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 その威圧にランドルフは完全に萎縮してしまったようで、言葉を失ってアイザックを見つめていると彼はため息を吐いて声を出す。

「この国を背負う王子としての自覚があるのなら、自身の行為を説明できるように動かないか…感情に任せて動くのは理性ある生き物とはいえないな」

「くっ!!アイザック…貴様、舞踏会の一件を俺は忘れていないぞ…俺に逆らってマグノリア公爵家の当主となって困るのは貴様だぞ!」

 ここにきて威勢を取り戻したランドルフ、きっと後ろに乗せていたローザがランドルフの背中に触れたために勇気を出して絞り出した威勢だったのだろうけど、アイザックは一笑して言葉を返した。

「貴様の私怨でこの国に尽くし、影響力を高めてきたマグノリア公爵家に泥水をすすらせたいのなら好きにするがいい…国防を担う我が家が衰退すれば困るのは誰なのか、それすら理解できないか?ランドルフよ」

「………」

「沈黙は愚か者でも出来る事だ、ただ黙っていれば状況が変わる訳ではないぞ…言ってやろう、将来貴様が王になろうと愚王であれば人は離れていく、誰もが権力に頭を垂れるだけの人形だとは思うなよ」

 アイザックは怒りこそ見せていたが、その言論でランドルフを容易く説き伏せてしまう。
 その勢いに圧倒されていると、アイザックは私を見てニコリと微笑んだ。

「デイジー、君が教えてくれた事だ…」

「アイザック…」

 アイザックは再びランドルフへと向き直り、握っていた手を離す。

「デイジーと関わっていて、それすらも気づけずに成長していない貴様に俺は見切りを付けている…このまま愚王の道を歩むのであれば俺は隣にいないと思え」

「………………」

「黙ってないで、会場に行けばいい…貴様との不毛な議論は無駄だ」

 アイザックの言葉にランドルフは馬を走らせて逃げるように走っていく。 

「お、俺への無礼にいつか後悔するぞ!!お、覚えておけよ!アイザック!デイジー!」

「覚える訳がなかろう」
「覚える必要がありませんが」

 共に言い返した私達の言葉にランドルフは顔を真っ赤にして逃げるように馬を走らせて行く、嵐のような出来事であったがアイザックが来てくれて助かった。
 いや、実際には挑発してランドルフが私を暴力を振った事実が欲しかったのだけど…そうすれば事態は少し大事になってランドルフの処分を求めて賢人会議を開けたかもしれない…でもローザの実家であるオルレアン公爵家が味方する可能性も考えると時期尚早だった事も事実だ。

 だから、私は素直にアイザックに感謝の気持ちと…嬉しいという感情が生まれていた。


「ありがとうアイザック、私…実は内心では怖かったけど、貴方が来てくれて良かった」

 思わず呟いた本音、見せてしまった弱気な言葉を聞いてアイザックは目を見開くと私に近づいてきた。

「な………ど、どうしたの?」

「デイジー、不安なら俺の傍にいればいい」

「え?」

 聞き返した私であったが、アイザックは私の両脇に手を差し伸べると軽々と持ち上げて私を自身の馬に乗せる、アイザックの前にちょこんとあっさりと乗せられた私は言葉を出せずに呆気にとられる。

「本当に貴方達って……はやくくっつき」
「エリザ!ダメだよ…デイジーの気持ちだってあるんだから」

 モネやエリザが話ながら、私とアイザックの隣を馬に乗って通り過ぎていく。

「私達は先に行ってるからね、負けず嫌いなランドルフが貴方達の事を会場で悪く言っていたら私がガツンと言っといてあげる」

「私は大丈夫だと思うけど付いていくね、デ…デイジーごゆっくりね!」

 エリザはからかうように笑いながら馬を歩かせていき、モネは両拳を握って応援するように笑って行く………な、何を応援しているというの?混乱する気持ちで私は思考が上手く定まらずにいるとマキナも頬を緩ませて私が乗っていた馬の手綱を引きながら無言で手を振っていく。

 せ、せめて何か言って欲しいのだけど………。


「ア…アイザック…いきなり何をするのですか?」

 やっと聞けた質問、この状況と二人きりという事が助長して私の顔は熱くなっていく…顔は真っ赤になっているだろう、見えないように前に乗せてもらっていて良かった。
 そう思っていると、アイザックは私を後ろから抱きしめて顔を覗き込んだ。

「あ、あの…い…今は見つめないで………」

 思わず両手で顔を隠してしまうが、彼はその手をはがして私の赤面する顔を見つめ続ける…こんなに恥ずかしい気持ちは初めてだ、心臓が有り得ない程に鼓動して彼の瞳を見られない。
 いつもの犬のようなアイザックでない、真剣な表情で見てくる彼に私の気持ちが追いついていないのだ。

「正直言おう、俺はマキナに嫉妬していた」

「はい?……な、なんで」

「最近の君はマキナを注意するように見つめていて、何か考えてばかりいたからだ………だから俺は嫉妬していたが…今の君を見てそんな感情は吹き飛んだ」

「っ!?」

 後ろから強く抱きしめられ、彼の顔が近くに迫り吐息さえ聞こえ、囁かれる声が耳を通って私の気持ちを揺さぶった。

「俺はもう覚悟は決まった、もうつまらぬ男などではない…本心で君と話したい………騎乗競技会が終われば俺の想いを再び伝える…それまでに君を覚悟を決めて答えを考えておいてくれ」

「ア…アイザック…わ、私は」

 あわあわとうろたえる私の頭を、彼は優しく撫でた。

「あまり可愛い反応をするな、我慢が効かなくなる…会場まで行こうか」

「––––––––!!」


 彼は馬をゆっくりと歩かせ、私は馬に揺られながら真っ赤になった顔を抑えながら混乱する思考を少しでも冷静にしようとしたが、時折に彼が頭を撫でるせいで跳ねる心臓が抑えられずに沸騰しそなほどに顔を熱くした。

 彼はまるで子供のようだと思っていた、しかし…彼は変わったのだろう、私に向けてくれている感情が彼自身を大きく成長させていてそれに私が追いつけずにうろたえてしまうのだ。 
 こんな気持ちは抱くべきでない…私は一回目の人生で確かに彼に……


 あぁ…私の悩みの種はやはり尽きそうにない…でもこの悩みに心地よさを感じるのもまた事実だ。

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