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ローザside

「くそ!!くそったれ!!」

 誰もいない場所でストレスを解消するため、草花を散らす行為をしていたランドルフ王子に対して呆れながらもそれを表情には出さずにいつもの貼り付けた笑顔で話しかける。

「ランドルフ様、落ち着いてください」

「ローザ!これが落ち着いていられるか!!計画はものの見事に失敗だ!デイジーは襲われずに頭突きでアイザックを止めただと?ふざけやがって!!」

「草花に当たっても変わりません、先ずは深呼吸を」

「深呼吸!?それで何が救われる!?俺がゴールをした時を見たか?一着だったのに周囲の視線は酷く白けていた、王子でありながら人命救助にも行かない薄情者だと思われているのだぞ!?」

 実際にその通りだ、あぁ…子供の相手をしているのか?私は。

「それに、君がローザを追い詰められると言ったのに…結果は折角上がった評判を落とすだけだったではないか!君の責任と同じだろう!」

 どうして、この方が王子なのだろうか…つくづく私は神様に愛されていない、前世で夢見ていた物語と目の前の現実との乖離に苦悶してしまう、いっそ諦めてしまえば…とちらついた思考を振り払うように前世で言われた言葉を思い出す。


––––いつまでもくだらない物語を読んでないで現実を見たら?そんな願いは叶うはずがないよ…ねぇ、になりなよ?

 

 くだらなくなんてない、私の夢は…願い焦がれたこの夢は絶対に幸せになれるはずなんだ、叶うはずがないと嘲笑されていた事が目の前で実現する手前まで来ているのだ…ここまできて諦める訳にはいかない、このために日々を過ごしてきたのだから。

「ランドルフ様、もう大丈夫です」

「は!?なにが大丈夫なんだローザ!!此度の騒ぎは確実に学園の者達が調査している、いずれ俺達がやった事も知られてしまうかもしれないのだぞ!何一つ達成していないのにだ!」

 大声で騒ぎ、癇癪を起したかのようにわめいているランドルフの口を私の唇で塞いで黙らせる。
 彼には言葉よりも行動で理解してもらう方が早い。

「ランドルフ様、安心してください…此度の騒ぎは足が付かないようにしております、そしてデイジーについても…私に全て任せてください」

「ローザ……君は……」

「もう、貴方に苦しい思いをしてほしくないのです…貴方が安心できるようにデイジーの件や、その他の事も全て私に任せてください、もう貴方は安心して待っているだけで良いのです…もう苦しまないで」

 
 実際の考えはまるで違う、私は気づいてしまったのだ…ランドルフを下手に操って動かしたとしても良い結果に繋がる可能性は低い、つまり彼には期待をしないと決めたのだ。
 優秀な手駒はすでに昔から育ててきた、今さら役に立たないランドルフが動いたとしても足を引っ張るだけだと理解できた。


「ローザ、任せて良いのだな」

「はい、全て私に」

「分かった、全て任せようローザ」

 抱きしめられて、彼の背中に手を回して思考する。
 
 これで役立たずは下手に動かないため制御する必要もない、残った方法は一つしかない…ランドルフを安心させるために噓をついたが、彼の言った通りに学園は此度の騒ぎを重く受け止めて面子をかけて調査するだろう。
 媚薬、誘惑剤の入手ルートにいずれたどり着いて私達を追い込むはずだ、残った選択肢はたった一つ。




 これ以上の騒ぎを起すのだ、デイジーの殺害という最悪の騒ぎ。
 大衆が騒ぎやすいように分かりやすい犯人も用意し、全ての目隠しの事件を起こしてもらう、私が幼き頃よりそのために育ててきた優秀な手駒を使う。


「少しだけ、お待ちくださいねランドルフ様」

「あぁ」

 ランドルフと別れながら、私は飼い犬の元へと向かう…私の計画を壊してくれた飼い犬…一度は嚙まれてしまったが調教すれば必ず私の手駒に戻るはず、私は飼い犬の事を誰よりも理解しているのだから。


















   ◇◇◇

 校舎の中、ひっそりと静まり返っている治療室の扉を音が鳴らないように開く、今回の件で学園の生徒達は寮に戻っているために辺りは静まっている。
 治療室の中を足音を立てずに歩いていく、ここで寝ているとすれば落馬した騎手と頭突きされて気絶しているアイザック、そして……。


「マキナ」

 小声で名前を呼びながら寝台を区切っていたカーテンを開く、そこには手に包帯を撒いており、動かぬように首から三角巾で固定されたマキナがいた、彼は私に気付くといち早く膝をついて頭を下げた。
 わざわざ寝台から下りて床にいるのだ、私は彼の黒髪を掴み引き上げると真っ赤な瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。

「私の名前を呼びなさいマキナ、貴方の主の名前を」

「ロ……ローザ様……」

「やってくれましたね、貴方のせいで計画は破綻…」

「申し訳ありません、あそこにデイジー達がいるとは気づかずに……つい救助のためと」

 分かりやすい噓だ、危惧していた事が現実となってしまっている事に怒りが湧いてくる、デイジーについて調べるためにとマキナを接触させたのは間違いだ、明らかに彼女に影響されている。
 しかし、私もこんな状況のために残しているカードを使う、飼い犬を再び忠犬に戻す方法を。

「マキナ、私の瞳を見て」

 彼の顎を手で上げて見つめ合って言葉を続ける。

「貴方には無理なお願いをしているとは理解しています、それでも私は貴方が言ってくれた恩を返すという言葉を信じています、それに貴方の気持ちもね?」

 明らかに動揺したように視線を逸らすマキナの両頬を抑え、再び見つめ合う、逃がさないようにしっかりと掴みながら。

「貴方が私に抱いている感情も全て気付いています、なにも無償で恩を返す事を望んでいる訳ではありません……私は確かにランドルフとの結婚を目指していますが……貴方が私のために計画を果たしてくれるなら、その日の夜は私を好きにしても構わないわ」

「ローザ様……僕は…」

「我慢をしなくてもいい、計画を果たしたその日は私を好きにしてもいい、何をしても構わないわ」

 彼のほほが熱くなっているのを感じる、飼い犬男性とは単純だ、こんな餌をちらつかせるだけで忠誠心を思い出す。
 何よりも長年思い続けた意中の相手との一夜だ、これに屈しない者はいないだろう。

 マキナもその1人だった、私に再度頭を下げて呟いた。

「僕は全て貴方のために…必ず貴方を…」

「それでいいのよマキナ、期待しているわ…計画の日程は決まっているわ、それまでに覚悟をしっかりと持っておきなさい」

「はい、ローザ様…」


 さぁデイジー…貴方に手懐けられてしまったうちの飼い犬は取り戻した、後はその日を待ち続けるだけ…自分の友に殺される悲劇を知らずに楽しめばいいわ。
 私の提案を受け入れなかった貴方が悪いのよ、私が持っていない物を全て持っていて尚、私から奪おうというのだから…だから、私も貴方自身を奪う事にした。




 待っていなさい、デイジー…。



























  















   ◇◇◇

マキナside


 バタリと閉じられた治療室の扉の音を聞きながら、ほっと一息ついた。
 
 僕も動かないといけない。



「ローザ様、僕は貴方を………」


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