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ランドルフside

 卒業式に出席し、周囲を見渡すがデイジーやアイザックはいない…ローザは私に任せろと言っていたが本当に全てを終わらせてしまったのだろう。
 満足感と充実した気持ちで席に座る、デイジーの取り巻き連中だったモネとエリザといっただろうか?その二人は変わらず来ており、デイジーを待っているのだろう…卒業式会場の扉付近で待っている、無駄な事だというのに。

 それにしてもこのラインベル学園の卒業式は卒業生のために会場を彩って、飾り付けまでして卒業をした生徒達への就職先の斡旋やサポートを行っているようだが……俺は常々思うが平民階級に学力など必要ないだろう。
 奴らは物を考えずに馬車馬のように働く馬鹿のままで良いのだ、余計な事を考えずに王家や貴族に従う日々を過ごしていればいいはずだ、俺が王となった暁には必ずやこの学園の制度を改革しよう、ここには嫌な思い出しかないのだから。

 式が始まって高等部三年生の面子の名前が呼ばれていく、卒業を証明する証書を受け取って嬉しそうに奴らは微笑んでいる、モネと呼ばれていた平民階級の女も嬉しそうに名前が呼ばれるのを楽しみにしていた。
 気に食わない、あの女はローザが方を付けてくれたのだろうが俺に歯向かった他の奴らも相応の対応を考えねばならん、先ずは平民階級のモネの生活面から攻めていこうか。


「ランドルフ・ファルムンド……前へ!」


 この学園の代表であるアメリア学園長に呼ばれて立ち上がる、俺に対してはもっと特別に敬うようにしてもらいたいものだ、やがてはこの国を背負う王となる男なのだから、その他大勢の雑草とは違うのだ。
 そう思いながら前に進んでいくが違和感は直ぐに感じた、誰も彼もがざわついておりその視線は俺ではなく別の何かを追っていたのだ。

 何かと思って見渡すと在校生達のグループからローザが俺の元へと歩いてきていたのだ、思わず顔をほころばせて手を広げる。

「ローザ、わざわざ祝いに来てくれたのか?」

 鼻孔をくすぐる甘い香り、見目麗しい彼女……将来の俺の妻に悦楽とした感情を抱いていると彼女は俺の腕には抱かれずに直前で立ち止まって顔を見つめてくる。
 恥ずかしがっているのだろうか?そんな必要はないのに、やがて夫婦となるのだから。


「ローザ、どうした?」

「……ランドルフ様、貴方との婚約関係を正式に取消させていただきます」

「は?」

 聞き間違いか?俺には彼女が何を言っているのか理解ができずに放心していると彼女は周囲に言い渡すように叫んだ。

「皆様、この場を借りて謝罪しなければなりません、先日の競技会での出来事は全て私とランドルフ様の共謀で引き起こした事です!本当にごめんなさい…」

「な、何を言って…ローザ!!ローザ!!目を覚ませ!!」

「ランドルフ様、私はやっと目が覚めたのですよ…ずっと貴方に対して偽りの愛を囁いておりましたが、それも終わりです」

「ま、まて!!まてまてまて!!何か怒らせたのか!?俺が謝るから許せ!?いいな!?」

「もう……遅いですよ」

 遅い?何を言って…俺の事を無視してローザはアメリア学園長の元へと進んでいくと再度頭を下げた。

「ご迷惑をおかけしました、学園を退学して罪を償います…そして真実を全て話す事もお約束します」

「ローザさん…本当に良いのね?」

 駄目だ、ローザ……アメリア学園長と話す必要はないだろう、俺がいれば幸せになれる!なのに何故それらを捨てるような選択をするんだ。


「もう、自分の心に正直に生きてみたいと思ってみたのです」

 ローザの言葉にアメリア学園長は頷き、講師達に指示をした。

「ランドルフ・ファルムンド及びローザ・オルレアンを連れて行きなさい…話を聞き然るべき処罰を!」

「待て!!まてまて!!!」

 俺は慌てて叫び、腕を掴んできた講師を振り解き、アメリア学園長と共に会場から出ていこうとしているローザに向かって叫んだ、まだ間に合う…噓の証言だと言えばいいのに彼女は素直に従って歩いてしまう。

「待て!!ローザ!!俺と一緒にいれば幸せになれるのだぞ!王妃となって安泰の生活、何でも好きな事もさせてやる、だから……」

 俺の言葉を聞きながら、ローザは振り返ると首を横に振って答えた。

「それが本当の幸せではないと……私は教えてもらったのです」

「ローザァァァァァ!!!!」

 幸せじゃない?王の妻となる以上の幸せなど存在しないだろう、俺の妃以上の幸福なんて存在しないはずだ、父上も言っていたはずだ…俺は愛されているのだ王子である俺は注目されて誰もが羨む存在なのに。
 講師に連れて行かれそうになっている俺を誰も助けにこない、俺の頭にはデイジーの影がちらついた。
 彼女の危機には友が必ず現れ、常に彼女と共におり危機があればお互いに助け合っていたのに俺の周りには誰も、何もない……。


「誰か……誰か…いないのか?」


 周囲を見渡しながら気付いてしまった、俺は王子であるだけで慕われていたわけではないのだと気付いた。
 誰にも愛されていない、孤独であったのだ……王子である事に胡坐をかいてろくな交友関係も持たずに過ごしていた……。


 何よりも……俺のために人生を捧げてくれていた唯一の者を…俺自身が捨てていたのだ。


「あ……あぁぁぁぁぁ!!」

 膝から崩れ落ちるように嘆いてしまう、気付いてしまった瞬間に後悔があふれて止まらなかった、行ってしまった、やってきたことの代償を感じてただただ虚しい感情が押し寄せる。

「ランドルフ、来なさい」

 腕を掴まれ引かれる。
 どうすればいい?俺は王子だ、こんな事になるべきじゃない、1人なはずがない……。
 そうだ……俺を好いてくれる者がまだいるではないか、俺のために人生を捧げたあの女が俺を嫌いになるはずがない。

「離せ!!!俺に触れると不敬罪として貴様ら全員を罪に問うてやる!」

 叫びながら暴れて講師達を振り払う、俺は諦める訳にはいかない……今の俺には守ってくれる者が必要なんだデイジーの周りにいた取り巻きのように俺のために尽くしてくれる従者のような者共が。
 
 そうだ、きっとデイジーはまだ俺を好いてくれているはずだ…きっとそうだ、今から王妃に戻すと言えば必ずや俺の隣に戻ってくるはず、俺は王となる男なのだから俺といれば幸せで幸福なはずだ。


 あぁ、そうだ……きっと、俺の元へと戻ってくれるはずだデイジー…かつては愛し合った仲なのだから。


「デイジー…デイジー…俺の元へと戻ってこい、デイジー…」

 呟き、俺は講師達の腕を振り払いながら彼女を待ち続ける。
 ローザは失敗をしたのだ、きっとデイジーは生きていてここにやって来るはず、俺が迎えてやらねばならん、デイジーは俺の……………。













 妻なのだから。


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