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 卒業式の会場に再び戻ってきたアメリア学園長は深くお辞儀をした。

「生徒の皆様、大切な式を中断させてしまって申し訳ありません……今回の件は学園と然るべき機関との対応にて進めていきます…では式を続けましょうか」

 アメリア学園長の言葉に反論する者はいない、静かに式は進められていく事が出来たのはアメリア学園長が日頃から授業の合間を見つけては生徒達とコミュニケーションをとるようにしていたからだろう、慕われているからこそ誰もが今度こそ式をしっかりと終わらせる事を意識していた。


「では、卒業証書を授与する者を呼んでいきます」

 生徒達の名前が呼ばれていく、証書を渡される時にアメリア学園長が言葉を共にくれる。
 泣いている者や、未来を夢見ている者、学園の日々を思い出す者など様々だ。







「モネ」

「は………はい!」

 モネは緊張した面持ちで壇上に上がっていく、ランドルフに言った時はしっかりとしていたが、未だに緊張する癖は治っていないのだろう、かつて私は彼女の弱気を一回目の人生と重ねていた、しかし今ではしっかりと自分の意見を言える女性になっており、寂しささえ感じる…だから久々に見た彼女が緊張した姿に私は微笑ましく思った。

「モネ、貴方はこの学園で過ごした日々を忘れずに生きてください…弱気で内気な貴方が何かに立ち向かえたのは友のため、私は友のために弱気を打ち消して立ち上がる貴方を誇りに思います……友を大事に、そして自分に素直にこれからも過ごしてください」

「––––!!……ありがとうございます!」


 モネは卒業証書を受け取りながら嬉しそうに微笑む。





「エリザ・フィンブル」

「はい」
 
 エリザはいつも通りだ、淡々と壇上に上がっていく立ち振る舞いは淑女科で学んだ事が活かされており優雅に感じる、初めて会った時はその態度や雰囲気はとげとげしくて出会いは最悪だっただろう、自分の立場を誇示してモネを傷つけていた彼女はもういない…今は厳しくも優しい女性だ。

「エリザ、貴方が学園で作った友人は貴方を変えてくれて、そして反省と後悔さえ受け入れて一緒にいてくれる……それは一生を生きていて出会えるかどうかも分からない親友です…どうか大事にしてください、そして貴方の兄についてはいずれ必ず学園に戻って来れるように計らいます」

「ありがとうございますアメリア学園長……でも大丈夫です、兄は私の手で戻しますから!」

 ニコリと微笑んだエリザ、かつて舞踏会でランドルフにたぶらかされてしまった兄君であるガーランド講師を気にしているのだろう、だが自信満々に答えた彼女は確かに兄君を戻せる考えがあるようであった。







「アイザック・マグノリア」

「ここに!!」

 アイザック…相変わらず自信満々で敵なんていなさそうな貴方だけど、馬が苦手だったり恋について悩みを抱えていたりと中身は私と変わらない年相応の青年で…時には怖いけど、明るい貴方にいつも救われていた。
 一回目の人生では確かに貴方には酷く傷つけられた、だけど今の貴方はその時とは違う………純粋で恋に真っ直ぐな貴方を愛おしくて……私は大好きだよアイザック。

「アイザック、貴方のその自身と揺るぎない心はやがてこの国に大きな影響を与えてくれるでしょう、この国を支える人物として不安な所もありましたが……どうやら貴方に大切な事を教えてくれた友とそれ以上の方がいるのでしょう……大切にしなさい、自分を変えてくれる人はそういませんから…」

「アメリア学園長、もちろんだ!!俺は愛している彼女を手放したりしない!!」

 あぁ……相変わらず素直で真っ直ぐ過ぎる……それも可愛いと思ってしまうのだけど、今この瞬間では抑えてほしい、モネとエリザにニヤニヤと見られている私は紅潮して顔の熱さを抑えられなかった。
 それでも嬉しいとは思う、私も貴方を手放さない。







「デイジー・ルドウィン」

「…はい」


 私は壇上に上がっていくとアメリア学園長は微笑み、そして証書を渡してくれる。

「この学園で過ごした日々は貴方の確かな財産です、悲しみもあったでしょう……辛い事も経験したと思います……それでも立ち上がって前に進む貴方を誇りに思います、かけがえのない友達は紛れもない貴方の理解者です、何か大きな問題に直面しても頼る事を忘れずに…貴方に協力を惜しまない者は私を含めて大勢いますから……最後に、心の底からこの言葉を…………ありがとう、デイジー」

「私の方こそ…お世話になりました、アメリア学園長」


 深く頭を下げ、私は壇上から下りていく。
 学園での生活は本当に終わったのだと、この卒業証書を見ていると実感してしまう、寂しさと未来への期待……不思議な感覚であった。

「皆さんの未来ある人生、幸福と幸せに包まれる事を祈っています……卒業おめでとう、皆さん!」

 アメリア学園長の最後の言葉で卒業式は終わった、立ち上がって会場から出ていく生徒達の波に巻き込まれながあらも私達は自然と集まってゆっくりと歩いていく。

 モネ、エリザ…そしてアイザック、かけがえのない親友達と共に私は歩いていく、今までのように頻繫には会えないだろう、これからは学生としてでなく社会で生きていくのだ。
 それはきっと楽しい日々だけではないし、辛いことも多いだろう。
 多く会える日は少ないかもしれない、だが私達は不思議と寂しさを感じなかった…それは分かっていたからだ、この中で誰か1人でも何かあれば私達は駆けつける、悲しい事があれば励ましに行って、楽しい事があれば共に祝う。

 離れていても、絶対にこの学園で過ごしてきた日々が私達の心を引き離したりはしない。





   ◇◇◇





「なんだか肩の荷がおりた感じよ、あーー今日は言いたい事が言えてすっきりした!……それにしても卒業式は泣くなんて言われていたけどそんな事なかったわね」

 エリザの言葉にモネは微笑んだ。

「エリザ、卒業式の途中でちょっとだけ泣いてたじゃない…ふふふ素直じゃないね」

「ちょ!言わないでよ、確かに泣いてたわよ……けど不思議と寂しさを感じないのよね」

「私も同じですよ」

 エリザの言葉に私は同意し、モネも頷いた。
 それを聞いていたアイザックはいつものように高らかに笑った。

「ふはははは!!それは決まっている、今生の別れではないのだ!俺は確信しているぞ、マキナも含めて俺達はまた集まるとな!一生涯の友人として!」


「そうね…きっと私もそう思うわ、これが最後なんて有り得ない……これからはお互いの道を歩いていくけどそれは離れ離れになる事じゃない、また……………会おうね」

「もちろん!」
「必ずね!」
「俺は明日にでも会いに行くぞ!」


 私の言葉にみんなが頷いてくれる、懇親会で記憶を取り戻した時に私は全てを利用してでも生きていくと決めた、だけど目の前にいる彼らを利用なんて出来ない、みんなが私のかけがえのない友だ。


「さぁ、今日はまだ時間があるがそれぞれが帰路に着く前に何かするか?」

 尋ねてきたアイザックに私は答える、ずっと息の詰まるような日々を過ごしていたのだから…悩みも無くなったこの日だけはしたい事があった。
 雲一つない晴天を眺めながらポツリと答える。



「先ずは紅茶でも飲んで……ゆっくりとしましょうか」


 
 晴天の中で皆が笑いながらも私の答えに賛成してくれた。






 これから先も、私達は苦悩して辛い日々を体験する時もあるだろう、だけどその時には必ず皆で助け合い手を取り合って生きていくだろう。
 私達は不幸なんかにはならない、だって隣には皆がいて…皆の隣には私がいるから。



 何よりも……他愛のない会話をしながら笑顔で過ごすこの日々こそが、何にも代えがたい幸せで、幸福なのだから。




 

 もう死にたいなんて思わない、手放したくない友が沢山いるのだ、愛する人も決して手放さない……一回目の人生で辛くて苦しんだのためにも幸せに生きていこう。
 私の苦難、悩みは消えた………人生は、やっと始まった。



 


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