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「それでは、まずは馬に慣れる事からはじめましょうか」
突然のお願いであったのに関わらず快くお願いを聞き入れてくれたマキナに感謝しつつ、アイザックは言われた通りに馬に近づくが、その表情は何処か青ざめておりいつもの明るい表情ではなかった。
「何かあったのかな?」
「さぁ?お腹でもくだしたんじゃないの?」
付き添いで来ていたモネとエリザも気付いたのか、心配?そうに話していた、いやエリザは大して心配をしていなかったけど。
「デイジー、アイザック…やっぱりおかしいよね」
「ええ、そうですね…」
モネの問いかけに頷きながら、私はとある考えが思い浮かんだが…彼に限ってそんな事があるはずがないと首を横に振ったが残念ながら予想は当たっていた。
「アイザックさん?まずは馬に優しく触れてみましょう」
「………あ…あぁ」
繋がれた馬に手を伸ばそうとしたアイザックだったが、その手は震えており、冷や汗が額に浮かんでいる。
私はポツリとため息を交えて声をかけた。
「アイザック、貴方…もしかして馬が苦手なのでは?」
「うっ!!」
図星だったのだろう、思えば乗馬が苦手だと言っていたのも不思議であった、騎士家で生まれた彼が乗馬を訓練しないなど有り得ないだろうから。
教えてくれようとしていたマキナも困惑した顔をしており、私の隣にいたモネとエリザも驚いていた。
「前に馬に襲われた時は平気そうでしたので…意外ですね」
「ま、前は命がかかっていたからだ!それにあの後に気絶したのは馬が近くにいたから………」
なるほど、馬に襲われて気絶していたのは咄嗟に全力で筋肉を使ったせいだと思っていたけど別の理由だったのね。
「しかし、貴方のマグノリア公爵家には馬は沢山いるでしょう?幼少の頃から触れ合っていたのでは?」
「だ、だからこそだ……幼かった俺はいたずら心で馬の背後に回って驚かしてしまったのだ…その後の結果を予想も出来ずに、結果は動けぬ程の蹴り上げを喰らってな、それ以来トラウマで震えてしまう」
彼は私に振り返り、自嘲気味に笑いながら言葉を続けた。
「情けないと思うだろう?騎士家に生まれて、馬にも触れぬ臆病な男なのだから」
………そんなことはない。
私は首を横に振りながら歩いていく、そして震える彼の手を握って安心させるように微笑み掛ける。
「私は、そんな貴方にも好意を抱いていますよ…完璧な人間なんていませんよ…舞踏会で私を救ってくれたように、私も貴方の力になれるように協力します」
「デイジー…」
「貴方が苦手な事でも…何かのために挑戦しようとい心に情けないなんて思いません…立派な勇気ではありませんか」
握った彼の手は冷や汗で湿っており、彼はそれを気にしていたが私は一切の躊躇なく握りしめる。
「ゆっくりで構いません、まずは触れる事に挑戦しましょう」
「………あぁ…ありがとう」
彼の手をゆっくりと馬に向けて進めていく、びくりと震えれば安心させるように強く握りしめる。
隣で手綱を握っていたマキナは「大丈夫ですよ」と言葉をかけ、後ろではモネとエリザが応援の言葉を投げかける。
「落ち着いてください、大丈夫ですから」
何度も彼に言葉をかけながら、時間をかけてようやく彼の指先が馬に触れた。
好奇心で匂いを嗅いでいる馬は落ち着いており、それに合わせてアイザックの荒かった呼吸も落ち着き、安堵したように息を吐いた。
「よくできましたね」
私は思わず手を伸ばし、彼の頭を撫でる…咄嗟に出てしまった行動であり、まるで幼い子供を褒めるようなしぐさをしてしまって申し訳ないと思って手を引いてしまったが…。
「デイジー…続けてくれ」
頬を紅潮させながら、懇願するように呟いた彼に微笑みながら私は再度、手を伸ばして彼を褒めた。
「これでいいですか?」
「あぁ…これがいい、だが他の男にはしないでくれ」
「ふふ、何を言っているんですか貴方は」
「なぁデイジー…俺は本当に君を」
彼の言葉に笑いながら頭を撫でていると、パンッと手の音を鳴らしてマキナは苦笑して声を掛けた。
「それでは、アイザックさんも一歩進めましたので乗馬に向けて頑張りましょうか」
「あ、あぁ!!そうだったな…不甲斐ない姿をみせたな!もう大丈夫だ!」
マキナは手綱を握って馬を厩舎から出していき、それに続いてアイザックも出ていく。
彼の髪の感触が残った手を見つめながら、途中まで聞こえた彼の言葉の続きが気になったが…その好奇心に今は蓋をして彼を見守ろう。
「見せてくれるじゃない?」
「…デ、デイジー…かなり積極的だったね」
エリザはニヤニヤとしながら私を小突き、モネは赤面しながら恥ずかしそうに言った。
「何がですか?」
私は毅然と答えたつもりだったが、エリザとモネは顔を見合わせて笑った。
「顔、真っ赤じゃないデイジー!」
「ふふ、デイジーもそんな表情をするんですね」
「っ!!」
思わず顔を抑えてアイザックを見た、既に厩舎から出ていった彼にこの会話と表情を見られなくて良かった………私の気持ちは徐々に大きくなっている、その事実を感じながら私は俯いて答えた。
「その…彼には言わないでくださいね」
赤面していた私の言葉に、彼女達は笑いながら同じ答えを返した。
「言わなくてもお互い分かっているでしょう」………と。
突然のお願いであったのに関わらず快くお願いを聞き入れてくれたマキナに感謝しつつ、アイザックは言われた通りに馬に近づくが、その表情は何処か青ざめておりいつもの明るい表情ではなかった。
「何かあったのかな?」
「さぁ?お腹でもくだしたんじゃないの?」
付き添いで来ていたモネとエリザも気付いたのか、心配?そうに話していた、いやエリザは大して心配をしていなかったけど。
「デイジー、アイザック…やっぱりおかしいよね」
「ええ、そうですね…」
モネの問いかけに頷きながら、私はとある考えが思い浮かんだが…彼に限ってそんな事があるはずがないと首を横に振ったが残念ながら予想は当たっていた。
「アイザックさん?まずは馬に優しく触れてみましょう」
「………あ…あぁ」
繋がれた馬に手を伸ばそうとしたアイザックだったが、その手は震えており、冷や汗が額に浮かんでいる。
私はポツリとため息を交えて声をかけた。
「アイザック、貴方…もしかして馬が苦手なのでは?」
「うっ!!」
図星だったのだろう、思えば乗馬が苦手だと言っていたのも不思議であった、騎士家で生まれた彼が乗馬を訓練しないなど有り得ないだろうから。
教えてくれようとしていたマキナも困惑した顔をしており、私の隣にいたモネとエリザも驚いていた。
「前に馬に襲われた時は平気そうでしたので…意外ですね」
「ま、前は命がかかっていたからだ!それにあの後に気絶したのは馬が近くにいたから………」
なるほど、馬に襲われて気絶していたのは咄嗟に全力で筋肉を使ったせいだと思っていたけど別の理由だったのね。
「しかし、貴方のマグノリア公爵家には馬は沢山いるでしょう?幼少の頃から触れ合っていたのでは?」
「だ、だからこそだ……幼かった俺はいたずら心で馬の背後に回って驚かしてしまったのだ…その後の結果を予想も出来ずに、結果は動けぬ程の蹴り上げを喰らってな、それ以来トラウマで震えてしまう」
彼は私に振り返り、自嘲気味に笑いながら言葉を続けた。
「情けないと思うだろう?騎士家に生まれて、馬にも触れぬ臆病な男なのだから」
………そんなことはない。
私は首を横に振りながら歩いていく、そして震える彼の手を握って安心させるように微笑み掛ける。
「私は、そんな貴方にも好意を抱いていますよ…完璧な人間なんていませんよ…舞踏会で私を救ってくれたように、私も貴方の力になれるように協力します」
「デイジー…」
「貴方が苦手な事でも…何かのために挑戦しようとい心に情けないなんて思いません…立派な勇気ではありませんか」
握った彼の手は冷や汗で湿っており、彼はそれを気にしていたが私は一切の躊躇なく握りしめる。
「ゆっくりで構いません、まずは触れる事に挑戦しましょう」
「………あぁ…ありがとう」
彼の手をゆっくりと馬に向けて進めていく、びくりと震えれば安心させるように強く握りしめる。
隣で手綱を握っていたマキナは「大丈夫ですよ」と言葉をかけ、後ろではモネとエリザが応援の言葉を投げかける。
「落ち着いてください、大丈夫ですから」
何度も彼に言葉をかけながら、時間をかけてようやく彼の指先が馬に触れた。
好奇心で匂いを嗅いでいる馬は落ち着いており、それに合わせてアイザックの荒かった呼吸も落ち着き、安堵したように息を吐いた。
「よくできましたね」
私は思わず手を伸ばし、彼の頭を撫でる…咄嗟に出てしまった行動であり、まるで幼い子供を褒めるようなしぐさをしてしまって申し訳ないと思って手を引いてしまったが…。
「デイジー…続けてくれ」
頬を紅潮させながら、懇願するように呟いた彼に微笑みながら私は再度、手を伸ばして彼を褒めた。
「これでいいですか?」
「あぁ…これがいい、だが他の男にはしないでくれ」
「ふふ、何を言っているんですか貴方は」
「なぁデイジー…俺は本当に君を」
彼の言葉に笑いながら頭を撫でていると、パンッと手の音を鳴らしてマキナは苦笑して声を掛けた。
「それでは、アイザックさんも一歩進めましたので乗馬に向けて頑張りましょうか」
「あ、あぁ!!そうだったな…不甲斐ない姿をみせたな!もう大丈夫だ!」
マキナは手綱を握って馬を厩舎から出していき、それに続いてアイザックも出ていく。
彼の髪の感触が残った手を見つめながら、途中まで聞こえた彼の言葉の続きが気になったが…その好奇心に今は蓋をして彼を見守ろう。
「見せてくれるじゃない?」
「…デ、デイジー…かなり積極的だったね」
エリザはニヤニヤとしながら私を小突き、モネは赤面しながら恥ずかしそうに言った。
「何がですか?」
私は毅然と答えたつもりだったが、エリザとモネは顔を見合わせて笑った。
「顔、真っ赤じゃないデイジー!」
「ふふ、デイジーもそんな表情をするんですね」
「っ!!」
思わず顔を抑えてアイザックを見た、既に厩舎から出ていった彼にこの会話と表情を見られなくて良かった………私の気持ちは徐々に大きくなっている、その事実を感じながら私は俯いて答えた。
「その…彼には言わないでくださいね」
赤面していた私の言葉に、彼女達は笑いながら同じ答えを返した。
「言わなくてもお互い分かっているでしょう」………と。
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