酷すぎる…」

 先輩は怒りに拳を握り、私の頭を撫でながら呟いた。

「俺が何とかしてやる、今日の放課後にそいつらが教室にいるようにしてくれ」
 
 頼もしい言葉、私は本当に目の前の彼は王子様に見えて…夢が叶ったような嬉しさに胸が熱く…ドキドキとしていた。



 のに。



「え~~~~△△△先輩じゃん!」

「んだよ、お前らかよ」

 放課後に教室へとやって来た先輩は私をいじめていた彼女達と親しげに話しており、私には目もくれずに彼女達と話を続けた。
 その内容は耳を塞ぎたくなる程に私の心を傷つけていく。

「いじめてるやつこらしめてやろうと思ってたのに、お前らじゃ仕方ねぇな」

「先輩カッコイイ~正義感ってやつですか?」

「違う違う、いじめられてる子とか助けたらさ、直ぐにヤらせてくれそうじゃん?俺って恋愛とか面倒だからさ」

「ゲスだね先輩、でも安心してよ…あの子って私達の遊び道具だから先輩が望むならいくらでも…あの子って叶わない夢を抱いてるお馬鹿さんだから…」

「っ!!」

 耐えられなかった。
 私は教室から逃げるように走りだした、苦しくて辛くて…ただこの苦しみから逃げ出したくて走っていく…自然とその足は屋上へと向かっていった。

 死ぬつもりなんてなかった…それなのに今ここで飛び降りればこの苦しみから解放されるかもしれないと一瞬だけ頭の中に考えがよぎった瞬間。

 私の身体は宙へと落ちていく、地面へと頭から…落ちて落ちて…。


 落ちた先、視界に広がったのは白いガーベラの花畑…その花畑を鮮血で染めて私は…私は…。































「っ!!!」


 寝台から飛び起き、私は頭を抱えて慌てて鏡台の前へと向かっていく、麗しい顔立ちに桃色の髪…いつもの美貌にあの日々に戻っていない事を確信して安堵の息を吐く。
 じっとりと嫌な汗が衣服を湿らせており、気分が悪くて吐き出しそうであった、嫌な事を思い出してしまった。

 幾ら忘れようと思っても思い出される忌まわしい記憶……。

 
 逃げても、逃げてもこのドロドロとした憎悪にまみれた思い出が蘇る。
 あのクズ達が私をずっと馬鹿にしてくるのだ、夢を見るな、叶うはずがないと…でも…でももう前の私とは違う。

「そうよ、私はローザ・オルレアン…手に入れたこの美貌と立場で必ず夢を叶えてみせる……あのクズ共の言う通りになってたまるか……私の夢はきっと叶う、幸せになれるはずなんだ」


 だから…デイジー…。
 邪魔をしないで、貴方は私と違って幸せで不幸なんて知らないじゃない……。



 私はあのゴミでクズでくそ野郎達を見返すためにもランドルフと結ばれて夢を叶えないといけないの……じゃないと、じゃないと……あいつらの言う通りになってしまうから…。


 お願い…私をもう幸せにしてよ。
 王子様……。


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