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ローザside


 情けない…そんな言葉を最も投げかけたいのは私が夢見ていた王子であるランドルフに対してだ、折角の血統馬に乗って会場に入ってきたというのに先程言い負かされた事を根に持って自信のない表情で俯いている姿を見て周りの視線が痛くなるだけであった。
 私も先程の言い合いに参加しようと思ったが、彼らを言い負かせるような言葉や説得力を持ち合わせていない。

 今の状況は私にとっても酷くまずい事であった、私自身の夢のため、ランドルフには王子として輝いてもらいたい、大衆の前に出てきたというのに俯いているような君主に誰が頼るというのだ、絶対的な尊厳を彼には抱いた王子として生きてもらわねばならない。

 仕方がない、時期尚早ではあるが…最後の手段だ。


「ランドルフ様…こちらを向いてください」

「…な、なんだローザ………っ!?」

 私はランドルフの両頬に手を当てて引き寄せるとそっと口付けを交わした、長く長く見せつけるような情熱的な接吻の後に、艶めく唇を離しながら彼の瞳を見つめて囁いた。

「私は貴方をお慕いしておりました、先程のお話を聞いていて…貴方の事を好き勝手に言われてとても怒りを感じております……そして今のお辛そうな貴方を見るのは耐えられません」

「ローザ…君は……」

「私などの想いを聞いても貴方の励みにはならないかもしれない、でも少しでも貴方の心が安らぐ事を願って私の本当の気持ちを伝えます………ランドルフ様、お慕いして…いえ、愛しております」

 私の気持ちを聞いたランドルフはしばらくの時間惚けた後に私の腕を引っ張って再度口付けを交わした。

 それは優しさを感じることが出来ない、荒々しい自分勝手な口付けである、舌が唇をねじあけてきて私を犯すように自分本位の口付けを交わす、公衆の面前であるという事をお構いなくに好き勝手にされるが…私には受け入れる選択しかない……ここで拒否をすれば彼は二度と立ち上がれないだろうから。

 唇が離されて、ランドルフが私を抱きしめながら嬉しそうにいつもの調子に戻っていく。


「ローザ、俺は愛する君の前でなんて情けない表情をしていたのだろう………すまない」

「いえ、ランドルフ…私は貴方が元気になればそれで良いのです」

 ランドルフは私の頭を撫で、一部始終を見ていた周囲の生徒達に向かって高らかに宣言する。
 だから、この選択はしたくなかったのだ…最後の手段であった、もう戻る事が出来ないと知っていたから。

「皆!!俺はオルレアン公爵家の令嬢である、ローザ・オルレアンと正式に婚約に向けて動く!!この国を背負って立つ俺と、それを支えてくれる彼女にどうか応援を頼む!!」

 彼の宣言により、前の舞踏会の一件を知っており冷えた視線を向けた生徒達でさえも自然と拍手を送っていた、この国の安寧を想う気持ちは皆が一緒だ、王子であるランドルフが正妃を決めたというこの国にすぐさまに広まっていくだろう、祝報に祝いの気持ちが芽生えぬ者はいない。
 皆が拍手と共にこの国の安寧を願っていたのだ、その王子を想う気持ちこそが再びランドルフに自信と尊厳を与えて、いつもの自信満々の姿に戻っていく。



 しかし…また前のように彼の自由意志で動いてもらっては困る、必要なのは王子としての尊厳のみで彼の暴走行為によるこれ以上の失態はなく無くす必要がある。
 つまり、もう余計な事をしないでほしいのだ、彼こそ私が手綱を握るべきだ。


「ランドルフ様、私もデイジーに対して酷く怒りを覚えております……貴方に強く当たるのはきっと嫉妬も含まれているのかもしれません」

「ローザ、お前もそう思っていたのか…」

「はい、私に考えがあるのです……どうか、私の計画を聞いてくださいますか?愛しき未来の旦那様…私達の未来のために」


 私の囁きに分かりやすく興奮しているランドルフはすんなりと受け入れるように頷いた、ランドルフは分かりやすく感情的に動いてしまう…だからこそそれを利用して私が手綱を引いて彼を操ればいい。


 もう二度と失態を犯す事はなく、ただ私に従ってデイジーを追い詰めていく操り人形にしてしまおう。


 全ては私の…前世で想い焦がれた夢のため…デイジー、邪魔な貴方が居なくなれば周囲の取り巻き達も意気消沈してしまうだろう、私の夢のため…お願いだから犠牲になってください。

 これで私の手駒を揃えた、ランドルフを操り…それでも結果を残せなければ最後の手段であるマキナを使って……彼女を殺せばいいのだから。

 




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